剣も魔術も使えぬ勇者   作:138ネコ

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第13話「克服と報復」

 最近の僕たちは、順調そのものだ。

 基本的に毎朝ゴブリン退治の依頼と薬草採取の依頼を受けて、夕方には町に帰る。その繰り返しだ。

 父から、護衛の依頼は10日後に、魔法都市ヴェルまでの護衛依頼を出す予定があると言う事を教えてもらえた。

 近々魔法都市ヴェルで魔法大会があるそうで、色んな人がヴェルに集まる。なのでこの時期になると商人は魔法都市ヴェルへ商売に向かうそうだ。

 

 魔法都市ヴェル。魔法により発展した都市で、至る所で魔法関連のアイテムや書物が売られている。

 僕がかつて通っていた学園もここにある。正直近寄りたくない気持ちもあるけど、一度過去を清算したい気持ちもある。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 さぁ今日も張り切ってゴブリン退治だ。

 1対1なら、何とか勝てるようになってきた。調子に乗るとたまにミスしたりもするけどね。

 先日「今日はゴブリン2匹を相手に挑んでみます」と調子に乗って、ゴブリン2匹を同時に相手にしてみた。

 結果は一瞬で終わった。僕の完敗だった。

 

 襲い掛かってきた方を、先に無力化し、次にもう1匹と考えていたのだが、距離を詰めてる最中でゴブリンが左右に展開して挟み撃ちの状態になった。

 すかさず左にステップして、ゴブリンと1対1の状況を作り出そうとしたけど、片方のゴブリンのこん棒を払ってる間に、もう片方のゴブリンから殴られて、僕がその場に倒れこんだところで、アリアとリンに助けられた。

 

 『瞬歩』とかを覚えて、一瞬でズバッとやれれば良いんだけど、僕は剣術がまだ使えない。

 何度か、アリアとリンに教えてもらったけど「ダッとやって、シュっと移動したらサッ!」とか言われ、何一つ理解出来なかった。

 アリアはともかく、リンも感覚で教えちゃうタイプだったのは意外だった。

 

 いつもの林につく前にランチ。最近はサラが食パンを綺麗に三角に切る事を覚えて、毎朝自慢げに切ってくれている。

 おかげでサンドウィッチ以外の選択肢が無くなっているが、彼女達は特に不満がなさそうなので問題ない。

 アリアはサラの切ったパンをつまみ食いする事を覚えた。つまみ食いがバレて、サラに何か言われても「サラが切ったパン、おいしい」と言うだけでサラの機嫌が良くなり叱られない事を覚えたからだ。ちょろい。

 

「今日の味はどうでしたか?」

 

 不味いはずはないと思うけど、念のために確認をしてみる。好き嫌いってあるからね。

 

「おいしかった」

 

「おいしかったです」

 

「これなら私にもできそうね。次回は手伝うわ」

 

 うん、美味しい頂きました。何やら不穏な発言も聞こえたけど、それは聞こえなかったことにしよう。

 

「〜〜〜」

 

 ん? 今何か林の方で声が聞こえたような。

 

「向こうから、何か来るです」

 

 リンの言葉に、アリアとサラも臨戦態勢を取る。

 ゴブリンの声とは違ったけど何だろう? 人の声のような気もしたけど。

 

「たたた、助けてくれぇぇぇぇぇ」

 

 出てきたのはゴブリンじゃなく人だった。見覚えのある顔だ。アルフさんのパーティのジーンさん達か。

 凄い勢いでジーンさんパーティが走ってくる。

 ジーンさんに、魔術師の女性に、聖職者の男性。あれ? アルフさんが居ない。

 もしかして、アルフさんを置いてけぼりで逃げて来たのか? それがもしイジメなら、流石にやり過ぎだ。

 

「アルフはどうしたの?」

 

 アリアが、そのまま逃げだそうとするジーンさんの肩を掴む、アリアを振り切ろうとして、目を丸くした。アリアを見てではなく、アリアの後ろにいる人物を見て。

 ジーンさんの視線の先。林にはアルフさんがいる。

 ゆっくりこちらに向かって歩いてくるアルフさんだけど、何か様子がおかしい。手に持った剣は赤色の液体で濡れていた。

 

「違うんだよ! アルフが! アルフが!」

 

 明らかに怯えるジーンさん、アルフさんがどうしたと言うのだろうか?

 

「ああ、エルク君達も居たんですね、こんにちわ」

 

 一瞬背筋が凍った。アルフさんはいつもの笑顔で、片手を上げて挨拶しているだけなのに、恐ろしく悪寒が走った。

 そもそも彼は剣を持ったまま対面出来ないんじゃなかったのか? なら剣についた、―血であろう―赤い液体は何だ?

 

「聞いてくださいよエルク君。今日もジーンさん達にイジメられちゃったんですよ。剣を持って向かい合えない俺を、ゴブリンの群れに3人がかりで押し込んだんですよ?」

 

 イジメられたという割に、まるで悲壮感が無い。凄く明るくて、とても軽い口調で喋るアルフさん。

 一歩一歩ゆっくり歩きながら、まるで世間話でもするかのように僕に話しかけてくる。

 彼は剣を抜いて警戒するリンを一瞥して「ははっ、やめてくださいよ、怖いじゃないですか」と茶化しながら、そのままリンの横を通り抜けていく。

 

「流石に俺も必死になってて、気づいたらゴブリンのお腹に、俺の剣がブスって刺さってたんですよ。こう先端がブスーッて」

 

 左手の人差し指と中指の間に剣を差し込んで、どれくらい刺さったかジェスチャーしている。

 

「そこで気づいたんですよ。あぁこんな簡単な事だったんだなって」

 

「止まれ!」

 

 僕の前に立つ彼は、本当にアルフさんなのか?

 蛇ににらまれたカエルのように動けない僕の前に、アリアが剣を構えて立つ。

 殺気立つアリアを前にしても、彼は笑顔を崩さず、左手で手をヒラヒラさせている。

 

「安心してください。別にエルク君にも、アリアさんにも、手を出すつもりは一切ないですよ。俺はただ、ジーンさん達にお礼をしたいだけなんですから。こうやって剣を持って戦えるようにしてくれたお礼を、ね?」

 

 彼の剣術の腕前は、相手の悪意に怯むせいで、披露する事が無かった。

 そんな彼をただの小心者と侮って、追い込んでしまった結果、ジーンさん達は、その弱点を克服させてしまったようだ。

 そして今、弱点を克服した彼が報復に出た。今までの事を考えれば当たり前と言えば当たり前か。

 

 ジーンさん達が逃げ回るのを見る限り、3人相手でもアルフさんのが明らかに実力が上なのだろう。

 

 先に動き出したのは聖職者の男性だった。「お、俺は関係ないぞ。ジーンのいう事を聞いてただけなんだからな!」と言って振り返り、逃げ出そうとした。だが振り返る彼の目の前には、アルフさんが既に立っていた。

 

「すごいでしょ、『瞬歩』って地剣術の技なんですよ」

 

 聖職者の男性は、急に現れたアルフさんに腰を抜かし、尻もちをついて後ずさっていく。

 

「おっと、手が滑った」

 

 ポイっと言った感じで剣を軽く投げる。アルフさんの手から放たれた剣が聖職者さんの顔の横を通り抜け、乾いた音を立てた。剣を掠めたのか、聖職者さんの頬に一筋の血が流れる。

 

「あ……あ……」

 

 聖職者さんは顔を青くして、涙を流し口から泡を吹き、ションベンを漏らし気絶した。

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