剣も魔術も使えぬ勇者   作:138ネコ

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第11話「離反」

 キバさんのお葬式は、翌日の昼過ぎに行われた。

 

 キバさんは四角い棺に入れられ、眠ったような安らかな顔をしている。

 せめて少しでも綺麗にしようと、遺体の損傷を修復したのだろう。顔にはいくつもの縫い跡が見える。

 

 その隣には、いつもと違う格好のレッドさんが立っている。緑の頭巾に赤いキトンをまとった姿だ。他の参列者も同じような服装をしているから、きっとこれがドワーフ族の葬式での正装なのだろう。

 

 他の人がレッドさんより少し離れているのは、遺族の隣は親族が立つ場所だからだろう。他の子達は誘拐されて居ないから、レッドさん1人だけで立っている。

 俯き必死に涙を堪えているようだけど、それでも止まらない涙を手で拭っている。

 

 参列者は数十人といったところだ。生前のキバさんと仲が良かったのか、泣いてる人もチラホラと見かける。

 正直僕らは場違いだと思うけど、レッドさんに出席して欲しいと頼まれ、参加している。

 

 とはいえ、別に嫌々参加しているわけじゃない。むしろ数日とはいえ一緒に住んで居た仲だ。レッドさんと一緒に弔ってやりたい。

 ただ事件があったばかりで、周りの僕らに対して見る目はやや痛々しい。

 流石のアリアやフレイヤでも空気は読んだようで、キョロキョロせず、大人しくしてくれている。

 

 式が始まり、牧師らしき人が何かを言うたびに、数人ずつのグループでキバさんの棺に一輪ずつ花を添え、別れの言葉の後に手を合わせていた。

 いや、別れの言葉と言うのは少し違うか。「いつでも遊びにおいで」とか「今度会う時は、僕の方が強くなってるから守ってあげる」とか、とても死人にたいして贈る言葉とは思えない。再会する為の言葉ばかりだ。

 

 ドワーフ族にとって死は、永遠の別れではなく、また魂になって会いに来るまでのひと時の別れと考えられている。だからまた会おうといった感じの挨拶が多い。

 宗教が違えば結婚式や葬式のルールも変わってくる。あらかじめレッドさんが僕らに教えてくれたおかげで助かった。

 ここで僕らが本当の別れの言葉を言っていたら、総スカンだっただろう。

 

 僕らの後、最後の別れの言葉を告げるのはレッドさんだった。涙と鼻水で顔はクシャクシャになっていて、正直何を言っているか分からない。

 けど、彼女の気持ちは伝わってきた。周りの参列者やアリア達も、釣られて声を押し殺しながら泣いていた。

 こうして式が終わった。

 

 その後、彼の棺を火葬場まで持っていき、数時間かけ灰になるまで燃やし、その灰をキバさんがよく行った場所や、仲の良かった人の家に撒いていく。魂になった人間が、仲の良い人に会いに行く際に、道に迷わないようにいう意味があるらしい。

 最後は孤児院の周りに撒いた。既に日が沈みかけ、影が伸び始めていた。

 

 特にお墓を建てたりはしないそうだ。名前の書いた木の札を家のどこかに飾るだけらしい。キバさんの名前が書かれた札は、玄関の扉に飾られた。

 アインの土地は広いわけではない。多分お墓を建てるスペースが確保出来ないので、こういった形式の葬式になっているのだろう。

 葬式か……そういえば、あれだけの人数が居て、誰一人僕らを責め立てるようなことをする人は居なかったな。

 

 もし僕らに何かをすれば、同じファミリーネームの人にも批難が来る。だから手を出せなかったのだろう。彼らにとってファミリーネームというのは、それ程までに重んじられているものなのだから。

 ドワーフの歴史を考えれば、人族に迫害され追いやられたこの土地で生きていくには、嫌いな相手でも手を組まねばいけない。だから個人が勝手を出来ないように、ファミリーネームを重要視するように教育されてきたのかもしれない。

 そのおかげで、僕らはこの街にまだ滞在していても無事なのだろう。

 

 さて、夕食だ。

 レッドさんは少し落ち着いた様子だけど、元気がない。

 昨日は無理にでも空元気な様子を見せていたけど、今はその気力もないようだ。

 無理もないか。葬式が終わって、それでも誘拐された子達はまだ帰ってこない。情報すらないんだ。

 突然すぎる出来事にマヒしていた心が、ゆっくりと元に戻ってくるにつれ、段々と現実を突きつけられる。

 レッドさんには、まだまだ時間が必要だろう。

 

 ふぅ……。

 しかし、手を出されないとはいえ、他のドワーフやホビットの人達から敵意を向けられ続けるのは精神的に辛いものがある。

 精神的に疲れてるのは皆一緒のようで、最低限の会話以外は何も口にする事はなかった。

 後になって後悔する。僕はこの時、もう少し周りに気を使うべきだったと。

 

 

 翌日。

 

「ねぇ、エルク君。起きて」

 

 ゆさゆさと、誰かが僕を揺する。薄眼を開けると少し眩しさを感じる……朝か。

 もう少し寝ていたいところではあるけど、声の主はいまだに僕を揺すり続ける。

 仕方ない、起きるか。

 

「……んっ、おはよう。フレイヤ」

 

「おはよう。ってそれどころじゃないよ! 大変なの!」

 

 フレイヤの慌てた様子に、何かがあったと察し、僕はガバッと跳ね起きた。

 まさか、また街が襲われているのか!?

 

「サラちゃんとリンちゃんが居なくなっちゃった!」

 

 サラとリンが居なくなった!?

 

「サラとリンが居なくなったって、今度は2人が攫われたって事!?」

 

「そうじゃなくて、良いから来て」

 

 フレイヤに手を引かれるままついて行き、玄関まで来た。

 玄関にはアリアとレッドさん、そして何故かストロングさんが居た。

 ストロングさんが、何故ここに居るかは後回しだ。

 

「エルク君連れて来たよ」

 

「うん」

 

「サラとリンが居なくなったってどういう事?」

 

「サラ君達は、本日早朝の飛空船に乗り、アインを出た」

 

 答えたのは、ストロングさんだった。

 

「どうして?」

 

「今回の件について、落とし前をつけるためらしい。詳しい話はお前さん達宛の手紙に書かれているそうじゃ」

 

 そう言って、ストロングさんは一枚の封筒を取り出した。

 封筒は開封された後がある。

 

「すまぬが、念のため手紙の内容はこちらで確認させてもらっている」

 

 それもそうか、ストロングさんは信用してくれてはいるだろうけど、それでも僕らは今回の事件の容疑者であるわけだし。

 

「なんて書いてあるの?」

 

「エルク。読んで」

 

「うん。分かったからちょっと離れてね」

 

 アリアとフレイヤが顔を近づけすぎて読みづらいので、一旦離れさせた。

 受け取った封筒から、手紙を取り出す。

 

 『今回の事件は、私の父が起こした事件と見て間違いないです。父の過ちを償わせる。それが娘としての責任であり義務であります。なのでリンと共に実家へ向かいます。皆様を巻き込みたくないので、決して追いかけて来ないで下さい。今までありがとうございました』

 

 なんだよそれ。

 いくらなんでも唐突過ぎる。

 

「すみません。サラ達の乗る予定の船は」

 

「もう出た後じゃ」

 

 既に出た後か。

 

「すぐに追いかけたいのですが」

 

「次に船が出るのは一週間後じゃ」

 

「他にアインから出る方法はありませんか?」

 

「残念じゃが、ない」

 

 クソ、今すぐ追いかけるのは不可能か。

 

「でも、手紙には追いかけないでくださいと書いてあるけど」

 

 アリアが手紙を指差す。

 

「じゃあ追いかけないでと言われたから、『はい分かりました』なんて言える?」

 

 思わず語調が少し強めになってしまった。当たり散らすつもりではないけど、周りから見たらそう見えたかもしれない。

 アリアは無表情のまま一瞬ビクッとして、首を横に振った。

 

「ごめん。ちょっと言い方がきつくなった」

 

 思ったよりも、僕は精神的に磨耗しているみたいだな。

 いや、それはアリア達もか。それなのにカッとなって責め立てるような言い方をして……。

 後で、もう一度アリアにはちゃんと謝っておこう。

 

「僕はサラを追いかけようと思うけど、フレイヤはどうしたい?」

 

「サラちゃんとリンちゃんを連れ戻したい!」

 

 フレイヤは僕の目を見て、力強く答えた。

 アリアは僕が問う前に「私も行く」と言ってくれた。

 2人の意思は確認した。サラ達を追いかける事に賛成している。

 だから追いかけて、見つけたら説教しよう。なんで相談してくれなかったんだって。

 

 追いかける意思表示を確認したは良いけど、問題は追いかける方法だ。

 船が出るのは一週間後。どうしても一週間はここで足止めを食らう。

 

 問題はそれだけじゃない、サラの実家がどこにあるのかも知らない。

 確かサラの家の名前はレイア家とか言っていた気がする。家の名前がわかっても、ここ(アイン)じゃ、どこにあるか調べる事も出来ない。ガルズ王国領に戻ってからじゃないと調べられないな。

 

「なんだよそれッ!」

 

 どうやって追いかけようか考えていたら、先程から大人しくしていたレッドさんが、声を荒げた。

 そうか。まだ彼女には、今回の事件はサラの父が起こした可能性がある事を伝えていなかった。

 忘れていたわけじゃないけど、次々と問題が起こるせいで言いそびれてた。

 

「レッドさん。今回の事件にサラは関わっていないんだ。だからサラを責めないで欲しい」

 

「それなら、なおさら許せないよ!」

 

 レッドさんは本気で怒っていた。

 顔だけじゃなく、耳まで真っ赤にして。

 

「だって、お父さんの罪なんてサラには関係ないじゃないか。もしそれが罪だっていうなら、ハーフの僕らは生まれた事が罪だって言うのかい?」

 

 そこまで言われて、彼女が何に対して怒っているのか理解した。

 親の罪が子にもあると言うのは、彼女達孤児の存在否定にも繋がる。

 

「エルク。お願いだ! ボクも連れてって欲しい! サラにガツンと言ってやりたいんだ!」

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