剣も魔術も使えぬ勇者   作:138ネコ

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第13話「状況確認」

 魔法都市ヴェル。到着したのは、日が完全に昇った昼過ぎだ。

 ここに来るのは、実に1年振りだな。

 だけど、今は感傷に浸ってる場合じゃない。僕らは真っ直ぐに冒険者ギルドへ向かった。

 

 1年振りの冒険者ギルドには、見知った顔も居れば、見知らぬ顔も居る。

 剣士の男性が僕らに気付き、席を立って近づいて来る。ランベルトさんだ。

 気さくに片手を上げ、「よう」と言って声をかけてくる。近づいて肩に手を回す馴れ馴れしい態度は、前会った時と何も変わっていない。まぁ1年しか経っていないから、そんなに変わるわけがないんだろうけど。

 

「あの、ランベルトさん。僕らはちょっと……」

 

「あぁ、知ってるよ。スクールに話があるんだろ? アイツならカウンターに居るから、声をかけてこい」

 

 スクール君に僕を見かけたら、自分の元へ来るように頼まれていたそうだ。相変わらず面倒見が良い人だな。

 素直にお礼を言おうと思ったけど、何やらレッドさんをジロジロ見た後に、下品な笑みを僕に向けてきた。

 

 相手をすれば下世話な言葉が出てきそうだし、ここはあえて何も言わずに無視無視。ランベルトさんを背に歩き出す。

 後ろから「オイオイつれねぇな」と声が聞こえてきたけど、今はそんな事に構っている余裕はない。

 

 ギルドの奥まで歩いて行く。スクール君は……居た。

 カウンターで冒険者達と何やら話している。僕に気づくと、カウンターを他の職員に任せてこっちに来た。

 

「エルク君。久しぶりだね」

 

「うん。1年ぶりだね」

 

 久しぶりの再会に、握手を交わす。

 

「ところで、仕事中だろ? 良かったのかい?」

 

 流石に公私混同が過ぎる気がする。

 

「いや、大丈夫だ。それより」

 

 スクール君は、レッドさんをちらりと見た。

 

「あぁ、彼女は……」

 

「いや、紹介は後にしよう。まずはついて来てくれ」

 

 えっ……?

 あのスクール君が、女の子の事を後回しにしただって!?

 

「どうしたんだい?」

 

 早くついてこいと言わんばかりだった。

 どうしたもこうしたも、普段無表情なアリアだって口を開けて少し驚いた様子だし。

 

「もしかして、すごく失礼な事考えてないかい?」

 

「……そんな事ないよ」

 

 そんな事あるけどね。

 すたすたと歩いて行くスクール君について行く。

 カウンターを超えて、依頼掲示板を通り抜け、その先にある職員専用のドアに手をかけて更に奥へ。

 部屋に奥まで行くと階段があり、階段を上って2階へ。

 

(ここって、2階なんてあったんだ)

 

 階段を上り、更に奥にある一室に案内された。

 部屋には中央にテーブルがあり、それを取り囲むように2?3人位がかけれそうな長椅子が並んでいる。

 

「好きな所に座ってくれ。ここなら外部に聞かれる心配もないだろう」

 

 ここは、秘匿義務のある特殊な依頼を受けたりする時に使う部屋だ。とスクール君は教えてくれた。ちゃんと使用許可も取ってあるから、安心してくれとの事。

 こんな部屋まで案内されたという事は、今回の事件は相当大事なのだろう。

 

「まずエルク君。何があったか詳しく教えて欲しい」

 

「そうだね。その前に紹介するよ。レッドさん」

 

 僕が名前を呼ぶと、レッドさんがスクール君の前に立つ。

 

「ボクはレッド=ツイン。よろしく」

 

 そう言って、ニカッと人懐っこい笑みを浮かべ、手を差し出した。

 

「俺はエルク君の親友、スクールだ。よろしく」

 

 差し出された手を受け取り握手を交わす。

 身長差の関係でスクール君が見下ろす形になる。

 スクール君、視線が少し下過ぎる気はしませんかね?

 

「スクール君。どこを見ているんだい?」

 

 とりあえず突っ込んでおく。

 

「い、いや。違うんだ。もしかしてレッドちゃんは、ドワーフなのかなと思って」

 

 その言葉に、レッドさんは少し驚いた表情を見せる。

 一緒に旅をして来て、普通の人と体格が違うので奇異の目で見られる事はあったけど、ドワーフじゃないかと言われたのは、今回が初めてだったからだ。 

 

「うん。よく分かったね。と言ってもボクはハーフだけどね」

 

「えっ?」

 

「えっ?」

 

 2人の時間が、一瞬止まった。

 口からでまかせを言ったら、正解だっただけなんだよなぁ。

 まいいや。これ以上この話を引き伸ばしたら、レッドさんがいつもの調子でからかってきそうだし、話を戻すか。

 

「それじゃあ詳しい事を話すけど、アリア、フレイヤ、レッドさん。もし僕の話してる内容で、間違ってたり食い違っていたりしたら、逐一突っ込んで貰えると助かります」

 

 3人の「わかった」という返事を聞いてから、僕らはそれぞれ椅子に腰をかけ、話し始めた。

 アインに向かった理由、アインで何があったか。そしてレッドさんが僕らについて来た理由を。

 

「なるほど。そういう事だったのか」

 

 スクール君は顎に手をやり、何やら考え込んでいる様子だ。 

 

「すまない。ちょっとだけ頭の整理をさせて貰って良いかい?」

 

「あぁ、構わないよ」

 

 腕を組みながら、ブツブツと独り言を繰り返し、最後によしと言って僕らの方を向いた。

 どうやら整理がついたようだ。

 

「まずはサラちゃんの家の状況から話そう。ここ最近レイア家による、獣人の誘拐が頻発してるという噂があるんだ」

 

「レイア家、つまりサラの実家が?」

 

 僕の問いにスクール君が頷く。

 

「多分奴隷にするためだと思う。誘拐して奴隷登録さえしてしまえば、誘拐された家族がなんと言おうと、所有権は奴隷の主にあるから手出し出来なくなるしね」

 

「なんで獣人だけなの?」

 

 フレイヤが疑問を口にした。

 あまり人族の差別の事を教えなかったから、ピンと来ないか。

 リンが一緒だったから、差別に会いそうな場面は基本避けてたし。

 正直、リンの前でその手の話はしたくなかったから、今は丁度良いタイミングなのかもしれないな。

 

「あー……フレイヤは人族の歴史については知ってるよね?」

 

「うん。魔王を倒してからドワーフとホビットと獣人とエルフを人族が迫害したって内容だよね?」

 

「その迫害が昔ほどじゃないけど、今も一部では続いているんだ。差別とかいった形で」

 

「差別?」

 

 説明はしてみたけど、フレイヤもレッドさんも、最後までわからないといった表情で話を聞いていた。

 時折「なんでそんな事するの?」と不満そうな顔で聞いてくるが「そういうものだから」としか答えようがなくて、僕もスクール君も返答に困ってしまう。

 まぁ分からないならそれで良いや。分かっても嫌な気分になるだけだし。

 

「エルク君やアリアちゃんも、リンちゃんに対して差別とかしたりするの?」

 

「そんな事しないよ。リンは大事な仲間で、大切な友達だからね」

 

「うん。私もエルクと同じ」

 

 僕とアリアの返事を聞いて、フレイヤは嬉しそうな顔で頷いた。よーしよし。

 フレイヤの頭を撫でると「私は?」と言わんばかりに顔を近づけてくるアリアの頭も撫でて、2人とも満足そうだ。満足してくれたようで何よりだ。

 

「それで話を戻すけど」

 

 わざとらしい咳払いを入れてから、スクール君が話を続ける。

 

「攫ったのが獣人までなら問題にはならなかった。けど……」

 

「けど?」

 

「つい最近、ドワーフやホビットも攫ってきたらしい」

 

 スクール君がそう言った瞬間に、レッドさんが机にドンと音が鳴るほどの勢いで両手をついた。

 

「それってもしかしてビアードアクアチョロの事!?」

 

 スクール君に詰め寄るレッドさん。

 口早にあれこれと質問しているが、ちょっと早口すぎて聞き取りづらい。

 詰められてるスクール君は、降参だと言わんばかりに軽く両手を上げて僕に助けを求めてきた。

 唐突に誘拐された家族の情報が出てきたのだから、レッドさんがはやるのも無理ないか。

 

「レッドさん落ち着いて」

 

「落ち着いてなんかいられないよ!」

 

 ですよね。

 っと、納得しちゃダメだ。まずは今にも羽交い締めでレッドさんを止めに入ろうとするアリアに、平手を前に突き出して待てをする。意図を理解してくれたようだ。アリアはそのままの姿勢でピタっと止まった。

 

「レッドさん。そんな風に詰めよると、スクール君も困っちゃうよ。ほら見なよ」

 

 僕はあえてレッドさんに触れず、スクール君を指差す。

 少し困ったような顔で苦笑いを浮かべるスクール君。そんな彼をまじまじと見て、レッドさんがバツの悪そうな顔をして座った。

 スクール君が本気で困ってる事に気付いてくれたようだ。

 

 もしここで力ずくで止めようとしたら、レッドさんは更に興奮して落ち着かせるのに時間がかかっただろう。

 暴れれば、余計に頭に血が回って冷静さを失ってしまうものだ。

 

「助かったよ」

 

「ごめん、なさい」

 

「いやいや。俺もさっき事情を聞いていたのに、勿体ぶった言い方して悪かった」

 

 スクール君はそのまま一息つき、座り直した。

 

「まず誘拐されたドワーフ族ホビット族だけど、詳細は不明だ」

 

「……そっか」

 

 レッドさんはシュンとした。誘拐された家族の情報が手に入ると期待してただけに、なおさらショックなようだ。

 

「それで、とある貴族が誘拐の証拠をつかんだと言って、レイア家の当主。つまりサラちゃんのお父さんを訴えて裁判を起こそうとしているんだ」

 

「何か証拠があったの?」

 

「もし裁判までに証拠の内容を出せば隠ぺいの恐れがある。と言って詳しい証拠については伏せられたままだったよ。ただ、レイア家に攫われた可能性のある獣人の家族を保護した、という情報はいくつか仕入れたよ」

 

 隠ぺいの恐れか、もっともらしいような、胡散臭いような言い方だな。

 それに誘拐された獣人の家族の情報か。普段は問題にされないが、本来は違法だ。詳しく調べるための口実に出来る。

 

「それで、とある貴族っていうのは?」

 

「名前はエッダ=ロック=ハイルマン。サラちゃんの元婚約者だ」

 

 待てよ。エッダだって!?

 

「エッダって、もしかして」

 

「あぁ、さっきエルク君が言っていた、エルヴァン達の雇い主だ」

 

「そんな。それじゃあサラは……」

 

 婚約が嫌で家を飛び出したのに、その婚約者の元へエルヴァン達と向かったのか。

 貴族について詳しくはわからないけど、流石に逃げ出した婚約者の前に行くのは危険なはずだ。体裁を重んじる貴族に恥をかかせたのだから。

 

「大丈夫だ。サラちゃんは正式に婚約破棄を出来たらしいからね」

 

 そうなのか?

 

「ここからは俺の想像でしかないんだけど、聞いてくれ」

 

「うん」

 

「もしかしたらエッダは、レイア家の当主を、サラちゃんに裁かせるために呼びよせた可能性がある。たとえどんな証拠があって、どんな大義名分をかかげても、貴族が貴族を裁くのはリスクが生じる」

 

「リスクというのは?」

 

「懇意な他の貴族から攻撃されたり、最悪暗殺だってありうる」

 

 なるほどね。どんな繋がりがあるかわからない以上、下手に手出しが出来ないわけか。

 

「つまり、裁判はサラにやってもらった方が、都合がいいわけだ」

 

「そういう事だね」

 

 しかし変だな。貴族同士の抗争にならないように、サラを使ってレイア家の内部で起きた事にしたいのはわかったけど、その目的がわからない。

 

「それは、エッダにとってメリットがある事なの?」

 

 そう。メリットがないのだ。

 ドワーフやホビットの誘拐は重罪だ。だけどそれを事前に情報をつかみ、未然に防ぐために私設団をアインに送り込んだりと、私財を投じてまでやる事ではないだろう。

 

 それとも正義感に満ち溢れた人物なのだろうか?

 いや、それは無いだろう。もしそんな清廉潔白な人物ならサラが嫌がって家を飛び出たりは……あー、サラは人の話を聞かないからどうだろ……。

 まいいや、なんにしてもメリットがない。

 

「メリットはあるよ。十分なね」

 

「十分なメリットというのは?」

 

「サラちゃんの家のレイア家も立派な街の領主でね。もしサラちゃんが今の当主を亡き者にすれば、次の当主はサラちゃんになるだろう。他の世継ぎは居ないみたいだし」

 

「亡き者って、死刑が確定してるわけじゃないんでしょ?」

 

「どうだろうね。奴隷として攫う事自体、この国では大きな犯罪だよ。それが手を出したら国同士の問題にまで発展するドワーフやホビットとあればなおさらだ。他にも余罪は色々出てるみたいだしね」

 

 他の余罪……そう言えば前に、リンがサラの父親は、可哀想な奴隷を作るように仕向けていると言っていたっけ。

 

「だから死刑は十分にあり得る。たとえ免れたとしても地位を剥奪されるのは確実だろうね」

 

「ふむ」

 

「そうなると当主はサラちゃんに回ってくるけど、多分サラちゃんは家を継がないと思う。自分の家を嫌ってるからね。そうなると後を継ぐ者が居なくなる。」

 

「継ぐ人が居なくなるとどうなるの?」

 

 聞いておいてなんだけど、なんとなく答えはわかった。

 

「レイア家の次に権力を持つ、エッダが領主になるだろうね」

 

「なるほどね。でもそれって、サラが居なかったら成り立たなくないかな?」

 

 そもそも僕たちがアインに居たのは偶然だったわけだし。

 

「それならそれで、エッダ主導でやれば良いだけさ。ただサラちゃんが居た方が、話がスムーズに進んで、何かと面倒ごとを回避出来るから便利って感じだろうね」

 

 なるほどね。居なくてもいいけど、居た方が便利なら呼んだ方が良いか。

 サラの残した手紙の内容からすると、サラもそれを理解した上で、行ったのだろうし。

 

「それで、エルク君はどうするつもりだい? それでもサラちゃんを追いかける?」

 

「うん。そのつもりだけど」

 

「そっか……」

 

「スクール君。色々と助かったよ。ありが」

 

「やめておいた方が良い」

 

 お礼を言おうとする僕の言葉を、スクール君は遮った。

 

「えっ」

 

「ここで終わるまで待っていた方が良い」

 

「そんな。なんで……」

 

 アリアとフレイヤも、僕と同じタイミングで、同じ言葉を口にした。

 

「なんで? わからないのか?」

 

 なんでと言われても、わからないな。

 

「もし行けば、キミ達はサラちゃんが父親を手にかける場面に遭遇するかもしれないんだぞ?」

 

「あっ……」

 

「父親を手にかける彼女を見て、キミ達はまた一緒に冒険が出来るか? 父親を手にかけるのを見たキミ達と、彼女はまた一緒に冒険が出来るか?」

 

 返答につまった。

 アリアとフレイヤも思うところがあるのだろう。何も言わずにじっとスクール君を見ている。

 

「だから、ここで終わるまで待って、サラちゃんに会うのはそれからにした方が良い」

 

 スクール君は、静かにそう言った。

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