剣も魔術も使えぬ勇者   作:138ネコ

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第20話「フレイヤの過去」

「エルク。話がある」

 

 里長とジャイルズ先生の話が終わり、部屋から出るとダンディさんが立ちふさがった。

 何となく、そんな予感はしていた。多分さっきの話だろう。

 僕は黙って頷く。

 

「私達は居ない方が良いかしら?」

 

「あぁ、そうしてくれると助かる」

 

「わかったわ。それじゃあ私達は先にお風呂入ってるから」

 

 サラはアリアとリンを連れて先に部屋に戻っていった。僕に気を使ってくれたのだろう。

 

「ここではなんだから、外で話すか」

 

「わかりました」

 

 彼女達を見送り、僕はダンディさんの後に続いた。

 外に出ると既に日は沈んでおり、エルフ達が夕飯の準備に取り掛かっている所だった。

 そんなエルフ達を横切り、門を出て、数分程歩いた。

 

「ここで良いな」

 

 立ち止まって振り返り、僕を見るダンディさん。

 こうして改めて対峙すると、身長差も相まって物凄く威圧的に感じる。

 両腕を組み、口をへの字にして黙り込んでいる。多分何を話すのか考えているのだろう。

 いきなり「肉体言語で語り合おう」とか言って殴りかかったりしないよね?

 なんて、空気に耐え切れずくだらない事を考えてみたけど、彼女ならあり得るから怖いんだよなぁ。

 

 1分くらい経っただろうか。

 ダンディさんは考えがまとまったようで、一息つくように、ゆっくりと鼻から息を出してゆっくり喋り出した。

 ……鼻息の威力が凄かったのは、言うまでもないか。

 

「そうだな。エルク。お前はフレイヤの過去だが、どれくらい知っている?」

 

「いえ、何も」

 

 彼女と会う前の事は、何一つ知らない。

 特に言われなかったし、聞かなかったからね。

 下手に詮索すれば、どんな地雷を踏むか分からない。だから冒険者はあまり過去の事を聞こうとしたりしない。僕らもそうやってきた。

 わざわざこんな所まで来て話すと言う事は、フレイヤさんに“そういう過去”が何かあるんだろうな。

 

「フレイヤだが、変だろ?」

 

「えっ……まぁ」

 

 変じゃないと否定する方が無理があるか。

 目をそらして、胡散臭い貴族っぽい喋り方をしていたと思ったら、急に馴れ馴れしくなったり。

 かと思えば、また余所余所しくなって話しかけて欲しそうにしてたり。

 人見知りのレベルを超えてる気がする。

 

「あいつがああなったのには、原因があるんだ」

 

「原因……それは、おいそれと話しても良いものなんですか?」

 

「おいそれと話す事が出来ないから、お前に話すんだ」

 

「は、はぁ」

 

 それは、10年くらい前の話だ。

 たまたま警備が手薄なときに、里をモンスターが襲撃した。

 その時にフレイヤさんの両親は、襲い来るモンスターから幼いフレイヤさんを庇うために戦い、そして命を落とした。

 冒険者をやっていれば良く耳にする、と言っては失礼だけど。ありふれた不幸話だ。

 ただ、彼女の不幸はそこで終わらなかった。

 

 フレイヤさんの母親の父、つまり祖父は生き残ったフレイヤさんに「お前のせいだ!」と言い放ったという。

 元々フレイヤさんの両親の結婚に対し、反対だった祖父からすれば、フレイヤさんさえ居なければ娘は逃げる事が出来たと思ったのかもしれない。

 カッとなった祖父はすぐに頭を冷やし、謝罪をしたそうだが、幼いフレイヤさんにとってはそれが深い心の傷になったそうだ。

 

「祖父はその時、怖がらせないように、とにかく笑顔で接したらしいが、それが余計に不味かったそうだ」

 

「どう不味かったのですか?」

 

「笑いかけて話しかけてくれる皆が、心の中では『お前が死ねばよかったのに』と言いださないか怖い。というのを、ずっと前にフレイヤから聞いたな」

 

 何とも酷い話だ。

 フレイヤさんの祖父が最初に取った行動はともかく、傷つけないように接した事で余計に傷口が広がってしまったなんて。

 そうか、だからフレイヤさんはいつも目をそらしているのか。怖いから。

 

「私も、最初の頃はフレイヤが泣くわ漏らすわで大変だった」 

 

 大変だった、ねぇ。嬉しそうな顔で何を言ってるのやら。

 聞いてるこっちがにやけそうになるようなノロケ話だ。

 

「ただやっぱりこのままじゃダメだと思ってな。長い間一緒に居たけど、アイツは一向に良くならない。それどころか、私に依存している」

 

 依存か。

 

「本当は私はもっと早くに里を出るつもりだった。でもアイツを置いて行くわけにはいかず、かと言って連れて行くわけにもいかない」

 

「あの、もしかしてペペさん達にちょっかい出していた理由って」

 

「あぁ。フレイヤの友になれる人物を探していたんだ。里の外の者なら大丈夫かもしれない。例え漏らしたとしても、里で漏らすよりはマシだと思ってな」

 

 あれはそういう狙いがあったのか。

 仲良くなるどころか、ペペさん達を怯えさせて全くの逆効果になってたけど。

 

「そんな時に、現れたのがお前達だ」

 

 う~ん。

 普段のダンディさんと違って、かなり真面目な感じでちょっと対応しづらいな。

 

 いや。そうじゃないか。僕がはぐらかしたいだけだ。

 もしもいつもの感じで変な事を言ってくれれば、僕もツッコミを入れて、ヘラヘラしながらはぐらかして話を流せる。けど今はそんな事出来る雰囲気じゃない事くらいわかっている。

 多分、フレイヤさんを僕らに押し付けようとしているのだろう。

 

 押し付けるという言い方は違うな。自分ではフレイヤさんを変えてあげる事が出来ないと分かっているから、僕らを頼ろうとしているんだ。

 

 本当はすぐにでも里を飛び出し、人族の麓まで下りて腕試しをしたいのだろう。そんな自分の気持ちを押し殺してまでフレイヤさんを見て来たんだ。嫌になったから他人に押し付けるなんて無責任な考えじゃないはず。

 だからこそ重い。その気持ちが重すぎて、軽い返事が出来ない。

 

「エルク。お前、エルフの里に住まないか? なんならフレイヤを嫁に貰っても良いだろう。あいつもお前の事は気に入ってるはずだ。ひょろがり基準で言えばフレイヤは美人だろう?」

 

「いえ……それは出来ません」

 

 エルフの里に住むか。

 フレイヤさんは美人だし、確かに美味しい条件だとは思う。

 でも僕が旅をしているのはお金の為だけじゃない、アリア達が居なければ僕は学園を卒業する事が出来なかった。もしかしたら他のパーティで、お荷物らしいみじめな生活をしていたかもしれない。

 だから、せめてそのお礼に何か力になりたい。

 

「どうしても?」

 

「どうしてもです」

 

「そうか。わかった」

 

 思ったよりも諦めが早いな。

 もうちょっと食い下がると思ったのに。

 

「それなら代わりに一つ、頼みがある」

 

「そうですね。僕に出来る事で良ければ」

 

「もしフレイヤがお前達と一緒に旅に出たいと言い出したら、お前は賛成してやってくれ」

 

 別に賛成はしても良いけど、エルフの耳が隠せないから無理だと思う。

 

「でも、フレイヤさんは耳が……」

 

「大丈夫だ」

 

 大丈夫だって、もしかしてマッスルさんみたいにフレイヤさんの耳を切り落とすつもりだろうか。想像してちょっとだけ背筋がぞっとした。

 それは大丈夫といわない気がするけど。でもそこまでするなら僕に反対する気は無い。というかもとより反対するつもりはない。

 

「わかりました。でも僕だけで良いんですか? アリア達も呼べば良かったのに。きっと賛成してくれると思うのですが」

 

「アリアやリンなら二つ返事で『うん』と言ってくれるだろうが、サラが癇癪(かんしゃく)を起こすだろう?」

 

 起こすね。確実に。

 

「かと言って、サラだけを除け者にして、アリアとリンを呼んでこの話をしても、癇癪を起こすだろ?」

 

 起こすね。確実に。

 サラの性格を考えれば、僕だけを呼び出すのがギリギリのラインだ。

 ダンディさんなりに、色々考えてくれてはいるようだ。 

 

「よし。それでは私の話も済んだし、そろそろ戻ろうか。若い男女が暗い森の中に消えていったとあれば、変な噂を立てられかねない」

 

 あぁ、うん。若い男女ね。

 あれ? そういえば。

 

「所でダンディさんとフレイヤさんって、年齢はいくつなんですか?」

 

「私が18で、確かフレイヤが14だな」

 

 フレイヤさんは僕らより年下だったのか。

 

「それがどうかしたか?」

 

「いえ、ちょっと気になっただけです」

 

 エルフは長命だから、見た目と年齢が必ずしも一致するわけじゃないからな。今回は見た目通りの年齢だったけど。

 

 里に戻る頃には、夕飯が出来ていた。サラ達はまだ居ない。お風呂に入っているのだろう。

 待つのもなんだから、先に料理を皿に盛り付け、適当な場所で食事にした。サラ達が来たら、僕が入れ替わりでお風呂に入るかな。

 しばらくすると、どこからともなく戻ってきたフレイヤさんが、僕らの姿を見つけ少々挙動不審気味に近づいてきて、僕の隣に座り一緒に食事を始めた。ダンディさんとの会話はどこかギクシャクしている。

 まぁ仕方がないか、さっき喧嘩したばかりだし。ただ二人とも僕越しに会話を広げるのは、ちょっとやめてほしいかな。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 翌朝。

 ジャイルズ先生は、マッスルさんとダンディさんを引きつれ里を出た。

 見送りに来たフレイヤさんは、相変わらずダンディさんとギクシャクしたままだった。

 

 里を出るジャイルズ先生に、紙に描いた石碑の模様を渡しておいた。

 石碑は一通り見ておいたおかげで、完全に覚えておくことが出来たので一晩かけて紙に描いた。

 もしかしたら、これが『神級魔法』の手掛かりになるかもしれないし。

 

 ジャイルズ先生を見送り、僕らは里の調査を再開した。

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