東方無限者 〜the Infinitous's Second Life. 作:影のビツケンヌ
しかし、素子は決して悪気があった訳ではないようだった。
「ごめんなさい!」
彼女曰く、モノポールドライブの作成に必要な鉄鉱石の収集――地下坑道から直接採取している――に大量の妖力を必要とし、不足した妖力を集めるついでに能力の修行を行う為に、妖怪に体当たりを仕掛けていたらしい。だが、今謝っているのはそのことについてではない。
ぼろぼろと大粒の涙を流しながらの彼女の説明を、バイオエナジーの流動パターンから分析できたことなどと合わせてまとめると、次のようになった。
彼女は妖怪化して最初に地上に出てすぐに、まだ自宅で療養していた翔子と友人になった。砂鉄を使った芸を見せると、翔子は大層喜び、また彼女もそんな翔子の姿を見るのが大きな楽しみだった。しかし、翔子の病状が悪化し、永遠亭に行くことになると、彼女は自分が翔子の病状を悪化させたのだと強く後悔した。しかし、そこで現れた俺が、危篤状態に陥った翔子を蘇生、エイズまで全快させた。彼女は俺を妬み、攻撃を仕掛けた。
「こんな子供みたいな理由で…貴方を殺しかねないとんでもないことを…うっ、ううっ…」
つまり素子は、『俺に』謝っているのだ。確かに動機は子供っぽいが、それもまた人が持つ感情としてはよくあるものだろう。
「…俺に謝ってどうする。モノポールドライブの作成は慈善事業なのかもしれないが、俺より他の被害者に――」
いや、待て。俺は今、恐らく画期的な解決案を思い付いた。
「…素子、俺と弾幕ごっこをしてくれ」
「え…?!」
「弾幕ごっこは幻想郷における紛争の解決手段だと聞く。ならば、この件も弾幕ごっこで解決するのが筋…俺は勝敗に関わらずスペルカードの性能を試せるし、お前が勝てば好きにできる。どうだ?」
「いや、でも…私は貴方に…」
「まったく同じことをずるずると引き摺りやがって…百人の善行より一人の改心! 俺に体当たりを仕掛けたことについてお前がそうして懺悔しているなら、俺は何も咎めはしない。俺が弾幕ごっこで勝った暁には、今までの被害者一人一人に謝罪して回って貰う。異論は認めん」
「……」
「二日後の昼、迷いの竹林――俺とお前が初めて対峙したあそこで行う。いいな?」
俺は素子にそう言い残し、地霊殿から去った。
地上に出、永遠亭に戻った後はスペルカードの作成に入った。
弾幕ごっこに於いて重要となってくるポイントは、如何にして相手の弾を避けるか、あるいは防ぐかという点だろう。幸い、アームキャノンにはシールド展開機能がある。バイオエナジーを用いたこのシールドの発生角度を変えれば、多彩な使い道が生まれるに違いない。その上、マルチロックオンマイクロミサイルシステムに使用される消しゴム大の超小型ミサイルは、それぞれに光学センサーやアクティブソナーを備え、しかも計6門の超小型高出力バイオレーザー砲を持ち、それらを独立して制御できる高性能の人工知能が搭載されている。それでもまだ足りないとでも言うかの如く、アームキャノン自体にもカメラが存在し、ミサイルは5発同時発射できる。最大でなんと200もの目標を捕捉し、その内の30の目標に対し同時攻撃が可能。
…待て。これは俺が圧倒的に有利なのではないか。公平性を欠いている。機銃を装備したモーターボートがイージス艦を相手にするようなものだ。
「…機能はある程度制限するべきだな」
「…小櫃」
ふと、背後から鈴仙に声をかけられた。
「ん?」
振り返らず、作業を続けるが、彼女は何も言い出さない。
「……」
「…言わんとするところはわかる。あの手の輩は、あれ位強く押してやった方が効果的だ。素子もむしろ踏ん切りが付くだろう」
「はあ…」
生返事をする鈴仙。視界の外にいる、すなわちスキャニングの知覚範囲外にいる為、彼女が何を考えているかはわからない。バイオロケーションも使っていないから、どんな顔で、どんなポーズなのかもわからない。だが、わざわざそれらを知る必要はない。俺はそう判断した。
「…小櫃」
「何だ?」
「まさかとは思うけど、…」
少し間があって、続く鈴仙の言葉。
「――死なないで」
俺は驚いたが、すぐにその驚きが愚かなものだと思い直した。弾幕ごっこはスポーツと同じだ。当たり所が悪ければ死ぬ。だが、相手を殺さない配慮はされている。…むしろ、武器の特性上俺の方が素子を殺しかねない。
「…俺がわざわざ自殺を提案するはずがなかろう」
後ろを振り返る。内穂が死んでからほとんど使わなかったせいですっかり強張ってしまい、複雑な変化をつけにくい表情筋を、不器用ながら動かし、『鈴仙を安心させられるような微笑み』を作る。
彼女は俺の隣に膝を抱えて座り、僅かに頬を染めつつ俺の肩に体を預けた。
俺と鈴仙の二人が座る縁側には、穏やかな春の午後の日射しが、竹の葉の隙間から降り注いでいる。こうした平和な時間を過ごしていると、この
そういえば。
彼女は俺を好いているが、寿命の関係で生涯連れ添うことはできないだろう。それでも彼女が俺を選んだ理由は、一体何だというのか。
だが、それは俺の考えの及ぶところではない。彼女のことはさておき、今は目の前の問題を解決せねばなるまい。
俺は再びタッチパネルを叩き、また新しいスペルカードを完成させた。
――「爆誕『バイオロジックスーパーノヴァエクスプロージョン』」。