私立アルフェルト航空大学校。軍に多くの人材を排してきた伝統ある学校だ。
この学校で開校以来初の飛び級をした学生がいた。しかもそれは二回級の飛び級でその学生は女だった。

この作品はパイロット版でもし好評なら本格的に書いてみようかなと思ってます。

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パイロット版です。良かったら評価してください。


白の航跡

 私立アルフェルト航空大学校。創立九十五年の伝統を持つこの大学は、私立でありながら唯一国に認められている航空学校。毎年多くの卒業生が軍の組織に入隊していた。

 この大学では新学期が始まると学内の掲示板にその学年の成績が発表される。一年生は入試の成績で評価され、それ以外の学生は前年の期末選考で成績が決まる。

 この学校は成績こそが全て。良い成績を修めた者が正義であり権力者だった。だからその為に賄賂を送る家もあった。

 その日は成績が張り出される日だった。今年から四年生になるバルク・アオトーは掲示板の前に立っていた。その横にオート・テオムが一緒に掲示板を見ていた。そしてバルクが五位である事を見付けて言った。

「さすがバルクだな。五位か」

 しかしバルクは不服そうに言った。

「上の誰かが賄賂でも掴ませたんだろうよ」

「にしたって五位は凄い事だぜ。俺なんか十六位だもんな」

 そこへマイル・ブームが駆け込んできた。

「バルク、聞いたか?」

「何をだ?」

「飛び級の話だよ」

「飛び級? 確かにこの学校には飛び級の制度があったな」

 この学校では毎年年末になると飛び級を希望する者に試験を行う。

「あったな、じゃない! 今まで試験に通った奴なんていないんだ。それが去年はいたんだよ、一人!」

「ふん。二年生がその試験に受かって四年生か」

「二年でもない! 一年が二回級飛んだんだよ!」

「何⁉︎」

 過去に飛び級に受かった者はいない。それは飛び級の試験が難しいからに他ならない。学科テストは勉強すれば何とかなるが、実技はそうはいかない。知識だけでなく経験も試されるからだ。

「飛び級って事は今年の成績は最下位から始まるんだよな」

 三人は一斉に成績表の最下位を確認した。

「リムル・ブルームバーグ?」

「女か⁉︎」

     *

 その日リムルが教室へ入ると途端に皆が注目した。ヒソヒソ、ザワザワと話し声が聞こえてきたが、リムルは聞こえないそぶりで手近な席に着いた。

 その日の授業はスクランブル対応についてだった。四年生になるともう既に基本訓練は終わっていて実戦に即した授業が行われている。

「今年からはウイングマンは一年間固定とする。今日はまずウイングマンを決める事から始める」

 ウイングマンとは空での相棒のことだ。空での軍事行動の最小単位は二機。このウイングマンとうまく息を合わせられるかが作戦を遂行できるかどうかの鍵になる。

「去年まではその都度それぞれ話し合いで決めていたと思うが、今年は成績を鑑みてこちらで決めさせてもらった」

 そう言うと教官はペアの名前を順繰りに読み上げていった。

「バルク・アオトーはマイル・ブームと」

 マイルはバルクの方を見て親指を立てた。

「バジュアム・ヤッケはオート・テオムと」

 オートは露骨に嫌な顔をした。バルクの方を見るとバルクはそっぽを向いた。それもそのはずで、バジュアムはバルクとライバルなのだった。成績はバジュアムは六位。

「そして最後、バルバモア・バーデンハイムはリムル・ブルームバーグと組むように。今からそのペアで席に着け」

 リムルはバルバモアと呼ばれた学生を探した。他のクラスメートは顔を知っているので次々とペアになって着席していった。リムルは教室の隅にひっそり佇んでいる学生を見た。

 するとその学生が自ら近付いてきた。

「僕はバルバモア・バーデンハイム。成績は十八位だよ。タックネームはビーネ。君がリムルだね。よろしく」

 やけに気弱そうに話す男だった。

 タックネームとはあだ名のようなもので、無線で交信する際に聞き間違いをおこなさないように付ける名前だ。

「よろしくお願いします」

 ウイングマンが決まると早速授業に入った。

 スクランブル待機。

 スクランブル待機には二種類ある。三十分待機と五分待機だ。それぞれその時間内に出動出来なければならない。

「今回は五分待機で訓練を行う。整備科と共に行う訓練だ。恥晒すなよ」

 スクランブル発進した機体は上空で合流し、目標ポイントへ向かう。多くの場合領空侵犯の可能性のある正体不明機がターゲットだ。

「ターゲットに接触したらまず写真撮影を実行しろ。相手の機種、国籍が分かるように撮るんだ」

 その後共通語による無線での呼びかけ。それでも応答が無ければ発火信号による呼びかけ。機体を大きく動かすことで威嚇する。それでも応じない場合は威嚇射撃を行う。

「ターゲットが鼻先を変更して領空外に向いたらコントロールに連絡して指示を仰ぐ」

 もし相手が攻撃してきた場合空戦になる。この場合の攻撃とは火器管制レーダーの照射も含まれる。

「午後は実践練習だ。それに向けて今からブリーフィングを行う」

 ブリーフィングとは飛行前に気象状況や飛行計画など飛行に関する打ち合わせを行う事だ。

     *

午後。スクランブル待機の訓練が始まった。整備課がアラートハンガーを模した訓練用のハンガーに機体を待機させる。

「一番目。エリル・ハヤシダ、ユーリ・ハノーファ。待機せよ」

 二人がハンガー横に入ると暫くしてアラートが鳴った。二人が機体に駆け登り素早く機体をスタートさせる。

 その様子を本部屋上から学生達が見ていた。

「約四分か。ギリギリだな」

 バルクは時計を見ながら言った。エリル・ユーリ組は空に舞い上がっていった。

「俺達パイロットだけが頑張っても時間は縮まらない。整備課にも頑張ってもらわないと」

 無線で教官が伝える。

「次、バルバモア・バーデンハイム、リムル・ブルームバーグ。用意しろ」

 バルバモアとリムルはハンガー横の待機場に待機した。程なくしてアラートが鳴る。リムルは素早く立ち上がり部屋を飛び出した。

「APU回せ!」

 整備課がAPUを始動しエンジンが回り始める。

「後方排気注意! 車輪止め外せ!」

 リムルはコクピットに流れ込んだ。ヘルメットを着けてスイッチを入れていく。

「ドルフィン、出ます!」

 ドルフィンとはリムルのタックネームだ。

 ハンガーからリムル機が出てきた。バルクは時計を見る。

「二分⁉︎ 早い!」

 リムルはタワーと交信して滑走路内に入った。

「タワーからドルフィン。北風八メートル。クリヤードフォーテイクオフ」

 リムルはエンジン出力をマックスにした。

「リリースブレーキ」

 ブレーキを解放すると一気に機体は速度を上げていった。

「リムル……中々機敏な動きだ」

 屋上で見ているバルクは何故か良い気分ではなかった。

 リムルの機体が宙に浮くとリムルは即座にギアを格納した。そしてそのまま水平飛行に入った。

「な、なんだ⁉︎ 何故ローテーションしないんだ?」

 ローテーションとは離陸時に機首を上げて揚力を増す作業だ。

 リムル機は高度を上げることなく滑走路を舐めるように超低空飛行をしている。

「……地面効果か」

 飛行体がある高度より低い所を飛ぶ場合、その翼の下にはクッションになるような効果が生まれる。これを地面効果、海面効果と呼ぶ。

「地面効果で揚力を得ようって魂胆か。確かに速度を増すには効果的だ」

 バルクが悔しそうに言う。しかしマイルが言った。

「確かに燃料の消費も抑えられる。しかし尾翼の効きが悪くなって地面に突っ込むぞ」

 しかしリムル機は滑走路の端まで超低空飛行を続けると今度はロケットのように垂直に上昇していった。

「ドルフィンよりビーネ。高度四千フィートを方位〇一七へ速度三百五十ノットで移動中」

「ビーネ、了解」

     *

「ドルフィン。そろそろ視認できるよ」

「了解」

 機上レーダーでは捉えている。距離的にそろそろ見えてくる辺りだった。

「ターゲット視認。十二時方向」

「ゆっくり近付いて行こう」

「了解」

 二機は相手機の速度を見てゆっくりと近付いていった。

「こ、これは。八七式輸送機じゃないか」

 バルバモアはカメラを取り出して写真を撮った。

「無線が壊れてるようだから発火信号で連絡とります」

 リムルは発火信号を送ってみた。すると輸送機から返信があった。

「こちらドルフィン。正体不明機は設備故障により機位を見失った八七式輸送機と判明。これより基地へエスコートします」

「コントロール了解」

「ビーネ先輩。頭お願いします」

「了解」

 バルバモアは輸送機の前に出た。リムルは輸送機の後ろから着いて行った。

 バルバモアが基地へ向けてゆっくり旋回している時だった。

「コントロールよりビーネ編隊へ。新たな正体不明機が二機出現。そちらに向かっている」

 リムルは咄嗟にレーダーを見た。しかし反応はない。

「こちらの機上レーダーには反応がない。どの方角だ?」

「五時の方向、高度七千五百フィート」

「ビーネ先輩はそのまま八七を誘導して離脱してください。私が不明機に当たります」

 そう言うとリムルは反転して不明機に向かって行った。バルバモアは言われるまま高度を下げていった。

 リムル機は徐々に高度を上げて行く。不明機よりも高い位置からアプローチしたかった。

「ドルフィンよりコントロール。不明機を二機補足」

(速度が速いな)

 リムルは嫌な予感がした。高度は不明機よりも上に来た。しかし今度は不明機もリムル機に合わせて高度を上げてきた。

 その時機体のアンテナが不明機からの火器管制レーダー波を捉えた。コックピット内に警告音が鳴る。

 リムルは咄嗟に背面飛行に移り高度を急激に下げた。

「不明機よりレーダー照射あり。応戦する」

「コントロールよりドルフィン。了解」

(距離がありすぎる。もっと近付いてドッグファイトに持ち込みたい)

「タンク投下。ミリタリーパワー」

 上を見上げると不明機が視認できた。

(七四式……)

 リムルはゆっくりと右へ旋回して不明機が後ろに着くように動いた。そして不明機が後ろに着くとバンクを倒して小回りに旋回した。

 不明機からのレーダー照射を受信して警告音が鳴る。と、咄嗟に操縦桿を左に一杯に倒す。

 そのまま高度を落としていく。

(ここが山岳地帯なら谷間を利用してレーダーを撹乱できるが、ここは砂漠だ)

 高度は三千フィートを切った。リムルは今度は操縦桿を引いて高度を上げていった。

「太陽は……太陽はどこだ?」

 リムルは太陽の位置を確認し、そこへ機首を向けた。太陽光に撹乱されて不明機のレーダー波が乱れた。

 操縦桿を右へ倒しながら水平に戻し、不明機の位置を確認した。コクピットからは見えない。

「ドルフィンよりコントロール。不明機の位置を教えてくれて」

「六時の方向、距離八百マイル、レベルツー」

(機銃で狙われる)

 リムルは回避行動に出る。右へ左へジグザグに飛んだ。

 不明機が編隊を崩し少し距離が開いた。リムルが後ろを確認すると目視できた。

(回避行動を封じる手か)

 リムルは回避行動を辞めて一瞬機首を上に向けた。しかしそのまま反転し高度を急激に下げた。

「こちらビーネ。輸送機を滑走路に下ろした。今から増援に向かう」

「了解」

 リムルはグングン高度を下げた。それと同時に速度が上がった。

 高度五千フィートで機首を急激に引いた。Gで骨が(きし)んだ。機位が水平に戻っていく。

 高度を三千八百フィートで保持。速度時速四百五十ノット。不明機は機首を引ききれず三千二百フィートまで下がっていた。

 リムルは間髪入れず、スピードブレーキを出してエンジン出力を最低まで下げて、思い切り機首を引いた。ラダーを倒して機体を捻る。

 今度は強いGを受けた。昼に食べたものが戻りそうになり、視界が暗くなる。呼吸が辛い。

 高度が上がると共に速度が緩やかに落ちてゆく。

 不明機二機はリムルの機体の動きに合わせようとするも、合わせきれずオーバーシュート(敵機の前に出てしまう事)した。

 リムルは直ちに操縦桿を押して水平に戻した。しかしその隙に不明機二機は上空へ行ってしまった。

「しかし不利な状況からは抜け出した」

 リムルは不明機に機首を向けエンジン出力を上げた。

 不明機に近付くとお互いに相手の後ろに回り込もうと巴に入った。不明機は二機タイミングを合わせて編隊をブレイク。一機は上空へ昇りもう一機は右へ急旋回した。

(エネルギーが足りんか……)

 エンジン出力がマックスだったリムルは右旋回した方を追いかけた。

(これでは上に上がった奴に狙い撃ちだ)

 リムルとリムルが追いかけている不明機はシザースに入った。お互いに右へ左へジグザグに動くことによって鋏のようなマニューバになる状態だ。

 しかし案の定、上に行った不明機がリムル機にレーダー照射してきた。リムルは反射的に操縦桿を左に切りシザースから抜ける。

(やはり二対一では……)

 上空からレーダー照射してきた飛行機がリムルの後ろに付く。二機はシザースに入った。しかしすぐにもう一機が入ってきた。

 リムルは機首を上げて上空へ昇る。前方に積雲が見えた。

(雲に入るか……)

 リムルは大きく弧を描くように機首を倒していき、雲の中に入った。レーダーで捕捉されているものの細かい動きは肉眼でないと分からないと踏んだのだ。

 案の定不明機二機は再び編隊を組んでリムル機に追従してきた。

 リムルは右へ左へ旋回してレーダー照射から逃げようとした。不意に視界が開けた。雲から抜けたのだ。

 反射的に反転し機首を引いて急降下した。強いGで呼吸がしづらくなった。

 不明機二機もリムルに付いてくる。

(この程度ではまだダメか)

「ビーネよりドルフィン。あと五分で着く」

「二分でやられます!」

 通信をする余裕も無かった。不明機二機は広く展開してリムルを追い詰めていく。

 リムルは追従してくる不明機に対して二度バレルロールを行った。二度目のロールの上昇中にロールと反対に操縦桿を倒した。

 そしてそのまま頭から突っ込んで高度を下げていった。高度四千フィートで引き起こし水平を保つ。しかし更に反転して高度を落としていった。

 高度は五百フィート。地面を這うように飛行した。後ろから不明機が一機レーダー波を照射して射撃位置に付けようとしている。その後ろにもう一機の不明機が並ぶ。

(ロケットじゃなきゃ付いて来れない動きをしてやろうか)

 と、リムルはスロットルを全開にし操縦桿を目一杯引いた。辺りの景色が途端に真っ暗になり意識が遠のいた。

 朦朧(もうろう)とした意識の中で操縦桿を押して機首を下げた。急激に上昇したリムル機に不明機二機は付いていけずに再びオーバーシュートした。

「ドルフィン! チャンスだ!」

 しかしリムルは意識がハッキリしない。操縦桿を押したままの機体は急降下していった。

「ドルフィン! 応答しろ! ドルフィン!」

(ドルフィン? 私はリムルだ)

 高度がグングン下がっていく。その時不明機のレーダー照射にロックオンされ、警告音がけたたましくなった。

 その音でリムルは意識を取り戻した。高度六百二十三フィート。目の前に地面が迫っていた。

 リムルは反射的に操縦桿を引き機首を引き起こした。

「タワーより。ドルフィン撃墜」

「コントロールよりドルフィン。計器飛行にて帰投せよ」

(やられたか……)

     *

「今日の訓練にて輸送機を無事に基地へ届けられたのは二組のみ。そのいずれもがその後国籍不明機に撃墜されている」

 今回の訓練では輸送機を無事に避難させることが重要になる。なのでスクランブル機二機で護衛するのが正解だった。

「バルク。やはり二人で不明機に当たるのはまずかったんだな」

「さっさと不明機を片付けてればこんな事にはならなかったさ」

 バルクはリムル組が輸送機を着陸させて善戦した事が気に入らなかった。成績最下位と言うのは飛び級の制度のせいで本当の実力は分からない。

「あの女、一体どんな実力があるんだ」

 その授業が終わるとクラスメートのリンダ・シュバルツがリムルに話しかけてきた。

「リムル、凄いじゃないの! クラスで二組だけだなんて」

 バルクは近くにいたので会話が聞こえてきていた。

「いいえ、しかし対応が良くなかったです」

 そこにバルバモアが入ってきた。

「僕がもう少し早く戻れたら違っていたかもしれないね。済まない」

「BBがいた所で何の戦力にもならないわよ」

「酷いなリンダ」

「BB?」

「あ、BBってのは僕のニックネームさ。バルバモア・バーデンハイムの頭文字でBBなんだ」

「でも意識を失うほどの操縦は危険すぎない?」

 航空機において操縦不能に陥るほどの意識の混濁は文字通り命取りになる。

「確かにそうですが、私はいつもギリギリの所で飛んでいます」

 リンダとBBは面食らった。そこへバルクが割って入った。

「俺だっていつも限界ギリギリで飛んでいる。だったら何故そこに差が生まれたんだ!」

 BBは実力の差だと思ったが言わなかった。しかしリンダは言った。

「あなたよりリムルの方が腕が立つって事じゃないの?」

「最下位のくせに」

「それは飛び級だからでしょ。本当の実力は分からないわ」

「ふん。精々気絶してそのまま地面に激突しないよう気をつけるんだな」

 そう言うとバルクは行ってしまった。

「でも確かに意識を失う程の操縦は危険だよ」

「そうね。それにウイングマンに取っても不安材料の一つね」

 それはリムルも思っていた。今日はついやり過ぎてしまったがいつもの自分ではそこまで危険な飛行はしないと考えていた。

「次はうまくやります……輸送機を着陸させたもう一組って?」

「バジュアムだよ。バジュアム・ヤッケ。協調性ゼロの一匹狼さ」

「ウイングマンは?」

「オート・テオム。マイルと同じバルクの腰巾着さ」

 バジュアムは誰とも馴れ合う事なくここまでやって来た。孤高の一匹狼と揶揄されている。

「その腰巾着に弄ばれてるのは何処のどなたですかねー?」

「お、俺は弄ばれてないよ」




こんな感じですがどうでしょうか。

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