東方無限者 〜the Infinitous's Second Life.   作:影のビツケンヌ

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日誌

オビツ・シジマより漂流日誌

 

 

西暦20XX年 5月6日 火曜日

幻想入り9日目

 

 この日誌はここからスタートとなる。前の日付には何も書いていない。というのは、この日誌は幻想入りしたことについて書かれるものではないからである。

 俺が自分の体の異常に気付き始めたのは、去年の晩秋のことだった。ある日自分の身長を測った時、自分の背が半年以上前から全くと言って良い程伸びていない――それでも180㎝近い自分はかなりの高身長ではあるが――ことに気付いた。それから定期的に身長を測ってみたものの、成長の見込みは全くない。

 幻想入りしてからは、自分の容姿がまるで変化していないことに驚かされた。単に成長が止まった、すなわち成長期が終わったならほんの少しでも老いの兆しが垣間見えておかしくはないはずだが、体は――自慢する訳ではないが――若々しさを完璧に保っている。

 これは一体どういうことなのだ?

 自分の右手の細胞をサンプルに取り、バイオエナジーの流動パターンを詳しく分析してみた。すると、驚くべきことに、それは妖怪のものに気味が悪い位よく似ているのだ。

 ということは、インフィニタスは妖怪の一種なのではないか。それでなくとも、ヒトから進化――この表現が適切かどうかは専門家の手に委ねたい――した、もっと別の生命体という可能性もある。インフィニタスの能力の最終段階、バイオプライムが『生命の第一人者』を意味する単語であるのは、その存在を提示した咲希は、このことを知っていたということ…?

 …俺が平均的なインフィニタスと大きく異なる為、これらはやはり推論の域を出ないが、一つだけ確かなのは、俺はヒトでは有り得ない、妖怪並みの長寿命を獲得しているということだ。今朝地底に赴く前に、テロメラーゼの活発な作用が観測された。通常のヒトでは有り得ないことである。

 テロメアは、細胞内のDNAのそれぞれの両端に存在する部位で、染色体がほどけるのを防ぐ働きがある。細胞分裂を行う度半分の長さになっていき、最終的にそれ以上短くなれなくなる。それは細胞が分裂できなくなることを意味し、細胞はやがて劣化、死亡する。

 妖怪の体細胞はテロメアが酵素の一種テロメラーゼの作用で異常な程伸長され続ける。しかしやがては再生が追い付かなくなり個体としての寿命が訪れるのだと推測される。

 ともかく、俺はこれでますますコーカサスに戻ることに関してデメリットを増やした。もう誰が何と言おうがあの島には戻らない。のどかのような例外はあるにしても、俺が戻れば医者や科学者にモルモットにされるのがオチだ。そしてその魔の手はコーカサスに住むインフィニタス全てに及ぶだろう。

 だが考えてみると、インフィニタスの存在が初めて公になった時に、何故すんなりと社会に受け入れられたのか、という疑問が浮上する。しかし、これもまた専門家の手に委ねたいと思う。…社会科は苦手だ。

 

 自分の体について書きたいことは全て書いてしまったので、ここで一つ自分の考えをまとめておこうと思う。

 一昨日の昼下がり、薬剤原料となる毒草を持ってきた妖怪、メディスン・メランコリー。彼女のような、『生物としての体を持たない妖怪』にバイオエナジーが流れていない件だが、もしかすると、『力荷が0になったバイオエナジー』が流れているのかもしれない。

 コーカサスに於いて、かつてハルベルトにGアームズ本社へと招待されたことがある。そこで、俺は力荷の正負が逆転したバイオエナジー『ネガバイオ』――俺には青く見える――を見せられた。それに、普段目にしている普通のバイオエナジー『ポジバイオ』――俺には赤く見える――を融合させると、あろうことかスキャニングを使用しても視認できなくなったのだ。

 あの時は、物質と反物質が衝突する際の『対消滅』だと解釈したが、力荷が0の新しい物質が現れたのやも知れぬ。中性的(ニュートラル)なバイオエナジー…さしずめ『ニューバイオ』、とでもいうべきか。

 つまり、メディスンを始めとする無生物妖怪は、ニューバイオの循環によって活動エネルギー、つまり妖力を得ているのではなかろうか。他にも幽霊や亡霊などの、スキャニングでのバイオエナジー(ポジバイオ)の視認が不可能と思われる存在についても、その循環が霊力を生成すると考えることができる。見かけ上は視認できないから霊力で構成されているように見えるはずだ。博麗の巫女のような霊力の大きなヒトは、恐らくポジバイオを――どのようなメカニズムかはさておき――体内でネガバイオに変換、ポジバイオと融合させ、出来上がったニューバイオをポジバイオと一緒に循環させて霊力を作り、体内にストックするのだろう。この理論では、ニューバイオは心霊現象に付き物とされる心霊物質(エクトプラズム)の正体という結論に行き着く。

 大分長くなったが、要するにポジバイオを用いた攻撃は無生物に対しては通常兵器と同等、幽霊や亡霊などには全くダメージを与えられない。つまり、この先幻想郷で生き延びる為には、ニューバイオを使用するプログラムを新たに作成しなければならないのだ。

 今後の課題は増える一方で、俺が本当に暇になるのはかなり先になるだろう。

 

 …日誌という体で書いてはいるが、現代の技術ではこのデータを取り出すことは不可能だろう。何故ならアームキャノンに使われている中央演算処理装置――CPUは、光ファイバーや回折格子、フォトニック結晶を利用した光コンピューターで、通常の電子コンピューターとは異なるプログラミング言語を使用しているからだ。これを他の誰かが目にすることがあるとすれば、俺に子供ができるか、あるいは俺が死に赤の他人がアームキャノンを拾うか、そのどちらかだ。

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