東方無限者 〜the Infinitous's Second Life. 作:影のビツケンヌ
見解
療養期間第1日目。
とは言うものの、時刻はもう恐らく6時を回り、夕食の時間も近い。
自己紹介が終わってからずっと布団の上にいるが、何分3日も眠っていたせいで少しも眠れない。かといって永琳に預けたアームキャノンを持ち出し外に出るわけにもいかない。そこで、俺は予定を変更し、夕食の支度をしているであろう鈴仙を手伝うべく、障子を開け、廊下へと進んだ。
この屋敷は、竹取物語の時代から存在していたのだろうか。だとすればおかしい。保存状態が良すぎる。ほとんど朽ちていない。何か特殊な薬剤を使っている形跡も見受けられない。幽香は『花を操る程度の能力』を花畑の管理に生かしているらしいが、また誰かが『程度の能力』を使っているのか?
「…謎だ」
だが、いちいちそんなことを気にしていてはきっと疲れてしまうだろう。俺はこの世界について知らないことが多すぎる。これからはあまり驚いたりしないようにしよう。
土間に着くと、丁度鈴仙が魚――恐らく鮎や鱒などの淡水魚だろう――を焼こうとしているところだった。
「手伝おうか?」
「あ、小櫃さん。いいんですよ寝てて」
「いや、むしろ手伝わせてくれ、体が鈍る。飲食店の店主の養子だったからな、料理の腕は伊達じゃない」
「そうなんですか?意外だなぁ…」
「ハハ、よく言われる」
漬物の胡瓜や白菜を切り分けていると、鈴仙が味噌汁を作りながら話しかけてきた。
「あの、小櫃さんはどうやって永遠亭まで辿り着いたんですか?竹林は迷いやすいはずなのに」
「…そういえば、幽香にもお前達にも俺の能力について説明していなかったな」
「どんな能力なんですか?」
「スキャニング、という能力だ。いうなれば『バイオエナジーを視る程度の能力』。自分で言うのもどうかと思うが、かなり強力な能力だ」
「スキャニング…」
「通常、バイオエナジーはある一定以上の密度にならないと視認できない。体内を流れるバイオエナジーも勿論見えない。だがスキャニング能力者だけはその限りではない。どんなに微かなバイオエナジーでも感知できる、特別な眼を持っている。壁の向こう側にいる対象の透視、バイオエナジーの流動パターンの走査による対象の挙動の予測、健康状態及び精神状態の分析などが可能だ。また能力の副次的な効果として、鷹並みの視力と蝿並みの動体視力も備えているし、網膜組織の構造を瞬時に再構築して、夜行性動物顔負けの暗視能力も発揮できる」
「うわあ…凄い」
「ただ、俺の眼は強い光に極端に弱いんだ。角膜の表面がモスアイ構造になっているせいで、網膜に入る光の量が大きくてな。夏場はサングラスが欠かせない」
「あらら…」
「話は逸れたが、俺はスキャニングで竹の根のネットワークからバイオエナジーの流動パターンを読み取り、竹が生えていない場所のアタリを付けて走ってきたのさ」
「なるほど、竹が生えていない=そこに建物がある、と」
鈴仙は心底感心した様子で頷いている。
「迷いやすい竹林の中に人間が住んでいるくらいだから、帰りは恐らくここの地勢に詳しい者が同行してくれると考えていたが…あの金髪幼怪、次に会った時はただでは済まさん」
そう、全てはあの少女のせいだ。次は返り討ちにできるよう、万全の状態にしておかねば。
「…えっと、私、妖怪ですけど」
「…そうだろうな」
「あれ?いやさっき人間って――」
この兎妖怪、少し勘違いをしているらしい。
「俺の言う『人間』は、知的生命体全般を指している。お前達のいう『人間』は、俺には『ヒト』だ。人権とか人間性とかの単語が使えないのは困る」
「なるほど…」
先程から頷き通しである。
「鈴仙、魚が焦げるぞ」
「あっ、すすみません!」
この兎妖怪、少しドジである。