東方無限者 〜the Infinitous's Second Life.   作:影のビツケンヌ

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対策

 ブラスト・ハンドレッド。かつてVRANEに反旗を翻し、全世界を救った伝説的英雄。実在する人物であるにもかかわらず、その活躍はある種の神話の如く語られていた。

 VRANEは、第五次中東戦争のきっかけとなったタリバンに対して武装蜂起を促した組織である。戦後の混乱の中、VRANEはアフリカに残った黒色人種の生き残りを率い、ケニアを拠点に全世界に向け宣戦布告。世界各地の軍事大国が総力を上げて鎮圧にかかるも、高機動多脚戦車や生体兵器等、その圧倒的な技術力の前に為す術もなく敗れ去った。

 丁度その時、ブラスト――本名はあまり知られていない――はアフリカ各地に結成されていたレジスタンスの一員だった。VRANEへのスパイ任務に失敗し捕らえられ、自身も生体兵器に改造されかけてしまう。が、彼は洗脳される直前に脱走、同時に当時組織が開発中であったロボットアーム型新兵器『ハイドラRX-2』を奪取することに成功。生体兵器としての常軌を逸した身体能力と、左腕に装着したハイドラの力を借りて、彼は組織本部に単身潜入、破壊。これにより統制を失った秘密結社VRANEは全世界からの総攻撃を受け、西暦2114年に崩壊した。

 尚、その後の彼の行方は知れていない。

 

 幻想郷の実力者達が、藍によって急遽博麗神社に召集され、そこで緊急集会が開かれることになった。俺以外の出席者は以下の通りだ。

 博麗の巫女、博麗霊夢。普通の魔法使い、霧雨魔理沙。紅い悪魔、レミリア・スカーレット。完全で瀟洒な従者、十六夜咲夜。歴史喰いの半獣、上白沢慧音。妖怪寺の魔住職、聖白蓮。聖徳道士、豊聡耳神子。祀られる風の人間、東風谷早苗。伝統の幻想ブン屋、射命丸文。超妖怪弾頭、川城にとり。四季のフラワーマスター、風見幽香。月の頭脳、八意永琳。狂気の赤眼、鈴仙・優曇華院・イナバ。華胥の亡霊、西行寺幽々子。半人半霊の庭師、魂魄妖夢。怨霊も恐れ怯む少女、古明地さとり。策士の九尾、八雲藍。そして極めつけは、思考する電離気体、空素子。

 今、藍は出席者達に今回の対策の概要を説明している。

 幻想入りしたブラスト・ハンドレッドが危険と見なされている理由は一つ。幻想入りの過程で、ある能力を獲得している為である。

 『常識に当てはめる程度の能力』。妖怪や幽霊、神等のいわゆる非科学的な存在の持つ性質をほとんど失わせ、普通のヒトと同じようなものにしてしまう。ヒトであっても、超常の力の類いは同じく失わせてしまうのだ。今はまだ“直接的及び間接的な自分に対する影響”を無効化するだけにとどまっているが、このまま生かしておけば強力な妖怪すら近くにいるだけで生命の危険に晒され、最悪の場合幻想郷の結界にまで干渉・消滅させかねないという。

 しかしこの能力の効果には意外な抜け道がある。インフィニタスの能力はその影響を受けないのだ。常識に当てはめる、というのは、ブラストの持つ常識にそぐわないものを否定することで、インフィニタスの存在は否定されないからだ。

 つまり、今回の“作戦”に於いて俺の存在は必要不可欠なのだ。

 「それでは、私の考案したブラスト・ハンドレッド排除プランを説明します」

藍の用意したホワイトボードの前で、素子が説明を始めた。

「ブラストの装備したロボットアーム型携行兵器、ハイドラRX-2は、強力なシールド展開機能を備えています。さらにブラストは遺伝子操作によって生物学的な超感覚を手に入れているので、通常の兵器での狙撃も不可能――月並みな方法では到底太刀打ちできません。そこで私が提案するのは、高出力の近代兵器を用いた超長距離狙撃です」

彼女はペンを手に取り、ホワイトボードに絵を描いていく。そのまま彼女は続けた。

「私は半年前にモノポールドライブを完成させました。今作戦に使用する高出力自由電子レーザー砲『シュリュウ』には、それを搭載します。さらに地底の核融合炉と接続して出力増強、火力制御の補助に魔理沙さんのミニ八卦炉も使います」

ミニ八卦炉の使用について魔理沙が抗議の声を上げようとしたようだが、そのすぐ隣に座った霊夢が「お前は黙ってろ」と睨み付けたお陰で、素子の話は中断されずに済んだ。

「シュリュウは妖怪の山、守矢神社の境内に設置します。小櫃さんがブラストを惹き付けている間にシュリュウで狙い撃ちです」

実際には、この作戦『シジマ作戦』は、藍から話を聞いた俺が素子とにとりその他大勢の技術者らと相談して打ち立てたものである。故に俺は説明を聞く必要がないのだが、確認の意味で耳を傾けている。

 そもそも、俺がブラスト・ハンドレッドの幻想入りに疑問を持たないのには理由がある。それとなく、藍との会話を思い出した。

 

 「小櫃、紫様がお前を幻想入りさせたのには訳がある」

「一体どんな?」

「湖の吸血鬼は知っているな?運命を操る力を持った…」

「レミリア・スカーレットのことか?」

「そうとも。彼女はブラストの幻想入りを予知し、また彼の能力の取得、そしてその能力への対抗手段を、紫様に教えたのだ」

結局、俺は幻想郷を守るという名目で連れてこられた駒だったのだ。奄美大島にマングースを移入した時のようにならないだけ、紫の人選は適切だったのだろう。

 例え彼女にとって使い捨てでも、俺はこの美しい世界を守りたい。心からそう思っている。

 

 「何か質問はありますか?」

思考の海から眼前の光景に意識を戻すと、丁度その時素子は一通りシジマ作戦の概要を説明し終え、質疑応答に入った。すると1人がすかさず手を挙げた。

「聖さん、どうぞ」

指名された白蓮は、どこか悲しい表情だった。彼女の言わんとするところは解る。

「話し合いでの解決は…不可能なのですか?」

そう来ると思っていた。平等主義者で争いを好まない彼女は、こんな時でも穏便に解決しようとする。

 だが、今回はそんな生温い方法での解決は不可能である。その理由を、藍が口を開くより早く説明する。

「馬鹿も休み休み言え。ブラストの行動原理はただ一つ、VRANEの残党及びその戦闘技術を持つ者の抹殺…俺を殺すことだ」

どよめきが広がる室内。皆の表情は一層険しさを増す。軽く手を挙げ、静粛にさせてから続けた。

「橙が奴に脅されたそうだ。俺の居場所を吐かせる為に…。奴は手段を選ばないだろう。もし奴が俺の居場所を尋ねたなら、隠す必要はない、知っていることを全て吐くんだ。逆らって逆鱗に触れれば、間違いなく蹂躙される。…集会はこれにて終了とする。藍から指名のあった者以外は解散してくれ。周囲への警戒を怠るな」

 ブラストが俺の世界からやって来た以上、本来ならば俺が始末をつけねばならない。犠牲は絶対に出したくなかった。

 晴れ渡る空が、いっそ忌々しい。

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