東方無限者 〜the Infinitous's Second Life.   作:影のビツケンヌ

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ようやっと更新。
実際に南千住駅付近の住宅街を回って参考にしています。


状況

 『回転と流動を操る程度の能力』。それが春夏冬海生の能力だという。

 その名の通り、物体や物質、概念の回転と流動を操ることができる。彼は周囲の気の流れを敏感に察知し、視覚に頼らずとも俺を発見できたのだ。

 しかし彼の能力の真価が発揮されるのは、時間の流れを操った時である。

 紅魔館のメイド長・十六夜咲夜と同じ時間の加減速、停止だけでなく、逆行が可能。多世界解釈の理論に則り世界線を分岐・統合・移動させることもできる。トンネルエフェクトによって生み出されるあらゆる可能性から、自分に都合のいいものを選び取って生きることができる、ということだ。

 彼は能力を用いて、あらゆる世界線を旅してきた。文明の発達しない世界、魔法が科学に成り代わり生活の基盤となる世界、有毒ガスに覆われた地表を避け高空に浮遊する都市に人々が住まう世界、核戦争で人類が滅亡した世界――その為彼は見かけによらず恐ろしく長生きしており、曰く「あと数日もすれば地球より年上になる」。その旅の目的は、時間軸そのものを操る自身の能力を、他者が部分的に再現できるようにすること、そしてそれを実現するべく、『確率事象の断片(Piece of Probability Phenomennon)』、即ちPPP(ピースリー)なるものを集めることだ。それを今までの世界で得た異端技術の知識で以って解析・演算し、特定の時間軸の可能性を記憶演算処理するアイテムを生み出せば、それまでの行動を保存したまま、過去に遡って、行けなかった場所に行き、会えなかった者に会うことができると、彼は説明した。

 だが、世界線を移動してそれを集める過程で、バタフライエフェクトによって全く無関係な人物が移動先の世界に迷い込むことがあるらしく。

 それが、今俺と鈴仙が置かれた状況だ。

 「とんだとばっちりだな」

「どうしてくれるんですか」

「…返す言葉もございません」

茶碗を持ったまま項垂れる海生。米が髪に着くのではと余計な心配をしたくなる。

 ここまでの説明は、テーブルを囲み朝食を摂りながら、海生が一人でしてくれたものだ。この世界線には幻想郷が存在しない為、海生は半年以上はかけて俺と鈴仙の世界線を絞り込む必要がある。

「帰れる算段はあるんだろうな?」

「僕にできるのは君達に世界線を渡らせて、幻想郷に行ける流れを作るだけ。後は野となれ山となれだい…はいごめんなさいそれホントに堪えるので止めて下さい」

指向性バイオフィールドの発生は、最近は怒ると無意識に行なうようになっている。半妖の海生にも効果は絶大だ。

「…俺や鈴仙を拾って看てくれたのには感謝しているが、こちとら巻き込まれた側だ。利用できるものは利用させて貰うぞ」

「観光の手伝いならするよ。貯金なら第三次世界大戦を起こせる位はある。自慢じゃないけど、僕の家は大富豪でね」

 

 それが、丁度二日前の話。海生に促され、今俺と鈴仙は徒歩で駅前まで繰り出している。彼が雇っている妖怪の家政婦、エリザベス・ジャクソン――ベスの買い物の付き添いだ。

「……」

「小櫃? どうしたの?」

「…いや、何でもない」

 幻想郷に残してきた道場の生徒達が気がかりだ。電動義手が完成し左腕が使えるようになれば、俺は彼らの修行に共に参加できるし、彼らもまたそれを心待ちにしている。師範の不在を、彼らの保護者達はどう受け止めるのか。海生に回帰手段を任せきりなのは実にもどかしい。

 悶々とした思考を力ずくで抑え込み、気を紛らわす為周囲に目を向けた。

 海生の自宅から駅までおよそ200m程度の一本道。車通りはそれ程多くない、閑静な住宅街である。その光景は、俺にコーカサスホッカノン地区のアジア人街下町を彷彿とさせた。そこは犯罪率の高過ぎるコーカサス内でも比較的ましな部類で、そこでの依頼は多くなかった。

 ちなみに最も依頼が多かったのは、渋谷とニューヨークの中間のような景観を持ち、地形と風向きの関係で空気が悪いダーカーク地区で、俺の感知しないところで常に何十人も死んでいた。

 閑話休題。

 ここには、コーカサスとは決定的に異なる点が幾つかある。中学校までの義務教育、銃刀法、バウンティハンターの不在、そして何より、

「――エラーがいない」

 エラー。それは、俺が幻想入りする原因にもなった謎の存在だ。

 2115年に初めてコーカサスのダーカーク地区に現れ、その後コーカサス各地で多くの犠牲者を出し続ける正体不明の生命体。白い蛇のような形態で空間を切り裂いて別次元から湧出、周囲の無機物を摂食・吸収してその形質を様々に変異させ、暴虐の限りを尽くす。体表に纏った真っ白な鱗は元素周期表にない未確認の物質で構成され、直径は0.0001mm、厚さ0.1nmしかないのにも関わらず、既存のあらゆる兵器を無効化してしまう。

 急遽設立されたエラー対策本部の研究の結果、エラーの鱗はバイオエナジーを容易に透過する上、生物の角質やエナメル質に触れるとそれを触媒として急速に酸化し性質を失う欠陥があると判明する。コーカサスでは右に出る者のいないマッドサイエンティストであるリディアは遺伝子工学とバイオエナジーの取り扱い技術を用いた対エラー用最終兵器『バイオドライブ』を2124年に完成、その一号機である『Nychus』を弟のアルカに装備させ、2129年、対策本部に公開された基礎任務(ベーシスミッション)でその有用性をアピール。バイオエナジーの取り扱い技術を頑なに秘匿し続けたハルベルトも、昔からの付き合いだったリディアからの頼みで、幾つかの条件――自分の会社の研究員を一人開発に噛ませるなど――を呑ませた上でそれらを対策本部に公開した。かくして同年5月1日、アルカの他に装着者(バイオドライバー)となることを志願した5人と、俺の義弟の内3人で『エラー対策本部第26号独立機動小隊』、通称『Bio Force』が結成され、政府の要請を受けた俺もその3ヶ月後に入隊、隊長に推薦された。

 そして11月14日。いつものように隊員達とエラーの駆除に出動した時。

 俺は、エラーに殺された。

 強烈な尻尾の一撃で地面に打ち付けられ、踏み潰されたその瞬間は、未だ脳裏に焼き付いて離れない。エラーに殺された者達は、こんな感じだったのだろうか――そんな風に、やけに俯瞰していたのを覚えている。

 「……!」

「ちょっ、大丈夫?」

足元の僅かな段差に気付かず、危うく転倒しかけた。しまった、周囲に目を向けるつもりが、また思考が飛躍している。

「ああ、…問題ない」

「本当に?」

「体調が優れないのでしたら、お帰りになられますか?」

こちらの顔を、鈴仙が不安げに覗き込んでくる。少し先を歩いていたベスも駆け寄ってきた。

「…どちらかというと、この状況の方が問題だな」

「?」

「は?」

 想像してみて欲しい。銀白色の円筒形の何かを持った片腕の男が、薄紫色の髪でウサ耳を生やした女子高生、そして白髪のメイドを侍らせている様を。目を惹かない方がおかしいだろう。耳が自前で服はいつも通りの鈴仙はともかく、ベスは何故コスプレなどしているのか。井戸端会議をしている輩がこちらを見てヒソヒソ何か言い合っているのを、俺は見逃さない。

 拾われたはいいが、正直それでも先が思いやられる。




お知らせです。
これからしばらく第3章の更新を中断し、余章に話を追加していこうと思います。
第4章の構想を練る上でどうしても書かねばならないところがありまして…

また、同時に今まで書いてきた章の見直し、修正も進行させます。
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