東方無限者 〜the Infinitous's Second Life.   作:影のビツケンヌ

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生存

 まさか、目を覚ますと見知らぬ布団の上という展開が一日に二度も起きようとは思ってもみなかった。

 本日二度目だが、装備を確認してみた。

 一度目とは違い、時代劇などで見る白い寝間着を着ている。右上腕と腹部には丁寧に包帯が巻かれて――

「っ!?」

アームキャノンがない。奪われたのか?一体誰に?アームキャノンがなければ、この世界では俺はただ少し身体能力が高いだけのガキだ。

 すると、突然和室の障子が開き、

「あら、起きていたのね」

銀髪の女性が現れた。

 赤と青のツートンカラーが特徴的なナース服のようなものを身に纏っている。医者だろうか?だとすれば、ここは永遠亭で――

「はっ、そうだ幽香だ!」

「呼んだかしら?」

「は!?」

今度は幽香が銀髪の女性の後ろから現れた。薬を処方して貰ったのか、発熱している様子はない。だが不自然だ。薬を投与したところで半日もしない間に回復するはずがない。

「幽香?なぜここに?」

「医者を呼びに私の家を飛び出して、大怪我して三日も眠りこけていた人の言うセリフじゃないわね」

「な…」

三日。自分はそんなに時間を無駄にしたのか。唖然とする俺に、銀髪の女性が説明する。

「彼女の風邪は治しておいたわ。貴方の傷と一緒にね」

「つまり…治療費は全て幽香が出したと?」

「ええそうよ」

…やはり、彼女の気取った感のある口調は俺の神経を大いに逆撫でする。が、自分の治療費も負担してくれた相手に言葉を返すわけにもいかない。気に食わないのと申し訳ないのとが混ざり合った複雑な心境だ。

 「わざわざすまんな、幽香」

「お礼なら弾幕ごっこでして頂戴。尤も、今の貴方じゃ満足に私と戦えそうもないけれど」

まったくもってその通りである。恐らく、二つの意味で。彼女の顔に面の如く貼り付いた笑顔は、その奥に幽かな、獣のような獰猛さを湛えていて、俺はただ引き吊った笑みを浮かべるしかなかった。

 

 「それでは、改めて自己紹介といこうか」

今、俺の病室には自分を含め5人の人物が居る。先の銀髪の女性、黒髪の日本人形のような――実は実物を見たことは一度もない――少女、そしていわゆる『ウサ耳』の付いた二人の少女。ウサ耳少女の内ブレザーを着た一人は背が高く、ウサ耳も長い。薄桃色のワンピース姿の一人は、三日前俺が急襲された金髪と同じくらいで、あまり背は高くないし、ウサ耳はロップイヤーよろしく垂れている。

 傷が完全に塞がるまで、これから今日を含めて4日間、俺は永遠亭にて療養することとなった。そこで、俺は今こうして自己紹介を行うこととした。

 約15分前に自宅に帰った幽香は、俺がしたのと大体同じ説明をしてくれたようで、稚拙で長ったらしく俺が喋る必要はなくなった。本当に頭の下がる思いだ。

 「俺の名は四島小櫃。元フリーランスのバウンティハンターで、インフィニタスだ」

俺から始まった自己紹介を引き継いだのは、俺の見立て通り銀髪だった。

「私は八意永琳。ここ永遠亭で、薬師兼医師をやっているわ」

「…ふむ、まずは安心した」

「あら、どうして?」

「知り合い、勿論元の世界のだが、その中の一人に女医がいてな。腕は確かなんだが、目付きが壊滅的に悪い上に口調も性格も男っぽいせいで、患者からの受けが良くないんだ。幻想郷(ここ)の医者はそんな心配はなさそうだと思ってな」

「あらあら、それは大変な医師ねえ」

笑うだろうと思った。ざまあみろ、熊谷のどか。少しは改善する努力をするんだな。

 永琳がひとしきり笑った後、自己紹介は黒髪の少女に移った。

「私は蓬莱山輝夜。永遠亭の主のようなものよ」

輝夜、という名前であることを思い出した。かの有名な竹取物語に於いて、月の使者がかぐや姫を迎えに来るシーンがあったが、そこで護衛をしていた兵士達が動けなくなる描写について、大袈裟なSF的解釈――師匠曰く「それは妄想と言う」――をしたことがある。

「…どうかした?」

「おっと、顔に出ていたか。いや何、輝夜と言う名前を聞いて、竹取物語の描写について大袈裟なSF的解釈をしていた時期があったのを思い出しただけさ」

「そ、そうなの…」

心なしか、輝夜と永琳の顔が青い気がする。バイオエナジーの流動パターンは、その話題について心当たりがあるのを明確に示している。どういうことだ?

 さらにその二人を観察するうち、とんでもないことに気が付いた。

「…全身が全能性幹細胞だと!? プラナリアか貴様らは!?」

思わず口を吐いた俺の突発的発言に、

「え?え?」

輝夜は混乱し、

「……」

永琳は「やられた!」といった表情で頭をかかえ、

「あちゃー…」

ブレザーは渋い顔をし、

「ごめん、全然わかんない」

ロップイヤーは『全能性幹細胞』が何だかわかっていなかったらしく、素直に疑問を口にしている。

 三者三様ならぬ、四者四様。

 プラナリアは、綺麗な川や池の石の下などに生息する扁形動物で、多細胞生物でありながら単細胞生物顔負けの恐るべき再生能力を持っている。例えば、体を3つに切断されたとしても、そのそれぞれが再生して新しいプラナリアになる。これを可能にしているのが、『全能性幹細胞』という、体を構成するあらゆる器官の細胞に分化可能な細胞だ。

 約1世紀前――ということは、今の幻想郷の外の世界ということになるだろうが――に開発されたIPS細胞はこの一種で、体の欠損部位の再生に用いる為のものだったらしいが、俺のいた世界では、そういったことはむしろサイボーグ医療の方が主流だった。IPS細胞は癌化する危険性があり、そのリスク回避の為にもサイボーグ化はうってつけだったという。実際、俺の周囲にもサイボーグ手術を受けた者は何人もいる。

 閑話休題。

 永琳と輝夜は、プラナリアと同じく全身が全能性幹細胞で構成されているのだ。一体どんな遺伝子操作をすればそんな馬鹿げたことが起こりうるのか。

「…小櫃、貴方にはちゃんと話した方が良さそうね」

おもむろに、永琳がこちらに向き直り、切り出した。

「竹取物語で、かぐや姫が不老不死の薬を渡す場面があったわね?」

「あ、ああ…」

「その薬…蓬莱の薬という劇薬なのだけれど、それは私が作ったの」

「…つまり、それはお前達二人が月の住人だったと、そう言いたいのか?」

「正確には三人よ。そこにいるてゐ以外は、永遠亭の住人は皆月の住人」

「…いよいよ謎が解けてきたな。蓬莱の薬を飲んで不老不死になったなら、竹取物語の時代からずっと生きていてもおかしくはない。かの有名なかぐや姫がなぜここにいるのか、そして永琳はなぜ輝夜と一緒にいるのかということについては、余計な詮索はしないでおこう」

そろそろ、思考回路を幻想郷に合わせて変えた方が良さそうだ。いつまでも向こうの常識に頼るわけにはいかない。()に入りては()に従え。これはいかに。

 「…あ、そうですね私ですね、鈴仙・優曇華院・イナバです。宜しくお願いします」

例のブレザーが、話の流れを元に戻そうと自己紹介をする。やたら長い名前だが、自分の知り合いにも負けず劣らず長い名前の者がいた気がする。正直な話、ちゃんと覚えていない。今回は忘れないようにしよう。

「さっき永琳の方で名前が出たけど自己紹介。私は因幡てゐ。迷いの竹林の主さ」

続けてロップイヤー。因幡という名前にまたしても反応しそうになったが、もうこれ以上無駄な話をさせるべきではないと判断し、顔には出さないようにした。

「では、これから4日間、宜しく頼もう」

言って、深くお辞儀をする。

 幻想郷に来てまだ3日。俺は、この世界に何としても順応せねばならない。強い者が勝つのでも、賢い者が勝つのでもない。変化に適応し変わることができる者が勝つのだ。

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