美郷学園レーシングカート部、金髪の織姫(ベガ)   作:三流FLASH職人

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第13話 そのマシンの名は……

「ト、いうわけで、このカートマシンをウチの部に寄贈してくれるコトになりマシタ!」

 

 月曜日の放課後、黒木モータースに集まったカート部員たちに、ベガが早速和尚から貰ったカートマシンをお披露目する。

 

「イタリアのスコーピオンF1! 昔のメーカーのだけど、結構いいやつよコレ!」

「保存状態が良かったんだな、(さび)はほぼないしベアリングも死んでない」

「さすがにタイヤとホースの類は全とっかえですねぇ」

 

 部員たちがスタンドに立てられた金色のカートに群がりその状態を吟味する。白雲夫妻の息子さんの遺品という事もあり、倉庫の奥でカバーを掛けられて大切に保存されていたのが、良い状態を維持できていた大きな要因だろう。

 

「あーちょっと。言っとくけどそのカートはベガちゃんにやったんじゃけんな」

 軽トラでここまでカートを運んできた白雲三太夫がそう釘を刺す。なんかベガがそのカートを早速みんなの共有品にしようとしてるみたいなので一応告げておいた。

 

「ですねー。ベガパイセンは来年はアメリカに帰るんだし、それまでは専用に使ってもいいですよ」

「俺らは秋から2台空くしな。それから一年間は好きな時に乗れるし」

 美香とイルカがそれに賛成する。考えてみれば三年の二人はこの秋で引退(リミット)だが、ベガもまた来年の春には帰国しなければならない。なのでもう一台あるなら彼女が優先使用してもいいだろう、あの和尚からゲットしたのがベガなら尚更だ。

 

「じゃあ、ワタシが帰国したその後はカート部にプレゼント、でイーデスネ?」

「あー、うん。まぁそれならええけんど」

 かくして話はまとまり、そこからは全員がそのカートを走れるようにするためのメンテ計画へと取っかかっていく。

 

 そんな彼らを見ていた白雲和尚の横に黒木モータースの社長、黒木辰巳が並んで一緒に眺めながら声をかけた。

「アレ、蛍クンの乗ってたヤツでしょう? まだ持ってたんですね」

「ふ、坊主はケチでな、物持ちがええんじゃ」

 

 辰巳社長もまた蛍がカートに乗っていた時に一緒に走った仲間だった。体の弱い後輩を気遣って、積極的に押し掛けなどを手伝ってあげた思い出があったのだ。

 

「そのカートをポンと彼女にあげるヒトをケチとはいいませんよ」 

「使うべきところを知っておる、と言ってもらいたいもんじゃ」

 

 白雲夫妻とベガ・ステラ・天川という女の子の不思議な縁。息子に先立たれてしまい、後は仏に祈るだけの余生を送ると思っていたら、なんとはるか異国からあのような明るく元気な娘がウチにやってきたのだ、まるで孫でも出来たかのように。

 

 そのベガが、蛍と同じ趣味を持ってくれた。ならその意思を受け継いでくれるならこれに勝る幸せはあるまい。あのカートマシンもまたもう一度、そして今度こそ思いっきり走れるならさぞ本望であろう。

 

「あれ以来サーキットに来てないでしょう、彼女のデビュー戦には是非行ってあげて下さい」

「……ほうじゃな。ほれもええかもしれんわ」

 

    ◇          ◇          ◇

 

 それから数日間。カート部はベガのマシンのメンテナンスに追われた。ちょうど梅雨時期という事もあり、放課後には皆が黒木モータースに集まって、少しづつその古いカートを再生していった。

 

「エンジンはリング交換だけで行けそうです。キャブのニードルが劣化してるのでそっちも交換ですかね」

「シャシーの剛性はバッチリだよ。ベアリングやチェーン、スプロケもそのままいけるな」

 こういう時に頼りになるのが車屋の息子である部長の黒木と、機械いじりが趣味のガンちゃんだ。劣化している部分を徹底的にチェックして交換リストを制作し、注文票に記入していく。

 

「ア、アノ……そのお金はいくらくらいになりマスカ?」

「心配しなくても一応、部のカートなんだから部費で落とせるわよ。それよりベガがお金を使うのはこっち!」

 

 そう言ってカタログ本を開いたまま渡してくる星奈。受け取って見るとそこにはレーシングスーツやヘルメットが値段付きで並んでいた。

 

「パイセン、アメリカンなデザインのスーツやメット、似合うと思うんですよねー」

「7月のレースに出るでしょ? ならそういうのも揃えておかないとね」

 女性陣はベガのコーディネイトに興味津々のようだ。元々長身に加えポロポーション抜群、しかも金髪碧眼の美少女となれば、そのレース姿もビシッとキマった物にしたくなるのも無理もない。

 

 イルカはパソコンを使って、このカートのカラーリングや追加するカウルを組み合わせて全体的なデザインを起こしていく。

 ベガのカートは昔の物だけに前と左右のカウルが無く、今のレギュレーション(規則)では出走できない。なので後付けでカウルを装備して、それのカラーリングや部のステッカー等をどこに貼るかを色々考えていく、そんなデザインもカートの楽しみ方の一つなのだ。

 

 こうして梅雨明けまでの二週間、彼らは新生カートとドライバーズアイテムの収集に追われる事となった。

 

    ◇          ◇          ◇

 

 そして7月1日。ついに美郷学園レーシングカート部の、新たな一台のカートと一人の若葉レーサーのお披露目の時が来た。

 黒木モータースのガレージの外で、白雲夫妻やカートランドの大谷社長、顧問の吉野先生、そしてベガのクラスメイト達まで集まって見守る中、そのシャッターがゆっくりと開いていき、中から6人の部員が登場する。

 

 中心にいるのは、赤と白のストライプが斜めに入ったレーシングスーツに身を包んだ長身の女性だ。頭にはブルーのヘルメットを被っており、その後頭部には純白の星印が大きく印刷され、その周囲には子供のような小さな星がいくつも踊っている。

 

 その見た目は明らかにアメリカ合衆国の国旗、星条旗を意識したコーデになっていた。

 

 と、その女性がヘルメットを脱ぐ。中から出て来たのは、燃えるような金髪をポニーテイルに纏めた、皆のよく知る女生徒だった。

 だけど、そのスーツやメットと、その特徴的な金髪碧眼があまりにマッチしていたために、全員が思わず「「おおっ!!」」と声を上げる。

 

「HI、ミナサン、ようこそお集まりくださいマシター!」

 レーシングスーツに身を包んだベガ・ステラ・天川が、さっそく陽気に皆に手を振って挨拶する。

 

「おー! 似合ってるよー」

「まさにザ・アメリカンって感じね」

「ト〇ンプ大統領が見たら喜びそうだな」

 全員が笑顔でぱちぱちと拍手しながら、その艶やかなクラスメイトに賞賛の言葉を送る。

 

「だけど、今日の主役はこっちデーッス!」

 後ろ手で示すガレージの中から、一台のカートマシンがスタンドに乗せられたまま、ガレージから引き出されて来る。

 

「うわ……キレイ!」

「金一色かよ! でも、全然下品な感じがしないな」

 

 そのカートマシンはフレームもカウルも、全てがやや緑がかった金色に塗られていた。派手の象徴であるゴールドと落ち着いた色の代表のグリーンが見事に溶け合って、何とも言えない気品と美しさを醸し出している。

 

「これが、わが美郷学園レーシングカート部のニューマシーン!」

 大仰なポーズでそう宣言した後、ベガはその名前を高らかに歌い上げる。

 

()()()()、デーッス!!」

 

 ずどどどどどっ!

 

 居並んだ一行が一斉にずっこけた。

 

「ホワイ? どーしまシタ?」

 

「ベ、ベガちゃん……意味分かってる?」

「『ホタル』って、最下位とかビリって意味なんだけど」

「縁起悪すぎー」

「光るのが『お尻』だからねー。今からでも名前変えたら?」

 

 クラスメイト達から次々とツッコミが入る。が、ベガは動ぜずにふふん、と鼻を鳴らして自慢げに反論する。

「じゃあ、サカサマにすればいいんですヨ! そうすればホタルのヒカリは、サンゼンと先頭を照らす(スター)になるのデス!」

 

 さすがにこの命名をした時には部内でもそうツッコまれた。でもベガはあの夜に見た美しい蛍の群れと、このカートの持ち主だった白雲()の名前をどうしても付けたかった。

 そんな時に「なら逆ホタルにすればいいじゃない」と吉野先生がアドバイスをくれたのだ。すでに蛍の光を意識した金緑色(グリーンゴールド)にカラーリングをするのが決まっているだけに、結局その命名を採用したという訳だ。

 

「おお、ポジティブ!」

「ま、まぁホタルはこの村の名物だしねぇ」

 

 ギャラリーのみんなが一応納得したのを見て取って、黒木部長が前に出て皆に宣言する。

 

「それではっ! 只今より点火式を行います!!」

 いよいよエンジンの初始動だ。もちろんテストで何度も火を入れてはいるが、まぁお披露目の場ではこれが初、というノリでいいだろう。

 

 ベガが燃料タンクのエア抜きホースを口にくわえ、ぷぅっ! とホッペを膨らませて空気を吹き込む。その圧を受けて燃料タンクの混合油がチューブを通り、カートの胴体を経由してエンジンまで行き渡る。

 

 これはガソリンを入れたばかりの時にエンジンまで燃料を届ける為の下準備なのだが、この時間違えてホースを吸うとまともにガソリンが口の中に飛び込んで来る事になる。ベガもご多分に漏れずそれをやって、ガソリンの味をいやという程知ってしまっていた、それもまた経験であろう。

 

「じゃ、行くわよ」

「アクセル構えとけよー」

 星奈とイルカがリアタイヤの左右に取り付き、それを両腕で抱き抱える。スタンドに立てられている時には押し掛けが出来ない為、人力でタイヤを回してエンジンに火を入れるのだ。

 

「「せー、のっ!!」」

 二人が勢いよくタイヤをぶん回す。同時にエンジンからバルルルゥン、というピストン音が響き、そのシリンダーが「ガソリンに飢えている、燃料を寄越せ」と声を上げる。

 

 それに応えて前にいるベガがアクセルペダルを手で握る。その瞬間、このレーシングカート、新生『ホタル号』が、約20年ぶりのエキゾーストノートを、高らかに歌い上げる。

 

 ――ビュゥワアァァァァァァァァァーン――

 

 梅雨明けの夏、ついにベガがレースデビューするその日は、もう間近に迫っていた。

 

 

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