東方無限者 〜the Infinitous's Second Life. 作:影のビツケンヌ
昼間も尚薄暗い竹林の中。
俺は眼前の少女と正対し、アームキャノンを構える。
少女――素子は背中に円筒形の物体を背負い、ベルトで固定している。昨日にとりの工房に置いてあった大型コイルだ。磁場を操ってコイルを貫く磁束を変化させ、電力を発生しようという魂胆だろう。両脇に抱えているのはペットボトル。中には真っ黒い液体と砂鉄が入っている。
「…準備はいいな、素子」
「ええ…不足はありません」
俺はアームキャノンを軽く振り、バイオブレードを展開した。素子もそれに合わせてペットボトルのキャップを外す。
「それじゃ、さっさと始めようか。使用するスペルカードは3枚ずつ。私の合図で弾幕ごっこ開始、おっけー?」
レフェリーはてゐ。周囲の観客は永琳、輝夜、鈴仙、こいし(恐らく俺以外の者は存在に気付いていない)、魔理沙、そして素子の記事を書いた鴉天狗、射名丸文。
「いざ尋常に、」
この決闘が、俺が幻想入りしてから初めての本格的な弾幕ごっこになる。初陣ぐらい勝利を飾りたいものだ。
「勝負!」
俺はブースターを噴かし、強いダウンフォースを得ながら地を蹴った。
「基本『フレミング左手の法則』!」
開幕と同時に真正面から飛んできたいくつかの妖力弾を、バイオブレードで切り裂き、切り払いながら、俺は昨日のにとりとの会話を思い出していた。
「彼女の能力? 磁場を操る程度の能力ではないのか?」
「いや、それは合ってるんだ。でも、多分小櫃が考えてるよりずっと強力だよ」
「どういうことだ?」
「素子は鉄とかコバルトみたいな強磁性体だけじゃなくて、弱磁性体や反磁性体にも、非常に強い磁性を持たせられるんだ。ネオジム磁石も真っ青のね」
「ふむ、それで?」
「…まあどんな風に使うかはわからないけど、注意するに越したことはないよ」
彼女からは注意喚起しか貰えなかったが、それで十分だ。
可能性は様々に考えられる。砲身無しでの
俺はバウンティハンターとして、幼少時から血の滲むどころか血反吐を吐くような戦闘訓練を積んできた。だが一つだけ、どうしても解決できなかった難問がある。それは自分の持久力の不足だ。体質上、俺はインフィニタスの中でも筋組織に乳酸が蓄積しやすく、フルパワーでは長い時間動き続けることができない。そこで、俺は弱点をカバーするべく、『相手に自分の動きを読ませない』ことを目的とし、トリッキー且つスピーディーに敵を殲滅するようにしてきた。
弾幕ごっこは、決着の着け方の都合で、どうしても戦闘が長引きやすい。その上“美しさ”まで競うというのだから、こちらとしてはたまったものではない。戦いに於いて美しさを求めるなど、コーカサスでは言語道断だった。
しかし、俺は自分がこの程度で弱音を吐くようなヤワな男でないと自負している。
戦いは、まだ始まったばかりだ。
「まずはこれで行く」
走り回り、素子の放つ無数の弾幕を掻い潜りながら、ダイヤルを回して兵装を変更。すると自動的にディスプレイが開き、同時に銃口周辺が変形、口径が(ミサイルをイジェクトした時よりも)大きくなる。さらに、展開したディスプレイの画面部分が90°回転してこちらを向き、その隣にあった小さなカメラもまた90°回転して前方を向いた。
「ボイスコマンド認証開始、…マルチロックオンマイクロミサイルシステム起動」
これは決して俺の虎の子ではない。小手調べだ。
「目標を自動ロック…スタンバイOK、スペル宣言に合わせ発射」
妖力弾の嵐がひとしきり終わった直後、踵からブースターを噴射しながら
「…激符『ウォーズ・オブ・ピースメーカー』!」
ジェネラルカスタムで使用するミサイルは燃料を燃やして飛ぶものではない。ロケットランチャーのような噴射炎は発生しない。その為、飛行中の音は燃料の燃える轟音ではなく、不燃性ガスが高圧で噴出される、消火器の出すような音だ。
「そんなもの! 抵抗『ホイートストンブリッジ』!!」
計5発のミサイルは、一見すれば舐められているように思われるだろう。素子は再び弾幕を展開し、ミサイルを撃墜せんとする。が、
「?! そんな馬鹿な!」
ミサイルに搭載された高性能の人工知能が、妖力で構成された弾丸と弾丸の僅かな隙間を即座に見出だし、その合間を縫って素子に迫るルートを弾き出す。ミサイルはスタビライザーの角度を細かく変え、変化する間隙を分析して適格にルートの微調整を行い、避け切れない弾幕はバイオレーザー砲で相殺しながら、着実に素子を追い詰めていく。
「くっ!」
その時、素子の展開する弾幕が、彼女の周囲だけコンマ秒単位でぶれた。
「…やはりそう来るだろうな」
一番初めに素子に肉薄したミサイルが、標的から大きく外れ、あさっての方向に飛んで爆発した。彼女は自身の周囲に磁場を発生させ、ミサイルの電子回路を狂わせたのだ。
空中を飛ぶミサイルは残り4発。磁気妨害によって一つが無効化されたことを知ったらしい残りは、プログラムを変更し、バイオレーザー砲での攻撃に切り替える。電磁気力に影響されないバイオエナジーは、素子の能力で屈曲させられることもない。
「ちっ!」
素子は磁場の操作によって砂鉄の壁を作り、バイオレーザーを防いだ。反応速度はなかなかのものだ。だが、やはり詰めが甘い。
だからこうして、
「そこだ」
「なっ…?!」
俺に後ろを取られるのだ。
「急襲『ブラインドサドンアタック』」
アームキャノンの銃口を素子の足下に叩きつけ、同時に押さえていたトリガーを放す。瞬間、アームキャノン内部で圧縮されたバイオエナジーが、通常のバイオバレットの10倍近い威力で放出され、素子を地面ごと吹き飛ばす。
と、思ったが。
「危ないところでした」
素子は飛び退きながら下半身に磁性流体のバリアを作り、衝撃から身を守っていた。竹のしなりを利用して空中に躍り出、砂鉄の剣と磁性流体の盾を構えつつ、立体的な軌道で突進してくる。
「無駄だ」
アームキャノンの先端を展開、シールドを発生。素子の攻撃を防ぎ、展開部分の角度を変更。
「何?!」
結果、バイオシールドは素子を包み押さえ込む形となり、完全に無力化した。だがそれで終わらせる程俺は甘くない。背中、踵、尾てい骨全てのブースターを点火、高出力で噴出。勢いよく竹にぶつけ、そのまま次のスペルカードの宣言に入る。
「消滅『オメガリフレクティビリティキャノン』!」
バイオシールドの展開状態を維持したまま、ダイヤルを回しトリガーの引きを強くする。キャノン内部でバイオエナジーが超圧縮されていくのが感じられるようだ。勝利を確信した。
「
そう、この一撃で全てが決まる。
超圧縮されたバイオエナジーの奔流が、巨大なレーザーとなり一気に放出されて素子を飲み込む。その反動は凄まじい。かつてのビツケンヌカスタムすら凌ぐ。今までに扱ったことのない出力に肩肘が軋み、小さな悲鳴を上げている。
そして、その反動がなくなった時。
素子は、レーザーの射線上から消え失せていた。
「っ!?」
本能で察した。『当てていない』と。自分の撃ったバイオエナジーの極太レーザーが、目隠しになってしまったのだ。
「加速『サイクロトロン』!!」
彼女のスペルカードの宣言が聞こえた時には、もう遅かった。
脊柱の中央を激しい衝撃が貫き、体が前方に吹っ飛ぶ。何が起こったのか全くわからない内に、竹の幹に正面衝突した。
意識が暗転した。