剣も魔術も使えぬ勇者   作:138ネコ

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第3章「魔法大会予選 ‐エルクの秘められた力‐
第1話「底辺冒険者 前編」


「どうしてこうなった?」

 

 僕は今、臨時パーティでゴブリン退治をしている。

 

「チッ、この程度で苦戦するのかよ」

 

 僕と同じくらいの年齢で、先ほどから僕やパーティにガミガミとケチをつけてくる剣士《ソードマン》の少年グレン。

 彼がこのパーティのリーダーだ。

 情熱だと言わんばかりの赤い髪を掻き毟りながら、イライラした顔で一通り文句を言い終わると、ペッと唾を吐いた。

 

「グレンさん、少し落ち着いてください」

 

 そんな彼を「まぁまぁ」と言いながら、困った顔で宥めているのは聖職者《アコライト》のヨルクさん。

 グレンよりも年上らしいのだが、何故かグレンに敬語で話しかけている。グレンは彼に対してタメ口なのに。

 僕に対して「ごめんなさいね」と言って頬を掻く。眉毛が八の字になっているせいで困った顔が余計に困っているように見える。

 

「ふっ、今宵の風は身に染みるぜ」 

 

 いや、今昼間なんだけど?

 左目には眼帯をして、少しボロボロになった感じのローブを身に着けている彼はベリト。

 見た感じローブ自体は新品に近いから、自分で穴を空けたりしたのだろう。

 風が吹いた。サラサラとした黒く長い髪から微かに見える彼の素顔は、ブサイクだった。

 いや、ブサイクは言い過ぎだね。10メートル位離れたらイケメンに見えるかもしれない。

 だから10メートル離れて欲しい、近くにいるだけでも恥ずかしいから。

 

 一応、魔術師《マジシャン》で初級魔法を使えるんだけど、詠唱が何か変。

 「地獄の業火、ヘルフレイム」とか言いながらファイヤボルトを出したりしている。違う詠唱で魔法を出せるのは、それはそれで凄い事なんだけどさ。

 

 なぜ彼らとゴブリン退治なんかをする事になったかというと、話は少し前に溯る。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 アリアとサラがヴェル魔法大会の予選に出るので、僕なりに色々調べてみた。

 予選は5ヵ所のコロシアムで、それぞれ4回行うそうだ。

 

 それぞれの予選で上位3名、計60人が2次予選に出られる。

 2次予選はそれぞれの選手をランダムで割り振り、勝ち抜き形式で2回勝った15人が本戦出場の権利を得る。

 本戦は、本戦への出場権を持った15人+前大会優勝者の計16人による勝ち抜きトーナメントになる。

 そんなわけで今大会の要注意人物。いわゆる優勝候補の情報を収集をしている。

 情報というのは、武器にも防具にもなる見えない装備だ。

 

 魔法が使えなくても参加可能な魔法大会、相手が魔術師だから剣を使わないとは限らない、勿論その逆だってあり得る。

 相手の戦法や得意武器を知っているだけでも、大きなアドバンテージを得られる。

 もし相手の次の手が分かるなら、それだけで格上相手にも勝てなくはない。

 まぁ世の中そんなに上手くいくとは思わないけど、とはいえは何事も備えは大事だ。

 

 スクール君が調べてくれた情報をまとめた手帳を見てみる。

 今大会の有力選手は。

 

 魔術学園の学園長ヴァレミー。

 魔術学園の学園長というだけあって、魔法に長けており、火土水の超級魔法が扱えるらしい。それに加え全ての初級〜上級魔法が無詠唱で使えるそうだ。

 弱点は魔術師らしく肉弾戦が苦手らしいが、それでも自力の補助魔法を使えば並の剣士では相手にならないくらい強いらしい。

 

 

 冒険者ギルドのギルドマスターゼクス。

 かつてはS級冒険者、年老いた今でも年齢を感じさせないだけの実力はあり、その腕はいまだ現役。

 学園長と戦った際には戦績は五分らしい。学園長とは幼馴染にして元パーティだとか。

 お互い立場やいざこざがあるせいで、こういった機会でしか顔を合わすことがないとか。

 

 

 最強の男キース。

 ヴェル魔法大会をほぼ毎年優勝している空剣術を得意とする剣士。

 この街で「最強は誰だ?」と聞かれたら、真っ先に彼の名前が上がるほど。

 勝気な性格と、観客を沸かすパフォーマーな人柄で人気者だとか。

 

 その他にも毎年出場を決めている選手、予選突破率の高い選手の情報が色々載っていた。

 そのほとんどが冒険者だ。ならば次の情報収集する場所は決まっている。冒険者ギルドの酒場だ。

 ここで適当な冒険者にお酒を奢って酔わせ、情報を色々と吐いてもらおうとしよう。

 予選への参加は原則一人一回まで、なら明らかに強い選手が集まる予選は避けるようにしていけば、本戦へ行ける可能性はグッと上がるはず。

 

 そう、魔法大会における情報戦は既に始まっているんだ! まぁ僕の中だけだけど。

 どうせ出るなら、彼女たちには勝って欲しい。そして勝つためには戦略が必要だ。

 アリアやサラの実力を卑下しているわけではない、だけどスクール君の情報を見る限りでは、無策で勝てるほど簡単な相手はほとんどいない。

 それなら卑怯と言われようとも、事前に情報を調べておくべきだ。僕が卑怯者になるだけで彼女たちが勝って喜んでくれるなら、いくらでも卑怯者になってやるさ。

 僕は早速冒険者ギルドへ駆け出していった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 

「なんだあれ?」

 

 冒険者ギルドの前で3人の男の子が立っていた。

 学園でいたずらをして叱られた生徒が廊下で立たされている時のように、ピンと姿勢を正した状態で立っている。

 彼らは中に入っていく人に、それぞれ大声で挨拶をしている。 

 

「よう、エルクじゃねぇか。こんな所で何やってんだ?」

 

 馴れ馴れしく僕の肩に手を回し、声をかけてきた主に挨拶を返す。

 

「お久しぶりですランベルトさん。えっと、彼らはどうしてあんな所で、いろんな人に挨拶しているのかなと思いまして。」

 

「あー、あれは底辺冒険者だ」

 

 何でもない顔をして、凄く酷い発言をしている。

 

「底辺は流石に失礼なんじゃないんでしょうか」

 

「別に悪口で言ってるわけじゃねぇんだけどな。仕事が無くて駆け出し冒険者になったが、依頼を受けようにも装備が無い、そんな奴らの呼称みたいなもんだ。」

 

「はぁ」

 

 ランベルトさんは基本口が悪いが、バカにしてるわけじゃない。ただちょっと言い方が悪いだけだ。

 口は悪いけど、その分性格は良い人だ。それはこの前の酒場の一件で十分理解している。

 

 ランベルトさんから視線を外し、いまだに挨拶を続けている彼らをみる。

 駆け出し冒険者だけど装備が無いか。確かに彼らの恰好は冒険者というよりも、僕と同じような、ラフな格好に近い。

 

「実際冒険者になるって言っても、最初に武器が無けりゃ何も始まらねぇからな」

 

「武器、無いんですか?」

 

「言っとくけど、お前らのパーティは異常だからな? 装備を買うために依頼を受けるところから始めるのが普通だ。お前らEランクとか言ってるけど実力は……いや、この話はやめだ」

 

「途中でやめられると余計気になりますよ」

 

 周りからの評価、自分達がどの位と思われてるのかは気になるものだ。こうやって変に言いかけて止められると特にね。

 期待の新人なんて思われていたりして。

 

「いや、昔お前らみたいにランクは低いけどつえー奴らが居たのよ。それで褒めてたらよ、気づいたら調子に乗って高ランクの魔物狩りに行きやがって、全滅しやがった……」

 

「あー。その、すみません」

 

 完全に墓穴を掘った。

 僕もそうだが、ランベルトさんもお調子者な所がある。

 今ランベルトさんが大げさに僕を褒めて、僕が大げさに受け取れば同じ轍を踏まないとも限らない。

 

「気にすんな。だからお前らはお前らのランクの仕事をこなしていけよ。例えドラゴンやキラーヘッドを倒してたとしてもな」

 

「はい」

 

 少し悲しげな表情を見せたランベルトさんだが、僕の頭をぐしゃぐしゃと撫でる頃にはいつもの表情に戻っていた。

 

「そうだ、エルクおめぇ今どうせ暇だろ?」

 

「いえ、暇というわけでは」

 

 ランベルトさんも調査対象だから、目的は言えないけど。

 

「どうせパーティの連中が魔法大会出るから、情報収集しに来てたんだろ?」

 

「えっ?」

 

 何故分かったんだ?

 そんな僕に対して、彼はニヤリと笑う。

 

「なんてな。適当にカマかけただけだが、どうやらビンゴのようだ」

 

「あっ」

 

「気にすんな。知りてえなら情報なんていくらでも教えてやるから少し付き合え」

 

 そう言って歩き出したランベルトさんの後をついていく。

 

「ランベルトさん、おはようございます!」「「おはようございます」」

 

 元気よくランベルトさんに挨拶するが、赤髪の子は何故か僕を睨むような目で見ている。

 

「おう、グレン、ヨルク。道中ゴブリンぶっ殺してきたからコイツやるわ」

 

 そう言うと、持っていた木の棒をそれぞれの少年に渡す。

 薪にでも使うのだろうか?

 

「「あざーっす」」

 

 二人の少年は貰った木の棒に、早速布を巻きつけている。

 あぁ、さっき武器が無いと言っていたから、これを武器に使えと渡したわけか。

 しかし木の棒なんてすぐに使い物にならなくなるから、ちゃんとしたものを上げればいいのに。

 

「お前ら、また勇者がパーティ抜けちまったんだって?」

 

「いや、違うんすよ。聞いてくださいよ」

 

 赤髪の子はあれこれと言い訳をするが、他の2人は目をそらしている。

 

「あぁ、まあ良い。お前らちょっとそこで待ってろ」

 

 待てを言い渡され、直立不動で大人しく待つ3人。

 ランベルトさんは僕を連れて、3人から少し離れる。

 肩をガッチリ組み、彼らに聞こえないように彼は小声で喋る。

 

「エルク悪いがこいつらと臨時パーティを組んでやってくれ。それで今回グレン達にどんな問題があるか調べるために、一緒にゴブリン退治に行って来てくれ」

 

「つまり、ゴブリン退治に行って彼らがどうだったか教える代わりに、魔法大会出場者の情報を僕に教えてくれる。と考えて良いですか?」

 

「そう思って貰えば構わないぜ。予選通過者の大半がどんな戦い方をするか、どの予選に出るか知っているからな。いくらでも教えてやるぜ」

 

「わかりました。僕はそれで構いません」 

 

 交渉成立だ。

 ゴブリン退治を受けて感想を言うだけなのだから、楽なものだ。

 ランベルトさんが彼らに僕を紹介する。今回だけ一緒にパーティを組んでくれる勇者として。

 

「チッ、俺が『グレン愚連隊』リーダーのグレンだ。言っとくが俺の命令は絶対だ、わかったな!」

 

 一瞬、背筋が凍るほど寒かった。パーティ名だと思うけど、グレン愚連隊って、センスがあまりにも……

 グレンと名乗った少年は、挨拶をした後も僕を睨みつけてくる。

 丁度その間に入るように、ランベルトさんが僕とグレンの肩を掴む。

 

「言っとくが『勇者が武器を持っていても意味が無い』とか言って、エルクの武器を取ろうとしたりするなよ?」

 

「と、当然っすよ! 臨時パーティっすからね!」

 

 グレンがめちゃくちゃ動揺してるところを見ると、僕の装備を奪う気満々だったのか。身ぐるみはがされたりしないよね?

 不安になってランベルトさんの顔を覗くと、ウインクで返された。気持ち悪い。

 

「もしグレン達に何かされたら、すぐに俺に言えよ」

 

「わかりました」

 

 こうして僕らは1回契約の臨時パーティを組んだ。

 ちなみに臨時パーティとは、今いるパーティから離れずに何らかの理由で他のパーティに入る場合は、クエストを受ける際に臨時要員の欄に名前を書けばその場限りのパーティが組める。

 もちろん勇者特典のクエストは1日1回までなので、アリア達のパーティでは受注出来なくなるが、今日はクエスト受ける予定もなかったし問題ない。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 お互い自己紹介をした後、南の門から街の外に出て平原でゴブリンを見つけた所までは良かったんだけど。

 

「ゴブリンが4匹。ベリト君の魔法で1匹戦闘不能にしてから、僕らがそれぞれが1匹づつを相手にする感じでしょうか?」

 

「はい。そうですね」

 

 ヨルクさんは僕の提案に頷く。

 それじゃあ戦闘準備を始めようとしたところで、グレンがいない事に気づく。 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

 

 木の棒を構えて、グレンが突っ走っていった。僕らの打ち合わせなんて聞いちゃいない。

 その様子を見てヨルクさんがため息をつくところを見ると、多分これがいつもの事なのだろう。

 そのままゴブリンの群れに突っ込む彼を、僕とヨルクさんは追いかけていった。

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