剣も魔術も使えぬ勇者   作:138ネコ

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第11話「それでも僕は」

 僕らは森を抜け、宿まで戻ってきた。

 サラがリンの足の手当てをしているが、出血が止まらない。

 やはりポーションや中級治療魔術程度ではどうにもならないようだ。

 

「専門の治療魔術師の人に見てもらおう」

 

「だ、大丈夫で……ッ!」

 

 大丈夫だと言って、歩いて見せようとするリンだが、立ち上がる事すらままならない。

 額には玉のような汗を浮かべ、それでも何度も立ち上がろうとしては、苦痛に顔を歪ませる。

 辞めさせようとしても「大丈夫」だと言って聞かない。

 アリアやサラも、怪我人相手に実力行使に出るわけにもいかず、困り顔だ。

 仕方がない。僕が説得するしかないか。

 

「リンッ!」

 

 強い口調で名前を呼ばれ、リンは一瞬ビクンと震え、俯いた。 

 このまま問答していても仕方ない。可哀想だけど強めに言わせてもらおう。

 

「リンは、パーティに迷惑かかると思って、大丈夫って言ってるんでしょ?」

 

 少し間を空けて、リンがうなづく。

 

「……はいです」

 

「それは違うよ。迷惑なんて誰も思っていない、だって仲間なんだから」

 

「……」

 

「もしこれで無理してリンが歩けなくなったら、そっちの方が迷惑するんだ。わかるかい?」

 

「うっ……グス」

 

 泣かしてしまった。アリアとサラの目線が痛い、けどこれもリンの為なんだ、心を鬼にしよう。

 何とか説得することに成功し、最後はコクンと頷いてくれた。

 

「それじゃあ、今から治療に行こうか。さぁ僕の背中に乗って」

 

「はいです」

 

 嗚咽の交じった返事をして、僕の背中におぶさって来てくれた。

 さて、行こうかと言ってみたものの、専門の治療魔術師がどこにいるかわからない。宿の人にでも聞いてみようか。

 ヴェルは魔法大会や街中で普段から戦ってる人はいっぱいいる。だから治療施設だって沢山あるはずだ。

 ドアを開けて部屋を出ようとしたところで、スクール君と鉢合わせた。

 

「やあエルク君。キミがリンちゃんを背負って歩いている姿が見えたから心配になってね。もし治療魔術師に診てもらうつもりなら、案内をしようか?」

 

 狙ったかのようなタイミングで現れたスクール君。

 

「スクール君。お願いしていいかな?」

 

「あぁ、ついてきてくれ」

 

「ありがとう」

 

 僕らはスクール君の後について行った。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 宿を出て数分。治療魔術院は割と近場にあった。

 中に入るとスクール君は受付を通り過ぎて、そのまま治療魔術師の先生を呼んできてくれた。

 白衣を着てメガネをかけた、若い女性だ。髪は短く切り揃えられ、清潔感がある印象だ。

 

「スクールの頼みだ。すぐに見てあげよう」

 

「ありがとうございます」

 

「治療室はこっちだ。ついてきてくれ」

 

 治療魔術師さんの案内で、建物の一室に入った。

 僕らが入った後、部屋に入る前に彼女はスクール君に声をかけた。

 

「スクール。これで貸し一つね」

 

 ニチャアと、凄く悪い笑顔をしているのが見えた。

 この人に任せて本当に大丈夫か、少し、いや凄く心配になってきた。

 とはいえ、仕事モードに入ると、僕の懸念とは裏腹に、テキパキと治療を始めてくれている。

 

 僕らが巻いた包帯は使い物にならないとの事で、外して即ゴミ箱に捨てた。

 ケガの状態を見せるために、リンは椅子に座ってスカートを太ももの辺りまで上げる。

 傷はふくらはぎ全体に及んでいる。血だらけになった足を見ても顔色一つ変えず、丁寧に消毒している。

 消毒液がしみるのを必死に我慢しているのだろう。スカートを握っている手に力を入れ過ぎて、痕が残りそうなくらいシワが出来ている。

 不意に、リンのスカートが盛り上がり、尻尾が出てきた。

 

「尻尾……キミは獣人か。ふむ、ちょっと尻尾を触っても良いかな?」

 

 そういって尻尾に手を伸ばすが、リンが尻尾でバシンと払い除ける。

 獣人の尻尾は自分の意思で動かせるのか。ちょっと便利そう。

 

 無遠慮なところはあるが、リンが獣人と分かっても嫌な態度を取らず、丁寧にちゃんと治療してくれている。

 ニチャアと笑ったりするから警戒していたけど、凄く良い人じゃないか。

 見た目で人を判断しちゃいけないな。それは獣人だからと言って差別していたあいつらと変わらない。反省しよう。

 なんて感心していると、彼女はいきなりリンのスカートをガバっとめくりだす。

 

「おお。可愛いパンツ穿いてるな」

 

 前言撤回。本当に大丈夫かこの人?

 スカートがめくれ、リンのパンツが見えた。白!

 慌てて見ないように目を逸らすが、逸らした先にはチンピラが居た。違う、サラだ。

 ならず者よろしくな感じで、メンチを切ってくれている。ヒィィィィ。

 

「リンは私が見てるから、あんたらはギルドに報告でもしてきなさい」

 

 僕とスクールは追い出されるようにして外に出た。何故かアリアもついてきた。

 そうだな。サラのいう通り、とりあえずギルドに報告してこよう。「今回の依頼は失敗しました。ごめんなさい」と。

 違約金が発生するが、それも仕方がない。

 例えリンがケガをしていなかったとしても、僕は続けることには反対しただろう。

 

 ギルドに向かう途中に、見知った顔がこちらに息を切らせながら走ってきた。

 先ほどの依頼で、キラーベアを見て腰を抜かして半狂乱になっていた男子生徒だ。

 こんな所まで追いかけてきて、まだ言い足りないのか?

 これ以上やるって言うなら、僕もアリアも冷静でいられる自信はない。

 だけど何か様子が変だ。明らかに何かに怯えている。目にいっぱい涙を溜めて。

 彼は僕の前まで来ると、肩を掴み縋るような声で助けを求めてくる。

 

「た、助けてほしい! お願いだ!」

 

「落ち着けピーター。いったい何があったんだ?」

 

 スクール君にピーターと呼ばれた男子生徒は、息を整えようとして、ゲホゲホと咽ている。

 僕はとにかく嫌そうな顔をしながら水筒を彼に渡した。正直さっきの事があるからそのまま咽させたいが、緊急事態の様子でもあるし。

 僕の表情を見る余裕もないのか、水筒をすぐさま受け取り、中の水をゴクゴク飲んでいる。

 アリア、ステイステイ。まだ殴っちゃだめだよ。

 

「キラーヘッドに襲われたんだ。頼む、皆を助けてくれ」

 

「キラーヘッド、ですか?」

 

 話を聞くと、どうやら僕らと別れた後に、彼らはそのまま散策を続けたそうだ。

 そこで1匹のキラーファングを見つけた。倒そうとしたところ、すぐさま逃げようとしたので追いかけたそうだ。戦闘もせず、すぐさま逃げ出した時点で怪しいと感じるべきだった、と彼は言った。

 相手はキラーファング1匹、引率の教員もいて、相手は襲い掛かろうとせず逃げまどうだけ。そんなキラーファングを相手に、皆で魔法を打って追い回していたのだが、キラーファングを倒す頃には、キラーヘッド率いるキラーファング、キラーウルフ、キラーフォックの群れに囲まれていたそうだ。

 

 基本キラーファングもキラーウルフもキラーフォックも群れる事は無く、1、2匹で行動している。

 一度に遭遇する数が少ないために、危険度は低いとされるが、キラーと名前の付くモンスターを統率出来るキラーヘッドが居る場合は別だ。

 キラーヘッドは、茶色の毛皮のキラーファングの色違いで黒色の毛皮をしている。

 固体としての能力はキラーファングとは大差は無いが、統率能力があるため、遭遇した場合は取り巻きを何匹もつれて襲い掛かって来るため、比較的危険度が高いモンスターに分類されている。

 しかしキラーヘッドはキラーベア同様に、森を抜けた山の方に生息していると聞いていたのだけど。

 

 スクール君が神妙な顔つきで、疑問を口にした。

 

「そもそも依頼が終わってないのに、なんでエルク君達と別れたんだ?」

 

「そ、それは」

 

 言いづらそうにしているので、代わりに僕が説明する。

 始めは説明を聞いていたスクール君だったが、段々と相槌の返事すらしなくなってきた。

 

「それでリンに……」

 

「ごめん。わかったから、もう良い」

 

 スクール君は僕の説明を途中で遮った。

 僕らの様子をオロオロしながら見ているピーターと呼ばれた少年に声をかける。

 

「それで、状況は?」

 

「俺は何とか走って逃げれたけど、先生達がそのまま。アイスウォールで四方に壁を作って時間を稼いでいるけど、魔力が切れたら終わりだ」

 

「ハッ! ザマアミロだな!」

 

 スクール君が口角を上げ、嬉しそうに笑う。

 

「頼む、皆を助けてください。お願いします」

 

 その場で土下座を始めるピーター。そんな彼に対し罵倒を投げるスクール君。

 道行く人は怪訝な顔で見ている。まるで僕らがイジメてるようにしか見えないし、いじめと言えなくはない。

 

「どの辺りにいるか、出来るだけ具体的に教えてください」 

 

「おい、エルク君。もしかして助けに行くつもりなのか?」

 

 スクール君は心外だと言わんばかりに、僕の肩を掴む。

 

「エルク、助けに行くつもり?」

 

「うん、僕は助けに行こうと思う」

 

「やめるんだ! こいつらのさっきの話を聞いたけど、そんなの自業自得だろ!」

 

 自業自得か。確かにそうだ。まるでイジメをしていたら報復されたジーンさんのように。

 あの時は復讐しようとしているアルフさんが言ってたな。僕がやってる事は、幼稚な正義感だって。

 困ってるとはいえ、昔僕をいじめて、先ほどリンに酷い事を言った相手を助ける。

 確かにマヌケで幼稚な正義感だ。

 

「それでも僕は、助けたい」

 

 確かにあいつらがやった事は許さないし、許す気もない。

 でも、だからって見殺しにして良いとも思わない。

 

「エルクならそう言うと思ってた。急ごう」

 

 いつも無表情のアリアが、笑った気がした。

 走り出す僕らの後ろでスクール君が叫んでいる。「やめろ、あんな奴ら生きる価値が無いんだ」と。

 彼の言葉を振り切り、走っていく。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 先ほどのひらけた場所まで来た。この先で襲われたと言ってたな。

 実際ここまで来ると、キラーファングやキラーウルフの遠吠えが聞こえてくる。まだ戦っているのだろう。

 

 声のする方向へ急いでいくと、スーツ姿で片眼鏡をかけた、白髪交じりの初老の男性がいた。

 スクール君達の時に引率をしていた、ジャイルズ先生だ。

 スーツはボロボロに引き裂かれ、所々血が流れ出ているのが痛ましい。

 何故ジャイルズ先生がここに?

 

「やぁ。キミもピーター君に頼まれて、助けに来たのかい?」

 

 穏やかな顔で、まるで世間話でもするようにこちらに話しかけてくる。

 先生もピーターに頼まれて、彼らを助けに来たのか?

 だが、その彼らはアイスウォールの中で見守っているだけだ。

 

 先生に向かって、後ろからキラーファングよりも一回り小さいキラーウルフが飛びかかるのが見えた。

 思わず叫ぶ。

 

「先生、後ろッ!」

 

 すると地面から「ゴオオ」と勢いよく音を立てて火柱が現れる。

 ジャイルズ先生が無詠唱で唱えたファイヤピラーだ。

 火柱が直撃し、キラーウルフはそのまま宙を舞い、丸コゲになった姿で落ちてきた。

 

「いやはや、昔はブイブイ言わせたものなのだけどね。どうやら私も歳のようだ。申し訳ないが、彼らを助けるために手伝ってもらえないだろうか?」

 

 愉快そうに笑いながらも、次々と無詠唱魔法でキラーファング、キラーウルフを仕留めていく。

 だが、全部を捌ききれるわけではない。ジャイルズ先生が1人で戦うには、数が多すぎるのだ。見渡すだけでも、モンスターはゆうに30匹はくだらないだろう。

 僕とアリアは急いでジャイルズ先生の元まで走る。捌ききれなかったモンスターをジャイルズ先生に近づけないために。

 ジャイルズ先生に向かってくるキラーフォックに向けて、剣を振り下ろす。

 こいつはキラーファングやキラーウルフと比べると、ややでかい野良猫程度のサイズでしかないので脅威度はゴブリンと大差がない。僕でも倒せる程度の相手だ。

 流石にキラーファングやキラーウルフは、僕では相手が出来ないので、アリアに任せている。

 

「いいかね? やつらは目線が外れた瞬間に襲い掛かって来る。逆を言えば、目を合わせておき、あえて目線を外せば、こちらのタイミングで飛びかからせる事が出来るのだよ」

 

 まるで授業を行うように、僕らにアドバイスをしてくれる。

 かなりの数を倒したはずなのに、モンスターの数が減る様子が見えない。

 モンスターを倒しても、奥に居る黒色のキラーヘッドが遠吠えをするたびに次々に沸いてくる。これではキリがない。

 

「キャアアアアアアアアアアア」

 

「ギャアアアアアアアアアアア」

 

 突如、バキンと何かが砕けるような音がした。

 音のした方角を見ると、四方を固めたアイスウォールが割れている。

 割ったのはキラーベアだ。こんな状況でキラーベアまで出てくるとか、いよいよどうしようもなくなってきたぞ。

 

「キラーヘッドはキラーベアも支配下に置けるが、実際に見るのは珍しいな」

 

 ジャイルズ先生の顔から余裕の色消えていた。

 

「うわっ」

 

 キラーベアに気を取られた一瞬の隙をついて、キラーファングに押し倒された。

 キラーファングのツメがわき腹に食い込んでくる、だが問題はそっちじゃない。キラーファングが大きく口を開けている。このままでは喉をかみちぎられるだろう。

 そうだ。目線を逸らすな、逸らした瞬間に襲い掛かって来る。必死に目を合わせると、一瞬だけキラーファングの動きが止まり、僕を抑える力が弱まった。

 その隙に、僕は右手の剣を逆手に握りなおし、噛みつこうとしてきたキラーファングの口めがけて突き入れた。

 キラーファングが噛みつこうとした勢いも相まって、剣はキラーファングの喉を突き破り、そのまま痙攣して、バタンと倒れた。

 

「エルク、大丈夫?」

 

 心配そうに声をかけてくれるが、アリアも手一杯でこちらを見る余裕もない。

 

「僕は大丈夫、それより」

 

 そう、それよりもキラーベアだ。

 キラーヘッドに、キラーベア。そしてキラーファングとキラーウルフとキラーフォックが大量の状況だ。

 生徒たちと引率の教員が僕らの元まで走って来る。キラーベアは、なぜかジッとしたまま動かないでその様子を見ていた。

 もしかして、キラーファングの統率能力が働いているせいで、襲いかかるように命令されないと動いてこないのか?

 キラーベアが襲ってきて全滅する事はのがれたが、それでも最悪な状況からは変わりない。

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