東方無限者 〜the Infinitous's Second Life. 作:影のビツケンヌ
小櫃みたいになれたらいい、いつもそう思っています。
ですが、あくまで人としての理想像であり、自分は彼のような生き方ができる自信はありません。
闇は、光と対を為すものではない。
闇の中で光が輝くことで、光の届く範囲でのみ闇は消える。光と対を為すのは、むしろ影の方だ。
今俺がいる場所に、光は存在しない。にも関わらず、俺の体は闇の中でくっきりと浮かび上がっている。既視感を感じるのは、幻想入りしてすぐの頃に見た
そうだ、これは夢。
「ああ、ちょっと待ってくれ。まだ目覚めるには早い」
後方からの海生の声。振り向くと、青く発光する1m四方のパネルを床の上で(ここでは床さえ不明瞭だが)操作していた。
「君に見せたいものがあるんだ」
パネルの上に浮かび上がるキーボードの文字は、古代エジプトの象形文字も裸足で逃げ出しそうな謎の記号だった。キーボードを淀みなく叩く手を見つめていると、「これは古代チョウゾ文字だよ」と海生は言った。恐ろしいことに、彼はコスモ歴、メトロイドの世界にまで行ったことがあるらしい。世界線を弄り、各世界からオーバーテクノロジーや異端技術を掻き集めた海生に不可能などない。今こうして俺の夢に干渉しているのも、それらを利用してのことなのだろう。
「よし、準備完了だ」
目の前の虚空に、一本の白い線が現れる。それはこちらに向けて伸びながら無数に枝分かれし、くっつき合いながら、全体として巨大な樹木の様相を呈していく。
「海生、これは?」
「世界線が分岐していく様子を模式化したものだよ。可能性の数だけ世界は分岐し、影響の少ないもの同士は統合され、やがていくつかの
俺の質問に海生が答えるその間にも、白線は驚異的な速度で拡散していく。静かな闇の中、白い光は幻想的に浮かび上がる。
「ここを見てくれ」
海生がスーツのポケットから取り出したのは、ボールペン型のレーザーポインター。スイッチを入れ、赤い光点で指し示す先には、一つの世界線を表す白線があった。白線は拡大され、そこからPCのポップアップウィンドウのようなものが飛び出してくる。
「…これは」
ウィンドウに映し出されたのは、俺が幻想郷の幽香の自宅で目覚めた時の映像だった。丁度幽香が幻想郷のあれこれを俺にレクチャーしている。
「ここからおよそ2ヶ月時間を進めるだけで、君の未来は数十種類に分岐している」
時の流れを表現しているのか、ウィンドウは明後日の方向に消え、代わりに大量の別のウィンドウが反対側からやってきた。その一つを手に取ると、人里でホットドッグを買っている俺の姿。別のウィンドウを手に取ると、魔法の森上空に浮かぶ巨大な空中要塞に飛んでいく、俺、鈴仙、素子と、見知らぬ少年。
「そうそれ、今持ってるでしょ? その世界線では、君は異変とかじゃなく、命を賭けてテロを止める。そして、そこでは君はエリオットとは戦わない。吸血鬼の予言はものの見事に外れるんだ」
エリオットと戦わない。それを聞いた俺は、無意識にそのウィンドウをまじまじと眺めていた。しかし海生の言葉はそれを阻害する。
「でもどの世界線でも共通しているのはね、…小櫃君、君は戦いの運命から逃れられないんだ」
戦いの運命から逃れられない。普段の振る舞いからは考えられない、真面目な顔の彼の口が紡いだその句が、頭の中で木霊する。
「悪いけど、君について色々調べさせてもらったよ。君の信条は『悪を砕き、邪を退け、不条理に食らい付く』だったね?」
「その通りだ」
「君の道は
「『時代が変わっても変わらない人としての当たり前を生きろ』。俺の師匠の言葉だ。俺は今までこれが正しく当たり前のものだとして生きてきた。変えるつもりはない。そうしていれば、俺のこの文化的遺伝子——
何だ、呼び出しておいてこれか。俺のことを調べたと言ったそばから、海生はわかりきったことばかり尋ねてくるではないか。
「それが、君の生きる理由?」
「生きることに理由はない。生きることは、この世に生を受けた者の義務だ。生きる上で何をするか、それが問題だ」
こんな問答に付き合っていられない。俺は彼に背を向けて歩き出す。
「あ、おい!」
呼び止める声も上の空。俺には至極どうでもよかった。
「…小櫃君! 自然界には、限度を超えた殺戮は存在しない。でも、君は違う! 君の正義にゴールはない。どこまで行っても、幾つ屍を乗り越えようとも、終わりのない戦い、終わりのない殺戮だ」
次の台詞が、背中に突き刺さるまでは。
「本当は、…本当は君もわかっているんじゃないのか?!」
言葉に抉られた。
一人の努力で、全ての悪を根絶することはできない。たとえその一人の尽力で一度悪が滅びようと、すぐに第2、第3の悪が現れて平和が乱される。全ての人類が真に正義の道を歩む努力をしなければ、この世に悪は絶えず、恒久的平和は訪れない。
海生の言うことは、始めから理解していた。だが、納得はできていないのだ。
結局俺は独りで戦い続けるワンマンアーミー。負けを認めたくないが故に、先の見えない闘争を繰り広げる、子供のような精神性。相手だけでなく、この姿を見た誰かに、自己の正当性を訴えかける。
今ここで、彼にも。
「…別の世界で生きて会えたなら、俺の見つけた答えを教えてやる!」
歩みを止めて、振り返り言い放った。声が暗黒の中に反響すると、次第に、夢の中での意識が薄れていく。
俺は、俺の闘争を続けさせて貰う。幼く意地を張りながら、深い眠りに落ちた。
元々、小櫃の原形となったキャラクターは小学五年生の頃には完成していました。
自由帳に描いた棒人間のマンガの主人公で、自分をモデルにしていたので、多分当時の性格や言動は今とは大分違います。
設定をあれこれ追加・修正していくうちに、自分との共通点はどんどん減り、「ああもうこれ自分じゃないな、一つのキャラとして成り立ってるわ」って思った時から更にヒートアップ、今やその名残りは小櫃の好物程度です(小櫃の好物は魚介類、特にネギトロで、食べ物の好き嫌いも自分と同じ)。w