剣も魔術も使えぬ勇者   作:138ネコ

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第12話「リン」

 

「その……俺、剣を持って相手と向かい合えないんですよ」

 

 剣を持って向かい合えないのに、剣術が使える?

 嘘くさいない?

 

 まるで「ふっ。俺が本気出せば、町一つ潰すの余裕なんだが?」ってくらい嘘くさい。

 だけど嘘だと決めつけるのは良くないか。そうだ、なにか技をやってもらおう。

 確か地剣術の基本技で『瞬歩』と言ったっけ? それをやってもらえばわかる。

 問題は「嘘っぽいので技やってください」は流石に失礼過ぎるし、どうやって切り出すべきか。

 

「それじゃあ、何か技をやってみて」

 

 アリアがバッサリいった! 誰もが思うけど、誰もが口には中々出せない事を。

 彼も「ははっ、そうだね」と笑っている。もしかしたら、他の人に同じような事を言われた事があるのかもしれない。

 

「それじゃあ……」

 

 そう言って彼はその場から消えた。違う、『瞬歩』で一瞬のうちに移動したのか。

 左右を確認して見るが、姿が見えない。どこに行ったのだろうとキョロキョロとしている僕の事を、アリアが指差している。

 

「えっと。僕に何か用でした?」

 

「違う。後ろ」

 

 振り返ると彼が居た。

 アリアは目で追えたようだが、僕には一瞬彼がブレたと思ったら、そのまま消えたようにしか見えなかった。

 

「素晴らしい足さばき。それだけ出来るなら剣士としては十分」

 

「うん。だけどさっき言った通り、俺は向かい合って戦う事が出来ないんだ」

 

「なんで向かい合う事が出来ないんです?」

 

「そうだね。どこから話そうか」

 

 彼はポツリと身の上の話をし始めた。

 彼の名はアルフ16歳。剣術の道場を生業にする家庭に四男として生まれたのだが、3人の兄達から”修行”と称して普段からイジメを受けて育ったせいで、気づけば悪意を持った相手に向かい合うと、足がすくんで動けなくなるようになってしまったのだとか。

 両親も歳をとり、道場を誰が継ぐかで兄弟仲も悪くなった折に、後継者争いに巻き込まれるのはごめんだと家を出たは良いが、仕事が見つからず。冒険者になってみたがモンスター相手でもやはり足がすくみ、結局勇者になるしかなかったのだと。

 

「このままで、良いんですか?」 

 

「良くはない……かな」

 

「それならギルドに相談してみるとか」

 

「一度ギルドの方に相談したことがあるのですが、もしパーティを抜けた場合、『一度そういった理由で抜けた場合、どちらに非があったとしても他のパーティが貴方を誘いたがらないと思いますが、それでも宜しいですか?』と言われました」

 

 昨日父に聞いた話と一緒だ。変なタイミングで勇者に抜けられた場合、パーティも勇者も”曰く付き”になるから敬遠されると。 

 

「なので、ジーンさん達がCランク辺りになって、俺が不要になるのを待つだけです。そうすれば他のパーティに自然に入れるので……」

 

 時間が解決してくれるか。なんとも消極的な話だ。

 それじゃあ後回しにしていた、もう一つ疑問を聞いてみよう。

 

「ところで、ジーンさん達は依頼なのに別行動なのですか?」

 

「勇者必須の依頼以外は、基本的に俺以外の3人で行ってますね。俺は参加していないから分け前は無しになるので、こうやって薬草採取依頼とかを受けて何とか凌いでますよ」

 

 何とも酷い話だ。良い所だけ使って後はポイ。

 立場が弱いから、それでも何も言えないのか。

 

 何とかしてあげようにも、何も出来ず歯がゆい、アリアも何も言い出わず、無表情のまま見ているだけだった。

 適当な雑談をしながら薬草採取を再開し、ほどなくしてアルフさんは籠が薬草でいっぱいになったので町へ帰って行った。

 

「おせっかいを焼くのは良いけど、自分から変わる気のない人間を相手にしても無駄よ」

 

 サラが少し不機嫌そうに言う。

 どうもサラは『勝手に決める相手』『受け身な相手』には少々攻撃的になる所がある。あまりそういう態度は良くないと思うし、機会があればちゃんと話しておきたいが、多分今話すと逆鱗に触れる気しかしない。

 アリアがサラに何か言いたげにしていたので、首を振って何も言わないようにさせた。

 下手な事を言って地雷を踏めば、怒ったサラの小言でアリアが泣くか、サラの怒りの矛先が僕に向かうだけだ。

 どっちにしろ被害をこうむるのは僕だからね!

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 日も沈みかけてきた。

 今日の晩御飯は何にしようかな? そんな事を考えながら町に帰る。

 

「今日はエルク、頑張ったです」

 

 唐突にリンが僕を褒めだした。いや、ゴブリンを1匹倒したくらいで頑張ったと言われても。

 確かに初めて倒した時は嬉しくて叫んじゃったけど、彼女達の実力と比べるとまだまだだ。

 

「皆の方が凄いよ。僕なんてサポートしてもらってやっと1匹だし……」

 

「という訳で、今日の料理当番はサラとアリアです」

 

 そんな事ないよと謙遜する僕の発言はスルーされ、アリアとサラが料理当番をリンから命じられた。

 もちろん二人は「はぁ?」となるが、「今日はエルクは頑張ったからやるです」とリンが強引に押し切る形になった。

 なんで私が、とかぶつぶつ言いながらも、サラがちょっとニヤケ気味だ。

 もしかしたらサラは料理をするのが好きなのかもしれないし、アリアも「わかった」とうなづいている。

 リンは2人の料理の腕は絶望的だと言ってたけど、案外大丈夫そうじゃないかな。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 そして現在、テーブルに座って僕は神に祈っていた。

 

 気が散るから絶対に台所には来ないでねと言われ、正面に座るリンと何を話そうかと考えるも束の間。台所からは、料理をしているはずなのに、謎の打撃音も聞こえてくる。

 ドンガラガッシャン。うん知ってる、これテンプレだね。

 

「アリア。こっちの野菜よろしく……ってアンタ、その剣ゴブリンの返り血、ちゃんと吹いたわよね?」

 

 突っ込む所はそこじゃない!

 

「中火ってどれくらい?」

 

「そんなのも知らないの? 中級魔法くらいよ」

 

 全然違う!

 

 ダメだ。これ以上ほっとけば家ごと料理される。

 慌ててストップをかけに行くと、台所は悲惨な事になっていた。それはもう、この世の地獄と言わんばかりに。

 まず焦げ臭い、鍋に火をつけっぱなしで焦げたのはまぁ理解できる、問題は中身だ!

 ピンク色の液体になっている。そしてボコボコと泡を立て明らかにヤバイ匂いと煙を撒き散らしている。どうやったらこんなのが出来るんだよ。

 もう一つの鍋は、肉を煮込もうとしたのだろう。鍋に水がたっぷり入っており、その中に何故か肉が塊でぶち込まれている。

 

 とりあえずピンクの液体は危険だ。どんな味がするかの興味は尽きないけど絶対にダメだ。多分一口でも口にしたら取り返しのつかない事態になる。僕は急いでピンクの液体を庭に捨てた。

 

 もう一つの鍋は水にしては何か違和感があるな。

 指をちょっと突っ込み、指についた水をぺろっと舐めてみると甘い。水が物凄く甘い。

 これは砂糖を大量に入れたのかな?

 

「アリアが……塩と間違えて、砂糖を大さじ一杯入れたのよ」

 

 サラは鼻を真っ赤にして、ちょっと涙目になりながら目線を逸らす。ちょっと可愛いと思ったけど問題はそこじゃない。

 サラは大さじと言っているが、アリアが手に持っているのは明らかに『おたま』だ。そもそも大さじとおたまを勘違いしている。

 

 となると、鍋の中にはおたま一杯分の砂糖を入れたことになる。これはちょっと厳しいな。

 よく見るとアリアは無表情だが、目に涙がたまっている。これはもう泣く寸前だ。

 

「リンは外を散歩をしてくるので、後は頑張るです」

 

 リンは僕の背中をポンと叩いて、そのままピューと台所から逃亡した。

 僕も逃げ出したいが、アリアとサラが涙目で僕の服の裾を掴んでるから逃げ出せない。

 仕方がない。これもきっと勇者の仕事ってやつだ。軽くため息を吐いて、2人に指示を出す。

 

「それじゃあ、これ何とかするから、二人とも手伝ってくれる?」

 

 首がもげるんじゃないかと思うくらいに、2人がうなづく。

 

「私は何をすれば良い?」

 

 そうだね。まずはその抜いている剣を鞘に収めてくれるかな?

 

「上級魔法までなら使えるわ!」

 

 そんな物騒な魔法を使う料理はないから結構です。

 

 2人ともふざけてるような発言だけど、目を見る限り本気で言ってるんだろうな。

 間違ってたとしても、本気なのだからこちらもちゃんと対応するのが礼儀というものか。

 とはいえ即座に思い浮かぶわけでもないし、2人には散らばった食材や調理器具を片付けてもらおう。

 2人が片付けている間に、脳内レシピでここからまともな料理が出来るか調べる。えーっと、あったあった。

 まずは鍋の中から牛肉を掴んで取り出す。

 

「アリア、お肉を包丁で一口サイズに切ってから、沸騰したお湯に入れてアクを取ってくれる?」

 

「うん」

 

 アリアが包丁でスッとお肉の表面をなぞると、バターのように切れていく。

 うちの包丁はそんなに切れ味がいいわけじゃないから、きっと剣士の技術なのだろう。ちょっと羨ましい。

 

「サラはお湯の準備をして」

 

「はい」

 

 サラはすぐさま魔法で鍋の中に水を作り出した。その中に矢の形をした炎が一本入っていくと一瞬で沸騰してお湯になった。見ていて凄く便利そうだった、こちらも羨ましい。

 っと、彼女に見とれているわけにもいかないな。砂糖水の鍋の中に酒、ミリン、ショーユ、を入れて味を整え。アリアの煮込んでいる肉のアクが取れるのを待つ。

 ある程度アクが取れた肉を綺麗に水で洗い、砂糖水の鍋に適当なサイズで切ったダイコン、ニンジン等の野菜とコンニャクを一緒に入れて煮込む、5分程煮込んだらミソを入れて更に煮込む。

 

「よし。ドテの完成だ」

 

 ドテは大量に砂糖を使う、見ていて引くくらいに砂糖を大量投入するのだ。

 なので今回は、大量に砂糖をぶち込んでしまった鍋を、逆に利用してドテを作ってみた。砂糖漬けの肉は念入りに洗ったとしても普通に調理するのも難しいしね。

 とりあえず一口試食してみる。ちょっと砂糖が多すぎた気がするけど、気にはならないレベルだ。

 

「大丈夫。美味しくできたよ」

 

「本当に?」

 

「うん、本当だよ」

 

 先ほどまで泣きそうだったのがウソみたいに、サラがパッと笑顔になる。

 アリアは僕の裾を掴んで無表情だが、多分サラと同じく喜んでいるんだろう。と思ったらお腹から音を出しながらヨダレが出てる。反省しようよ。

 そんな彼女に対し、僕は半眼で何か言いたげな視線を送る。

 

「私たちに料理をさせたのが悪い」

 

 確かに。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 夕飯の最中、サラはしきりに「これ私が手伝ったのよ」と自慢げに話していた。何というか娘と一緒に料理をしたらこんな感じなんだろうな、とちょっとほっこりした。

 父は酒を片手に、上機嫌だ。ドテを作る事は少ないが、作るといつも父は酒を飲む。

 父曰く「これで酒を一緒に飲まないのは損だ、商人として損は見過ごせない」とかなんとか。

 

 リンが僕の元にやってきてニヤニヤ笑っている、何というかイタズラが成功したような笑顔だ。

 

「サラとアリアと一緒に料理は、どうでしたか?」

 

「大変だったよ、見てわかる通り」

 

 台所を指さす、片付けたとはいえ、まだ色々なものが積み重なっている。

 

「二人は邪魔でしたか?」

 

「いや、料理に慣れてないんだから仕方ないよ」

 

 彼女達は普段から料理をする機会が無かったのだろう。途中で指示を出しても、そもそも道具の名前すらわかってないことが多々あった。

 

「はい、そうです。エルクも戦闘に慣れてないから、今日初めての戦闘で失敗したのは仕方ないです。それは馬鹿にされるような事じゃないですし、それでも挑戦して成功させたのはとても偉い事です。少しはサラみたいに褒められたら喜ぶことを覚えるです」

 

 あぁ、なるほどね。なんでリンが急に、あの二人を料理当番にさせたかわかった。

 勝手に劣等感を感じて謙遜されるよりも、褒められたら喜ぶ方が、褒めた方も嬉しいに決まってる。

 きっとそれを伝えたくて、こんなことをしたのだろう。

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