剣も魔術も使えぬ勇者   作:138ネコ

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第2話「空の旅」

 飛竜との戦闘を終え、艦橋を降り部屋まで戻ってきた。

 既に飛竜の縄張りを抜けているので、また襲われるという危険は無いらしい。

 

「……ッ!」

 

 部屋のドアを開けると、アリアが抱きついてきた。

 

「うわっ、どうしたの?」

 

「エルク、エルク」

 

 アリアは小刻みに震えていた。

 そっか、怖かったんだな。

 高所恐怖症だから、連れて行くのは可哀想だと思って置いていったけど、よくよく考えてみれば怖い思いをしているのに誰も居なかったら、もっと怖いに決まっている。

 謝罪の言葉をかけながら、アリアの頭に手を置き、優しく撫でる。

 

「……オシッコ……漏れそう」

 

 トイレかよ!

 外には窓があるから、トイレまで行けなくて今までずっと我慢してたのか。

 

「連れてくから我慢して! 手を引くから目を瞑って付いてきて!」

 

「うん」

 

 急いでトイレまで連れて行った。なんとか間に合ったようだ。

 ふぅ、危ないところだった。 

 

「ところで、あんたら……どこいってたのよ……」

 

 一瞬ギョッとした。サラの目には大きなクマが出来ており、生気が抜けたような青白い顔になっている。

 若干涙目だ。

 

「えっと。説明の前に、酔い止めの薬貰ってきたけど。飲む?」

 

「うん。お願い」

 

 艦橋で仲間が船酔いしている事を伝えたら、飛竜襲来を伝えてくれたお礼にと、乗務員さんが酔い止めの薬をくれた。

 酔い止めの薬をサラに手渡す。船酔いしていると上手く魔法が出せないらしく、フレイヤが水の入ったコップをサラに渡している。

 薬を吐き出さないようにと、吐くのを我慢しているサラの様子が段々と落ち着いてきた。

 完全には良くはならないみたいだけど、吐き気が収まっただけでも彼女にとっては相当楽になったようだ。

 

「今の内に何かお腹に入れておく? このままじゃアインに行くまで持たないよ」

 

「そうね。それじゃあ何か流動食のような物が欲しいわ」

 

 流動食か、何か売ってたっけな?

 流石にここで料理を始めるわけにはいかないし。

 

「サラちゃん。それなら果実や野菜を磨り潰して、ドリンクにしようか?」

 

「ええ、お願い。フレイヤ……ありがとう」

 

 船酔いのせいか、サラがかなり素直だ。

 普段の彼女からは想像できないくらい弱気になっている。

 

「えとね。これは胃がもたれた時に煎じて飲むと良い草で、こっちは頭痛を和らげる効果があってね」

 

 素直にお礼を言うサラに気を良くしたフレイヤが、薬研(やげん)に果実や野菜、それ以外の物を、早口に説明しながら次々と放り込んでいる。

 サラは心ここに在らずと言った様子か。フレイヤに対し「そうなの」「ありがとう」と空返事を繰り返している。

 

「ご馳走さま」

 

「美味しかった?」

 

「ええ。ありがとね」

 

「どういたしまして」

 

 フレイヤさんの色々な物を混ぜたドリンクは美味しかった。

 調子に乗って色々混ぜたおかげでサラ1人では飲みきれない量だったため、僕らも頂いたけど、正直味は期待していなかったから意外だった。

 だって早口に説明しながらポンポン色んなもの入れるんだよ? 確実に謎の液体Xが出来上がると思うじゃん?

 もしかしたら、ちゃんと考えて入れてたのかもしれない。何にせよ美味しかったんだから、それで良いか。

 

「あの。さっきの薬だけど」

 

 フレイヤ特製ドリンクを飲み終えたサラが、僕に話しかけてきた。

 

「さっきの1回分しか貰っていないので」

 

「そう、なんだ……」

 

 おずおずと、上目遣いで僕を見ている。

 その仕草にドキッとさせられた。

 視線を落としたり、こちらを見たりと(せわ)しない。薬が切れた時のことを考えて、もう一回貰ってきて欲しいと言いたいのだろう。

 

「船の中で売ってる場所は聞いておいたから、買ってこようか?」

 

「うん……お願い……」

 

「じゃあ買ってくるから、サラは薬が効いてる内に寝てなよ」

 

「ありがとう」

 

 今まで船酔いであまり寝れなかったのだろう。

 サラは弱々しい声でお礼を言うと。すぐ横になってすーすーと寝息を立て始めた。

 

 しかし、調子が狂うな。

 しおらしいサラも悪くはないけど、普段の強気なサラの方が良いな。うん。

 よし、彼女のために酔い止めの薬を買ってくるかな。

 でも、その前に。

 

「アリア。そろそろ離れてくれる?」

 

「……いや」

 

 軽く溜息を吐いた。

 先程置いて行った事を、根に持ってらっしゃるようだ。

 とはいえ、このまま引きずって行くわけにもいかないし。

 

「すぐ戻ってくるし、リンとフレイヤは部屋に残るから」

 

「……」

 

 渋々と手を離してくれた。

 

「それじゃあちょっと行ってくるから……何してるの?」

 

「えへへ。エルク君の真似」

 

 ドアに手をかけ振り返ると、フレイヤがアリアの頭を撫でていた。

 下手くそな撫で方で、アリアの髪がボサボサになっていくが、アリアはそんな事は気にしていないようで、目を細めて為すがままにされている。

 えー、頭撫でるのが僕の真似ってどうなのよ?

 

「大体あってるです」

 

 リン!?

 微妙な気分のまま、僕は部屋を出た。

 酔い止めの薬は無事に買えた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

「間もなく工業国アインへ到着します。お忘れ物がないようご確認ください」

 

 やっと、一週間に及ぶ空の旅が終わる。

 サラは薬のおかげで大分安定していた。もし薬が無ければ、船酔いでアインに来る前に力尽きていたかもしれない。割と本気で。

 忘れ物がないか荷物を確認。よし、問題は無さそうだ。

 

 到着を知らせるアナウンスが響き渡る。

 我先にとサラとアリアが駆け出し、僕らはその後を追う。

 2人にとって、空の船旅はもうこりごりだろう。

 でも、アリアはガルド大陸に帰る場合、また飛空船に乗らないといけないんだけどね。

 今水を差す必要はないし、まだこれは言わないでおくか。

 

 こうして僕らは工業国家アインに到着した。

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