剣も魔術も使えぬ勇者   作:138ネコ

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第18話「別れ」

 

 あの後。駆けつけて来た里長に軽く事情を話し、僕らはエルフの里まで戻ってきた。

 

「……というわけです」

 

 今は詳しい話をするために、ハウスウッドの広い部屋まで来ている。

 部屋に居るのは僕、アリア、サラ、リン、イルナちゃん、シオンさん、フルフルさん、ダンディさん、フレイヤさん、里長、そしてジャイルズ先生だ。

 部屋の中央で、輪になるように座っている。

 僕はエルフの石碑であった出来事を、里長に話した。

 

「ふぅむ。そのロキというのは、やはり神話に出てくる邪神のロキの事じゃろうか?」

 

「確証はありませんが、本人は封印されていたと言っていたので、その可能性が高いと思います」

 

「すまぬ。知らぬとは言え、妾がしたことで大変な迷惑をかけてしまった」 

 

 そう言ってイルナちゃんは頭を下げた。

 同じように、シオンさんとフルフルさんも頭を下げている。

 

「起きてしまった事を責めても仕方あるまい。そもそも、あの石碑が何なのかは我々も分かっておらんのだ」

 

 エルフ族がここに移り住む前からあった物だ。と里長は付け足した。

 特に害があるわけじゃないから、エルフ族もほったらかしにしてたらしい。

 だから石碑に何が書いてあるのか、エルフ達でもわからないようだ。

 

「……ところで」

 

 里長は軽く一息ついた後、少し強張った表情をしている。

 

「お主たちが誰に言われてここに来たか、聞いてもよろしいか?」 

 

 里長のイルナちゃん達に向ける目は厳しい。

 それも仕方がない事か。もし、ロキさんがエルフの里に来て暴れていたらと考えれば当然だ。

 口では「仕方ない」と言っていても、やはり腑に落ちていないのだろう。

 

 里長の態度に対し、警戒の色を強めたシオンさんとフルフルさんが一触即発の空気になっている。

 イルナちゃん達を信じたいという気持ちもあるけど、里長の態度に対しても理解できなくはない。里を治める者としては看過する事は出来ないだろうし。

 う、う~ん。何か言うべきなんだろうけど、何も言えずに僕はオロオロしているだけだった。サラ達も同じようにオロオロしている。

 

「シオン、フルフル。里長殿に対して失礼であるぞ」

 

 その流れを変えたのはイルナちゃんだった。

 軽く揺れる金髪のサイドテールから見える表情は、いつもの可愛らしい表情とは打って変わっている。

 前にピノの話を僕とリンにしてくれた時と同じ表情だ。

 

「しかし」

 

 それでも食い下がろうとするシオンさん。

 

「シオン。妾の命令が聞けぬのか?」

 

 イルナちゃんの言葉に、シオンさんは「ハッ!」と一言いうと、イルナちゃんの後ろに下がり、片膝をついた。

 同じようにフルフルさんも下がり片膝をついている。

 イルナちゃんがシオンさんやフルフルさんに対して「命令」と言うのは、初めて聞いた気がする。確かに二人はイルナちゃんの従者のようだけど、それでも距離が近く、仲良しな感じに見えた。

 もしかして、イルナちゃんは二人を従者とはあまり考えないようにしていたのじゃないだろうか? ちょっとだけ、イルナちゃんが悲しそうな顔をしたように見えた。

 

「里長殿、大変失礼いたしました」

 

 そう言って(こうべ)を垂れるシオンさんとフルフルさんに対し、里長も「いや、こちらこそ申し訳ない」と頭を下げる。

 何とか不穏な空気は去ってくれたようだ。僕はホッと溜息をついた。 

 ここで問題が起きて最悪殺し合いになったら、それこそ取り返しがつかない事態になってしまう。

 

 原因を辿ると僕がエルフの里の依頼を受けたからになってくる。直接の原因じゃないと言っても、そんな事になれば流石に気に病まないわけがない。

 

「妾は、妾の父。魔王ディモン=ヘイム=ガガープより、エルフの里へエルフの宝を返還するよう命を受けて来たのじゃ」

 

「はぁ!?」

 

 思わず声が出た。

 いや、だって魔王って……イルナちゃんのお父さんが魔王!?

 そりゃあ、位の高い身分だという事くらいは予想していた。従者にフルフルさんやシオンさんなんかが付く位だし。でも魔王って……。

 周りを見るとサラ達がポカーンと顔を開けて、目を見開いている。多分僕も同じ顔をしているんだと思う。

 

「イルナちゃん。魔王の娘だったの?」

 

「うむ。すまぬ、お主らを騙すつもりはなかったのじゃ。ただむやみに名乗って驚かせぬようにしておっただけで、その、ドラゴンの肉を食べたら別れるつもりだったから……」

 

「いやいや、別に騙されたとかそんな風に思ってなんかいないよ。ちょっと驚いただけだから」

 

 慌てて手をバタバタさせながら、必死に弁明をする。

 サラ達もうんうんと必死に頷いてくれている。

 

「その内お主らには打ち明けようと思っていたのではあるが、段々言い出せなくて。もしかしたら嫌われるのではないかと思うと……」

 

「大丈夫。嫌いになんてならないから!」

 

 やばい。イルナちゃんがちょっと涙目だ。

 こういう時は、そうだ、ちゃんと目を見て話そう。そうすれば僕たちがイルナちゃんに対し悪い感情を持ってないと分かってもらえるはず。

 僕は立ち上がり、イルナちゃんの所まで歩いていった。僕を見上げるイルナちゃんは少し怯えた表情だ。

 しゃがみこみ、目線をイルナちゃんに合わせる。

 

「だって僕たちは。友達だろ?」

 

「うむ!」

 

 やっと笑ってくれた。

 別にイルナちゃんが貴族だろうが魔王だろうが僕には関係ない。大切な友達だ。

 

 なでなで。

 気づけば僕は、イルナちゃんの頭を撫でていた。

 ……いや、撫でちゃダメだろ!?

 イルナちゃんは満足そうな顔をしているけど、フルフルさんの顔を見るのが怖い。確実に「殺しますか?」のパターンだ。

 恐る恐るフルフルさんを見てみるが、シオンさんもフルフルさんも穏やかな表情をしている。

 ふぅ、どうやら今回は助かったみたいだ。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

「妾の名はイルナ=ヘイム=ガガープ。魔族領ガガープを納める魔王ディモン=ヘイム=ガガープの娘で、第8王女じゃ」

 

 自己紹介の後に「と言っても、上には優秀な兄上や姉上が居るから、妾には皇位継承権なぞ有って無いような物じゃがな」と言って、イルナちゃんは軽く笑った。

 イルナちゃんは兄弟が多いのか、まぁ王族だから当たり前と言えば当たり前か。

 

 それからイルナちゃんは、自分達がエルフの里に来る経緯を話してくれた。

 魔族領を治める魔王ディモン=ヘイム=ガガープ、つまりイルナちゃんのお父さんがある日病に倒れた。

 倒れたといっても、まだ亡くなってはいないが先は長くないらしい。なので存命の内に後継者を決める事にした。

 自分が亡くなった後、皇位継承権で子供たちが争い国が疲弊しないように、という事だろう。

 

 その方法として選ばれたのが、かつて聖魔大戦の際に魔族が各種族から奪い取った宝を返還し、その種族と友好を結んでくるという物だったらしい。

 らしい、と言うのはイルナちゃんが直接聞いたわけでなく。臣下や兄弟から聞かされたからだそうだ。

 そもそも、それで後継者を決める基準がわからない。イルナちゃんもそれを何度か質問したらしいが「答える事は出来ない」の一点張りだったそうだ。

 

 色々と疑問が残りつつも、他の兄弟と同じく、臣下としてシオンさんとフルフルさんを連れて旅に出たそうだけど、イルナちゃん自身は皇位継承権に興味が無かった。

 なので適当にぶらりと旅をして「エルフが見つからなかった」と報告をして、早々に自分の皇位継承権を放棄するつもりでいたそうだ。

 そして、その旅の途中で、僕らと出会った。

 

 途中で何度か里長からいくつか質問をされながら、イルナちゃんの話が終わった。

 内容は思ったよりもシンプルだった。皇位継承権を争って、兄弟同士の殺し合いがあるかと思ったけど、そういうのは一切なかったようだ。

 兄弟の事を話すイルナちゃんの様子を見ると、別に悪い関係では無いみたいだ。むしろ尊敬しているまである。

 優秀な兄上や姉上と言うのは皮肉ではなく、心の底から思っての言葉なのだろう。

 

「お主たちから質問が無いなら、もうよいが」 

 

 里長のその言葉に頷き返し。一礼して僕らは部屋から出た。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 ロキさんと戦った際のケガは治ってるとはいえ、服はボロボロ、体はドロドロ。

 流石にこのままじゃベトベトして気持ち悪いし、お風呂に入るか。

 勿論サラ達と入るわけもなく、僕はシオンさんと一緒にお風呂に入った。

 

 僕たちはお風呂から上がり、ベッドに腰掛けてシオンさんと他愛のない話をする。僕らがエルフの里へ向かった後、何があったかをシオンさんは話してくれた。

 別段大きな事件は無く、いつも通りの平穏な日常の話だ。

 しばらくすると、サラ達もお風呂から上がり戻ってきた。

 体から湯気を立ち昇らせて、ツヤツヤのパジャマを着て。ツヤツヤ?

 

「あれ、それって」

 

「シルクで編んだパジャマですわ」

 

 シルクで編んだパジャマは良いけど、何でサラ達まで?

 

「皆さん一緒が良いと思いまして、(ワタクシ)が用意しましたの」

 

 つまり「皆でお揃い」をしたかったわけだね。

 ただサイズが少々合って無いようだ。主に胸が。

 アリアとフルフルさんにいたっては着れるサイズのパジャマが無かったのだろう。シルクのバスローブのようなものを着せられている。

 サラも胸がきついようで、ピチピチになっている。

 

「……なによ?」

 

「いえ、何でもないです」

 

 思わず胸に目が行ってしまった僕に、サラが少し屈みこみ、覗きこむように睨んで来たので、慌てて目をそらしておいた。

 いや、目が行くのは仕方ないじゃん? 当然、そんな事口には出せないけどさ。 

 

 今居る部屋にはベッドは4つで、僕とアリア、サラとリン、イルナちゃんとシオンさんとフルフルさんがそれぞれ一緒に座っている。

 そして、その様子を一通りキョロキョロ見てから、僕の隣に座るのかなと思いきや、そのまま素通りして残ったベッドに腰掛けたフレイヤさんが座った。何故かダンディさんは居ないのでぼっちになっている。

 動きが何となくギクシャクしていたから、本当は隣に座りたかったけど、言い出せず素通りしてしまったのだろうか?

 それなら声をかけてあげれば良かったかもしれないな。ちょっと可哀想な事をした。

 挙動不審な動きになってしまい、皆の注目を集めフレイヤさんの目が泳ぎだした。

 

「そういえば、イルナちゃんの護衛はシオンさんとフルフルさん以外居ないんですか?」

 

 なので、フレイヤさんに助け舟を出すつもりで、適当な話題をイルナちゃんに振ってみた。

 口に出してみて初めて疑問に思ったけど、王族なのに護衛が二人だけは少な過ぎるな。

 

「友好を結びに行くというのに、兵なぞワラワラ連れて行ったら不審がられるだけじゃろ」

 

 あ、そうか。

 平和的な話し合いに行くのに、兵士を沢山連れて行けば変に誤解されるし、下手をすれば侵略扱いされるか。

 とはいったものの、それでも二人は少ない気がする。

 

「それに、他の者が居ても息苦しくなるだけじゃ」

 

 そう言って、イルナちゃんは軽くため息をついた。

 

「なるほど」

 

 他の護衛はシオンさんやフルフルさんのような、どこか軽い感じではないと言う事か。

 考えてみれば、パッチさんとポロさんはイルナちゃん達に対して凄くペコペコしていたっけ。

 

「ちょっ、ちょっと待って。もしかして変な誤解されてるかもしれないけど、イルナ様に対して不敬なのはシオンだけだからね」

 

 フルフルさんは立ち上がり「心外だ」と言わんばかりに弁明している。

 いや、不敬って、別にそこまで思ってないけど。

 

「俺は不敬な働きをした覚えはないが?」

 

 シオンさんが、むっとした顔でフルフルさんに反論している。

 

「初めてイルナ様に越権した時『楽にするが良い』と言われて、胡座(あぐら)をかいて食事を始めたのは誰だったかしら?」

 

「それは楽にして良いと言われたから」

 

「限度があるでしょ!」

 

 楽にして良いと言われたから、楽な姿勢で食事を始めちゃったのか。

 うんうん。それなら仕方ない。……わけがない。

 

「しかもコイツ、剣の腕はめちゃくちゃ立つから『不敬だ』と言って他の兵士が斬りかかっても、全部返り討ちにするし」

 

「いや、襲い掛かられたら反撃するだろう。エルクもそう思うだろ?」

 

「えっ?」

 

 全く思わない。

 いやいやと否定しようとする僕に、シオンさんはいつものように「フッ」と軽く笑いかけて頷いてくる。

 いや、頷かれても肯定しないよ?

 

「コイツがその仕草する時、大抵良くわかってない時だから」

 

 こめかみを押え、溜息をつきながら諦めモードのフルフルさん。

 このやり取りには、どこか覚えがある。 

 

「なに?」

 

 僕の隣で、先ほどからシオンさんのセリフに軽く頷いているアリアを見る。

 

「お互い大変ですね」

 

「そうね」

 

 僕とフルフルさんは、同じようにため息をついた。

 

 ちなみに、その時シオンさんを助けたのはイルナちゃんだったそうだ。 

 シオンさんの態度に腹を抱えて笑い転げ、臣下にすると言ったらしい。

 もちろん反対の声が多かったが「妾が楽にしろと言ったのだ。責は妾にある。妾を咎められる者だけが、この者を責めよ」と言って黙らせたとか。

 その後。態度はともかく、剣の腕は良いので、気が付けばイルナちゃんの親衛隊として任命されたそうだ。

 

「フルフルさんも、シオンさんのように魔術の腕を見込まれて、イルナちゃんの親衛隊に選ばれたのですか?」

 

「いいえ、違うわ」

 

 フルフルさんは首を横に振った

 違うのか。

 

「私は確かに並の魔術師よりは優れていますが、あくまで並の魔術師と比べた場合はです」

 

「何が並よ。特級魔法を無詠唱で発動させてる時点でアンタも大概よ」

 

 サラが思わず口を挟んだ。

 気持ちはわからなくもない。無詠唱なんて上級魔法までがせいぜいだ。

 なのに彼女は特級魔法を無詠唱で扱うのだ。そんなのを並と言われては、サラも魔術師として黙っていられなかったようだ。

 それとも、魔族では特級魔法の無詠唱が珍しくないのか?

 

「あっ、いえ。すみません。その事も含めて話そうと思っていたのですが」

 

「そ、そう。わかったわ」

 

 少し恥ずかしそうにしているサラを尻目に、フルフルさんはコホンと一息つく。

 

「私は特級までしか使えないのに対し、超級魔法を扱える者が何人か居ました。なのでその者達に実力で劣らぬよう私は自らの体にストームガストの魔法陣を彫り、無詠唱で発動出来る様にしました」

 

「ちょっ、ちょっと待って。それって禁術じゃない!」

 

「禁術って……それは問題ないの?」

 

「はい。禁術ではありますが、罰せられることは特にありません」

 

「えっ。なんで問題にならないの?」

 

「もし魔法陣が失敗していても、私が死ぬだけですので大丈夫です」

 

 それは大丈夫と言わないよ。

 

「でも、そこまでしてイルナちゃんに忠誠誓うだなんて。フルフルさんは凄いね」

 

 僕だったらどうだろう。失敗したら命が無いと言われたら、それなら陰ながら見守るだけで良いと言って妥協していると思う。

 

「いいえ。普通です。イルナ様は私達のような下々の者にまで気にかけてくださる優しいお方。そのイルナ様を守るためなら、命は惜しくなどありません」

 

「へぇ、そうなんですか。命がけの努力をして、親衛隊になったんですね」

 

 正直イルナちゃんの為に命を掛ける理由が「それだけ?」と思ったけど、そこは価値観の違いだろう。

 もし僕がそれを口にすれば、フルフルさんは嫌な思いをするだろう。誇らしげに話すフルフルさんに対してそれは失礼だ。

 

「まぁ……親衛隊に選ばれた理由は、それだけじゃありませんけどね」

 

「他にも、何か理由があるのですか?」

 

 フルフルさんが舌打ちをして、シオンさんを指さした。

 

「コイツの教育係です」

 

 あぁ……納得。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 翌日。

 僕らは、エルフの里の入り口までイルナちゃん達を送った。

 

「エルフの里に来てすぐなのに、もう旅立つって。もうちょっと残っていっても良かったんじゃないですか?」

 

 まだ1日しか経っていないのに。

 そんな僕の問いに、イルナちゃん首を横に振る。その動きに合わせてサイドテールが可愛く揺れた。

 

「いや。妾は一度、国へ戻り今回の件を報告してこようと思う。ロキとやらの目的はわからぬが、あの力はほっておくわけにはいくまい」

 

 そっか。それなら、これ以上僕が引き留めても無駄だろう。 

 サラ達がそれぞれ別れの挨拶をしているけど、言いたい事が多すぎて考えがまとまらない。こういう時のために、気の利いた言葉のひとつやふたつ考えておけばよかった。

 

「エルク」

 

 何を言おうか悩んでいる僕の前に、シオンさんが立っていた。

 

「また会おう」

 

 そう言って、いつものように「フッ」と軽く笑いかけてくる。

 無理に気の利いた言葉なんて考える必要が無い。そう言われた気がした。

 だから、挨拶はきっと、これで良いんだ。

 

「はい。また会いましょう」

 

 僕らはエルフの里の入り口で、イルナちゃん達の姿が見えなくなるまで見送っていた。

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