東方無限者 〜the Infinitous's Second Life.   作:影のビツケンヌ

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ようやく第3章更新。
とある武勇伝コピペをモデルにした話です。


呵責

 体調を崩している間は自分のことに精一杯で全く目に入らなかったから、駅前の景観が妙に新鮮に映る。流石にダーカーク地区程ではないが、幻想郷にないコンクリート製の建物が幾つも立ち並ぶ様は、どういう訳か感慨深いものがあった。

 俺がいない間にこの周辺を廻っていたのか、鈴仙は勝手知ったる様子でベスに着いて行く。…別に彼女の驚く顔が見たかったとかではない。

 つくばエクスプレスとJR常磐線の改札がある高架下の道を抜けて、東京メトロ日比谷線の高架との間にある小さなフードマーケットにやって来た。

「欲しいものがあれば、私にお申し付けくださいませ」

ベスはそれだけを俺と鈴仙に伝えると、買い物籠を載せたショッピングカートを押して店の奥へ消えていく。

「…随分口数が少ないんだな、あの家政婦は」

「確かに、あの人は必要最低限のこと以外はあまり言わないけど…でも気が利くのよ? さりげなくお菓子やお茶を用意してくれたりするし、掃除も手際がいいし。見習いたいなあ」

「家政婦というより、寡黙なメイドだな。そう考えるとあのコスプレも板に付いている」

「幻想郷に来て紅魔館で働いた方がいいんじゃない? あれでも妖怪なんだし」

「ハハハ、違いない」

結局欲しいものもすることもなく、邪魔にならない場所で二人駄弁っていた。

 妖怪で思い出したが、俺は幻想郷の外、それもこんなに開発の進んだ場所に人外が棲んでいようとは思いもしなかった。ベスが何の妖怪かは聞いていないが、やはりここの生活に適応したものなのだろうか。それならば幻想入りしないのも頷ける。幻想となったものを引き込む役割を果たす『幻と実体の結界』は、外の世界で十分に適応しているものは誘引しにくい。

 ところであの半妖――春夏冬海生は一体何者なのか。惑星レベルで長寿なようだが、ベスもその辺の素性は知らない風だ。バイオエナジーを視たところ、身体構造に吸血鬼のものと類似する特徴が見られたが、あの耳と尻尾は明らかに別の妖怪のもので説明がつかぬ。

 …気に入らない。

 海生がいけ好かないとか、そういうものではない。むしろ見ず知らずの俺達二人を拾ってくれたことには感謝している。俺の性格や価値観の問題だ。付き合った相手、初めて手にした物、目の前で起こった事象、何でも『理解』したがる。知りたがる。どうやってでも解釈してわからないと、どうももやもやとした、納得のいかない気分になるのだ。幻想郷から解放された今、俺の悪癖は復活しつつあった。

 「…それでね、ベスさんったら書斎の小説を…」

そして自分の変化に少々呆れながら、いつもより心なしかテンションの高い鈴仙の話に相槌を打っていると、

「いぇーーーーーーーい!」

直後、子供のけたたましい黄色い声が、さして面積もないフードマーケット中に反響した。

 脳内でその発生源を割り出しそちらを見やると、…何と言えばいいのか。二段式ショッピングカートの下部に片足を乗せ、もう片足で以って床をキックスクーターよろしく蹴って走り回る、『カート暴走族』――どちらかといえば、『暴走族』よりも『珍走団』の方が適切かもしれない――とでも形容すべき、おおよそ8歳程度の子供が爆走していた。

 迷惑甚だしい。親はどこだ。

 そう考えて、視線を店内のそこかしこに巡らせたのも束の間、カートを乗り回す子供は「どーーーーーーーーん!」と叫び、同時に俺と鈴仙の左手側に狙いを定め全速力で突撃していく。標的にされたのは――

 俺から2mと離れていない場所でキムチを選んでいる妊婦だった。

 考えるより先に体が動いていた。

 アームキャノンを捨てて短距離を瞬時に加速、眼前を通り過ぎんとするカートの下部前方に向けてスライディングし、掠らせるように蹴撃を見舞う。ベクトルを狂わされたカートは回転しながら商品棚に突っ込み、乗っていた傍若無人で愚かな餓鬼が振り落とされる。反対側の商品棚に餓鬼が衝突すると、その上に、陳列されていたレトルトおでんやパック詰めのうどんの山が崩れて降り注いだ。

 何が起こったのかわからないといった表情で硬直する鈴仙。唖然とする妊婦。唯事ではないと判断した店員が駆け寄ってくるが、そんなものは俺の眼中にない。俺はやや大股に2歩歩み、未だ自分の置かれた状況を把握し切れていない餓鬼の胸倉を片手で(両腕が揃っていればどんなに良かったか)掴み上げた。そして抵抗する小柄な身体に構わず問う。

「何をしようとした?」

餓鬼は答えない。

「何故こんな真似をした! 言え!!」

発生させていたバイオフィールドに指向性を持たせ、バイオエナジーの濃度を高める。溢れて抑えられぬ憤怒に顔を歪ませ、生まれつきハイライトのない赤い目で睨み付けて脅した。餓鬼はすくみ上がり、失禁して、

「ぱーんてなるっておもったんだもーーーーーーーーーーーーーん!!」

盛大に号泣し始めた。

 恐ろしいことにこの傍迷惑な餓鬼は、妊婦の腹にカートで以って高速で体当たりを決行、破裂させるつもりだったのだ。

 うちの子に何するの! と母親らしき女が現れヒステリックな声を上げるが、今は無視を決め込み、尚も餓鬼に怒声を浴びせかけた。

 「貴様はその行為で、新たな命を母親諸共消そうというのか! そうなれば貴様は犯罪者だ!! 俺の目の届くところでそんなことをしてみろ、女子供と容赦はせんぞこの世間の穀潰しが!!」

激情に任せて激しく罵った後、俺はすぐ近くまで来ていた母親へ餓鬼を放った。そして母親に対しても牙を剥く。

「これ以上大事にされたくないなら、ここを立ち去れ。母子共々、二度とその面見せるな!」

 憎々しげにこちらを睨み付けたその20代後半と思われる女は、カートは置き去りのまま、我が子を抱えて遁走していく。店内に流れる音楽以外に聞こえたのは、あの餓鬼の泣き叫ぶ声がドップラー効果で少し低くなったもののみであった。

 

 「すまなかった」

フードマーケットに隣接する形で建っている、大手ファストフードチェーン店――コーカサスでも人気の高かった『マクドナルド』の店内。席に座り、俺は向かいの二人に頭を下げた。

「あ、謝ることないわよ。私も、あの親子ちょっと嫌な感じだと思ったし…」

「小櫃さんが怒るのも無理はありません」

「……」

 俺はどうあっても、悪意やそれによって行なわれることが許せないのだ。たとえ自分の家族、友人であろうと変わらない。その矛先が罪無き者に向けられ平和が(おびや)かされるのならば、俺は己の全てを賭けて悪を滅ぼす。場合によっては、その者の未来を奪い去ってでも…

 だが今回、俺は自らの信念のせいで、鈴仙とベスに多大な迷惑をかけてしまった。もっと穏便なやり方があったはずだ。こればかりは、謝らねばならぬ。

 久し振りに食べたチキンフィレオは、マスタードソースが多くて、辛さ4割増しだった。ざまあみろと、良心が鼻を鳴らした気がした。




今年最後の更新。
来年もよろしくお願いします。
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