剣も魔術も使えぬ勇者   作:138ネコ

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第7話「観光案内」

 僕等はスクール君の後に続いて、街を歩いていた。

 彼は町の至る所を指をさしながら、案内をしてくれる。

 あそこはマジックショップだ。あそこはこの街で一番不味い飯屋だ。あそこはいかがわしいお店だと。

 女性が居ても気にせずいかがわしいお店の話をする辺り、昔と変わっていない。

 

「この大通りの広場を抜けて少し行けば、フロ付の安い宿があるけど……どうやら、その前に面白いものが見れそうだぜ」

 

 彼は広場の前で止まって、斜め右の方向に視線を向ける。

 視線の先では男2人が言い争っており、周りには人だかりが出来ていた。

 喧嘩くらいならどこでも見れるんじゃないか? そう思っていたが、ちょっと変だ。

 

「俺は地剣術の使い手で、魔法大会の予選で決勝まで行ったことがあるぜ!」

 

「はっ、俺は予選を通った事があるぜ。脳筋の地剣術じゃその程度が限界か」

 

 剣士風の男性と、両手に杖を持った全身真っ黒のロングコートを着たキザったらしい男性が、どちらが強いか言い争っているのだ。

 

「良いだろう。なら勝負で決着をつけようか」

 

「あぁ、構わないね。審判はいるか?」

  

 すると、青と白のストライプ柄のシャツを着た男性が勢いよく走ってきた。この人が審判と呼ばれる人だろうか?

 

「はーい。野次馬の人達危ないから下がって、下がって」

 

 審判と呼ばれた人が、慣れた感じで周りの人達を二人から離れさせる。

 そして二人の間に立ち右手を挙げた。

 

「ファイッ!」

 

 審判の合図を皮切りに、二人の戦闘が始まった。

 さっきの会話を聞く限りでは剣士の方は地剣術を使うみたいだ。しかし魔術師との距離を考えると『瞬歩』を使うのは難しいと思う。

 とはいえ、魔術師は近距離戦闘に向いていない。たとえ『瞬歩』が無いとしても、この状況では魔術師が一方的に不利だ。

 

「ウンディーネよ。動きを封ずる足枷となれ」

 

「おせぇ!」

 

 魔術師は凍らせて相手の動きを封じる水の中級魔法、フロストダイバーの詠唱に入ったがもう遅い。剣士が一足で間合いを詰め、既に剣を振り下ろしていた。

 詠唱は間に合わず、剣士の上段からなる斬撃により勝負は決した。魔術師の勝利で。

 

 いや、正しくは魔術師ではなかった。杖と思っていた武器は、持ち手から先に刃のある仕込み杖だった。

 剣士の上段を右手に持った仕込み杖の鞘の部分で斜めに受け止め、精巧に杖に見せかけた鞘の部分が剣士の振り下ろしと共に地面に滑り落ちた。

 仕込み杖の鞘から抜かれた刃は、剣士の目の前で止められている。

 

「勝負あり!」

 

 審判が魔術師の腕を持ち上げ、勝利宣言をあげると同時に歓声が上がる。

 その結果に対し、納得がいかない様子で剣士が抗議をしている。

 

「ひ、卑怯だぞ!」

 

 そりゃそうだ。どちらが強いか決める戦いなのに、あそこまで堂々と卑怯な戦術を使われたら文句の一つや二つは出る。

 

「お前。それ大会のリングの上で同じ事が言える?」

 

「ぐっ。ぐぐぐぐぐぐ」

 

 何度か何かを言おうとしては口を開けるが言葉にならず。剣士は、結局何も言い返すことができず。顔を真っ赤にして去って行った。

 

「あの技って見た感じ初見じゃないと引っかからないのに、こんな大勢の人の前で見せちゃって良い物なの?」

 

「あれは海剣術の『擬態』と言う技です。見せて相手に警戒させるだけでも効果的です」

 

 見せるだけで効果的?

 見せない方が、技を引っ掛けられるから良いと思うけど。

 

「どういう事?」

 

「同じくらいの実力者同士で戦う場合、最後は経験による読みと、取れる選択肢の多さで勝負が分かれる。その時に『擬態』を相手に警戒させれば、上段からの攻撃を躊躇させられる。それにより相手の選択肢が減れば読み合いにおいて有利が生じる」

 

 戦う前から心理戦が始まっていたのか、結構深いな。

 

「もし一合目の打ち合いで『擬態』が失敗していても、もう片方の杖を警戒しながら戦わないといけない。中途半端に距離を空けたら、魔法を本当に打ってくる可能性も有る」

 

 リンとアリアが試合内容について解説をしてくれる。

 こう言っては悪いが、正直アリアは何も考えずに戦ってると思っていたから、かなり意外だった。

 周りの野次馬も、今の試合について熱く語りあっている。

 

「どうだいエルク君。魔法大会が近くなると、街のあちこちでこんな風にストリートファイトが始まるんだ」

 

 審判と呼ばれた人がやけに野次馬の整理に手慣れてると思ったけど、これが日常茶飯事なのか。

 するとスクール君は、ニヤニヤ笑みを浮かべながら、今度は広場の真ん中に建てられている銅像を指さしてこっちを見た。

 

 いや、彼が指差したのは銅像ではなく、その前に居る男女だ。

 男は何やら落ち着かない様子だが、何かを決心したような顔で一人頷き、女性の肩を叩く。

 

「何かしら?」

 

「リズ。キミに勝負を申し込む!」

 

「マイク? 急に何を言っているの?」

 

 いきなり勝負を申し込まれた女性は、わけがわからないといった様子で顔をしかめている。

 そこに先ほどのストライプ柄のシャツを着た審判が走ってきた。

 

「ファイッ!」

 

 先ほどとは違い、野次馬の整理も勝負の同意も得ない。一方的な試合開始の宣言。

 しかし、戦うはずなのにマイクと呼ばれた男性は片膝をついて、ポケットから箱を取り出した。

 ゆっくりと箱を開ける。中に入っていたのは指輪だ。

 

「リズ。僕と結婚してくれ」

 

 彼は真剣な顔で、指輪の入った箱を差し出している。これはあれかな?

 決闘の申し込みと結婚の申し込みをかけた、ロマンチックな告白なのだろう。

 

 リズと呼ばれた女性は、両手で口を抑えながら、驚いた表情を見せ。そして涙を流しながら指輪を受け取った。

 

「はい……喜んで……」

 

 歓声があがる、冷やかしの声や指笛の音で五月蠅いくらいに。

 だけど幸せそうに笑う二人を見ると、その五月蠅さもなんとなく心地よい物に思えた。

 

「勝負ありっ、両者WIN-WIN。ちゃんと幸せにしてやれよコノヤロウ!」

 

 拍手と声援の中を、夫婦となった二人は手を繋ぎ歩いて行った。

 彼らが向かった方向には市役所があるから、結婚の手続きに行ったのだろう。とスクール君が言っていた。

 

「勝負と言っても、ただの決闘から愛の告白、他にも演劇っぽい戦いとかをやる人とか色々居るから、見てて飽きないんだ」

 

 確かに見ていて飽きない。

 飲み比べをしてる人や、音楽に合わせて剣舞をしてる人など多種多様だ。

 これなら一日中街を見ているだけでも楽しめると思う。

 

「まだ見せたいものは他にも色々あるんだけど……とりあえず宿まで案内しようか。穴場だけど埋まっちゃう可能性も有るからね」

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 大通りを抜けると、今度は路地裏に入っていく。狭くなったり広くなったり。

 多分建物を建てる際に、あまり考えずに次々建てたのだろう。入り組んだ路地裏はまるで迷路のようになっている。

 路地裏を抜けた先に、宿があった。

 

 

 ――野良猫通りの宿―—

 外から見ると少々老朽化した宿ではあるが、中は思ったより清潔感があった。ちゃんと掃除がなされているのだろう。

 値段は魔法大会の期間だけあって、普段より割高らしいが、それでも勇者割引を使えば朝夕の食事付きで一泊お一人25シルバ。

 宿泊費は高くついたが、今の僕等は少々資金に余裕もあるし、フロ付で同じような宿を探すと他は40シルバ位かかるみたいだから、ここ以外を選ぶメリットはあまりない。

 ここのデメリットは、行きも帰りも道に迷いそうな事くらいか。

 

 空いてる部屋を適当に選んで、10日分の支払いを先に済ませておく。

 これだけで所持金は半分くらいになった。観光したりする余裕がなくはないが、それはこの街でどんな仕事があって、どのくらいの収入が見込めるか目途がついてからにしよう。

 もし毎日働いても赤字なら、他の街へ移動を考えなければいけない。

 その時に無一文では移動すらままならなくなるし、その状態で移動先の街でも仕事が無かった場合、僕らは人生の詰みになる。

 

 部屋に荷物を置き、シオンさん達も交えて今後の仕事の話だ。

 シオンさん達も冒険者登録をするなら、スクール君が他のグループの卒業試験の護衛依頼をシオンさん達にも指名で入るように口利きしてくれると話している。 

 

「スクール君って、学園で顔が広いの?」

 

「あぁ……エルク君がイジメで去ってからさ、せめて自分の手の届く範囲は守れるように、後ろ盾作ったり色々と頑張ったんだ。本当はエルク君が去る前からやっていれば良かったのに、すまない」

 

「ううん、謝らなくていいよ。元々は僕の問題なんだ。今更過去の事を言っても仕方ないさ」

 

 お互いに謝ったり、褒め合ったりしながら、そんな感じで会話が弾んで依頼の話をした。

 

 護衛依頼の内容は、卒業試験に学園の教員の引率の元、キラーファングというモンスターを狩りに行くという内容だ。

 緊急時には引率の教員が手助けをするが、基本は不正をしないか監視をするだけなので、冒険者が討伐を手伝う形になる。

 

 

 ――キラーファング――

 ネコをそのまま人間サイズまで大きくしたようなモンスターで、ゴブリン等のモンスター退治に慣れて、慢心し始めた冒険者がよく討伐依頼を受けると言われている。

 Dランク冒険者の壁と言われており、ここで苦戦するようならランクアップが遠のく。

 

 キラーファングという名前が表す通り、鋭い牙を武器にしており、その牙にかかった駆け出し冒険者の心を次々キラーしていく。

 慎重な性格をしているので、襲われても全力で抵抗しているとキラーファングは逃げ出すので、名前の割にキラーファングにより死亡事件は少ないらしい。

 

 

 

 スクール君の班は4人でキラーファングを合計8体倒せば合格になる。

 なので依頼は8匹倒せば成功になるけど、注意点がいくつかある。

 

 ・冒険者のみで倒した場合はカウントをされない。

 ・もし依頼主に危害が及んだ場合は失敗扱いとする。

 ・引率の教員の指示に従い行動する。明らかに指示を無視する場合も失敗扱いとする。

 ・その他、不利益になるような行動をわざととる場合も失敗扱いとする。悪質な場合は罰金、または冒険者資格の剥奪。もしくはその両方が課せられる。

 

 この依頼はなんと報酬が2ゴールドも貰える上に、キラーファングの討伐証明部位を持ちかえれば1匹10シルバをギルドから貰えるなんとも美味しい話だ。

 もしこれがただのキラーファング討伐ならDランクで報酬ももっと安いらしい。

 今回は色々と制約がつくため、依頼のランクはCだ。

 

「あのスクール君、大変言いにくいけど、僕らの冒険者ランクはEなんだ。シオンさん達は登録してもFからだと思うし」

 

「あぁ、それなら問題ないから安心してくれ」

 

 本来なら依頼を受ける場合、Cランク以上の依頼は1ランク下の冒険者ランクまでという決まりがある。なのでEランクの僕らでは受注が出来ない。

 しかし、指名依頼の場合は依頼を受けるためのランク制限が無くなる。

 ちゃんと僕らが受けれるように、指名で依頼を出すとスクール君は説明をしてくれた。

 

 スクール君は一度学園に戻り、いつ依頼を出すか決めるという事で話はまとまった。

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