剣も魔術も使えぬ勇者   作:138ネコ

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第21話「父の過去」

 父と一年ぶりに話した。

 時折手紙を出したりはしていたけど、ちゃんと面と向かって話すのとでは、やっぱり違う。

 僕の話に頷き、時に驚いたり頭を抱えたりと、レスポンスが返ってくるのは、話していて気持ちが良い。

 どちらかと言うと張り付いた笑みと、頭を抱えてる場面が多かった気がするけど。

 何とか今までの旅を父さんに話し終えた。

 

「私が思った以上に冒険をして、成長したようだな」

 

 僕の話を聞き終え、少し寂しそうな顔で父は笑った。

 

「それでは私の話をしようか、その前に……」

 

 父が声をかけると、チャラい職員さんと屈強な職員さんが近づいて来た。

 

「ヘッヘッヘ。久しぶりだな」

 

「元気そうで何よりだ」

 

 そういえば父さんと一緒に戦っていたけど、職員さん達とは知り合いなのだろうか?

 僕が冒険者ギルドを訪れた時に、屈強な職員さんが父さんから、僕の話は聞いていると言ってたけど。

 

「エルク。チャラーとダールの事は分かるな?」

 

「はい。確か冒険者ギルドの職員ですよね?」

 

 名前は今初めて知ったけど。

 

「うむ。そうだ。そして彼らとは、かつて一緒の冒険者パーティだったんだ」

 

「えっ。父さん冒険者だったの?」

 

 商人にしては、冒険者事情にやたら詳しいと思っていたけど、元冒険者だったのか。

 いつも冒険者の話を聞かせてくれる時、最初に「これは聞いた話なのだがね」と言ってたけど、もしかしたらその内のいくつかは、父さんの体験談だったかもしれないな。

 でもなんで冒険者を辞めて商人に?

 ……考えて、すぐに答えが出てきた。

 

「もしかして、父さんが冒険者を辞めたのは、僕が出来たから?」

 

 スキールさんとゾフィさんは子供が出来て、冒険者を続けるのが難しくなるから、ちゃんとした職に就くことにした。 

 多分、父さんもそんな感じだったのだろう。

 

「エルク。お前のせいではないよ」

 

「あっ……」

 

 違う、僕が言いたかったのはそうじゃない。

 

「ごめん。父さん、そういう意味じゃないんだ」

 

「あぁ、わかっておるよ」

 

 もし、アンリがスキールさんに「僕が出来たから、英雄になるのは諦めたの?」なんて言えば、スキールさんが傷つくのは分かっている。

 だから、僕が父さんに「僕のせいで冒険者を辞めたの?」なんて聞けば悲しむに決まってるじゃないか。

 何やってるんだ僕は、久しぶりに会って、いきなり悲しませるなんて……

 

「エルク。お()ぇさんは少し勘違いしてるぞ」

 

「はい?」

 

「そもそもアレク……お前の父ちゃんは冒険者辞めてねぇぞ?」

 

「……はぁ?」

 

 間抜けた声を出した僕を、チャラーことチャラい職員さんが笑っている。

 

「それに、父ちゃん商人じゃねぇぞ?」

 

「えええええ!?」

 

「お、おい。チャラー!」

 

「アレク、別に隠すようなことじゃねぇだろ? 商人に憧れて、趣味で商人の真似事をしてるだけの専属護衛だって」

 

「えっ、趣味って? 専属護衛って?」

 

「言葉の通りだ。他の町や村や集落に行く時の専属護衛が本業だ」

 

 父さんを見ると、気まずそうな顔で思い切り目をそらされた。

 

「じゃあ父さんが普段お店でやってるのは?」

 

「……完全に趣味だな」

 

 相変わらず目を背けた父さんの代わりに、ダールこと屈強な職員さんが答えた。

 どうやらチャラい職員さんが言っていることは、本当の事のようだ。

 そういえば僕らが町を出るために護衛依頼を探そうとした時に、父さんがいつ出るか教えてくれたけど、普通に考えれば、小間使いにいつどこで商売をやるか情報を与えるわけがないか。

 

「でも、なんでそんな嘘を?」

 

「私のような商人になりたいというお前を見ていたら、商人じゃないと言い出しづらくて……」

 

 恥ずかしそうに、両手で顔を覆い隠してしまった。

 父さんみたいになりたいと学園に通って、イジメられて退学した僕に「実は商人じゃない」なんて確かに言えないよな。

 しかも、自分に憧れたことが理由で学園に行くようになって、なのにイジメられて学園を辞めることになり帰ってきたんだから。そう考えると父さんの心労は相当のものだろう。

 

 今の僕なら受け入れられるけど、子供の時の僕がそれを聞いたらなんて言ってただろうか。確実に父さんを傷つけてただろうな。

 

 だから5年間もの間、僕が何もせず、ただ毎日家でゴロゴロしてても何も言わなかったのだろう。

 

「父さん。たとえ商人じゃなかったとしても、父さんは僕の自慢の父さんだよ」

 

「エルク……ありがとう」

 

「そうだぜエルクゥ。お()ぇの父ちゃんはすげぇんだぜ!」 

 

 はぁ……僕と父さんの感動のシーンが台無しだ。

 冒険者ギルドでもこんな感じで話が止まらない人だったし、仕方がない。気が済むまで話させてからにしよう。

 

「僕は父さんや職員さん達の事を全く知らないので、ぜひ聞かせてほしいです」

 

「もしかして、気ぃ使わせちまった?」

 

 ちょっとわざとらし過ぎただろうか?

 チャラい職員さんは頬をポリポリと掻きながら、目線を宙に漂わせている。

 父さんと屈強な職員さんはため息をつきつつも、穏やかな顔をしている。

 

「あ、いえ。本当に気になってるので」

 

「私からも、代わりに話すのをお願いしても良いか?」

 

「ははっ、そこまで言われちゃあ、しょうがねぇな。じゃあ、ちゃぁんと聞けよ」

 

 チャラい職員さんはコホンと一つ咳ばらいをした後に、やや芝居がかった口調で語り始めた。

 

 

 ★ ★ ★

 

 

 エルクの父、アレク。彼はどこにでも居る少年だった。

 裕福なわけでもなければ、貧乏なわけでもない、平々凡々を絵に描いたような少年だ。

 そしてアレクの友人、チャラー、ダール。平凡な村の3人の少年は「将来ビッグになる」という、よくある夢を求め、村を出て冒険者になった。

 

「ビッグになるって、具体的にはどんな事なの?」

 

「んなもん、なぁんも考えてねぇに決まってるだろ」

 

「あの頃は若かったからなぁ。冒険者で有名になればビッグになれると思っていたんだ」

 

 お、おう。父さんにも若い頃というのはあったんだな。

 グレン達が「グレン愚連隊」なんて名乗っていたし、多分そんな感じのノリなんだろう。

 まあいいや。続きをお願いします。

 

 冒険者としてそこそこ大成しつつあった父さんたちだが、どうしても伸び悩んでいた時期があった。

 どうしても前衛職3人のパーティではバランスが悪い。なので打開するために魔法職を募集しようという流れになった。

 この時、募集に来てくれたのがシェリルという名の魔法使いの女性で、僕の母さんだ。

 

 母さんが加入した事により、パーティのバランスが良くなり安定度は増した。

 そして、母さんから補助魔法などを教わった結果、父さんと屈強な職員さんは更に腕を上げていったのだとか。

 いつしか大陸に名が知れ渡るほど有名になった父さんたちは、ついにはSランク冒険者にまで上り詰めた。 

 

 そして、Sランクになった父さんは、母さんに思いを告げ、結ばれた。

 ちなみに、結ばれるまでの間、奥手の父さんにしびれを切らし、チャラーさんやダールさんが色々と面倒をみたそうだ。

 周りから見たらどう見ても相思相愛の二人が、年単位で関係が進まなかった事は、一部の吟遊詩人が唄にしたほどだとか。

 

 やがて母さんが妊娠し、「一緒に店を始めようと思う」と言う2人は、幸せそのものだったとか。

 誰もが2人が幸せになるものだと思っていた。

 

 でも、幸せは長く続かなかった。

 僕が生まれてすぐに、母さんは亡くなった。流行りの病だった。

 

「母さんとの夢だった店を持つ、その為に商人の真似事をしながら働いていたんだ」

 

 といっても、いまだに店を持つに至らないのだがねと、力なく父さんはそう笑って言った。

 

 

 ★ ★ ★

 

 

 時折、父さんの鼻をすする音が聞こえた。

 昔、母さんの話を聞こうとせがんだことがある。その時の父さんの悲しそうな顔を見て、僕は今まで極力触れないようにしてきた。

 初めて聞く父さんの昔話。母さんについては、僕が物心つく前に亡くなってしまったから、正直話を聞いてもあまり実感が湧かない。

 

 ただ「お前には苦労を掛けた」という父さんの言葉が重く感じた。僕なんかよりも、もっと悲しい思いと苦労をしているというのに、必死に耐えてきたんだ。

 成長して、身長もそろそろ父さんに追いつくくらい大きくなった。でも今僕の目の前で頼りなさげな愛想笑いをしている父さんの姿は、とても大きく見える……。

 

 それからしばらく他愛もない会話が続いた。

 

「そういえば言うのを忘れていたが」

 

 部屋を出る際に、父さんが思い出したように話し始めた。

 

「一応エルクとパーティの子たちは部屋から外出が禁止になっている。多分2、3日で解放されると思うが、それまでは詳しい話をしてはいかんと言われているから、しばらくの間は辛抱していてくれるか?」

 

「はい。わかりました」

 

「それじゃあ、また来るから」

 

 僕が部屋から出るのを許されたのは、それから3日後の事だった。

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