「お祭りには来ないの?」
祭りの灯は賑やかそうで、少し戻りたくなるが、そこにいる自分を想像して、その先が見えなくて振り切ることにする。
「また行くところができたから」
じゃあ、と言って僕は門をくぐる。
これ以上この街に居ても僕にできることはもうない。
浮かぶ月は歩いても歩いても見上げればそこにあり、荒野を歩く僕の影をくっきりと地面に映す。
しばらく歩いてから振り返ると、遠くに街の景色が見える。
街の灯は静かに灯り、そこには友達や敵だった人たち、そして多くの名も知らぬ人たちが次の朝を待って過ごしている。
賑やかな街の音が聞こえなくなるまで、僕は歩き続け、旅に出るとはつまり、一人で死んでいくことなのだと、ふと思った。
街で僕が世話になった花屋の店主は、街で過ごす最後の日に、旅立つ支度をする僕に何気なく聞いた。
「今日で世界が最後の日なら、旅人のあなたは、どんなふうに過ごすと思いますか?」
「なぜ?」
「私はここで花を売ることしかできないので、ふとした時に思うんです。きっと最後の日もこの花たちの世話をして、過ごすだろうと。そして最後の店じまいをするんです。そして一人で最後はこのお店で過ごすだろう。花に囲まれて。旅をするあなたには、そんな場所やものが、あるのだろうかと」
「そうですね。考えたこともありませんでしたけど……」
花屋を後にしてからも、僕は沈んでいく日を背に、世話になった街の人にあいさつをして回りながらその答えを考えていた。
もし、安らかに過ごすことができるなら、それがその人の答えになる場所だろう。
僕にはそのような人はいない。
旅をする僕に、そのような人も場所もありはしない。
故郷?……それはある意味、失われたのだと思う。
月はゆっくりとついてくる。この地面や草木、遠くに聞こえる夜の鳥や獣の声が、星空やまさにこの月が、そのような誰かであると、言い切ることはできるだろうか?
街のサーカスのピエロは素顔のときに花屋で花束を買って言っていた。
「喜びを与え合うこと。それが僕たちを、こんなに寂しい場所で一人じゃないって気持ちにさせてくれると思わない?」
照れくさそうな顔は素敵に思った。
自分で自分をみとるような、僕はこの一人でいる時間のためになにかを捨てたのかもしれない。
街も人も、僕と同じようにまた日が昇れば新しい具体的な、生きていくための日が始まる。
固く冷たい地面に背中を預けながら、視界の全てが星空に覆われていて、僕はこの瞬間のために旅に出たのかもしれないと思った。
夜空は何も言わずに満天に僕を包む。
両手を広げて地面に横たえた僕は宇宙を
太陽は毎日上るだろう。
その確かさの頭上でだれの上にも星空が常にある。
それは最後の日まで、誰の上にもきっとそうだろう。
それならもうきっと、本当に寂しい人はもうどこにもいないと、言い切ったっていいはずだ。
そうであってほしいと、僕は思う。
祈る。