剣も魔術も使えぬ勇者   作:138ネコ

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第2話「関所」

 旅を続けて数日。

 僕らは国境沿いの関所についた。

 

「これは、関所と言うよりも町だね」

 

 僕は馬車から外の様子を見ながら、独り言のように呟いた。

 国境には、地平線まで続くのではないかと思う程に長く伸び、どう考えてもよじ登ったり飛び越えたりは出来ないだろう高い壁がそびえ立っている。その壁を越えた先がレスト共和国の領地だ。

 壁の周りには商店や酒場、宿場に馬小屋など様々な建物が立ち並んでいる。

 宿場町よりも規模が大きい。

 

「原因はアレね」

 

 サラは馬車から顔を出して、ウンザリしたような顔をした。

 関所には長蛇の列が出来ている。

 

 他の国へ出入りする際には、入国管理のチェックを受けさせられる。

 荷物は入念にチェックされ、物によっては税金がかかったり、場合によっては取り上げられたりもする。

 他の国へ行くのだから、当然と言えば当然か。怪しい物を持ち込んでも、持ち込まれても困るわけだし。

 それ故に時間がかかり、ここで入国許可が下りるまで立ち往生する事も珍しくないそうだ。

 そうした立往生をする人達をターゲットにして、色んな店が並び、段々と大きくなっていったのだろう。

 

「お店の人、あまり声をかけてこないね」

 

 速足程度の速度で馬車を走らせながら、アリアが少し不思議そうにしている。

 今までは宿場町に着くと、色んな人が物を売りに話しかけてきたけど、ここでは話しかけられる事は無い。

 

「リン達が貧乏だと思われてるからですか?」

 

 そう言って、小首を傾げるリン。

 

「違うよ。ほら、お店に並んでいる商品を見てごらん」

 

 僕がお店の商品を指さすと、リンに釣られサラ達も一緒に商品を見た。

 あぁ、アリア。キミは前を見ててね。

 

「ここらの商店や露店で売られている物は、持ち込みが禁止されているか、税金が高くてレスト共和国に持ち込めない物ばかりなんだ」

 

 店に並んでいる商品は、どれもガルズ王国から、国外へ持ち出すのが難しい物ばかりだ。

 この辺りの商店では、そういった品物を持ってきた商人や旅人から安く買い取り、出国してきた商人や旅人に売りつけるという商売をしている。

 僕らは関所へ向かっているのだから、そんな商品は買えないのをわかっている。なので商人たちは僕らを見ても売りつけようとしないのだ。

 

「すごーい。エルク君詳しいね!」

 

「うん。一応下調べはしておいたからね」

 

 フレイヤさんの褒め言葉はいつもストレートだから、ちょっと恥ずかしくなったりする。

 変な含みが無い純真無垢な言葉だから、素直に受け取れるのだけど、素直過ぎてどうにもね。

 僕らはそのまま関所へ向かい、入国管理待ちの列に並んだ。

 下調べをしておいたから、入国管理に引っかかる様な物は、事前に処分しておいた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 受付で入国審査を受け、僕らの持ち物を調べられたが、特に問題は無かった。

 

「おい。そこのお前。その仮面はなんだ?」

 

 だけど、予想通りというべきか。関所の役人さんにフレイヤさんが呼び止められてしまった。

 それもそうだ。顔を隠して他の国へ渡ろうとするなんて、普通に考えれば犯罪者やそれに準じた連中である可能性が高い。

 例えそうでないとしても、怪しい事には変わりがないのだ。

 そして怪しい連中というのは、大抵ろくでもない事を起こす。

 となれば、怪しいピエロの仮面を被ったフレイヤさんがほっとかれるわけがない。

 

「その仮面を外しなさい」

 

 やや強張った表情で、役人さんはフレイヤさんに仮面を外すように促している。

 ここで仮面を外せば、フレイヤさんがエルフだと周りにばれて厄介ごとが起きる可能性が高い。

 かと言って、外すのを拒めば通してはもらえないだろうし。

 

「お前。聞いているのか!」

 

 そんな事を考えている間に、役人さんが少々興奮気味になっている。

 フレイヤさんのいつもの人見知りで顔を逸らしているのが、仮面のせいでわざとそっぽを向いているようにしか見えないからだ。

 様子がおかしい事に気付いたのだろう。周りから注目が集まっている。

 

「ちょっと待ってください。僕らは領主様に言われて宗教都市イリスへ向かっているんです」

 

 今にもフレイヤさんに掴みかかりそうな勢いで、一歩踏み出した役人さんの前に僕は立った。

 

「領主様だ?」

 

「はい。その証拠に領主様の書状もあります」

 

 そう言って僕は領主様に書いて貰った手紙の入った封筒を取り出し、役人さんに渡した。

 が受け取った役人さんは、その封筒を軽く見ただけで鼻で笑い、ポイッと僕に投げ返した。

 

「貴様らのような怪しい連中に領主様が? そんなもの信じられるわけがないだろう!」

 

「それでしたら、この手紙をここの所長に渡して頂ければ」

 

「ふざけるな! お前らのような連中に騙されて、偽物の領主の手紙なんかを渡せば、俺が笑い者にされ処罰を受けるだけだ」

 

 ダメだな。聞く耳を持たないって感じだ。

 それなら他の役人に話してみるか? いや、多分結果は同じだろう。

 初めから手紙を出しておけば、もっとすんなりいけたかもしれないけど、ここまで騒ぎ立ててしまっては、他の役人も僕らの話を真面目に聞いてくれないだろう。

 

 気づけば甲冑を身に纏った衛兵が取り囲むように、僕らの周りに立っていた。

 剣に手をかけようとしているアリアに向かって、僕は首を横に振る。アリアがそれに手をかけたなら、多分彼らは即座に僕らを排除しにかかるだろう。

 

「何があった?」

 

 衛兵の1人。中年の男性が役人の元まで歩いて来た。

 彼の声に反応し、他の衛兵が道を開けたところを見ると、この中年男性はそれなりの役職に就いた人物なのだろう。

 

「怪しい奴らだったので呼び止めたのですが、偽物の領主の手紙を取り出し始めたので……」

 

 衛兵に僕らの事を説明する役人だが、話が少々盛られている。 

 一通り話を聞き。中年の男性は僕らを一瞥し、一息ついた。

 

「なるほど。確かに怪しい連中だな。捕らえろ」

 

「待ちなさい!」

 

 中年男性の命令で、他の衛兵が動くよりも先に、サラが動いていた。

 

「私はレイア家の娘。サラ=レイア。ワケあって仮面の少女とイリスまで行く旅の道中よ」

 

 そう言って、サラは大蛇と剣の紋章が入ったペンダントを取り出した。

 

「今度は貴族のレイア家と来たか。次から次へと、良くそんな偽物を出せるものだ」

 

 役人が鼻で笑うと、他の役人や衛兵、それに周りの人達も、僕らを馬鹿にするように乾いた笑いをしていた。

 どうしよう。このままでは冤罪をかぶせられるのはわかりきっている。

 手紙を読んでもらえればわかってもらえるかもしれないけど、確認されずに破り捨てられてしまったら、それでおしまいだ。

 

 逃げようにも周りには人だかりが出来ているし、僕らを囲むように衛兵が立ちふさがっている。

 下手に抵抗しようものなら、ここで切り捨てられるだろう。

 かと言って、免罪を被ればどうなる?

 領主の手紙の偽物を渡そうとしたんだ。下手をすれば死罪だって、ありえない話ではない。

 

「いや……これは……」

 

 中年男性の言葉に、ピタッと乾いた笑いが止まる。

 

「手紙は確認をしないと分からないが、少なくともこの紋章は本物だ」

 

「へっ?」

 

 あれだけ勝ち誇った顔で僕らを馬鹿にしていた役人さんが、顔を真っ青にして冷や汗を垂らしている。偽物だと思っていたら、本当に貴族様でした。だもんね。そりゃあそうなるか。

 

「あ、あの」

 

「貴様への処分は後ほど下る。覚悟をしておくのだな」

 

 縋るように中年の衛兵に声をかけた役人さんだけど、バッサリと切られるような冷たい態度で突き放され、今にも泣きそうになっている。

 本当にこの後、バッサリと斬られるかもしれないから当たり前か。貴族への態度を考えれば当然なんだけど、流石に可哀想だ。

 何とかしてあげたい所だけど、僕じゃどうにも出来ないし。

 チラッとサラを見ると、目が合った。サラはバツの悪そうな顔をして、すぐさま僕から目を逸らした。

 

「その男への処罰は、鞭百叩きで良いわ」

 

「しかし」

 

「何か不服でも?」

 

「いえ。わかりました。寛大な処分、感謝いたします」

 

 中年の衛兵は、サラに対し腰を90度まで曲げ、綺麗なお辞儀を見せた。

 先ほどの役人は、その隣で頭をこすりつけながら土下座をして「ありがとうございます」と何度も叫んでいる。

 

「所長の部屋まで案内いたします」

 

 中年の衛兵に道を譲るように、人垣が割けた。前をスタスタと歩く衛兵に僕らも続いた。

 

「驚かせたのなら、ごめんなさい。黙ってるつもりは無かったんだけど、言い出せなくて……」

 

 な、なんだって! サラは貴族の娘だったのか!?

 いや、知ってたけどね。前にリンが話してくれたし。

 

「気にしなくて良いよ。僕も知ってて黙ってたし」

 

「はぁ?」

 

「いたっ」

 

 頭を殴られた。痛い。

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