剣も魔術も使えぬ勇者   作:138ネコ

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第22話「卒業」

 魔法都市ヴェル。この街の中央にあり名物ともいえる中央コロシアム、その隣に設立されている冒険者ギルド。

 冒険者ギルド内にある酒場は繁盛していた。大勢来ることを見越していたのか冒険者ギルドの前には大量に机とイスが並べられている。

 冒険者ギルドの入り口から見渡すが先が見えない位だ。そして、それだけある席のほとんどは埋まっている。

 流石にこれだけの量を冒険者ギルドにある酒場では賄いきれないため、近隣の酒場が出張し、酒樽や簡易的な台所などを持ち込み所狭しと並べられている。他にも出店とかもあるようだ。

 辺りは真っ暗だというのに、近所迷惑この上ないほどの喧騒に包まれている。

 魔法大会が終わった後、徐々に静けさを取り戻した街が、又お祭りのような騒がしさを取り戻していた。

 

「卒業生諸君、卒業おめでとう。長く語るのは朝やったので以下省略じゃ、乾杯」

 

 ヴァレミー学園長の乾杯の音頭で、僕らは手に持ったグラスを掲げ「乾杯」と叫ぶと、お互いがグラスをカンカンと合わせて祝い合った。

 冒険者ギルドから少し離れた席に、教員や学生は集まっていた。冒険者ギルドのマスターゼクスさんに「冒険者ギルドの中でも良いんだぞ?」と言われたけど、人数が多すぎる事と冒険者と学生お互いが快く思っていない人も少なくない為、変な問題が起きないように僕らは少し離れた席を選んだ。

 学生を気に食わないといった様子で睨む冒険者にはゼクスさんが、冒険者を気に食わないといった様子で睨む学生にはヴァレミー学園長が睨みを利かせている。勿論仲良くしている冒険者と学生もいるが、完全に歩み寄るにはまだまだ時間がかかりそうだ。

 

「エルクよ。少し良いか?」

 

 乾杯の後、ヴァレミー学園長がジャイルズ先生とジル先生を引き連れ、僕の元へやってきた。

 

「あっ、はい大丈夫ですよ」

 

 アリア、サラ、リン、イルナちゃん、フルフルさん、シオンさん、それにスクール君やローズさん達と丁度乾杯し終わって、お互い一口飲んだ後だ。もしかしたら僕らが一旦乾杯をし終わるのを見届けてから、話しかけてくれたのかもしれない。

 

「エルク、それに皆もこのたびは卒業おめでとう」

 

「ありがとうございます」

 

 僕らが頭を下げようとするのを、ヴァレミー学園長が「良い良い」と言って手の平を前に出して制止する。

 そして僕らをぐるりと見渡し、穏やかな笑みでうんうんと頷く。

 

「エルク、短い間であったが学園生活はどうじゃった?」

 

「最高の学園生活を送れたと思っています」

 

「そうか……」

 

 少し悲しそうな笑みで、アゴヒゲを擦り。

 ジャイルズ先生とジル先生は言葉に詰まっているといった様子だ。何かおかしい事を言ってしまったのだろうか?

 

「卒業式でキミがした演説の件でな」

 

 あぁ。やっぱりまずかったか。

 謝ろうとする前に、ヴァレミー学園長が先に口を開いた。

 

「イジメの件を許してくれとは言わぬ、せめて謝らせて欲しい。本当にすまなかった」

 

 そっちの話か。

 

「いえ……そんな……」

 

 大丈夫です、気にしてません。そう言おうとしたけど、その言葉が言えなかった。僕にとってその言葉意味は、思ったよりも軽くなかった。

 だから曖昧な返事をするのが精いっぱいだった。

 

「それと恥ずかしい話じゃが、あの教員をすぐにクビにしたりすることは出来ない事も許してほしい。『魔術師至上主義』の思想はいまだに根強い。『魔術師至上主義者だから』と言って追い出せば、生徒からも教員からも反発を招き、学園内で派閥争いが起きる可能性もある。それに……」

 

 凄く申し訳なさそうに僕に話をするヴァレミー学園長の言葉が、「おっふ!」という声と共にいきなり途切れた。ゼクスさんが笑顔で両手を握り人差し指を立て、ヴァレミー学園長にお尻に向けて突き立てたのだ。いわゆるカンチョーだ。

 その場で四つん這いになり、お尻を擦るヴァレミー学園長を見てカカカと言った感じで笑っている。

 

「なぁエルク、学園楽しかったか?」

 

「はい」

 

「ヴァレミーの事は、恨んでいるか?」

 

「いえ、正直感謝しているくらいです」

 

「ならそれで良いじゃねぇか。だいたいヴァレミー、お前はバカの癖に考え込むからダメなんだよ。バーカバーカ」

 

 背中をバシバシ叩きながら、バーカバーカとなおも続けるゼクスさんの顔面めがけて、ヴァレミー学園長の鉄拳が飛ぶ。そのまま子供のような言い争いをし始めて取っ組み合いの喧嘩を始めた。

 二人ともいい年してなんだから、もうちょっと大人な喧嘩の仕方をした方が良い気がするけど。もしかしたらゼクスさんなりにヴァレミー学園長の事を励まそうとしているのかもしれない。元々は同じパーティだったよしみで。

 

 その後ジャイルズ先生とジル先生とも少し話してから、二人はゼクスさんとヴァレミー学園長の喧嘩を止めに行った。

 ジル先生には「屋上でキミと仲直りした事を、サラ君達が知ってると思って話しかけたら氷漬けにされたよ」と言われ、笑いながらおでこを指先でグリグリとされた。そういえば魔法大会の予選の後に祝勝会でサラと同じテーブル囲んでいたけど、僕と仲直りした事サラ達が知っていると思っていたのか。別に屋上の件は仲直りではない気がするけど。 

 先生達が去った後に、シオンさんが僕の所へやってきた。

 

「エルク。今までの事感謝する。そしてこれからもよろしく頼む」 

 

 そう言って片膝を着こうとする彼の肩をフルフルさんが掴み、笑顔で首を横に振る。それを見て「あぁ、そうだな」と言って頷き、僕に手を差し伸べてきた。

 

「そんな感謝だなんて……こちらこそ、これからもよろしくお願いします」

 

「いや、お前には随分と世話になっている。あの日、素材の売り上げを折半してもらえなかったら、俺達の資金ではその日のうちに尽きて、この街を出ていただろう。お前が無理にでも受け取らせてくれたおかげで俺達はこの街に留まって色々な経験が出来たんだ。だから礼を言わせてくれ」

 

 交わした手を強く握りしめ、目を細め満足そうに笑っている。正直僕の方が助けてもらってばかりだ。

 ドラゴンの時、キラーヘッドの時、そして今日の卒業式の時。『混沌』の修行や、アリアの『瞬戟』の修行にだって付き合って貰った。

 それなのに感謝だなんて。むしろ僕が彼に感謝しなくちゃいけない立場だ。

 

「そんな事……」

 

 そんな事ないですよと言おうとした僕に、イルナちゃんが聖剣で頭をバシバシと叩いてきた。というかそれまだ持ってたの!?

 

「エルクよ。周りを見てみるが良い」

 

 周りを見ろって言われても、見渡す限り酔っぱらいだらけだ。冒険者も学生も街の人も皆楽しくお酒を飲んで酔っ払っている。

 

「皆仲良くやっておるじゃろ? 関係が最悪だったはずの冒険者と学生までもがじゃ。それはお主が変えた事じゃ。お主がシオンに金を受け取らせ、助けに行かなくても良いような連中を助け、それが今に繋がった。偶然ではあるが、それでもお主の行いの結果じゃ、少しは胸を張れ」

 

 そう言って「やれやれ、まったくこやつは」と言って肩を落とすイルナちゃん。「エルクはネガネガもさっさと卒業するです」というリンの言葉に皆がクスクスと笑っていた。これでもかなり前向きな自信があるのに傷つくな、なんて口に出したら「ほらね」と言ってまた笑われそうなので、あえて黙っておいた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

「よぅ、卒業おめでとう」

 

 イルナちゃん達が離れたのを見て、今度はランベルトさんとそのパーティがやってきた。

 ランベルトさんのパーティと僕らはそれぞれグラスを合わせる。シオンさんや学園を除いたら多分僕が一番お世話になった人達だ。

 卒業試験失敗の時の違約金カンパを提案してくれたり、魔法大会の参加者の情報、学生の冒険者体験の為のパーティ斡旋。他にも底辺冒険者と呼ばれる人達の面倒を見たりしていて、何かと人の世話をしたがる人だ。

 

「わざわざありがとうございます」

 

「いやいや、おめぇさんには世話になったしな。お礼もかねて挨拶しとかねぇとなと思ってな」

 

 アリア達の視線が僕に向けられる。わかってる、わかってるよ。

 ここで僕が「そんな事無いですよ」と言ったら「又エルクがネガネガしてる」とか言おうとしてるんだろ?

 ここはイルナちゃんに言われた通り、胸を張ってみるかな。

 

「いえいえ、僕もランベルトさん達には色々とお世話になっていますし。まだ返し足りないくらいですよ」

 

「おおう、ボウズが言うようになったじゃねぇか」

 

 そう言って愉快そうに僕の背中をバンバンと叩く。

 僕の対応に少し満足そうな顔をしているサラに、ランベルトさんのパーティの杖を持った男女が話しかけている。見た感じ魔術師か聖職者だろう。何かを聞かれたサラは、そこにアリアを呼んでアリアに話させている。攻撃魔術ではなく治療魔術や補助魔術の事を聞かれたのだろうか?

 そうだ、ランベルトさんに伝えておきたい事があったんだ。

 

「そういえば前に言い忘れていたのですが、グレンですけど、サラの事が好きだったらしいですよ」

 

「おまっ、何でそんな面白そうな話言い忘れるんだよ。詳しく利かせろ、おまえが返し足りないと思ってる分はそれでチャラにしてやるから」

 

 無理矢理席に座らされると僕のグラスに溢れる程お酒を注がれた。それを飲んで知ってる事を全部吐けと言わんばかりに。

 話していて思ったけど、好きになった女の子に大会でコテンパンにされたのか、そう思うと少し可哀想だ。

 グレンの話でゲラゲラ笑うランベルトさん。話を一通り聞いて「じゃあ、他の奴らにも挨拶してくるから、そろそろ移動するわ」と言って他のテーブルに移って行った。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 夜は更けていく、しかしこのどんちゃん騒ぎはまだまだ静まる様子はない。

 周辺の酒場の酒も飲み尽くしたのか、馬車を使って少し離れた店からお酒を取り寄せているようだ。 

 挨拶回りが終わって、スクール君やイルナちゃん達と合流し、周りの迷惑も気にせず食って飲んでの大騒ぎだ。

 

「そう言えば、エルク君たちはイルナちゃん達とどうやって出会ったんだい?」

 

「エルク達との出会い? 私達がエルクと初めて会った時、エルクとサラはドラゴンの前で抱き合っていたわ」

 

「ちょっと! フルフル何言ってるのよ!」

 

「愛の超級魔法。ロード・ラブ・ヴァーミリオン!」

 

「シオンさんまで何言ってるんですか!」

 

「大体あってるです」

 

「うん」

 

 この日、朝まで皆と飲み交わし騒いだ。




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