東方無限者 〜the Infinitous's Second Life. 作:影のビツケンヌ
俺は後悔した。自分の考えの至らなさを。
俺は恨んだ。自分の力不足を。
「ふふっ、それじゃ」
目の前の金髪の少女は、
「いただきまーす☆」
今まさに俺の命を喰らわんとしていた。
時は一時間弱さかのぼる。
風見幽香なる少女の家の前に倒れていた――正確には八雲紫に放り出されていた――俺は幽香に拾われたが、彼女が高熱を出していることを指摘、ベッドに寝かせた。
彼女はなんとか誤魔化していたつもりだったようだが、俺の目にかかればそんなものは通用しない。
『スキャニング』。インフィニタスである俺が持つこの能力は、バイオエナジーを、常人には感知不可能なレベルから視認することができる能力だ。彼女のバイオエナジーの流動パターンから健康状態を分析するくらい児戯にも等しい。
近くに医者はいないかと彼女に尋ねたところ、南に少し行った所にある『迷いの竹林』に、『永遠亭』という建物があるという。俺はすぐに準備を調え、そこへと向かった。
幽香曰く、迷いの竹林は、その名の通り非常に迷いやすいらしい。竹ばかりで目印のない単調な風景、時折発生する濃霧、さらに地面の僅かな傾斜が平衡感覚を狂わせ、真っ直ぐ進んでいるつもりでも元の位置に戻って来てしまい、その上妖怪も多数生息する為、幻想郷でも名の有る危険地帯として知られている、と教えられた。
しかし、俺の目にかかればそんなものは通用しない。何度も言うが。
つまり、スキャニングでバイオエナジーの流動パターンを分析し、竹の根のネットワークから、竹林が終わる場所、つまり建物を建造できる場所を割り出せば、迷うことなどない。
実際、俺は自分の師匠と行った、能力を使いこなす為の修行に於いて、これと全く同じ状況であった。
竹林の中を永遠亭目指して走るうち、何体もの異形の怪物と出会った。俺はアームキャノンを乱射して迫り来るそれら下級妖怪を屠り、竹林の中をただ急いだ。
しかしながら、いくら相手が自分を殺して喰おうとしているとはいえ、むやみやたらに命を奪うのもいささか気が引ける。よって俺は弾丸化したバイオエナジーを撃ち続けつつ、少しずつ出力を下げ、殺すことなく戦闘不能にできる程度にした。
目的地まで残り1㎞強となった頃、突然周囲が真っ暗になった。スキャニングの副次的効果で補正がかかり、周囲の景色が急速に色褪せていく。網膜の円錐形細胞が円柱形細胞に再構成されたのだ。バイオエナジーの流動を示す赤い光がモノクロの視界を紅く浮かび上がらせる様は、まるで一昔前のB級ホラー映画のようだ。
「わはー」
そんな緊張感のない声と共に、その金髪の少女――モノクロでも光沢があることはわかった――は、俺の前に姿を現した。
一目でわかった。この少女は、腹を空かせている。そして、間違いなく妖怪で、俺を喰うつもりだ。
「ねえ、あなたは食べられる人る」
「黙れ小僧」
「うわっ!?」
少女の足下に弾丸化したバイオエナジー――そろそろちゃんとした名前を考えた方がいいかもしれない――を撃ち込む。少女は危うく飛び退き、難を逃れた。なかなかの反応速度だ。だが、――
「生憎、俺とてそう簡単に捕食されるわけにはいかんのでな」
こうして、幽香に
なぜ今俺はその少女に首を絞められているのか。理由は至極単純だ。単調な弾幕に油断して妖力弾を避けるのに夢中になり過ぎ、横から迫る凶腕に気付かなかったのだ。故に、俺は右上腕と右脇腹に深い裂傷を負い、キャノンを構えることが出来ない。
「うふふふふ…」
「が…ぐ…ぅ」
ぎりぎりと絞められていく首。少女の細く華奢な腕からは想像もつかない握力だ。こんな子供のような妖怪でここまで力が強いのなら、幽香程の者なら俺の首を飛ばすくらい造作もないだろう。
出血がひどい。次第に薄れていく意識の中、走馬灯すら見え始めた。自分の義弟達、里親、師匠、同居人達、友人達、そして自分のクローンの変異体――
「…
その名前が口から出た瞬間、あまりの痛みで全く動かすことのできなかった右腕が、ほとんど意識せず持ち上がり、キャノンのトリガーを引いた。
「ぐわぁっ!?」
吸い込まれるように少女にヒットしたバイオバレット――以降はこう呼ぶことにする――は少女を吹き飛ばし、俺は絞首から解放された。
「はあ…はあ…」
急に解放されたことによる荒い呼吸を続けながら少女を見れば、彼女は後頭部を竹にしたたかぶつけたらしく、気絶している。間違いはない。
「速く…ここから離れなくては…っ」
辺りを見回すと、ちょうど左手に和風な造りの家屋が見えた。痛む体と朦朧とした意識に鞭を打ち、そちらへと歩を進める。
「ぐっ、…つう…」
まだだ。まだ、倒れるわけにはいかない。
しかし、その決意も束の間。
視界の奥に、ブレザーらしきものを纏った人物を見出だした途端、人を見つけた安心感からか、或いは出血多量によるものか――
俺は、意識を手放してしまった。