美郷学園レーシングカート部、金髪の織姫(ベガ)   作:三流FLASH職人

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第41話 世界の違い

 2月4日、阿波カートランド、午後3時25分。

 四国カートシリーズ第10戦のこの日の開催も無事、全レースを終えた。

 

「ハァ……サッパリでシタ」

「やっぱすぐには通用しないか」

 前回のレースでフレッシュマンクラスを卒業し、上のオープンクラスに初参加したベガとイルカは、決勝レースが終わった後の車検場でカートから降りて計量を済ませた後、ピットに戻りながら落胆気味に会話を交わす。

 参加台数26台中、有田 依瑠夏(あらた いるか)24位、ベガ・(ステラ)天川(てんかわ)は25位。リタイアした1台を除けば最下位だったのだから無理もない。

 

 オープンクラス。そこは本気でレーサーを目指す者達の戦場ともいえる世界だ。

 

 ここでいい成績を出して、全日本やF4、F3のチームスカウトの目に止まろうとしている者、スポンサーになりそうな企業に営業をかけ、リザルトやビデオを持ち込んで報告してスポンサー付きレーサーを目指す者、逆に元プロレーサー達が挫折を味わい、再起を期してわずかな望みにすがる者など、人生そのものをレースに欠けようとする者達をふるいにかける場所なのである。

 

 整備やセッティングに熟練し、レースごとにニュータイヤを用意して万全の態勢を整える。エンジンオイルはもちろん最高級品、ガソリンを買うスタンドすらどこが良質なのかまで研究し、毎週末には徹底的に走り込みをする。誰もがライバル達の一歩先を行こうとしのぎを削る世界なのだ。

 

 そんな世界に、たかが高校生の部活動でやってる彼らがいきなり通用する訳が無い、そんな現実を証明するような一日だった。

 

「いようお二人さん、暗い顔してんなー」

 そんな二人に上機嫌で声をかけて来たのは国分寺高校の斉藤だ。彼は今日、フレッシュマンクラスで見事初優勝を決め、次回からはオープンクラスへの昇格が決まっていた。

 

「ようこそ地獄へ」

「ココからはキビシーですヨ」

 二人が「ニヒッ」という顔をしてイヤミという名の負け惜しみを返す。まぁ彼も次のレースでは上の厳しさを思い知る事だろう、との邪な期待を込めて。

 

「俺は上でも勝ちまくるぜ、あんたらは仲良くテールエンダーしてな、お似合いのカップルさん」

 ひらひらと手を振って自分のピットに戻っていく斉藤。最後の一言で反論する意気を止めるあたり、他人の感情のコントロールが上手くなったもんだ、と感心させられる。

「部長らしくなってきたなぁ、アイツも」

「春はイルカと口ゲンカしてましたカラネー」

 

 ちなみに二人がオープンクラスに出たお陰で、今回は美香とガンちゃんの二人ともフレッシュマンクラスに出られていた。クラスが違ってもカートの規定は同じなので、一台のカートを各クラスで使い回すことは認められている。ガンちゃんはイルカの使っている黒いカートでの出場で、残りの赤いカートで美香が出たという訳だ。

 

「あとちょっとで入賞だったのになー、むぐぐ」

「でも6位は凄いよやっぱ、僕は前回と同じ9位だし」

 ピットに戻ったら、一年生のふたりが今回のレースの反省会をしていた。美香は今回6位まで順位を上げ、あとひとつで表彰式に出られるところまで来ていただけに悔しい所である。

 

 ――フレッシュマンクラス優勝、国分寺高校、斉藤選手――

 

 表彰式が始まり、フレッシュマン優勝の斉藤が表彰台の中央でガッツポーズを見せる。シャンパンファイトで国分寺高校の仲間たちと大はしゃぎするその姿を眺めながら、つい二か月前の自分達を思い出して思わず感慨に浸る。

 

「……終わりマシタネ」

「まー、そうだな」

 

 ふっと寂しそうな表情でベガがこぼす。今年度の四国選手権は3月の最終戦が残っているが、それはここではなく香川県のサーキットで行われる為、美郷学園チームは残念ながら不参加。つまりベガが参戦できるレースはもう今日で終わりなのだ。

 

「ゴクロウサマ」

 傍らにある、スタンドに乗せられたホタル号のハンドルを愛おしそうになでるべガ。

 

 日本に来てまもなく一年。自分がこの異国の地で過ごす日々は間もなく終わる。

 

 最初は思っていたのと違う田舎に来て、てっきり退屈な日々を送る物だと思っていた。でもここでレーシングカートに出会って、新たな刺激を得る事が出来た。

 憧れのジャパンハイスクールのクラブ活動でカート仲間に出会い。ステイ先の住職さんの思い出のカートを使わせてもらった。レースを重ね、速く走るテクニックをいろいろ試し、熱いバトルを何度も味わった。レースクィーンで会場に花を添え、仲間と共に楽しくエキサイティングな日々を過ごしてこれた。

 

 好きな人が出来た。

 初めて表彰台の頂点にも立てた。

 

 でも、もうそれも終わる。ベガは頭をホタル号のシートに乗せ、その感触を確かめるようにごろごろと頬ずりする。後頭部の金髪のポニーテールが、まさに尻尾のようにふりふりと揺れ、パートナーマシンとの、今日の最後の真剣勝負を惜しむ。

 

(……アリガトウ、ホタル号。そして……ミンナ)

 

 そんなベガの姿を見て、イルカたちはお互いをアイコンタクトしながら、よしよしと笑顔を見せる。

 

「まぁベガちゃん、また練習に来ればいいよ。模擬レースくらいならやれるだろうし」

 黒木コーチがそう慰めると、ベガは顔を上げて「デスネ!」と笑顔を見せる。その顔に涙は無く、むしろ晴れやかないつもの彼女の笑顔だった。

 

 

 ――彼女のラストラン、その時が、すぐそこまで迫っていた――

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