剣も魔術も使えぬ勇者   作:138ネコ

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第10話「解決の糸口」

 ジーンさんのパーティが帰った後、僕たちは薬草採取を再開した。

 無言で黙々と薬草を採取し続ける。

 時折リンが珍しい草花を見つけてくるので、それを受け取って薬草と混じらないように道具袋に入れて僕が管理する。

 

 30分もしないうちに籠が一杯になった。ずっと屈んでいたから腰が痛い。

 ゆっくりと伸びをすると、身体中からポキポキと気持ちの良い音がする。

 

「さてと、そろそろ帰りましょうか」

 

 そう言って、僕らは帰路についた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 そのまま冒険者ギルドまで帰って、依頼達成の報告をする。

 ゴブリン討伐依頼60シルバ。依頼では10匹だけど12匹討伐したので、2匹分はギルドからの討伐奨励金として1匹につき2シルバが支払われた。

 ゴブリン以外でも依頼が無い状態に有害モンスターを討伐し、討伐証明部位を持っていけばモンスターのランクに応じた討伐奨励金が支払われるようになっている。

 薬草採取依頼は全員で20キロ分の20シルバ、珍しい草花は合計でキリ良く2シルバで買い取ってもらえた。

 

 今日一日働いて得られた収入収入86シルバ、4人で分けると1人21シルバ50ブロンズ。

 ここから宿代、食費、装備等生活必需品を揃えるとなると、冒険者と言うのは、いや働くと言うのは本当に大変なんだなと実感する。

 今まで引き籠っていた事、父には申し訳なく感じる。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 夕飯の買い物をしてきた。今夜の夕食はリンの希望の魚料理だ。

 ここら辺は陸地続きなために、魚は少々お高い食材なので普段はあまり買わないため、上手くできるかちょっとだけ不安だ。

 煮付けにしようか? それとも焼く方が好きだろうか? 異国の文化では生で食べる”サシミ”と言う物があるらしいが、流石に生で食べるのは厳しい。

 

 今日のメインは”マンサの塩焼き”だ。

 塩を振りかけて焼くだけの簡単な料理だが、その分下手な失敗をしたりすることが無い。

 

 夕食の片づけをするため食器を下げる、アリアとリンは食べ終わったマンサの骨を炙っているようだ。どうやら骨も残さず全部食べるつもりのようだ。

 サラは食後の紅茶を嗜みながら、父と何やら話し込んでいる。

 

 食器を洗いながら、今日の事を思いだし、また考えてしまう。

 もしあそこで僕が出て、力の無い僕に何が出来た?

 それならアリア達が出るのが最適解だったじゃないか。もしアリアとリンもサラの考えに賛同していたら、パーティに亀裂が入ったかもしてない。

 だから、これで良かったんじゃないか?

 

 そしてまた自己嫌悪に陥る。そんな風に自分に言い訳をする、それは引き籠っていた頃と変わらないじゃないか、と。

 

 

 ――お父さんと一緒に商人ギルドで働きたいです――

 かつての僕は父と同じような仕事をしたくて、学園に通わせてもらっていた。

 ところが、いざ入学して最初の適性検査で僕の学園生活は一気に下り坂を落ちていった。

 

「この子は、どの魔法適性も限りなく低い。使えても初級魔術程度です」

 

 別にそれがどうしたの? と思った、将来は商人になるんだから、読み書き計算が出来れば魔術なんて使えなくても良いんだから。

 だが周りにとっては、それが重要な事だった。

 何故なら僕が入った学園は、魔術を専攻とする学園だったから。

 

 近くに別の学園が無いので「ここで良い」と決めて入った魔術学園。

 魔法適性が低い僕の扱いは、あまり良くなかった。

 だから適性が低い分、勉強を頑張ろうとした。だがそれは逆効果だった。

 

 魔法適性の低い子供が座学では優秀な成績を収めている、それが貴族や魔法適性の高い人間にとっては気に入らなかったのだ。

 

 魔法適正が低く家庭用魔法も使えない、そのくせ座学の成績は優秀だ。結果として僕はイジメの対象になった。

 始めの内は学園で出来た友達もかばってくれた、だが日に日にエスカレートするイジメに一人また一人と僕の元から離れていった。

 辛い日々だった、どうして誰も僕を助けてくれないの? 僕が何か悪い事をしたの?

 イジメられている僕を、他の子達も笑って見ていた。その中にはかつて友達だった子もいた。

 

 イジメの事は教師に言えなかった、だっていじめられているなんて恥ずかしくて言えなかったからだ。

 それでも耐えきれなくなり、最後には教師に助けを求めた。イジメの事を語る間悔しくて仕方が無かった。

 そんな僕に対して教師が言った言葉は「落ちこぼれが手間をかけさせるな」だった。結局のところ魔法適性の無い僕は、学園にとってはいらない存在だったのだ。

 

 そして僕は学園を去って引き籠った。

 学園から帰ってきた最初の一年は完全に外に出る事が出来なかった。もしかしたら学園の人に外で会ってまたイジメられるんじゃないだろうか?

 正直5年たった今でも、不安な気持ちが無いわけでもない。

 

 当時はイジメていた人もそうだが、いじめを見て見ぬ振りをしていた人にも「なんで助けてくれないの? ねぇ、どうして?」という感情でいっぱいだった。

 そんな僕が、今日は彼を見て見ぬふりをしようとしたのだ。そして考えないように今は必死に手を動かして、自分を誤魔化そうとしている。

 

「どうしたの?」

 

 気づけば食器は洗い終わっており、洗い場でボーっとしている僕にアリアが心配して話しかけてきた。

 アリアはなんて素晴らしい人なんだろうな。剣の腕は立つし、苛められている彼を見て助けに入り、こんな僕の事にまで気を使ってくれる、おまけに美人だ。

 そんな八つ当たりで場違いなことまで考えだしてしまう自分にまた嫌悪してしまう、いっそ消えてしまいたい気分だ。

 

「わかった」

 

 何も答えられない僕に、彼女は「わかった」と言った。心が見透かされたのかと一瞬ドキっとしてしまう。

 

「お風呂」

 

 うん、お風呂? 彼女が何がわかったのか、僕にはサッパリわからない。

 

「こういう時は、裸の付き合いが一番だと聞いた」

 

 唐突過ぎて話についていけない、食卓ではサラが父の顔めがけて紅茶を盛大に噴き出している。

 アリアに背中を押されてそのまま風呂場の前まで連れてこられる。後ろでサラが何やら抗議の声を上げているがおかまいなしだ。

 

 先に入って待ってるように言われて、僕は言われるがままに浴槽に入った。

 浴槽でドキドキしながら正座をして待っている、もはやさっきまで何を考えていたか思い出せないくらい緊張している。

 アリアと二人きりで入るのだろうか? それともサラとリンも一緒なのだろうか?

 

 落ち着かずにきょろきょろしてしまう僕、すると浴室のドアが開いた。

 そこには一糸まとわぬ、裸の”乳”が居た。ちがう、乳じゃなく父だ!

 

「湯加減はどうだ?」

 

「あ、はい。良いです」

 

 お湯で自分の体を洗い流してから浴槽に入って来る、そういえばこうやって父と一緒にお風呂に入るのは何年ぶりだろうか?

 

「それで、一体何を悩んでいるんだ? 良かったら話してくれないか?」

 

 考えをまとめるために一旦大きく息を吐き、僕は今日あった事をポツリポツリと話し始めた。

 門番に言われた事、ゴブリンとの戦いで彼女たちが優秀だったこと、他のパーティが勇者を苛めていた事、そこで自分は勇気を出せずに立ち尽くしていた事、アリアがそこで苛めている人たちに注意しに行った事。

 

 そして学園で苛められていたこと、見て見ぬふりをしていた彼らを恨んでいた僕が見て見ぬふりをしたことに対する自己嫌悪、そして彼女たちが優秀な事を妬む自分がいる事を。

 父は黙って僕の話を聞いてくれた、そういえば学園でイジメられていた事は父に話したことが無かったっけ。余計な心配をかけまいと、ずっとそのことについては聞かれても答えなかったから。

 

 父は僕に呆れただろうか? それとも怒るだろうか?

 浴槽で隣に座る父の様子をチラリと見る、あごに手を当てて何やら考えこんでいるようだ。

 

「そうだな、久しぶりに背中を流してもらいながら話すとするか」

 

 ザバーっと浴槽から上がり、父は椅子に腰を掛けて僕に背中を向ける。

 僕は父の背中をゴシゴシと洗う、父の背中が少し頼もしく見えた。

 

「イジメの事は、冒険者ギルドに職員には話したのか?」

 

「いえ……」

 

「それが良い、もし冒険者ギルドに話したらもっとややこしくなるかもしれない」

 

「話したらダメなんですか?」

 

「対応してくれても、対応してくれなくても良い事にはならないと思うぞ」

 

 父が言うには、冒険者ギルドに話してギルドがパーティの調査をした場合、勇者はパーティを離れる事になるだろう。

 しかし、ギルドが調査に入るような問題を起こした勇者をどこのパーティが拾いたがるか? 非がどちらにあったとしても敬遠されるのは目に見えている。

 イジメをしたパーティへのペナルティも特にない、厳重注意をされて「もうやるなよ」で終わってしまうのだ。

 

 そして対応してくれない場合、これが最悪なパターンだ。

 いじめはもっと陰湿な物になるだろう。ギルドに密告した腹いせにイジメがエスカレートする可能性も有る。依頼で町の外に出れば例え死亡したとしても事故で片づけられるから。

 

「それに、助けを求めた手を払われたときの絶望は、エルクお前が一番わかっているはずだ」

 

 その言葉は、何よりも重かった。

 希望が大きければ大きいほど、絶望も大きくなるのだから。

 

 僕はその絶望に負けて逃げた。逃げて家に帰って引き籠った。

 じゃあ彼はどうする? 逃げる場所なんてもうないのに。

 

「まぁ、方法が一つ無いわけじゃない」

 

「助け出す方法があるんですか?」

 

 バンッと浴槽のドアが勢いよく開き。そこにはちゃんと服を着ているアリアが居た。

 

「どんな方法?」

 

「「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」」

 

 『父と僕の叫び声』が、夜の町に響き渡った。

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