剣も魔術も使えぬ勇者   作:138ネコ

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第8話「動機」

 枯れたヤドリギウツボを見上げながら、ゾフィさんは苦笑いを浮かべる。

 スキールさんとケリィさんは、その隣でポカーンと口を開けて、ゾフィさんと同じようにヤドリギウツボを見ていた。

 

「おいおい。これは一体どうやったんだい?」

 

 僕の方を見ずに、相変わらず苦笑いを浮かべたゾフィさんが言った。

 

「えっと。ごめんなさい。どうやったかは説明することができません」

 

「あー。企業秘密って奴か」

 

「えっと。はい。そうなります」

 

 イルナちゃんに教え広めないように言われてるから、おいそれと教えるわけにはいかない。

 

「そうか。なら良い。それより、討伐証明として持って帰れる部位がないか探すよ」

 

 どうやって言いくるめようか考えていたのだが、ゾフィさんはすんなりと詮索するのを諦めてくれた。

 冒険者の暗黙の了解というやつだ。

 

 いわゆる『ワケあり』な人が、冒険者には少なくはない。なので無理に詮索しないというのが、冒険者の中で暗黙の了解になっている。ギルド側もそういった連中を見て見ぬ振りをするために、素性はあえて聞かないようにしている。

どんな経歴を持った人物であろうと、依頼をこなして問題を起こさなければ、冒険者もギルドも何も干渉してこない。

 

「あったあった。コイツがヤドリギウツボの雄しべ。いわゆるチ●コだね」

 

 言い方!

 何がおかしいのかゲラゲラ笑いながら、僕の腕の長さ位はあるだろう雄しべをブラブラさせている。

 顔を真っ赤にして「すみません」と連呼しながら、ゾフィさんをやめさせようとするケリィさんだが、軽くいなされている。多分、このパーティで一番苦労している人なんだろうな。

 

「そんな事よりも、そろそろ良いかしら?」

 

 サラは不機嫌ですと言わんばかりに、腕を組み、いつものチンピラのような表情をしながら低い声で言った。

 いつ不満が爆発するか不安だったが、律儀にも依頼が終わるまで待っていてくれた。

 

「あぁ。そうだった。アタシ達が先に出発した理由だったね」

 

「それについては、俺が説明しよう」

 

 ゾフィさんに代わり、スキールさんが出てきた。

 

「俺達が先に出た理由。それは、正義のためだ」

 

 得意気に語るスキールさんを見て、サラの中で、ブチンと何かが切れる音がしたのが聞こえた気がした。

 

「あぁん?」

 

 サラが動くよりも早く、僕はサラを後ろから羽交い締めにして止める。

 

「何よ。エルク離しなさい! アンタあのバカの肩を持つつもりなの!?」

 

「違うよ! 落ち着いて! 最後まで話を聞いてからにしよ? ね?」

 

 必死に宥めようとするも、サラは聞き入れてくれない。

 こうなったら、流石に僕だけじゃ抑えきれない。

 

「二人とも、落ち着くです」

 

 僕らの服をクイっと引き、リンが言った。

 サラもリンの言葉は素直に聞いてくれる、少しだけ大人しくなってくれた。

 

「エルク。もう手遅れです」

 

 リンが指差す。そこには既に殴り倒されたスキールさんが。やったのはアリアか。

 アリアは僕らに向かって親指を立てている。いつも通り無表情だけど、どこか自慢気に見える。

 

「アリア。アンタやるじゃない」

 

 嬉しそうな声を上げ、サラはアリアに親指を立てて返している。

 僕はため息をつき、サラを解放した。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

「すみません。大丈夫ですか」

 

「イテテテ。あぁ、大丈夫。慣れてるからね」

 

 僕は手を差し出し、スキールさんを起こした。

 

「慣れているって、いつもこんな事をしているんですか?」

 

「いや、いつもというわけではないけど。まぁ良くあるかな」

 

 良くあるのに懲りないのか。流石にそれはどうかと思う。

 

「でも大抵は怒ってそのまま帰っていくんだけど、残ったのはキミ達が初めてかな」

 

「ええ。理由が気になるので」

 

「理由? だから正義のために」

 

 ちょっとイラっとしたが、ここは我慢だ。

 

「なぜ早く出発する事が正義のためになるのですか?」

 

「緊急性が高い依頼だからさ。急を要する依頼なのに、わざわざ待っていたら被害が大きくなる一方だろ?」

 

「ですが、それで他の冒険者を待たずに出発したら、今度はスキールさん達が危険な目に会う可能性だってありますよ?」

 

 先走った結果、仲間がケガをしたり死ぬ危険性だってある。

 それくらい、わかるはずだろう。

 そんな僕の言葉に対して、スキールさんは首を横に降る。

 

「エルク。確かにキミが言いたいことはよくわかる」

 

「じゃあ。どうして」

 

「武器を持った俺達が危険な目に合うということは、戦うすべをを持たない村人達は、もっと危険に晒されてるんだ」

 

 返す言葉がなかった。

 彼が言っていることは、ただの綺麗事で、理想論で、純粋すぎるが故に幼稚とも取られる正義感だ。

 そして、それは僕の抱いている理想でもある。だから何も言い返せなかった。

 

「……笑わないのか?」

 

「笑いませんよ」

 

 もし僕が彼を笑ったら、それは僕の中の何かが壊れてしまうだろう。

 

「キミは、お人好しだな」

 

 そう言ったスキールさんの声は、心なしか嬉しそうだ。

 

「とまぁ、偉そうな事を言ってはみたけど、俺自身は対して実力も無い勇者だから、ゾフィとケリィに頼ってばかりなんだがな」

 

 そう言って、スキールさんは後頭部をさすりながら、苦笑気味に笑った。

 その姿に、少し前の僕がダブって見えた。

 

「あのさ。サラちょっと相談があるんだけど、良いかな?」

 

「良いわよ」

 

 彼の手伝いがしたい。それが僕の今の考えだ。

 だけど僕一人ならともかく、パーティだから勝手に決める事は出来ない。

 出来ればサラ達に納得してもらいたい。

 相談があると言っておきながら、なんと切り出すべきか、言葉に詰まった。

 

「だから、良いわよ」

 

 ん?

 

「どうせアンタの事だから『彼等の手助けがしたいです』とか言いたいんでしょ」

 

「あ、はい」

 

 ズバリそうです。

 

「アインに行くまでの間で、ちゃんと報酬が出る依頼でやる分には私は構わないわ。もちろん何も言わずに、また勝手に行ったりしたら殴るけど」

 

 サラは「リンもそれなら良いわよね?」と言って、リンからも了承を得てくれた。

 

「アリアやフレイヤも、アンタの意見なら従うでしょ」

 

「あっ、うん。ありがとう。でも僕が言いたい事、良くわかったね」

 

 わかった事よりも、理解を示し賛成してくれたことの方が驚きだけど、その事は口に出さない方が良いだろうな。それを口にしたら、きっと不機嫌になりそうだし。

 

「短い付き合いってわけじゃないんだし、アンタの言いそうな事くらいわかるわよ」

 

 そう言うとため息をついて、両手を上げやれやれといった感じに首を振っている。

 

「という感じでまとまったので、同じような依頼があった場合、僕らも手伝いたいと思うのですが、どうでしょうか?」

 

 振り返ってスキールさんを見る。

 僕らの様子を見ていたスキールさんは、少しだけ驚いた表情をしていた

 

「本当かい!? 助かるよ! 是非お願いしたい」

 

 お互い頷き、握手を交わした。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

「一緒に行かなくて良いんですか?」

 

 村の外まで出た僕らは、馬にまたがっていた。

 行きの時と同様に僕はサラの、フレイヤさんはアリアの後ろに乗せてもらいながら。

 

「あぁ、僕らは歩きだし、村の人たちの誤解を解いてから行こうと思う」

 

 誤解、あぁ僕らが遅刻したと思われている事か。

 討伐が終わった後の、村人の塩対応はちょっと厳しいものがあったな。

 それを見かねたスキールさん達が色々と説明をしてくれたんだけど、どうにも納得した様子ではなかったし。

 

「村の方で誤解が解けたら急いで街に戻るよ。困ってる人はまだまだ沢山いるはずだからな」

 

 そう言って手を振るスキールさん達と別れ、僕らは街に戻った。

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