剣も魔術も使えぬ勇者   作:138ネコ

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第18話「昇格」

 スキールさんの告白は成功した。

 これで万事解決かというと、そうでもない。

 気持ちの問題は解決したが、現実的な問題は解決していない。

 現実的な問題、それはお金だ。

 

 子供を産むにもお金がかかる。子供を育てるのにもお金がかかる。

 そもそも、自分たちが生きていくだけでもお金がかかるのだ。

 これから身重になるゾフィさんは、段々と動けなくなるだろう。

 とはいえ、結ばれて幸せそうな2人にいきなりその話を振るのは、酷というものだ。

 ギルドに理由を話して、何か良い仕事がないか聞いてみるべきか。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 ギルドに着いた。

 

「おめでとうございます。スキールさんとエルクさんのパーティのCランク昇格が決まりました。これからもどんどん頑張ってくださいね」

 

 依頼達成の報告をするなり、職員のお姉さんがやや興奮気味に僕らの昇格を伝えてくれた。

 それを聞いた周りも拍手をしながら「Cランクからは、もう立派な一人前の冒険者だぜ」とか、「若いのにもうCランクとは、やるじゃないか」と口々に褒めてくれている。

 一部からは「割りに合わない仕事をやって、ギルドに媚び売ってただけじゃねぇか」とか「これで勇者様はお払い箱だな」なんて馬鹿にする声も聞こえるけど。

 

「どうせギルドの連中に股開いたんじゃねぇのか!?」

 

 1人の酔っ払いがそう叫ぶと、一緒の卓で飲んでいる連中も「ちげぇねぇ」とゲラゲラ笑い出した。

 

「あぁ?」

 

 これはヤバイ。そう思った時にはもう遅かった。

 止めようとした僕の手をすり抜け、サラは叫んだ酔っ払いを杖で殴り、壁まで吹き飛ばしていた。

 酔っ払いが吹き飛んだ際に、テーブルを巻き込んで、乗っていた料理やお酒が周りに散らばる大惨事だ。

 

「やってくれんじゃねぇか、姉ちゃん。覚悟は……あれ?」

 

 酔っぱらいの仲間達が椅子から立ち上がろうとするも、腰から下が凍りついて動けなくなっている。サラのフロストダイバーだ。

 そして目の前には氷の氷柱、アイスボルトまで発射準備されている。

 

「あぁん? 覚悟ぉ?」

 

 絡んできた人達はチンピラっぽい風貌だが、サラの方がそれ以上にチンピラらしい。

 彼らは身動きを封じられ、睨みつけられ完全に蛇に睨まれた蛙のようになっている。

 実力差を理解したようだ。

 

「おい、今魔法を同時に2つ使ったよな」

「いや、強化魔法も入れると3つだろ?」

 

 なんだかざわざわと騒がしくなってきた。

 というかギルド内でこんなに暴れてはダメだろう。

 職員さんに「すみません」と声をかけると、笑顔で「もっと懲らしめておいた方が、良いんじゃないですか?」と物騒な答えが返ってきた。

 よく見ると笑顔を貼り付けただけで、額には青筋が立っている。

 まぁ彼らの発言は冒険者ギルドも、女性も侮辱するような内容だったからなぁ。

 

「すまん! 謝る、謝るから許してくれ」

 

 吹き飛ばされた男の元まで歩いて行ったサラが、ゲシゲシと足蹴にしていた。

 男は心がポッキリ折れたようで、丸まって抵抗する事なく、蹴られるたびに謝っている。流石にやり過ぎだ。

 

「サラ。もうその辺にして」

 

「い・や・よ」

 

 後ろから羽交い締めしても、強化魔法で身体能力を上げた彼女には効果がなく、一向に止まる気配がない。

 止める方法はあるにはあるんだけど、これをやると僕がとばっちり受けるんだよな。

 はぁ。軽くため息を吐いて、羽交い締めを解く。

 

「サラ」

 

「何よ!?」

 

「良い子だから、もう止めようね」

 

 振り返ったサラの頭を撫でる。

 先程までチンピラのような表情をしていたサラが、スッと無表情になった。

 完全にキレた時に見せる表情だ。

  

「アンタ、覚悟は出来てるの?」

 

 いえ、全然出来てません。

 そう言ってサラは右手を振り上げた。

 サラの右手が振り下ろされる事は無かった。気づけば隣に立っていたアリアが、サラの右手を掴んでいたからだ。

 

「何よ!」

 

「股を開くって、なに?」

 

 アリアは無表情でサラをジーッと見つめる。

 アリアを見つめ返したサラは、しばらく睨んだ後にワザとらしい溜息をついた。

 

「はぁ、もう良いわ」

 

 萎えたサラが、リンの所まで歩いていく。

 様子を見ていたゾフィさんがカカカと笑いながら、サラの肩をバンバンと叩くが、払いのけられて「おー、怖い怖い」と言っている。

 あの、あまり刺激しないでやってもらえますか? 

 

「大丈夫?」

 

「おかげさまで。助けてくれてありがと」

 

「うん」

 

 無表情のままジーッと見つめてくるアリア。

 僕に「股を開くって、何?」と聞いてこない辺り、助けるのが目的で言ったのだろう。

 お礼を言って頭を撫でると、満足そうに「うん」と頷き返してくれた。

 

「おい、さっきのアレって」

「前に吟遊詩人が歌ってた『ケルベロス‐3つの口を持つ魔術師‐』だろ?」

「いやいや、確か『ヒュドラ‐5つの口を持つ魔術師‐』になったんだろ?」

「ヴェル魔法大会の本戦に出たって話じゃねぇか。」

「ドラゴンも討伐したって聞いたぜ?」

 

 いつの間にか、サラは有名になっていたようだ。

 彼らの発言を聞くに、ヴェルからこちらに来る商人や吟遊詩人が、彼女のことを口々にしていたようだ。

 容姿端麗で、魔法を5つ同時に扱え、超級魔法も使えて、ヴェル魔法大会本戦出場となればいくらでもネタに出来るから当然といえば当然か。

 ドラゴン討伐は僕らじゃなく、シオンさん達がやったんだけど、まぁ無理に訂正する必要もないか。

 

「じゃあ、あっちの剣士の姉ちゃんは地剣術の『瞬撃』が出来る上に、神官の称号持ちのアリアか」

「ちっこいガキがリンか、『気配察知』を持ってるんだろ? どいつもこいつもCランク程度に収まるような能力じゃねぇわ」

「どれも美人で羨ましいこった。俺らに1人でも良いから分けて欲しいくらいだよ」

 

 意外な反応にアリア達はちょっと戸惑い気味だ。

 まぁ冒険者って女性が少ないし、見た目が良くて実力があるんだから、当然と言えば当然なんだよな。

 そして彼女達が有名になるってことは、僕はそれにくっ付いてる腰巾着みたいに言われてるんだろうなぁ。

 

「でも1番凄いのは、あの小僧だよな」

 

 えっ? 意外と僕も好印象?

 

「ヴェル魔法大会本戦に出場してるんだろ?」

 

「そうそう。名前は確か、ゴッドハンド勇者マスクマン」

 

 エルクです。

 なんで僕だけ名前を覚えられていないんだと思ったけど、大会では勇者マスクマンと名乗っていたから、勇者マスクマンで名前が通っちゃってるのか。ちょっと残念だな。

 でも2つ名が付いてるって凄くない? ゴットハンドですよ!?

 素手で戦うから、2つ名がゴットハンドか。悪くないね。

 

「どんな女も、頭を撫でればイチコロなんだろ?」

 

「嘘くせーと思ってたけど、実際に目の前でヒュドラを止めてみせたしな」

 

 思い切りズッコケた。僕だけ有名な理由が何か違う。

 色々と言いたい事はあるけど、まいいや。

 下手に訂正すれば僕の名前で伝わってしまい、「どんな女も頭を撫でればイチコロのゴットハンドエルク」という噂が父の耳に入る可能性があるんだ。勇者マスクマンの功績ということにしておこう。

 それに『混沌』の事も、女の子の頭を撫でればイチコロって情報のおかげでうやむやになってるんだし、そう考えれば悪くないかもしれない。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 ザワつきも収まってきたし、本題に入らないとね。

 スキールさんが受付まで歩いていく。

 職員の女性はニコニコと笑顔で「次の依頼でしょうか?」と言って、書類の準備を始めた。

 

「いや、それなんだが」

 

「はい」

 

「俺とゾフィは冒険者を引退しようと考えているんだ」

 

「えっ?」

 

 バサッと、職員の女性は書類を落としてしまった。

 落ち着きを取り戻した冒険者たちも、ざわつき始める。

 

「あの、当ギルドにご不満が?」

 

「いや、そういうわけじゃないんだ」

 

「ですが……」

 

 笑顔を崩さないようにしながらも、職員さんの声が震えている。

 それだけショックなのだろう。

 

「実は、ゾフィとの間に、子供ができたんだ」

 

 職員さんがゾフィさんのお腹を見て「あっ」と小さい声を上げた。

 不安そうな顔が、パッと笑顔に変わる。

 

「おめでとうございます!」

 

「あぁ、ありがとう。それで今後の事を考えて職にありつきたい。何か斡旋してもらえないだろうか?」

 

「分かりました。当ギルドが全力でサポートさせていただきます!」

 

「といっても、アタシが動ける間は依頼は受けるから、今すぐ辞めるってわけじゃないし安心しな」

 

「ありがとうございます。でしたら、近場で比較的安全な依頼を……」

 

「そんなの大丈夫だって。アタシらは今まで通りでいいよ」

 

「良くありません! ほら、スキールさんも夫なのですから、妻にビシッと言い聞かせてくださいよ!」

 

「え、あ、うん。そうだね。ゾフィ、お腹の子の為に、ここはギルドの好意に甘えよう?」

 

「はぁ。わかったよ」

 

「キャー、私他の職員方にも伝えてきますね」

 

 奥まで走っていく職員さんに苦笑を浮かべ。僕らはギルドを後にした。

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