剣も魔術も使えぬ勇者   作:138ネコ

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第6話「3人の冒険者」

 僕らは馬にまたがり、草原を駆けて行く。

 と言っても僕とフレイヤさんは乗馬経験が無いので、僕はサラの後ろに、フレイヤさんはアリアの後ろに乗せてもらっている。

 

「ったく、何で私達が」

 

 独り言のようにブツブツと文句を言うサラに対し、僕は「まぁまぁ」と言って宥める。

 僕は自分の荷物をちらりと見て、軽くため息を吐く。

 せっかく作ったお弁当だが、多分この揺れで中身はぐちゃぐちゃになってるんだろうな。仕方がないか。

 

「そういえば、今回は何も言わずに来てくれたね」

 

 普段のサラだったら「そんな奴ら、ほっとけば良いのよ」と言って、依頼をキャンセルするまではいかなくても、多少はごねるだろうなと思ったけど。

 他のパーティが勝手に行ってしまったのは僕らに落ち度があるわけじゃない。なので例えキャンセルしたとしても、違約金を請求されることは無い。

 この事は、勿論サラも知っているはずだ。

 

「どうせ、私が行かないって言っても、アンタは行くっていうんでしょ?」

 

「うん」

 

 僕の返事に対し、サラはわざとらしいため息をつく。

 

「アインに行きたいっていう私のワガママに付き合って貰ってくれてるんだから、アンタのワガママに付き合っても良いかなと思っただけよ。そうでもなかったら、先に行ったパーティなんてほっとけば良いと思ってるわ」

 

 サラの気持ちは分からないでもないけど、ほっておくわけにもいかないからね。

 単独で受けるには危険な依頼だから、ギルドは複数パーティで受けるようにしたわけだし。

 もしここで、ほっておいた結果。そのパーティは全滅しましたとあっては後味が悪い。

 その場合、そのパーティメンバーと、仲の良い人から恨みを買う可能性だってあるわけだし。

 

「ところで、他のパーティは何で先に行っちゃったです?」

 

 僕らの横に馬を近づけ、リンが会話に混ざってきた。

 先に行っちゃった理由か。

 

「先に行って討伐して報酬を独り占めしたかったからじゃないの?」

 

「いや。討伐報酬は歩合制じゃないから、変わらないよ」

 

 なので楽をするために遅れてくるならともかく、早く行く理由は無い。

 

「なんにしても、勝手に行ったことを文句くらいは言わせてもらうわ」

 

「程々にね」

 

 苦笑いを浮かべつつ、アリア達を見る。

 フレイヤさんはずっと森で生活していたからか、珍しい物を見つけるとすぐに目を奪われてどこかに行こうとしてしまうから、普段からアリアが手を握ったりして、迷子になったりしないようにしている。

 今もフレイヤさんが周りを見てキョロキョロしているのを、アリアは落ちないようにサポートしながら馬を走らせているのが見えた。

 予定よりも早い正午前に、僕らは村に着いた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 僕らは目的地の山に足を踏み入れた。

 山に住むブラウンジャッカルが最近大量発生し、山を下りては近くの農村へ多大な被害を出すようになったので、この山に居るブラウンジャッカルを討伐するのが今回の依頼だ。

 

 「ったく。なんなのよもう!」

 

 サラが声を荒げながら、ズンズンと前を歩いている。

 サラが怒るのも無理が無いか。というのも。

 

「アンタらも依頼できた冒険者か? 随分遅かったじゃないか」

 

 と村について早々、僕らに投げかけられた言葉は遅れて来た冒険者を、非難するような言葉だった。

 一応経緯は説明したものの、村人たちの理解は多分得られていないと思う。

 早くどうにかして欲しいから料金を上乗せで依頼を出したのに、遅刻した冒険者が言い訳をしている。彼らの目にはそう映っているのだろう。

 

「良いから、さっさと行ってくれ」

 

 結局、こちらの言い分をちゃんと聞いてもらえなかった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 サラがブツブツと文句を言って、その隣でうんうんと頷きながら同意をするフレイヤさん。

 そんな二人の後を僕、アリア、リンが付いて行く。

 

「ところで、どこに向かっているの?」

 

「知らないわよ!」

 

 いや、知らないって。

 サラはそれなのに前を歩いていたのか。つい最近森で迷子になったばかりだというのに。

 あっ、でもフレイヤさんなら森に詳しいし大丈夫か。

 ここは山だけど、森と大差ないし。

 

「フレイヤさん。どこに向かってるんですか?」

 

「えっ? 知らないよ?」

 

「じゃあ、なんで二人とも、何で前を歩いているの」

 

「サラちゃんに付いてってるだけだよ」

 

「フレイヤ。アンタ森だから道分かるんじゃないの!?」

 

「えっ。だってここ知らない森というか山だから、わからないよ。私」

 

 サラとフレイヤさんが、お互いを「えっ?」という感じで見ている。

 どうしようか。これで遭難なんて事になったら、もう依頼どころじゃない。

 

「エルク。落ち着くです」

 

「うん。落ち着いてはいるけど、このままじゃ僕ら遭難しちゃうよ?」

 

「大丈夫です」

 

 リンはそう言って、近くの木を指さした。

 リンの指さす木を見ると、引っ掻きキズのような物が。

 

「こんな事もあろうかと、道中マーキングしておいたです」

 

 一定間隔ごとに、木にキズが付けられている。

 

「ありがとう。リン。助かったよ」

 

 僕はそう言って、リンの頭を撫でる。

 これで遭難する危険は回避出来たようだ。

 後はブラウンジャッカルの縄張りを見つけて、駆除するだけか。

 

「となると、後は先に行ったパーティを見つけるか、依頼の為にブラウンジャッカルを探すだけだね」

 

「それなら、多分あっちです」

 

「あっち?」

 

 リンの指さすあっちを見るが、木々がうっそうとしているだけで何も見えない。

 

「ずっと先に、モンスターが集まっている気配があるです」

 

 僕にはわからないけど、リンには『気配察知』でモンスターが集まっている場所がわかるようだ。

 モンスター(多分ブラウンジャッカルだろう)が集まっていると言う事は、そこで冒険者パーティが戦っている可能性がある。

 もし冒険者パーティが居ないとしても、討伐の依頼なのだから迂回する必要はない。

 お礼の意味を込めて、更にリンの頭を撫でると「チッ」と照れ隠しの軽い舌打ちをされた。

 

「リン。集まってる場所まで案内してくれる?」

 

「はいです」

 

 リンを先頭に、僕らは森の奥へと進んで行った。

 もちろん、道中のマーキングは忘れずに。

 森を進んでいくと、段々空気が変わっていった。血の匂いだ。

 段々と犬の威嚇するような声が聞こえてくる。どうやら戦闘中か。

 

「急ごう」

 

 僕の言葉に皆が頷き、駆けだした。

 走った先には、冒険者らしき3人組と、それを取り囲む大量のブラウンジャッカルが居た。周囲には冒険者達が倒したのだろう。ブラウンジャッカルの死体が無造作に転がっている。

 

「一気に突き抜けるわよ。フレイヤ手伝いなさい」

 

「うん。サラちゃん、私は何すれば良いの?」

 

「このまま走りながら、アイスボルトで直線状に居るブラウンジャッカルを殲滅して、冒険者達と合流するわ」

 

「わかった」

 

「エルク達も、足を止めずに走るのよ」

 

 サラが後ろに居る僕達に振り返り、そう言った。

 それに対し「わかった」と返事をして、走る速度を上げる。

 

「ウンディーネよ、我が腕を弓にせん、水初級魔法(アイスボルト)

 

 サラとフレイヤさんが腕を前に出すと、大量のアイスボルトが発射された。

 僕らの直線状に居たブラウンジャッカルの群れに、サラ達のアイスボルトが襲い掛かる。

 体を貫かれ、絶命するものも居れば、当たりはしたものの致命傷を逃れたものも居る。

 アイスボルトを避けるために、直線状にいるブラウンジャッカルはその場から飛び跳ねるように移動した。残っているのは死体だけだろう。これで道が出来た。

 

 冒険者らしき3人と合流する。

 1人は男性と見間違うほどに短髪にした剣士(ソードマン)の女性。シャツとショートパンツの上からビキニアーマーを着こんでいる。

 もう1人はややぽっちゃりしており、おどおどした感じが印象的な女性。杖を持っているから魔術師(マジシャン)だろう。

 

「アンタらも依頼できた冒険者か? 随分遅かったじゃないか」

 

 そして最後の1人。僕より一回りくらい年上っぽい青年が、笑みを浮かべ、片手を上げて先ほど村で聞いたようなセリフを言った。

 流石にこれはサラが怒るかな。そう思った瞬間には、もう既にサラがキレた後だった。

 青年はサラの渾身の一撃を貰い、地面とキスをしていた。

 

「えっと。あのごめんなさい」

 

 ランクを考えると、彼は勇者だろう。

 なので、先に剣士の女性に謝っておいた。もう一人の魔術師の女性よりも、彼女の方が堂々としているので、多分彼女がリーダーだと思う。

 

「いや、良いよ。嬢ちゃんが怒っているのは、アタシ達が先に出発したのが原因だろ?」

 

「えっと。まぁ、はい」

 

「なら仕方ないね」

 

 意外な事に、すんなりと謝罪を受け入れて貰えた。

 

「そう。じゃあもう一発こいつを殴っても良いかしら?」

 

「そうだね。まずは依頼を終わらせてからにしてもらっても構わないかい?」

 

「わかったわ」

 

 話はまとまった。

 この男性をそのままにすると戦力が減ってしまうし、誰かが足をひっかけて転んでしまう可能性もある。

 僕は彼に手を貸し、起こした。

 

「イテテテ。すまん、助かるよ」

 

 彼は後頭部を擦りながら、僕の手を引き起き上がった。

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