東方無限者 〜the Infinitous's Second Life. 作:影のビツケンヌ
永遠亭の前庭。
「ふんっ!」
手を平たく伸ばし、手刀を振るう。空を斬る音が無様に木霊した。
「…駄目か」
「いや、諦めるのは早い。伯母は三島大社の巫女だったのだろう? それなら霊力も伸びしろがあるはずだ」
俺の
紫の要請、いや命令で、俺は2週間前から霊撃の習得を強いられる羽目になった。没収されてアームキャノンが使えない以上、弾幕ごっこなどできたものではない。
紫の言い分は、俺の心当たりを的確に突いてきた。
アームキャノンは、出力次第で子供の玩具から大量破壊兵器まで幅広く使える。魔理沙のミニ八卦炉のようなものだ。だがミニ八卦炉と決定的に異なる点がある。ミニ八卦炉は使用者が魔力を持たなければ使えないのに対し、アームキャノンは使用者が人間であれば誰でも使えるのである。機能自体も、戦闘面ではミニ八卦炉を遥かに上回っている。バイオバレット、バイオブレード、バイオシールド、マルチロックオンマイクロミサイルシステムの4つを基本的機能として、高出力のバイオレーザー、エネルギー爆弾、バイオダイナモで発生した高圧電流に指向性を持たせて発射する『ウェイブビーム』、他にもプログラミング次第で様々な攻撃方法を確立できる。
その中でも紫が最も恐れているのが、アームキャノンに備わった自爆機能、通称『パワーボム』だった。
パワーボムはマルチシューターマシン内部で超圧縮したバイオエナジーをマイクロ波の照射によって化学反応させ、強力な爆弾として機能させる隠し兵装だ。無論使ったことなどあるはずがないが、ハルベルト曰く、「最大出力ならマンハッタンを3つ4つ吹き飛ばす位造作もない」らしい。
紫は兵器自体の汎用性や破壊力以外にも、『生命の根幹そのものへの直接攻撃』という性質の危険性も指摘した。この世界に於いて、あくまでもヒトは妖怪よりも弱い存在でなければならないそうだ。
紫は生物と無生物の境界を操ることはできたが、何故かバイオエナジーの境界は操作できなかったという。幻想郷最強の一角を以ってして危険と言わしめるアームキャノン。だというのに何故、紫はそんな武器を携えた俺を幻想入りさせたのか。
…いや、今はそんなことは問題ではない。妖怪等に有効打を与えられる攻撃能力のない今、俺は非常に危険な状況だ。永遠亭を出られない。当分は薬売りの仕事も鈴仙に任せっきりになるだろう。
「小櫃、集中を切らすな。霊力の定着が不安定になるぞ」
コーチである九尾の狐に注意されて、俺は再び意識を右腕に向けた。
人差し指、中指の二本を立て、親指をその脇に添える。思い描くのは、亜音速の凶弾。掌の中央部に装填され、意識の撃鉄に
「っ!」
永遠亭の静寂をけたたましい銃声が破り、放たれた黒色の弾丸が藍の結界に衝突して――砕いた。
「なっ、ぐうっ?!」
当然、弾丸はそのままの勢いで藍に向かう。下腹部に直撃し、彼女は悶えた。
「?!」
その時初めて気付いた。自分が放ったのは霊力で構成された弾丸などではなかった。何故なら、彼女の下腹部には赤黒い血液がどくどくと溢れ出す銃創ができていたからだ。通常の霊撃でこんな傷ができる訳がない。
俺は、バイオエナジーの弾丸を撃ったのである。
藍の傷は深かったが、命に別状はなかった。
「すまん、藍…」
「いや、いいんだ。気にするな」
普通藍程高位でなくとも、妖獣の傷は短期間で塞がる。しかしバイオエナジーによる攻撃を受けた場合話は別だ。
「小櫃、お前はまた一つ…」
「わかっている。…『バスター』だ」
どうやら俺は、また一つ能力を覚醒させてしまったようだ。新たな能力の名は『バスター』。バイオエナジーを、アームキャノン等の機械を介することなしに体外で形成することができる。アームキャノンを扱っていた時の記憶が強いせいか、まだ右腕からしか出力できないが、完全に身につければ『境界を操る程度の能力』を持つ紫や、『死を操る程度の能力』を持つ幽々子にも並ぶ存在となろう。力を抑える為の行いが、逆に危険度を増すことになるとは本末転倒もいいところである。
12月に入り、紫はアームキャノンを没収してすぐに冬眠に入ってしまった。まるでヤマネのような奴だ。春まで起きることはない為、藍は自分の主人に指示を仰ぐことすらできない。
「紫はこうなることは予測していたのか?」
「…いくら紫様でも、こうも短期間でインフィニタスとしての能力が追加されるとは思いもしなかったろう」
「そうか…」
するとそこへ、1人の少女が駆け込んできた。
「藍様、大変です!!」
彼女は
「橙?一体どうしたと言うんだ?」
息を切らす橙に問う藍。橙の応答は、俺にはおよそ衝撃的なものであった。
「――奴が、…ブラスト・ハンドレッドが幻想入りしました…!!」