東方無限者 〜the Infinitous's Second Life.   作:影のビツケンヌ

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地下

 今回の調査の目的地は、幻想郷の地下深く、『旧都』と呼ばれる場所。そこには自身の持つ性質や能力のせいで忌み嫌われた妖怪達が住み着いているらしい。

 博麗神社に向かい、とりあえずは巫女を訪ねたのだが、出かけているのか誰の姿も見えなかった。仕方なくここを訪れた印にと賽銭を放り込み、裏手に回ると、永琳に聞かされた通り、案の定大きな縦穴がぽっかりと口を空けていた。

 俺は今、縦穴を降りて当てずっぽうに直進し、地下水脈らしき水流の上に架かる橋を渡っている。

「…そういえば」

 今まで疑問に思っていた、『妖怪に対してバイオバレットが効く理由』。幻想郷に適した考え方ができるようになってきている今の俺ならば、その答を出せる気がしてきた。

 ハルベルト曰く、生物の体内を流れるバイオエナジーに対して、ある一定以上の密度と運動エネルギーを持ったバイオエナジーを適切な角度で接近させると、そこに局所的かつ瞬間的な斥力が発生するとのこと。バイオバレットはそれを利用して()()対象(ターゲット)にダメージを与えているらしい。

 これは恐らく、『生命の根幹そのものへの直接攻撃』である可能性が高い。この理論が正しければ、バイオエナジーを使用した攻撃は人妖問わず、いや、生物としての体を持つありとあらゆる存在に対して等しく有効なのではなかろうか。ということは、例え不老不死の体を持つ永琳や輝夜、妹紅すら生命の危険に晒すことができるはずだ。それどころか、『空を飛ぶ程度の能力』を持つという博麗の巫女でさえも。とどのつまり俺は真の意味で、この幻想郷(世界)の生態系の頂点に君臨しうる存在――

 「…やめだやめだ」

ぶんぶんと首を振り、(よこしま)な思考を振り払う。俺が幻想郷最強? 虫酸が走る。反吐が出る。そんなことより、俺にはもっと重要な問題が別にある。

 例えば、自分の隣を歩く鈴仙とか。

 「小櫃が心配だ」などと言って無理矢理ついて来たのだ。俺から言わせれば、むしろ鈴仙の方が心配の種である。

 だが、案外どうにかなるかもしれない。彼女の『波長を操る程度の能力』であれば、あるいは妖怪化したスカイフィッシュも捉えられるやも知れぬ。

「…ねえ、小櫃」

「どうした?」

「あ、あの…私達の今の状況って、デ」

「デート、とは言わせんぞ。誰が物見遊山で幻想郷すら凌ぐ無法地帯に行くものか」

「うう…」

「…そんなことで気を落とすな。デート位後でいくらでも行ってやる」

 そうこうするうちに、遠くにいくつもの灯り――その多くが赤提灯――が見えてきた。情報とは往々にして人の集まる場所に集まるものだ。都という位だから、人里よりずっと広いし、住人も多いはず。情報量もそれだけに多くなることが予想される。

 

 しかし。

 いくらそこに情報がごろごろしていたとしても、それを聞くことができないならば意味がない。

 旧都の入り口に立って、いきなり妖怪の集団に襲われた。俺は刀身化したバイオエナジー――バイオブレードを、アームキャノンの銃口から展開しそれらを即座に薙ぎ払った。近くにいた鈴仙は無事だったが、やはり俺には心配の種で、少し強攻策をとることにした。

 俺が道を歩くと、ある者は腰を抜かし、またある者は文字通り尻尾を巻いて逃げ出す。何故そんな状況になっているのか。

 バイオロケーションで発生させる力場は、最大で半径40m以内であればバイオエナジーの濃度を自由に調整できる。それは生物――インフィニタスは除外する――の神経系統に多大な影響を及ぼし、最早『気迫』や『殺気』と呼んでも過言ではなくなる。最大出力でのその威力は、百戦錬磨の老兵士すら泡を吹いて気絶する程だ。

 俺はそれを利用して、妖怪達を退けている。精神攻撃に弱いという妖怪のことだから、これは効果覿面であろう。ちなみに、鈴仙は自身の存在の位相を変化させている――位相変化による物質透過エフェクトの一種だろうか――ので、その影響は受けていない。

 しばらくはこの状態を維持し、自身の脅威度をアピールする。そうすれば大抵の者は俺を襲うことはなくなるだろう。

 

 妖怪が闊歩する雑踏の中を歩くうち、周りの酒場より一際賑わう場所を見つけた。

「鈴仙、ここで情報収集を行うぞ」

「え? ここで?」

「お前は位相を反転させておくんだ。面倒を避けたいならな」

混雑の度合いは人里の蕎麦屋にも負けず劣らず、結局はまたしても相席をする羽目になった。目の前に座る女性は、間違いなく――比喩などではなく――鬼だ。

 肩のはだけた青色の着物を赤色の帯で結い、背まで金色の髪を伸ばしている。そこまでならヒトにしか見えないが、額からは一本の角が生えており、またこれは俺にしかわからないだろうが、筋肉組織と肝機能の異常発達が窺える。鬼は酒豪だと聞くが、なるほどこれなら納得がいく。

 「…で、何だい? 聞きたいことってのは」

「妖怪化したスカイフィッシュ…俺達はそいつを探している」

「俺達? 一人じゃないのか?」

「連れがいる。面倒を避ける為に、今は姿を隠して貰っているがな」

「? そうか」

彼女――星熊勇儀が傍らの酒を煽る隙に、ちらりと隣を見やる。いくら位相を操ったところで、バイオエナジーを認識できないならば、俺の目を誤魔化すことは不可能だ。

「見えてるんだ?」

「無論だ」

囁き声で素早くコミュニケートし、再び勇儀に意識を向ける。

「妖怪化したスカイフィッシュ…もしかして、素子(もとこ)か?」

「知り合いなのか?」

「ああ、半年位前に古明地さとりっていう奴の家に遊びに行ったんだが、その時に知り合ってな。でもここ2ヶ月姿を見てなくてさ…一体どうしたものか」

 勇儀の説明によれば、俺達の捜索目標である人物は、(そら)素子(もとこ)というらしい。彼女は地上の間欠泉センターに棲む一介のスカイフィッシュに過ぎなかったが、より磁場の強い場所を求めて地底へと降りてきたそうだ。旧都に住まう妖怪達の妖気の影響を受けて妖怪化、さらに灼熱地獄跡――旧都は元々地獄の一部だった――の溶岩流が作り出す非常に強い磁場が、素子に『磁場を操る程度の能力』を獲得させる要因となった、とさとりなる人物が言っていたとのことだ。尤も、それらの分析は全て素子本人が自力で行ったのだが。あんなに幼いのにここまで聡明だとは、素直に称賛せざるを得ない。

「だが小櫃」

「何だ?」

「何で素子を探してるんだ?」

「…奴のせいで複数の怪我人が出ている。見逃す訳にはいかん」

「怪我人!? あいつ地上で何したんだ!?」

「マッハ7…秒速にして2380mで体当たりだ」

「天狗も裸足で逃げ出すな…じゃなくて! ちょっとこればっかりは私も見逃す訳にはいかないね…」

「協力してくれるのなら、是非とも古明地さとりの家に案内してくれると助かるのだが」

「無論さ。丁度私も地霊殿に向かうところだったからね」

腰を上げ、歩き出す勇儀。代金は先に払っていたらしい。俺と鈴仙も彼女の後に続く。

 ようやく『不可視の敵』の騒動も終わりが見えてきた。後はさとりから素子の情報を聞き出し、そして素子を捕まえるだけだ。捕まえる方法についてはまだ検討中だが、今はそれを考える必要はないだろう。

 アームキャノンのディスプレイを開き、現在時刻を確認した。コーカサスの標準時から幻想郷――日本の標準時に合わせてある。現在時刻、午前11時53分。

「…失敗した。飯を食うべきだった」

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