剣も魔術も使えぬ勇者   作:138ネコ

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第13話「優しさ」

 治療院で目が覚めた僕は、サラ達から叱られた。それはもうボロクソに。

 リンにあれだけ言っておいて、自分は無茶してキズだらけで帰って来たんだから、一切の反論のしようがない。

  

 リンの足のケガについては、何針か縫ったようだが、ちゃんと治療院に通えばキズ跡は残らないといわれホッとした。

 僕のケガはキラーヘッドやキラーファングに引っ掻かれた傷がそれぞれ数針づつと、両肩両足にヤケドと全身打撲。いくら装備で身を固めているとはいえ、一歩間違えれば死んでいてもおかしくない状況だったと治療魔術師の先生が呆れながら説明してくれた。

 

 僕が気絶した後、キラーベアは、駆けつけてくれたシオンさん達が倒してくれたそうだ。正しくはシオンさん1人で倒してくれたらしい。

 僕たちがあれだけ苦労したキラーベアを、シオンさんは一振りでキラーベアを一刀両断にしてみせたのだとか。

 いとも簡単にキラーベアを倒してしまうシオンさんを見て、アリアが劣等感を感じて凹み気味らしいけど、そもそも手負いとはいえドラゴンを倒してしまう程の実力者なんだから、比較対象として間違っている。

 向上心があると言えば聞こえは良いけど、そこで無茶をして怪我をしたりしないかだけが心配だ。

 無茶をして怪我を負った僕が言うんだから、間違いないな。うんうん。

 

 さて、そのシオンさん達はと言うと、もう宿に帰ったとの事。出来ればお礼を言いたかったんだけど、後で言いに行くとしよう。

 しかし、今回は色々とイレギュラーな事態があったとはいえ、もうちょっと考えて依頼を受けるべきだった。

 魔術師至上主義のような考えは、僕が学園に居た時からあったんだ。そんな人間が冒険者をどう扱うかなんて少し考えればすぐわかる。

 それなのに僕は浮かれて依頼を受けてしまった。

 

「すみません、今回の依頼は僕の情報不足でした。もっとちゃんとスクール君から話を聞いておけば」

 

「何言ってんのよ、別にアンタ一人の責任なんて誰も思っちゃいないわよ」

 

「はいです。リンも凄く簡単な依頼だと言って、楽観視していましたです」  

 

「毎日卒業試験の依頼を受けようと言い出したのは私」

 

 

 「でも僕が」「いえ、リンが」「私が」僕もリンもアリアも、それぞれ自分に責任があると主張する。 

 

「あぁ、もううるさい。全員で決めた事なんだから、全員の責任で良いでしょ。さっさと冒険者ギルドへ報告に行くわよ」

 

 サラの一喝。

 「でも」と言いかけた所で、サラに頭を叩かれた。

 

「失敗なんてどうせこの先いくらでもするだろうし、そのたびにこんな事言ってたらやってられないわ。誰かが勝手に決めたわけじゃないんだから、誰も責めなくて良いの」

 

 ピシャリ、と反論を許さないと言う感じで言われてしまった。  

 仕方ない。サラのいう通りだ。これ以上不毛な問答をしているより、今後気をつけようと話した方が有意義だしね。

 僕はベッドから下り、立ち上がる。

 

「リン、背負おうか?」

 

「もう歩くくらいは出来ます。それにエルクは肩と足を火傷しているんですからリンを背負うのは無茶です」

 

 そう言ってリンは立ち上がるが、立ち上がる時にちょっと痛そうな顔をしていた。

 そんなリンを、アリアはひょいっと言った感じで持ち上げると、お姫様抱っこをして歩いて行った。

 

 お姫様抱っこをされたリンが抗議の声を上げているが、アリアは聞く耳を持たず、無表情のまま運んでいく。

 何を言っても無駄だと悟ったのだろう。「チッ」と一つ、軽く舌打ちをした。多分照れ隠しの方の舌打ちだろう。

 

「リン。まるでお姫様みたいだね」

 

「チッ」

 

 おおよそお姫様とは思えないような表情で睨んでくる。

 しかしアリアにお姫様抱っこされているせいで、逆に可愛らしく感じる。

 

「笑ってるけど、気絶してるアンタもこうやってアリアに運ばれてきたのよ」

 

 えっ、ちょっと待って。

 気を失っていた僕は、シオンさんに背負われて帰って来たんじゃないの?

 

「シオン達にはエルクの装備を持ってもらったから、私が抱きかかえて戻ってきた」

 

「エルクをお姫様抱っこしてるアリアを見た時は私も笑ったわ。普通立場逆でしょ、って」

 

 と言うと僕は街中でアリアにお姫様抱っこされてたと言うことになるのか。

 羞恥プレイじゃん。想像しただけで頭を抱えて悶絶しそうになる。

 絶対に顔覚えられてるよ。すれ違った人が「あっ、こいつ女の子にお姫様抱っこされてた野郎じゃん」とか思うに決まってるよ。

 もう街を歩けない。

 

「エルクは、まるでお姫様みたいだったです」

 

 リンが「言ってやったぜ」と言う感じに、最高のドヤ顔を決めてくる。

 今日の僕はブーメランが刺さってばかりだ。チクショウ。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 冒険者ギルドに着くと、今日も他の冒険者がニヤニヤした感じでチラチラと見てくる。

 昨日居た人達は、僕らを見ても興味を示さなかったが。

  

「プー、クックック」

 

 まぁいいや、無視だ無視。

 

「おいおい、待てよ。今日の依頼はどうだったんだ? 卒業試験の護衛に行ったんだろ?」

 

 テーブルに座って酒を飲んでいる4人の男女が、通り過ぎようとした僕らに絡んできた。

 剣を腰にぶら下げている中年の男性と2人と、杖を持った男性と女性。冒険者のパーティだろう。

 彼らに声をかけられ、一気に注目が集まった。

 

「人が話しかけてるのに、無視とは酷いんじゃないか?」

 

 それでも通り過ぎようとしたところで、中年男性に僕の腕を掴まれた。

 本当はこのまま無視を通したいが、万力にでも挟まれてるかのような力で振り払うことが出来ない。

 見ればサラが怒りで小刻みに震えている。このままじゃ揉め事になるし、仕方ない。

 

「いやぁ、それが見事に失敗しちゃいましたよ」

 

「おいおい、失敗かよ」

 

 それを聞いた瞬間に、周りが爆笑をし始める。

 僕は「あははは」、と軽く笑いながら道化を演じる。 

 どうせバカにしたいだけの連中だ。好きに笑わせてやるさ。

 今はサラが他の冒険者にキレないように上手く立ち回らないと。キレるならせめて僕にキレてくれ。

 他の冒険者と揉めて、これ以上誰かがケガなんてして欲しくないから。 

 

「まぁまぁ、席に座れや」

 

「おやおや? メシでも奢ってもらえるんですか?」

 

「おう、好きな物を頼みやがれ。ここは俺達が持ってやるよ」

 

 あれ? 思った反応と違うぞ。

 予想外の反応に面食らってしまい、気づけば言われるがままに僕らは席についていた。

 

「はぁ。またランベルトの悪い癖が出てる」

 

 杖を持った女性が困り顔でそう言っているが、声はなんとなく嬉しそうだ。

 一緒にいるメンバーも、嬉しそうな顔でため息をついている。

 僕の腕を掴んでいる、ランベルトと呼ばれた中年の男性が立ち上がり、周りを見回して叫ぶ。

 

「おう、お前ら一人1シルバのカンパだ」

 

 彼の号令で、こちらを遠巻きにニヤニヤ見ていた連中が立ち上がり、僕らが座ったテーブルの上に、次々と1シルバずつ置いて行った。

 「まぁ気を落とすな」「あの学生共マジ殺したくならね?」「やはり洗礼を受けちゃいましたかー」等と僕らを馬鹿にするどころか、慰めようとしてくれていた。

 

「えっ。あの……」

 

 キレる寸前だったサラも、ワケが分からないと言う顔をしている。

 多分僕も同じ顔をしているんだろう。

 テーブルの上に置かれたお金は既に30シルバ以上はある。一体どういう事なんだろう?

 

「俺らも新人時代に金に目がくらんで、卒業試験の護衛の依頼を受けたのよ。そしたらさ、言わなくても大体何があったかわかるだろ? そんでムカついたから、ぶん殴ってやったら依頼失敗しちまってよ」

 

 ランベルトさんは酒を片手に僕の隣に座り、くっくっく、といった感じで笑いながら、自分たちが護衛依頼を受けたときの話を語ってくれた。

 ここでは毎年新人が同じように依頼を受けて、失敗して帰って来る。

 それを見かねた上級ランクの冒険者達が違約金をカンパするのが、いつからか恒例になっているそうだ。

 新人の愚痴を聞き、それを肴に「自分達の頃もこんな事があった」と言って酒を飲むのが、この時期の楽しみになっているとか。

 

「そこのちっこいアンタ、アンタも獣人だろ? あいつら獣人だからって何か言ってこなかったかい?」

 

 犬っぽい耳の獣人さんが、リンに話しかけ匂いをクンクンかいている。セクハラだと思うけど、女性同士だからセーフかな。

 リンは気にした様子をみせない。もしかしたら匂いをかぐのが獣人の挨拶かなにかなのだろうか?

 リンがやっている所を見た事がないけど。

 

「汚らしい獣人とか、獣人だからキラーベアを呼び寄せたと言われたです」

 

「うっわ、ひっでぇこと言う奴が居るんだ。ってかキラーベア相手に良く生き残れたね」

 

 まだ注文をしていないのに次々とテーブルの上に料理が運ばれてくる。多分他の冒険者の人達の計らいだろう。

 他の冒険者さんがこちらに話を聞きに来るのを見て、我も我もと次々と人が集まってくる。

 僕らの話を聞いて、彼らは時に笑い、時に声を荒げ、酒場は軽いどんちゃん騒ぎだ。

 

 「バカにして笑っている連中だ」なんて思い、僕も彼らを馬鹿にしてた事を心の中で謝罪して、料理に手をつけた。

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