剣も魔術も使えぬ勇者   作:138ネコ

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第16話「牢獄」

 リンと話をした翌日。

 調べたい事があるから出かける事にした。ただし今日は僕1人でだ。

 

 僕1人で行くことを伝えると、当然のようにフレイヤが「ついて行く」と言い出したけど、アリアのフォローにより、フレイヤはついて行く事を諦めてくれた。

 レッドさんはなんとなく察したのか、僕が1人で出かける事については何も言わなかった。

 さてと、それじゃあ情報収集といきますか。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

「ここか」

 

 僕が今居る場所は、町外れにある小型の砦のような建物の前だ。

 この砦は外から来る者を拒むのでなく、中から出る者を拒むためのものだけど。

 

 なぜ中から出る物を拒むのかって? 砦の正体は牢獄だからだ。

 牢獄は高い塀で囲まれており、出入り口は一つしかない。

 その出入り口も頑丈そうな扉で閉ざされている。

 

 入り口には3人の門番が、遠くに見える監視塔にはそれぞれ数名の見張りの兵士が立っている。

 周りには僕の他に誰もいないため、見張りの兵士がチラチラと無遠慮にこちらを見てくる。

 それもそうか。大体こんなところに1人で来ていたら怪しいのは自覚しているし。

 

 僕が調べていたのは、サラの父親、ティラさんがどこに幽閉されているのかだ。

 下手に嗅ぎ回っていれば捕まる危険性があったから、1人で調べる事にしていた。

 

 僕1人なら、ここに来ても街の子供が興味本位で見に来た程度に思われるだけで済むだろうし。

 ゾロゾロと人数を連れて行けば、ちょっと怪しい程度じゃすまされないだろう。

 

 調べた結果、意外とすんなりここにティラさんが幽閉されている事が分かった。

 問題はどうやってティラさんに会うかだ。

 

 正面から堂々と「投獄されている、この街の領主様に会いに来ました」なんて言っても、門前払いにされるのが関の山だ。

 さて、どうしようか。

 

 そんな風に考えていると、入口の扉がギギギと重そうな音を立てて開かれた。

 中から男性が1人出てきた。

 

 見張りの兵士たちは胸当てに兜をつけた程度の質素な装備だが、中から出て来た男性は他の兵士達とは比べ物にならないような豪華な鎧を身に纏っている。兵士たちは僕より少し年上そうな感じだが、この男性は一回りも二回りも年上に感じる。

 

「隊長。見回りお疲れ様です」

 

「見張り番、ご苦労。定時連絡に来たが何か変わった事はないか?」

 

 見張りの兵士たちからは隊長と呼ばれているのを見ると、見た目通り偉い役職なのだろう。

 

「変わったことというか、変なガキがうろついておりまして」

 

「子供が?」

 

 そう言って兵士が僕を指さす。これはチャンスだ!

 先手必勝とばかりにすかさず近づき、隊長と呼ばれた男性の右手に、両手で握手をする。

 そして、相手が何か反応をする前にこちらから話しかけた。

 

「あぁ、ここに居ましたか。お久しぶりです。マッシュです」

 

 隊長と呼ばれた男性は口をぽかんとあけ、面食らったような顔をしている。

 多分「誰だよ!?」と思っているのだろう。

 彼が僕を知らないのも無理はない。だって初対面だし。そもそも偽名だし。

 

「実は、領主様がどんな方か直接会って話をしてみたかったのですが、会わせてくれと言って簡単に会えるわけじゃないし、困っていたんですよ」

 

「あぁ、そうだな」

 

 彼は困惑しながらも、相槌を返してくれた。

 手を振りほどこうとしないのは、記憶を辿って、僕が誰なのか思い出そうとしてくれているからなのかもしれない。

 

「なので、コネのある“友人“を頼ろうかなと思ってきたんですよ」

 

 いまだ振りほどこうとしない右手を、両手ですりすりとしたところでピクッと彼の眉が動いた。

 どうやら気づいてくれたようだ。彼の右手に“お友達料“を握らせている事に。

 

「お願い、できませんかねぇ?」

 

 これは、イケるか?

 隊長と呼ばれた男性は、困惑しているのか、あるいは僕を値踏みしているのか、視線をせわしなく動かしている。

 

「あの、隊長?」

 

 先に痺れを切らしたのは、見張りの兵士だった。

 流石に僕の動きがわざとらしすぎたか。

 最悪の場合は『混沌」を使えば逃げ切れるだろう。顔を見られてはいるけど、格好はどこにでもいる村人だ。

 そうそう見つかる事はない。そんな心の余裕から、大胆になりすぎた。

 

 どうする? もうここで逃げるべきか?

 いくら『混沌』があるといっても、発動前に行動不能にされたらおしまいだ。

 だけど、このチャンスを逃したら次はない。確実に警戒されるだろうし。

 

「あぁ、マッシュ君だったか、久しぶりじゃないか」

 

「あっ……」

 

 温和な笑みを浮かべた彼に対し、反応が上手くできない。

 だって、絶対失敗したと思ったし。

 

「あぁ、彼はこの“ゲイル“の友人マッシュだ」

 

 名前のわからない僕のために、兵士たちに僕が友人だというアピールと、自己紹介を兼ねたセリフだ。

 

「は、はぁ」

 

 対して兵士たちの反応は冷ややかだ。

 そりゃそうか、目の前で堂々と賄賂を渡してるのを見てるのだから。

 

「あっ、もしかしてゲイルさんの部下の方達でしたか。これは失礼を、僕はマッシュと申します」

 

 パッとゲイルと名乗る男性の手を離し、彼にしたのと同じように、他の兵士に1人ずつ両手で握手をしながら“友達料“を渡していく。

 目の前で賄賂を受け取っているのを見て、気持ち良い人間なんて居ない。そのままだと、告げ口をされる可能性がある。

 

 なので彼らにも同じように渡すことで、悪い気分を緩和させられるだろう。

 それに同じように友達料を受け取ったのだ。これでもし告げ口しようものなら、自分にも返ってくるだけだ。

 

「本当はダメなのだが、仕方ない。特別に案内してやろう」

 

 そう言って、ゲイルさんが扉の中へ入っていく。

 その後をついていき、なんとか潜入する事に成功した。

 

 他の兵士たちには、ゲイルさんに憧れて仕事を見に来た少年という体で話を進めてくれた。

 中には「こんな時期に」みたいな小言を言う人も居たけど、あまり強く言われないのをみると、それなりに偉い立場の人間なのかもしれない。それはそれで不安になる。

 

 渡した友達料は1ゴルドだ。偉い立場の人間がその程度の金額で危険を冒してまで中に入れてくれるのだろうか?

 罠のような気がしてきたけど、もう引き返すわけにもいかない。

 もうちょっと考えて行動するべきだった。なんて今更後悔しても、もう遅いか。  

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 建物の中はやや入り組んだ作りで、歩いても歩いても同じような場所に出るだけだった。

 今どっちの方角に向かってるのかわからないくらい、方向感覚が狂う。

 だというのに、ゲイルさんは迷う様子もなくスタスタと前を歩いている。

 ……本当に道がわかっているのだろうか? 少し不安だ。

 

「あの……」

 

「安心しろ。もうすぐだ」

 

 僕の不安は見透かされていたようだ。

 

「……新人が来ると、大抵同じような事を言うからな」

 

 まぁ、そうなるよね。

 

「ここだ」

 

 声をかけてから、5分もしない内に目的の場所についたようだ。

 鉄で作られた重圧そうな扉の前には、入り口と同じように兵士が2人立っている。

 

「中に入るぞ」

 

 そう言って入ろうとするゲイルさんに、兵士が声をかける。

 

「隊長、そのガキはなんですか?」

 

「俺の友人だが、何か?」

 

「……いいえ、どうぞお入りください。暗いので足元にお気をつけください」

 

 何か言いたげな表情のまま、扉を開けて僕らを入れてくれた。

 

「俺はここで待っている。あまり長い時間は取れんからな」

 

 てっきりついてくるものだと思ったけど、そっちのが好都合だしあえて何も言わないでおこう。

 

「それと、暗いから見えにくいだろうが階段になっている。気をつけて行けよ」

 

「はい。ありがとうございます」

 

 暗闇で見えないかもしれないけど頭を下げて、御礼を言う。

 壁にかけられた蝋燭の明かりを頼りに、下へ下へ階段を下りていく。

 しばらく降りると壁に突き当たった。行き止まりかと思ったけど、ドアがあった。

 

 この場合ノックをするべきだろうか?

 う〜ん。わからないし、とりあえずノックをしておこう。

 しばらく待ったけど、返事はない。

 このまま待っていても時間が無為に過ぎていくだけだ。ドアを開けて中に入る。

 

 薄暗い部屋を蝋燭が照らしている。

 部屋には鉄格子があり、その奥で壁に背を預け、地べたに座っている人影が見える。

 

「了承もなしに入ってくるとはな。それではノックの意味がないのではないかね?」

 

「あっ、すみません」

 

「ふん。まぁ、良い」

 

 反射的に謝ってしまった。

 相手は男性の声で、ややしわがれている。

 

「あの、ティラ=ブレイズ=レイアさんでしょうか?」

 

 男性は座ったまま、動こうとせず、名乗った。

 

「そうだ、私がティラ=ブレイズ=レイアだ」

 

 段々と暗闇にも目が馴れてきて、顔が見えるようになってきた。

 年齢は40くらいだろうか?

 眉間に深いシワが刻まれ、やや厳しい印象を受ける男性。

 投獄生活のせいか、髪は乱れ、身につけている高そうな服はボロボロだ。

 

 どうやらこの人が、サラの父親のようだ。

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