東方無限者 〜the Infinitous's Second Life. 作:影のビツケンヌ
「…と、いうわけ。わかったかしら?」
ソーサーに紅茶の入ったカップを置きながら、彼女――風見幽香は説明を終えた。
彼女が言うには、この世界は俺がいたのとは違う世界で、『幻想郷』というらしい。博麗大結界なるものによって遥か昔に外界から切り離された、妖怪や幽霊、神が実在する世界。それが幻想郷なのだという。
「…納得はしていないが、理解はした」
アームキャノンのデータベースに新しい情報を書き込みながら、俺は答えた。
彼女の話を、俺はまだ完全に信じたわけではない。彼女自身も大妖怪の一人だと名乗っているが、それも疑わしい。
しかし、逆に彼女の話が本当なら、自分がなぜ生きているのかという点に於いて辻褄が合うのもまた事実だった。彼女曰く、俺は恐らく八雲紫という、彼女の友人でありこの幻想郷の創始者兼管理者である大妖怪の気まぐれによってこの世界に連れて来られた可能性が高いらしい。そうであれば、敵の攻撃を目前にしてダメージで全く動くことのできなかった俺を助け、怪我の治療をする程度、『妖怪の賢者』と言われ、『境界を操る程度の能力』を持つという紫にとっては小手先のことなのだろう。
また、彼女の説明から、この世界は俺がいた世界とは時間軸さえも異なるということも見え隠れしていた。話から計算するに、俺のいた西暦2129年から1世紀以上は前になる。
それに、そもそも彼女は嘘を吐いているようには“視え”なかった。
「…ねえ」
「? どうした」
少し間が空いたが、おもむろに、幽香が話しかけてきた。
「私ばかり説明していては不公平よ。貴方も、元の世界のことを教えて頂戴な。まだ私は、貴方の名前も知らないのよ?」
「…了解した。俺の名は…」
偽名を使うべきか、とも考えたが、俺はその考えを蹴ることにした。
「俺は小櫃。
俺は、元の世界で持っていた知識を掻い摘まんで説明した。
コーカサス。地球環境の改善の為にかねてから計画されていた火星への移住計画『プロジェクト・ヘヴンズスルー』の為に造られた、マダガスカルと日本を合わせた程の面積を持つ巨大人工島兼大型マスドライバー施設。公用語は英語、日本語、ドイツ語、フランス語。
バウンティハンター。コーカサス内での犯罪率の上昇に歯止めをかけるべく施工された制度、及び職業。
ハンターは依頼人(個人、企業、政府など問わず)から依頼(指名手配犯の情報収集、暴力団組織の取り締まり、強盗の捕縛、要人警護など)を受け、それに見合う報酬を要求。依頼人には後日支払った報酬分の金額が国から支払われる。なお、自分を含めた一部のハンターを除いて、ハンターは依頼によって稼いだ金額の一定割合を国に納める義務がある。
バイオエナジー。あらゆる生物が、体内で無限に生成・循環させている謎のエネルギー体。
これまで発見されていたどの素粒子でも構成されておらず、生成プロセスはその一切が不明だが、全ての細胞が一様にこれを作り出す機能を備え、また体外に取り出されても一瞬で補充される。生物の思考、行動、生理機能、精神状態や健康状態などに相互に影響し合っている。
インフィニタス。バイオエナジーを変換、あるいは媒介として能力を使用する特殊能力者。後天的な突然変異によって能力を獲得した者を中でも区別して『エヴォリューテッドパーソン』と呼称する。
平均的に身体能力が常人より優れており、精神の発達が比較的早い。有機毒に対し非常に高い耐性を持ち、無機毒は新陳代謝作用に取り込むことなく体外に排出できる。
インフィニタスの能力は使い続けるうちに進化し、さらに強力になっていくが、最終的には、理論上の話ではあるが、『バイオプライム』という、自他問わずバイオエナジーをあらゆる形で完璧に操る最強の能力に行き着く。
アームキャノン。Gアームズ社が開発した、バイオエナジーを使用する筒型携行兵器。
バイオエナジーを腕から体外に取り出し、弾丸化や刀身化を行い対象を攻撃するが、それらを行う為の『マルチシューターマシン』の内部構造はその一切が国家機密レベルで秘匿されている。内部のグリップを握り、二つのトリガーを引き三つのダイヤルを回して操作するという扱い難さ故に、あまりポピュラーとは言えない。
中でも俺の持つ『アームキャノン・ジェネラルカスタム』は、Gアームズの社長ハルベルト・フランケンシュタインが俺の為だけに直々に設計・開発した、世界に二つとない最高の携行兵器である。
俺の過去やこの世界に到るまでの経緯については省いたが、俺の話を理解する上で最低限必要なことは教えた。…俺の拙い説明をちゃんと理解してくれたかどうかは不安が残るが。
「…納得はしていないけれど、理解はしたわ」
…この女、茶目っ気があるというべきなのか、皮肉屋というべきなのか。ニコリと笑って返された言葉は、間違いなく俺の神経を逆撫でしている。
だが、最初に顔を合わせた時から彼女の体にあると気付いていた“問題”は、俺の怒りを鎮めるのに十分だった。
「…幽香、お前、」
「何かしら?」
「…あまり無理はしない方がいいぞ。発熱していることぐらい、自分でもわかっているだろう?」
俺の目に狂いがなければ、彼女は間違いなく38℃近い高熱を出していた。