東方無限者 〜the Infinitous's Second Life.   作:影のビツケンヌ

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無限者、鳥人族、孤戦漢に関する扱いが決定致しました。
無限者は今回の話で一度完結とし、孤戦漢をメインに執筆、鳥人族をその合間にチマチマ書いていくことにします。


大急ぎで完成させて自分としては今回やっつけ感が否めませんが、その辺は次回作で挽回します!


帰還

 「いやー、まさか分霊が小櫃達を見つけるなんて思わなかった」

俺と鈴仙の前でからからと笑う少女は、守矢神社の神の一柱、洩矢諏訪子。発見したのは、葛西用水路沿いの道を北に行った先にある市立図書館隣の神社だったが、今俺達がいるのは幻想郷、それも妖怪の山は守矢神社だ。

 日本の神道に於ける神の大きな特徴として、神が宿る場所さえあれば幾らでも分裂させられる、というのがある。それがいわゆる『分霊』で、分かれても性質は衰えず、例えば諏訪子がしていたように、外の世界に分霊を置いておくことができるのである。

 諏訪子に神社から幻想郷(こちら)に転送して貰った時、ようやく海生の伝言の意味が理解できた。

 「手間をかけさせたな」

「いーのいーの、早くお仲間に元気な顔見せてあげなさい!」

「ありがとうございました」

 二人で諏訪子に礼を言い、境内の石畳を蹴る。久し振りの飛行、久し振りの空だ。すっかり体が鈍ってしまって、あまりスピードを出せない。とはいえ、こうしてここに戻ってこれたことで、この世界こそ自分の第二の人生を送るに相応しい、謂わば『魂の故郷』なのかもしれない、そう改めて実感した。

 

 その後、年の暮れから道場の門下生となっていた素子とルーミア、氷の妖精チルノが、俺のいない間に大きく成長していて開いた口が塞がらなかった。比喩などではない。10歳程度か、良くて14歳程度だった三人の肉体年齢は、何と16から18歳レベルまで急成長していたのである。

 一体何事か本人達に問い質すと、

「プラズマビームです」

「グラップリングビーム、グラップリングスイング、グラップリングボルテージ」

「アイスビームだよ」

と、支離滅裂な応答をされた。素子、ルーミア、チルノの順だ。本当に訳が分からない。コスモ暦からチョウゾでもタイムスリップしたのだろうか? とか思っているうちに迷いの竹林奥地で鳥人族遺跡を発見して卒倒しかけた。

 海生も大概だが、幻想郷も幻想郷で空恐ろしいものだ。

 そして、数日後。

 「どう気分は?」

「悪くはない、全身麻酔で熟睡させて貰った。独りで寝るには勿体無い」

「それは良かったわ」

「今のを皮肉と受け取らないか、意外と図太い奴だな永琳」

 素子とにとり(とタイムスリップしてきたらしいチョウゾ)が作った筋電義手の取り付けが、永琳の手で行なわれた。インフィニタスとしての体質上麻酔の効きにくい俺に対して、永琳が丼勘定で麻酔を打ち込んだせいで、手術後もしばらく身動きできない状態になってしまったが。

 開発コードFH-1。神話に登場する名称とアルファベット2文字、ハイフンを挟んで数字を入れるコーカサスでの慣習に倣い、『イシュタルFV-0』と名付けた。外の世界での一般的な義手と異なり、俺に取り付けられたこれは身体と完全に融合させてしまう為サイボーグに近い。切断された際に体内に残っていた上腕骨を取り除き、タンタル製人工骨格を用いた義手を腱と神経系に繋ぎ合わせた後、血管や神経組織を張り巡らせた培養皮膚で全体を覆い隠す。お陰でコーカサスでのサイボーグとは一線を画した大分有機的な見た目を維持できている。メンテナンスは行なわなくていいそうだ。

 またこの義手は、着用者が使用を続けることで、内蔵された人工知能の働きで出力が最適化され、およそ1ヶ月もあれば普通の腕と変わらなくなるらしい。必要とあらば機械らしく並外れたパワーを発揮できるようにもなるという。逆に言えば、それまでは上手く扱う為に訓練(リハビリ)が必要ということなのだが…

 「それはそうと、永琳」

「どうかした?」

永琳に聞きそびれたことがあった。海生の話していたことが事実なら、『攻撃的で、邪悪で、行動が予測できず、他の全ての生物に敵意を持ち、人を楽しませることなどできず、サディストで、他者の意見に全く無関心』だった頃の話が聞けるかもしれない、そんな極々軽い気持ちで、布団の中から彼女に問うた。

「春夏冬海生という奴を知っているか?」

答はすぐに返ってきた。

「知らないわよ?」

 知らないわよ。

 しらないわよ。

 シラナイワヨ。

 違和感と同時に、衝撃が走った。

 「…いや、そんなまさか。顔見知りだと聞いたが」

「いいえ、遇ったことも聞いたこともない。外の世界で世話にでもなったの?」

 嘘だ。海生は確かに『俺のいる世界の』永琳の話をしていたはず。こんな返答をする訳がない。偽者?

 だが眼前の女のバイオエナジーの流動パターンは明らかに永琳本人、平時の流れ方をしている。

 では記憶を弄られた? だがそんなことをすれば、バイオエナジーに痕跡がありありと残るものだ。ならばあの話は虚構のものだったのか?

 いや、海生は虚偽の発言はしていなかったし、そもそも嘘を吐くような人間ではない。だとすれば、…

 『この』永琳は、初めから(海生)を知らないのか…?!

 

 麻酔が切れてからの鈴仙との独自調査、及び確認でも彼との接点は見当たらず、八意永琳が春夏冬海生と面識のないこと、それ以前に、春夏冬海生という人物の存在の不確実性が証明されてしまった。

 月人と吸血鬼と鎌鼬と地上人の混血という話だったが、まず月人が地上の存在とコンタクトを持つような記録がないらしい。およそ1000年前に妖怪が攻めてきたことがあったが、月の住民はそれも全て返り討ちにしている(思い出せばこの件は、幻想郷縁起の紫の頁に『幻想月面戦争騒動』の名で記載されていた)。鈴仙が能力を用いて月にいるかつての同僚と連絡をとったが、永琳ら以外に地上に降りた者の情報もないそうだ。

 そもそも、彼程強大な力を持った――大富豪を名乗るだけあって経済的な意味でも――者がいるのなら、妖怪界隈で何かしらの記録があっても不思議はない。だというのに、人里、紅魔館、妖怪の山、迷いの竹林、中有の道、旧都、冥界、どこで誰に尋ねても、春夏冬の『あ』の字も出てこないのだ。幻想郷の中では最近入ってきた部類に入る妖怪狸・二ツ岩マミゾウも、彼を知らないと言う。

 俺はとんと参ってしまった。つい十日程前まで同居していた恩人が、ここに来て急にその輪郭を失いつつある。縁側でハッカを吸っても気分は晴れない。初夏の空の晴れやかさが、俺にはむしろ空しく感じられる。

「小櫃」

何かを伝えた気に、鈴仙が近寄ってきた。その手にはひどく小さく折られたコピー用紙が握られている。

「それは?」

「さっき気付いたんだけど、私のブレザーの内ポケットの中から出てきて…多分、春夏冬さんからだと思う」

「海生からだと? 中身は?」

「まだ見てない」

ブレザーの内ポケットから発見されたという謎のコピー用紙。鈴仙が見守る隣で、俺は慎重に幾重にも折られたそれを開いていく。

「…!」

 その奥に隠されていたのは、大層薄い字で書かれた手紙だった。

 

小櫃君、鈴仙君へ

 これを君達二人が読んでいるということは、僕の思惑通り事が進んだみたいだね。

 きっと小櫃君は、永琳が僕を知らないことに激しく動揺しただろう。そして君のことだから、色んな所へ僕のことを尋ねて廻ったに違いない。どこに行っても結果は同じだったろうけどね。

 悪いけど、君達二人が行く世界線を変更させて貰った。歴史から僕が抹消された世界に。

 何故そんなことをしたのか説明する前に、まずは僕の言い訳を聞いて欲しい。

 今から4億年前、地球に生命が誕生した頃、宇宙から一つの隕石が飛来し、それに乗って一つの生命体が降り立った。地球由来でない、外宇宙の生命体だ。

 地球に生命が誕生する遥か以前から、身一つで数多の星々を旅し、自らの遺伝子を刻んできた種。

 テロメアを延長しながらの超高速の体細胞分裂とアポトーシスで、身体構造を一瞬のうちに作り変え、遺伝子配列を己の意思で自由に組み替えて、あらゆる環境に適応する。

 歯向かう者はどこにもいない。全宇宙の生態系の頂点に君臨する、最強の生命体。究極にして無限のもの。

 Ultimate and Infinite Bioform――ユーブ(UIB)。またの名を、バイオプライム(Bio Prime)。…小櫃君は、この単語を知っているはずだ。

 そう、理論上インフィニタスが最終的に辿り着くとされるバイオプライムは、元は地球外生命体なんだ。バイオプライムが地球の生物と交尾を行なうことで組み込まれた遺伝子が、隔世遺伝で発現し、インフィニタスとなり、その能力を全て極めた者がバイオプライム――ユーブになるんだ。ユーブは勿論、バイオエナジーを操る力を持っていることになる。上に書いた自由変態能力も、バイオエナジーが密接に関わっている。

 話を戻そう。ユーブは持ち前の環境適応能力で、地球生命種に混じって生活し、ペルム紀までを生きた。そんな時、見たこともない生き物に遭遇する。

 月に移住する前の月人だ。

 ここで二人とも、おかしいと思っただろう。月人も地上人と同じ哺乳類だ。ペルム紀にはまだ哺乳類は現れていない。

 この月人は、大規模な世界線移動で迷い込んできたんだ。それも、僕のせいで。

 僕がまだ生まれたばかりで、能力をうまく制御できていなかった頃、僕は面白半分に世界線を繋げ、分岐させていた。その結果がこれだ。全く関係のない世界線から、巨大な都市が丸ごとペルム紀にタイムスリップしてしまった。

 無論彼らも馬鹿じゃない。すぐに対策が練られ、周辺の調査が行なわれた。その過程で、当時起ころうとしていたスーパーホットプルームの活動を予感して休眠状態に入ったばかりのユーブも捕らえられた。

 ユーブが目覚めたのは十数年後、月人が地上の穢れを嫌い月に移住した、つまり『月人になった』頃だ。ユーブの持つ様々な特性は、多様な薬剤を作るのに最適と判断されて、ユーブは地球を挟んで月の反対側にある研究用スペースコロニーに収容されていたんだ。

 人間と同じ知能を持つユーブは、研究員との係わり合いで言語を習得し、積極的にコミュニケーションを図るようになった。そして今から6500万年前、月人の移住の理由を知った。

 ユーブは激怒した。

 …太宰治みたいでごめん、でも理由はよく分からないんだ。「月人は生きることを辞めた」って言っていたみたいだけど、詳しいことは分からない。とにかくユーブは激昂して研究員を抹殺し、シェイバーハンドでワームホールを展開して月の都に乗り込み、暴虐の限りを尽くした。月人は地球に巨大隕石が衝突するのを見計らって、ユーブを罠にかけて地上に墜とし、永い眠りにつかせることには成功したけど、この戦いで多くの犠牲者を出してる。

 永琳が地上に降りた頃に荒れていたのは、ひとえにこのユーブの襲撃が理由なんだ。月人以外の生き物を激しく嫌っていた。つまり僕が月人をタイムスリップさせなければ、彼女が荒むようなことはなかったんだ。

 肝心の行き先になる世界線を変更した理由だけど、答えは簡単。君が僕のことを話せば、永琳がまた昔に逆戻りするかもしれないから。他にも幾つかの()()()を絞らせて貰った。黙っていて悪かった。…ごめんなさい。

 それでも、僕がいないこと以外は、君達には何ら影響はないことを保証しよう。これは吸血鬼としての約束だ。悪魔の契約は絶対だからね。

 最後に、短い間だったけど、楽しい同居生活を送れたことにお礼を言いたい。

 ありがとう。

春夏冬海生より

P.S. 小櫃君には、今後僕の発明のテストに付き合って貰うかもしれない。その場合も安全は保証するよ。




とりあえず、この作品に一度区切りを付けることができました。
なろうで書いた番外編鋼鉄雲に続き完結作品は二作目になります(本当は孤戦漢を書かないと終わらないけど)。



次回、『東方孤戦漢 ~Replacing and Revolution of Bioenergy.』、乞うご期待!
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