東方無限者 〜the Infinitous's Second Life.   作:影のビツケンヌ

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和解

 目が覚めると、自分は見知らぬ――否、見知った木目の天井の下、見知った匂いの布団の上で寝かされていた。推定時刻はおおよそ午後11時。月明かりが判断基準だ。

「…負けた、か」

素子に弾幕ごっこで負けた。額には包帯が巻かれている。竹にぶつけた時に出血したのだろう。

 左手から聞こえた小さな寝息は、鈴仙のものだった。

「心配をかけたな」

俺はやおら起き上がり、自分に寄り添うように眠る彼女の頭を撫でる。首の後ろと(ひかがみ)に手をかけて持ち上げ――いわゆる『お姫様抱っこ』で、彼女の部屋に連れて行った。

 

 翌朝、俺は弾幕ごっこが自分の自己満足に過ぎなかったことを思い知らされた。

 実は、素子は勝敗に関係なく、最初から被害者全員に謝罪して回るつもりだったのだそうだ。俺が勢いで決めてしまったスペルカードルールでの決闘は、要するに俺を黙らせる為に参加したらしい。それを聞かされた時など、驚きを通り越して笑いが出た。いや、笑いでは済まされない。永遠亭メンバー全員で大爆笑した。おかげでてゐは午前中一杯腹痛を訴え続け、輝夜も痛そうに口角を押さえているのを確認できた。

 そして、午後4時頃、素子は俺を訪ねてきた。

「全員に謝ってきたのか」

「はい」

「律儀な奴だな。勝手に決闘を仕掛けた自分が馬鹿馬鹿しい位だ」

「そ、そんなことはありません!」

俺と素子の二人は、居間に机を挟んで座っている。机上の茶は俺が用意したものだ。淹れた時両方に茶柱が立った。とんだ偶然もあったものである。

「まあとにかく、此度は一件落着という訳だ。モノポールドライブの完成…楽しみに待っているぞ」

「…はい!!」

「煎餅があるぞ、食べるか?」

「いえいえ、お構い無く」

俺は土間の棚に置いてあった煎餅を取るべく、座布団の上から立ち上がった。

 幻想入りしてからまだ2週間と経っていないというのに、妙に濃い日々だった。だがその中で、不当に誰かが傷付けられるようなことは発生していない。

 今思えば、俺のいたコーカサスこそがこの世の地獄だったのかもしれない。

 火星移住の為に世界中から人が集まり、考え方の違う者同士が角を突き合わせる。結果、コーカサスは地球最後にして最悪の犯罪多発国家となってしまった。バスジャックに銀行強盗、自爆テロ、人が死なない日など有りはしない。民間個人警察たるバウンティハンターもその多くが政府の要人や大企業の申し子だ。俺のようなフリーランス自体珍しい。

 恐らくこの世界の住人がコーカサスに行ったとすれば、2日と待たずに死ぬだろう。

 …いや、もう向こう(コーカサス)のことなど忘れてしまおう。経験は生かすべきだが、引きずり続けるのは良くない。

 平和という恩恵を、俺は次の『異変』とやらが来るまで貪ることにした。

 

 翌日の文々。新聞には、俺と素子の決闘に関する記事が事実と相違なく書かれていた。尚、その日の正午に開かれた、幻想郷最速を巡った文と素子の戦いに於いて、惨敗した文が呆気なく素子に幻想郷最速の座を明け渡すこととなり、戦いに便乗して開催された賭博(トトカルチョ)では、素子に賭けた俺と鈴仙が多額の賞金を得たのは、また別の話。




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