剣も魔術も使えぬ勇者   作:138ネコ

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第8話「シオンvsフルフル」

 学園長、シオンさん、フルフルさんの3人は順調に勝ち進み、ベスト8にまで上り詰めた。

 今の所学園長の杖を攻略できた選手はランドルさん以外おらず、学園長はほとんどの試合を開始から一歩も動くことなく勝利している。

 シオンさんは相手の全てを受け切ってから戦うスタイルのままだ。試合後に相手と握手を交わすその姿勢は、次第に女性だけではなく、男性客からも人気を集めていった。

 確かに男の僕から見てもカッコいいし憧れる。

 

 そして観客の温度差が激しくなるのは、フルフルさんの試合だ。

 勝つのを諦めた男性選手たちは試合開始とともに左右に動き回り、彼女の魔法を必死に避けている振りをする。

 彼らは、彼女の豊かに実った、大きな胸を震わせることに全力をかけていた。

 盛り上がる男性たち、それをゴミを見るような冷めた目で見る女性たち。

 

 僕はというと、フルフルさんの試合の時は、出来るだけ試合を見ないようにしてるのだが。

 左を見れば意味深な顔で自分の胸に手を当てているイルナさんが居て、右を見ればアリアが「エルクは大きい方が好きなの?」と無表情で聞いてくる。

 更にアリアの隣には、般若のような顔をしたリンが僕を睨んでいる。馬車の時の事を思い出したようだ。

 

 俯いて下を見れば、前の席に居るスクール君が振り返り僕を見て「おっぱいフルフルさんやばくない!?」と手で胸のジェスチャーをしながら話しかけてくる。

 今日も女の子達に囲まれてるのに、彼はお構いなしだ。そんな彼を見つめる視線が怖い。

 

「さて、ベスト8まで決まりましたが、そろそろお昼の時間となりましたので。一度休憩を挟み、1時間後に再開と致します」

  

 ワイワイガヤガヤと、誰もが今日の試合の事を口々にしながら席を立って出ていく。

 ほとんどの話題は学園長とシオンさん達だ。

 「どうしたら彼らに勝てるか?」「今日は誰が優勝するだろうか」「俺が戦うとしたらこうする」などと熱く語っている。

 

 さて、僕らもお昼を食べに行こう。

 本当はお昼をサンドウィッチにしようとしたのだけど、イルナさんが食べてるのを見ていたスクール君が欲しそうにしてたので、分けてあげたら他の学生にも次々と「食べたい」と言いだし、あっという間に全部無くなってしまった。

 皆が僕の料理をおいしそうに食べてくれるのは嬉しい。無くなった後にアリアがずっと無言で見つめてくるのは怖かったけど。

 

「エルク君、良かったらお昼一緒にどうかな?」

 

 スクール君からのお昼の誘いは嬉しいのだが、サラが物凄く嫌そうな顔をしている。

 スクール君はそんなサラの表情を見て「ははっ、やっぱりまた今度にしよう」と苦笑しながら、女の子達を連れて行ってしまった。

 出来れば二人には仲良くなるとまでは言わなくても、普通に話せるようになって欲しいけど。流石に無理か。

 隣に座るイルナさんに声をかける。

 

「それじゃあ控室に居るシオンさん達を誘って、一緒にお昼にしましょうか」

 

「うむ。それでは共に食卓を囲もうぞ!」

 

 イルナさんは喋り方が貴族か王族っぽく、誰もが一瞬ギョッとするような絢爛豪華な鎧を身に纏っている。

 でも、鼻歌を歌いながらサイドテールをふりふりと揺らし、スキップでもするような歩く姿を見ると、まだまだ可愛らしい子供だな。

 そういえば、なんでシオンさん達を引き連れて旅をしているんだろう?

 やんごとなき身分の人っぽいし、軽々しく聞くのはご法度かな。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 控室にいたシオンさん達と合流して、近くの売店で各々好きな物を購入してから、皆で観客席に戻り食事をとった。

 席を取っておかないと、午後からの試合が見れなくなるかもしれないからね。

 多分同じ考えの人も居たのだろう、観客席で食事をしている人をそこそこ見かける。

 チラチラと視線が僕らに集まる。理由はシオンさんとフルフルさんが居るからだ。

 中には声をかけてくる者もいた。 

 試合の時間が近づくとシオンさんとフルフルさんは選手控室へ向かっていった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 ベスト8の試合は第3試合まで終わった、学園長は勝ち残っている。

 

「さぁベスト8も最後の試合となってまいりました。最後は初出場ながら貫禄のある戦い方を見せる、シオン選手」

 

 いつも通りの足取りでリングの上に立ち、イルナさんに礼をするシオンさん。

 最初の頃は女性の声援ばかりだったのが、今では男性から声援が上がるのが聞こえる。

 

「対するは、こちらも初出場ながら規格外の魔法で圧倒する戦い方を見せる。フルフル選手」

 

 観客席に手を振りながら、にこやかに登場するフルフルさん。

 あれ? 右手に持ってる杖って。

 杖を凝視していたら、アリアが顔を近づけ僕の視界を遮った。ちょっ、近い近い。

 

「エルク、胸を見てる?」

 

「違いますよ。ほら、フルフルさんの持ってる杖って、学園長の持ってた杖じゃないですか?」

 

「ほんとだ」

 

 先の方が十字になっている白い杖だ。

 十字の部分には宝石のようなものがちりばめられている、多分魔石なんだと思うけど。

 

「その杖はどうした?」

 

 シオンさんも気づいたようだ。学園長の杖を持って現れたんだ、不審に思うはず。

 

「シオン、貴方に勝つために学園長に貸してもらったのよ『魔族の魔術師の体力がどんなものか知りたいから、その場で10回ジャンプしてくれたら貸してやろう』と言われたわ。ところでジャンプ程度で体力ってわかるのかしら?」

 

 学園長……

 男子生徒と男性の観客は「なるほどな」と呟きながら、納得したような表情で頷いてる。

 

「フン。学園長もその程度か」

 

 予想外に、スクール君は学園長に毒づいていた。一番に喜んではしゃぎそうなのに。

 普段はバカな事を言っているけど、そういう事にはちゃんと分別を持っているようで、友人として安心した。

 

「俺なら反復横飛びをしてもらうな」

 

 一瞬でも彼を見直した僕がバカだった。

 

 

「そうか。それでお前の全力が見られるなら構わない。さぁかかって来い」

 

 口角を少しだけ上げ、満足そうに武器を構えるシオンさんに対し、フルフルさんは苛立った様子だ。

 

「シオン。正直言って私、あなたのその余裕な態度、前から気に食わなかったのよ」

 

 フルフルさんは今にも噛みつきそうな顔で審判を睨め付けている。「さっさと開始の合図をしろ」と言わんばかりに。

 

「そ、それでは両者準備が出来たようなので、開始しましょう、レディー」

 

「「「「「「ゴー!!!!!!!」」」」」」

 

 フルフルさんの視線に耐え切れず、少し早口言葉で開始の合図を出す審判。

 合図と同時に、杖をコンコンと地面について魔法を連続で発動させていく。

 

 足元を凍らすフロストダイバーから始まり、様々な魔法が次々とシオンさんを襲う。

 本来は一本の火柱が立つファイヤピラーだが、フルフルさんは大量に出現させもはや広範囲魔法になっている。他の魔法も同じように本来のものとは規模が違うものばかりで、魔力に物をいわせた戦い方だ。

 魔法が当たったかどうかなど確認もせず、次々と魔法を放っていく。

 

「サラマンダーよ。我が腕を弓にせん、ファイヤボルト」

 

 右手の杖をコンコンと突きながら、初級魔法を唱えていくフルフルさん。シオンさんが居たであろう場所に炎の矢が何十発と飛んでいく。もちろんその間にも他の魔法が絶え間なく降り注いでいる。

 色鮮やかな魔法の連続で、土煙や水蒸気が立ち上り視界がふさがれシオンさんがどうなっているか分からない。

 

 更にコツンコツンと連続で杖を叩くと、ファイヤピラーが10本ほどゴウゴウと音を上げて火柱を上げると同時に、ヘブンズフォールで土の槍がリングを覆うレベルで生えてくる。もはやヤケクソのような魔法の嵐だ。

 

「偉大なる水神エーギル、力を迎え入れる事を許したまえ! ストームガスト」

 

 そしてトドメと言わんばかりのストームガストだ。

 ポールのバリアで僕ら客席は守られているとはいえ、心臓に悪い。

 

 怒涛の魔法ラッシュが終わり、舞い上がる土煙が、徐々に止んでいく。

 そこには服が所々破れながらも、剣を構えるシオンさんが居た。

 ケガはしているが、どれも致命傷にならないようなものばかりだ。

 

「これがお前の全力か?」

 

 シオンさんの問いに対し、フルフルさんが一つ大きなため息を吐いた。

 

「そうよ。もう魔力使い切っちゃったから降参するわ」

 

「そうか」

 

 彼女の降参を聞き、審判が勝利宣言を上げるためにシオンの元へ走っていく。

 離れていたとはいえ、バリアには守られていない場所に居たため、審判の体は所々凍っている。

 

「勝者はシオン選手!」

 

 ガチガチと歯の音を立てながら、必死にどちらが勝ったかを声高らかに上げると、周りの審判が彼に桶に入った水、いや湯気が出ているので多分お湯をかけている。

 命の危険もあったというのに、それでも続けるとは、これがプロの仕事か。

 

 ジト目で悪態をつこうとするフルフルさんに、シオンさんは軽く笑いかけている。

 

「全く。全力を出したのに、そんなに涼しい顔をされたらたまらないわ」

 

「いいや、こっちも一杯一杯だった。何発か貰っているから、まだ魔力が続いていたら、多分俺が負けるか死んでいただろうな」

 

「はいはい」

 

 シオンさんは定例の試合後の握手を交わしに行こうとするが、フルフルさんはそれを無視し、背を向けてリングを降りていく。

 シオンさんが、そんなフルフルさんの背中に語りかける。

 

「イルナ様の護衛の相方がお前で良かった。これなら安心して背中を任せられる」

 

「そうね、私もよ」

 

 2人は長い付き合いなのだろう。

 なんだかんだ言いながら、信頼関係を結んでいるのが会話からわかる。

 そんな2人を、イルナさんは「大儀であった」と言って、満足そうに頷いて見ていた。

 

 

 ☆ ☆ ☆  

 

 

 大会は学園長とシオンさん。それと3位決定戦を勝ち抜いた選手が1次予選突破を決めた。

 決勝戦はやらないようだ。ここでケガをして2次予選に影響するのを嫌がって大抵の選手がやらないため、決勝戦はあまり開催されないのだとか。

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