「はぁ? バッカじゃないの!?」
身柄を拘束されていたサラが帰ってきたので、事件の全貌を話した。
結果はこの通り、全く信じる様子が無い。
僕らがどれだけ説明をしても、そっぽを向いて「あっそ」と適当な返事をするだけだった。
「それで、下らない茶番劇はこれで終わり?」
「茶番って……」
「疲れたからもう寝るわ。おやすみ」
「サラ、ちょっと待っ……」
僕の呼びかけに応じる様子もなく、扉を閉めて部屋から出て行ってしまった。
「サラを呼び戻してきます」
「いや、良いんだ。構わないよ」
「ですが……」
僕の言葉に、ティラさんは微笑みを浮かべながら首を横に振った。
「私は父が亡くなるまでその本心を知らなかった。知ろうともしなかった。だから、あの子を責める事は出来ない」
「それで本当に良いんですか?」
「あぁ、父が最後まで言えなかった言葉を、私はあの子に言えたんだ。それだけで十分だよ」
そう言って少し悲しそうな笑みを浮かべるティラさんに、僕らはそれ以上何も言えなかった。
★ ★ ★
ティラさんと父達は今後の話があるという事で、僕らは部屋を後にした。
フレイヤは屋敷の中が気になるらしく、ティラさんに許可を得て探検するそうだ。
アリアにはフレイヤが変な事をしないように監視役を頼んでおいた。とはいえアリアも変な事をしそうだからなぁ。
ゲイルさんに事情を話して、二人が変な事をしそうなら止めるようにお願いしておいた。
とはいえ、彼女たちが本当に変な事をするとは思っていない。いや、少し思ってはいるけど。
フレイヤもアリアも、僕に遠慮しての事だろう。
この後、僕がサラと話をしに行くと思い、席を外してくれたのだと思う。
サラの事だから、大人数で行けば余計に意地を張って反発してしまうのは目に見えている。だから僕一人で行く口実を作ってくれたのだろう。
「あれ?」
サラの部屋に向かう途中で、リンを見かけた。
部屋を出た後から見かけなかったけど、リンもサラの部屋に向かう途中なのだろうか?
「リン」
声をかける。
「エルク、丁度良かったです。少し手伝って欲しいです」
「手伝いって、サラの事かな?」
「そうです」
サラの事か尋ねてみたけど、別の事だとしても元より断るつもりはなかったので二つ返事でOKをした。
「こっちです」
手を引かれるままについて行くが、サラの部屋とは別方向だ。
たどり着いた先は、部屋の前。
「ここは?」
僕の問いに答えず、リンは鍵を使ってガチャリとドアを開けた。
そこは小さな小部屋で、両脇にはびっしりと本が並べられた本棚があり、部屋の奥には机が一つあるだけの部屋だ。
「こっちです」
部屋の奥まで行くと、リンは机をどかし始めた。
一緒になって机をどかすと、床には取っ手のようなものがある。
多分、ティラさんの父親が使っていたという地下通路への入り口だろう。
「リンじゃ開けれないから、手伝って欲しいです」
「分かった。でも勝手に開けて良いの?」
「大丈夫です」
リンは問題ないと言わんばかりに頷くが、本当に大丈夫なのだろうか?
普通に考えたら大丈夫じゃないと思うけど。
まぁいいや。もしもの時はリンと一緒に謝ろう。
扉を開けると、地下への階段が現れた。
薄暗く、奥が見えない。
リンがランプに明かりを付け、階段を下りて行く。
僕もリンの後を追って、奥へと入って行った。
★ ★ ★
少し埃臭い気はするが、それでも掃除は行き届いているのだろう。
地下室にしては小奇麗な部屋に出た。
本棚や、よく分からないガラクタのような物。
年季が入った子供物の服もいくつか置いてあった。
女の子用の子供服。ティラさんは男兄弟しか居ないと言っていたので、多分サラの物だろう。
ここがどんな部屋か何となく想像がついた。ここはティラさんの、サラへの思いが詰まった部屋だ。
「それで、何をすれば良い?」
「ちょっと待つです」
リンがパラパラと本をめくり、中を確認して何冊か僕に手渡した。
他に肖像画……と言うにはあまりにお粗末な人物画の入れられた額。
これは多分、幼い頃のサラが描いたティラさんの似顔絵なのだろう。
本の中身は見ていない。僕がおいそれと見てはいけない気がしたから。
「これでサラが話を聞いてくれると良いね」
「サラは怒るとすぐに意地を張るから、聞いてくれるか分からないです」
それもそうだね。そう言って僕らはお互い笑い合った。
★ ★ ★
「サラ、ちょっと良いかな?」
ドアをノックして声をかけるが、返事が無い。
ここでいきなり開けて着替え中でした。なんてことはないだろう。
もしそうだったら返事があるはずだし。
気にせずドアノブを回し、ドアを開ける。
「何よ」
部屋に入った僕に対し、腕を組んであからさまに機嫌の悪いサラが、機嫌の悪そうな声で声をかけて来た。
僕の後にリンが入って来たのを見て、軽くため息をついた。
「それで、何?」
態度が少しだけ軟化した気がする。
多分僕だけで来ていたら、なんだかんだ言って追い出されていた可能性が高いな。
リンと来て正解だったようだ。
「実はティラさんの事で話があるんだ」
サラの眉がピクついた。
「サラ、これを見て欲しいです」
リンは僕の手元から一冊の本を取り出し、サラの元まで歩き手渡した。
戸惑いつつも、本を受け取り中身を確認するサラ。
その表情は段々と険しいものになっていく。
「ねぇ、これはサラがティラさんに描いた絵だろ?」
絵を見て、サラがピクっと一瞬反応をしたが、すぐに怒りの表情に変わって行く。
「こんなもので、あんな奴を信じろって言うの!? ふざけるな!!!」
僕をキッと睨みつけ、持っていた本を投げつけて来た。
「どうせ、もしもの時の根回しに用意してただけに決まってるわ!」
「サラ、ちゃんと聞いて欲しいです」
「聞けるわけないでしょ。なんであんな奴の肩を持つのよ!」
サラの問いに、リンは普段サラに対し見せない、怒りのような顔をした。
「サラ聞いて欲しいです」
「なによ」
リンの表情に、サラが少したじろぐ。
「リンは……ティラさんに言われ、サラの身を守るために一緒に家を出たのです」
「……はっ?」
「あの日、もしサラが婚約を受け入れるようなら、リンがサラを家から出るように説得するように言われてたです」
「リン。あなた何を言ってるの?」
サラの声が震える。
リンはそれでも言葉を続けた。
「リンが居れば、サラに悪意を持つ者が近づいてきたらすぐに分かるです。だから幼い頃から、サラの護衛をする為に剣術を教えられ、治療魔術を覚えたです」
リンの言っている事は、多分本当の事なのだろう。
考えてみれば、サラの護衛と考える方が自然だ。
読み書きができ、剣術が扱え、初級とはいえ治療魔術も扱える上に野草や毒類の知識も豊富だ。
とても元奴隷で、召し使いの獣人に教えるような内容じゃない。
「だからティラさんはサラの事が」
パシンと、乾いた音が鳴り響いた。
リンの頬を、サラがはたいたからだ。
リンは赤くなった頬を抑える。
「どいつもこいつも、私を馬鹿にして!!!」
「お、おい。サラ!」
「うるさい!!!」
サラが壁に向かって走り出す。
そのまま魔法で壁に穴をあけ、外に出て行ってしまった。
ドタドタ遠くから足音が聞こえてくる。サラが壁を壊した音を聞きつけて、何があったか確認するためだろう。
さて、どう説明しようか。先ほどサラに投げつけられ、足元に落ちた本を拾い上げる。
拾い上げる際に、本の中味が見えてしまった。
『今日はサラが、こっそり私の為に料理を作ってくれた。召し使いの者達が普段の料理と共に並べてくれたそれは、とても美味しいそうと言える見た目ではなかった。私を見るサラの目はキラキラと輝き「おいしい」と言ってくれるのを期待しているのだろう。だからわざとその料理の乗った皿を床に叩きつけた。「こんな家畜の餌を私に食べさせるつもりか!」と怒鳴ると、サラは泣きながら部屋を出て行った。その様子を見て心が痛む。床に落ちたサラの料理を食べると決して美味しいと言えるものではなかった。それでも私の為を思って作ってくれた料理だ、他の者が止めようとするのを構わず全て平らげた。きっとあの子が私の為に料理を作る事は、もう無いだろう。だから、せめて私の代わりにサラを愛してくれる人に食べて貰えることを心から祈ろう。愛してるよサラ』
ティラさんの日記だろう。幼い頃のサラが、ティラさんに料理を出した事が書かれている。
……全く、サラは素直じゃないな。僕に料理を教えて欲しいって言ったのは、本当はティラさんに食べて欲しかったからなんだろう。
お父さんに構って欲しい。そう言えば良いのに。
「リン。ごめん、ちょっとサラを追いかけてくるから、ここは任せて良いかな?」
目に涙をいっぱい溜めたリンを置いていくのは心苦しいけど、まずはあの分からず屋をどうにかする事からだな。
「はい。任せるです」
必死に笑顔を作るリンの頭を撫でた。
「行ってくるね」
「はい。行ってらっしゃいです」
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