剣も魔術も使えぬ勇者   作:138ネコ

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第19話「出産」

 スキールさんが告白してから、3ヶ月が経った。

 告白してからしばらくの間は、スキールさんとゾフィさんは近場の簡単な依頼を受けていたが、この頃はゾフィさんのお腹が目立つ様になってきて、依頼はあまり受けていないようだ。

 ケリィさんはというと、依頼を受ける時は僕らに同行している。

 スキールさん達の依頼は簡単な分、収入が少ない。その収入を補う為に僕らのパーティに一時的に加入をして、依頼を一緒におこなっている。

 

「スキール達が子供を産むまでは、私達も手伝いましょう」

 

 そう提案したのはサラだった。

 確かに今のスキールさん達を放っておくのは忍びない。だからその意見には賛成だ。当然僕だけじゃなく、アリア達も賛成で意見は一致した。

 しかし、なんだかんだと理由をつけて、サラはアインに行くのを先延ばしにしようとしている気がする。

 

 僕らは宿まで戻って来た。

 自分達の部屋に荷物を置いてから、スキールさんの部屋まで行き、ノックをしてゾフィさんの返事が聞こえたのを確認してから入る。

 

「ゾフィさん、体調はどうですか?」

 

「何もしてないから、逆に体調が悪くなりそうだよ」

 

 軽く悪態をついて、椅子から立ち上がろうとするゾフィさんを、スキールさんとケリィさんが静止する。

 

「茶くらい出させろよ」

 

「私達がやるからゾフィは座ってて」

 

「へいへい」

 

「ケリィはお湯を頼む。茶葉とカップは俺が用意するよ」

 

「おいおい。これじゃどっちが妻なのか、わからなくなるよ」

 

 なんだかんだ言いつつも、ゾフィさんは満足な様子だ。

 最初はケリィさんの行為に対して。

 

「もうアタシ達のパーティから脱退して、他のパーティを探した方が良いんじゃないか?」

 

 と動けなくなった自分達の代わりに、ケリィさんが働いているのを見てゾフィさんはそう言ったそうだ。

 

「私達は仲間なんだから助け合うのが当然でしょ! 今までゾフィに助けられてたんだから、今度は私が返す番!」

 

 ケリィさんはそんな感じで、頑なに譲らなかったそうだ。

 それで何度か言い合いもしたそうだけど、最終的にはゾフィさんが折れたそうだ。

 今ではこうして、素直にケリィさんの行為に甘えている。

 他にも変わったことがある。

 

 トントンとドアを叩く音が聞こえる。

 ゾフィさんが返事をすると、「邪魔するぜ」と言って3人組の男達が入って来た。

 見かけた顔だけどとっさに名前が思い浮かばない。多分冒険者ギルドで会っていると思う。

 その証拠に僕が挨拶すると、「おう、お前らも来てたのか」と気さくに返事を返してくれた。

 

「くっくっく。今日はコイツを持って来てやったぜ」

 

 そう言って男達はそれぞれが手に持った魚と、塩を適当な場所に置いていく。

 

「ったく、毎日のように供物が届いて、アタシに供えてもご利益なんてないからね」

 

「くっくっく。お前達には礼があるからな」

 

 そう、毎日のようにスキールさん達に何かしら物が届けられるのだ。

 この辺りに住む人たちで、元からここに住んでいたという人はそこまで多くはない。

 村や集落を飛び出し、仕事を求めて来た人達が多いのだ。

 今までスキールさん達が受けていた割に合わないような仕事は、その1つ1つがこの街に住む人たちの故郷にいる家族、友人といった大切な人を脅威から守ってくれていた。

 だからゾフィさんが妊娠したと周りに知れ渡った時、色んな人が毎日押し寄せた。

 

 少しでも足しにしてくれと、食べ物、衣類、お金なんかを置いていった。受けた恩を今こそ返す時だと言わんばかりに。

 おかげで部屋の中には所狭しと色々なものが置かれている。

 この宿も「ゾフィが子供を産んだ後、子供が夜泣きをしても文句を言わない人で泊まろう」と誰かが言い出し、賛同する人たちで部屋が埋まった。

 宿主も「別にお前らがそれで良いなら構わんよ」といった感じだ。

 

「くっくっく。食べきれない分は塩漬けにして、せいぜい保存食にするんだな」

 

 この人達はなんでわざわざ悪人みたいな言い方をしてるんだ?

 よく見たら顔が赤い、素直にお礼を言って渡すのが恥ずかしいのかな?

 その言い方のほうが、よっぽど恥ずかしいと思うけど。

 彼らは軽く挨拶だけして「また来る」と言い残し部屋から出ていった。

 

「ゾフィさん。何かして欲しいこととかありますか?」

 

「そうだな」

 

 ゾフィさんは、フレイヤさんの事をチラチラ見ている。

 視線に気づいたフレイヤさんが「私(わたくし)ですか?」と自分を指差して確認している。

 

「そのさ、エルフの顔ってのを拝んで見たいなと思って」

 

「ゾフィ、流石にそれは失礼だよ。ごめんねフレイヤさん。エルフは顔を見せちゃいけないって掟みたいなのがあるんでしょ? 無理に見せなくても良いよ」

 

 いや、そんな掟はない。

 エルフだとバレないように仮面をしているだけだ。

 なのに何故正体がバレた?

 

「フレイヤさんがエルフって、なぜわかったんですか?」

 

「いや、分かるも何も、そんな立派な耳つけて何言ってるんだ?」

 

 ゾフィさんが自分の耳を引っ張りながら、そう言った。

 仮面に付与された効果で、フレイヤさんの耳を認識できないようにされていたはずなのに、もしかして効果が切れたのか?

 1000年以上昔の物だし、その可能性はあるかもしれない。

 

「フレイヤ、あんた食事の時仮面に隙間作って食べてたけど。もしかしてそれ、ちゃんと付けてないと効果発揮しないんじゃないの?」

 

「さ、さぁ?」

 

 う、う〜ん。なぜバレたかは後で考えるとしよう。

 バレてしまっては仕方がない。

 フレイヤさんは仮面を外して素顔を見せている。

 

「ちなみに、他には誰がフレイヤさんがエルフってこと知ってるかわかりますか?」

 

「誰がって、街中の皆が知ってるんじゃないか? そもそも、エルク達がヴェルにエルフがいるってふれ回ってる証拠に連れて来たんだろ?」

 僕らが領主に頼まれた「ヴェルにエルフが居る」という宣伝をしていたからか、フレイヤさんがエルフとバレても騒ぎにはならなかったそうだ。

 ピエロの仮面による認識阻害効果は一度エルフと認識されると、認識した相手に対して効果はなくなる。つまりこの街ではつけてる意味があまりないな。

 しかし食事時に隙間作って食べるというのもNGなのか、何か方法を考えないといけないな。

 

「これでどう?」

 

 ベキッと、何かが折れるような音がした。

 見るとアリアがピエロのマスクを真っ二つにへし折っていた。

 

「えっ、アリア何してるの?」

 

「これで口元が空く」

 

「本当ですわ」

 

 もはや言葉が出なかった。サラとリンも言葉が出せず、青い顔でパクパクと魚のように口を開けるだけだった。

 幸い、折れても効果はちゃんとあるようなので良かったけど、折っちゃダメでしょ。これ1000年前の英雄ピエロが付けてたマスクだよ?

 ちなみにゾフィさん達にも、これが1000年前の英雄ピエロが使っていたマスクだと教えたら、同じく青い顔をして口をパクパクさせていた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 更に3ヶ月が経った。

 段々と寒くなってきた。息が真っ白になるほどだ。

 この頃になると、ゾフィさんのお腹は目立つレベルで大きくなり、つわりも酷くなっていた。

 陣痛やつわりのたびにオロオロするスキールさんが、困り果てて僕らに助けを求めたりしに来たりもした。

 アリアが教会にいた頃は、出産に立ち会ったことが何度かあるらしく、その経験を元に何をするべきかスキールさんに教えていた。

 

「アタシよりも、こいつの心配をした方が良いかもしれないね」

 

 そんな風に笑ってるゾフィさんだが、少々辛そうに見える。

 

「スキール。貴方がしっかりしないでどうするの!」

 

「ケリィ……でも俺心配で」

 

「泣き言を言わないの。ゾフィとお腹の子が心配するでしょ!」

 

「うぅ。わかった」

 

 リーダーをしていた頃は自信満々に2人を引っ張っていたスキールさんも、今ではすっかり彼女達の尻に敷かれている。

 それでも情けないとは思わない。彼も彼なりに必死なんだ。自分の身に起きた事じゃないからこそ、余計に不安になってしまうのだろう。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 それから更に1ヶ月が経った。

 今日は依頼がなく、特に何かするわけでもなく、昼食を取った後いつものように話していると、ゾフィさんが唐突に苦しみだした。

 アリアがゾフィさんに駆け寄る。

 

「破水してる」

 

 なにそれ?

 そんな疑問を口にする前に、僕はサラ達に部屋から追い出された。

 バタンと大きな音を立て扉が締められる。

 中からは「お湯を」「医者か産婆呼んで来て」と慌ただしく声が聞こえる。

 部屋から勢いよく出てきたスキールさんが、雄叫びをあげながら走っていった。

 そしてものの数分で、女性を連れて部屋まで戻ってきた。

 僕のことなど目に入らないようで、そのまま女性と部屋に入っていった。

 

「ゾフィ、頑張れ」

 

「そんなの、言われなくても、わかって、うあああああああ!!!!!!」

 

「ゾフィ! ゾフィ!」

 

 中からは慌ただしくバタバタと聞こえてくる。僕はどうするべきか。

 追い出されたってことは、多分部屋に入るなってことだよな。

 今もなお断末魔のようなゾフィさんの叫び声や、それを心配するスキールさん。

 あとはアリアが何やら指示を出してる声が時折聞こえる。

 

「おい、何があったんだ」

 

 他の人たちも異変に気づいたようで、部屋の前にドタドタと足音を立て人が集まってきた。

 

「えっと、多分出産が始まったみたいです」

 

「多分って、何か変わった様子はなかったかい?」

 

 集まった人の中の1人。宿屋の女将に聞かれ、少し考える。

 変わったこと……

 

「えっと、アリアが『破水してる』と言ってました」

 

「それはもうお産が始まってるんじゃないか!」

 

「えっと、僕らはどうすれば」

 

「こんな所にむさい男が集まってたら、生まれるものも生まれないよ! 邪魔にならないように部屋に戻ってイリス様にでも祈ってな!」

 

 女将が蜘蛛の子を散らすように、集まった人達を次々と追い返していく。

 素直に部屋に戻る者もいれば、教会に祈りに行くと言って出て行く者、他の人に知らせてくると言って出て行った人もいる。

 そんなパニックを起こす彼らの様子を見たおかげか、僕は少し冷静になった。

 

「ここは私に任せてアンタも部屋に戻りな。何かあったら後で行くから」

 

 僕も部屋に戻るか、そう思った時、ドアが開いた。

 

「ひっぐ……ぐすっ……」

 

「フレイヤさん?」

 

 リンがフレイヤさんの手を引いて、部屋の中から出て来た。

 

「どうしたの?」

 

「ゾフィさんが、ゾフィさんが!」

 

「ゾフィさんがどうしたの!?」

 

 まさか……

 

「大丈夫です。フレイヤはゾフィの様子を見て、たまらず泣き出して、邪魔だったから外に連れて来ただけです」

 

 あっ、はい。

 一瞬ゾフィさんの『死』が頭をよぎって嫌な汗が流れたけど、問題ないなら良いか。

 

「えっと、中の様子は?」

 

「アリアが出産の手伝いの経験があるのと、産婆が居るから大丈夫です。他にも手伝いでサラとケリィも居るから、リンは邪魔になるだけなのでフレイヤを連れて出てきたです」

 

「そっか……」

 

 冷静そうだが、リンの手が震えている。大事な時に役に立たないのが悔しいのかもしれない。

 フレイヤさんはいまだに嗚咽をあげて泣いている。

 

「えっと、出産って結構時間がかかるものですよね?」

 

 僕は宿屋の女将に尋ねた。

 

「そうだね。数時間、下手すれば半日以上かかる事もあるね」

 

 結構長丁場になるな。よし。

 

「リン、フレイヤさん。アリア達も途中で疲れるだろうから、戻って来た時に疲れを取れるように準備しておこうか」

 

「準備、ですか?」

 

「うん。ゾフィさんの為にアリア達が頑張っているんだから、僕たちは頑張ってるアリア達の為に出来る事をしよう」

 

「わかったです」

 

 まず出来る事といえば。

 

「それじゃあ、ちょっと散歩に行こうか」

 

「こんな時に、散歩ですか……」

 

 リンは信じられないという目で僕を見ている。流石にそんな目で見られると心が痛むよ。

 

「ほら、まずはフレイヤさんに落ち着いてもらわないといけないし」

 

「ぐすっ……」

 

「それに、ゾフィさんの出産を知らせに行った人たちがいるから、もしかしたら大勢で駆けつけようとする人がいるかもしれないだろ? ゾフィさんの迷惑にならないように、『今はまだゾフィさんの元に行かないでね』と声をかけるのも、立派な手伝いさ」

 

「……分かったです」

 

 少し考え、頷き返事をしてくれた。分かってくれたようだ。

 2人の手を引き、女将に一言「お願いします」と声をかけて僕は宿を出た。

 

 宿を出ると街はゾフィさんの話題で持ちきりだった。本当に宿まで駆けつけようとする人も多く、僕らが彼らに押しかけないように声をかけるのは正解だったようだ。

 押しかけないようにと言われたら、今度は押しかけないようにする事を伝えに行く人達が増え、なんだかお祭りのようなムードだ。

 

「エルク。泣いてるですか」

 

「……そんな事ないよ」

 

 沢山の人が、スキールさんとゾフィさんの心配をしている。

 今までスキールさんがしてきた小さな人助けで、これだけの人の心を動かしてるんだ。スキールさん、貴方はもう立派な英雄ですよ。

 

 その日の深夜に、ゾフィさんは無事男の子を出産した。

 子供には、スキールさんの憧れた英雄の名前をとって「アンリ」と名付けられた。

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