剣も魔術も使えぬ勇者   作:138ネコ

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第2話「エルフの里へ向かう前に」

 僕らはギルドを出て、そのまま学園へ向かった。目的はジャイルズ先生に会うためだ。

 卒業して一ヵ月、特に用事は無いから学園に来ることは無かった。卒業してまだ一ヵ月しか経っていないというのに、何だか結構前のように感じて感慨深く思う。

 一応卒業生であれば、学園の入り口にある窓口で要件を伝えれば学園に入る許可証を発行してもらえる。新たな魔法や魔道具の開発等で学園に通う卒業生も少なくないからだ。

 そのまま廊下を渡り、階段を昇る。ジャイルズ先生は自分の実験室を持っており、授業が無い時は大体そこに居る。

 実験室の近くまでつくと、丁度そこから人が出てくるのが見えた。出て来たのはマッスルさん、それと両手に聖剣と魔剣を何本も抱えたゴチンコさんとシオンさんだ。

 

「おはようございます」

 

 僕らの挨拶に彼らも「おはよう」と返してくれた。マッスルさんはポーズを決めながらだけど。

 

「シオンさん達もジャイルズ先生に用事でしたか?」

 

 もしかして護衛依頼の件で来てるのだろうか? ゴチンコさんとマッスルさんは冒険者かわからないけど。

 シオンさんの腕前なら護衛は適任だし、それなら諦めがつく。

 

「いや、魔眼で見て貰いたい物があると言われてな」

 

「魔眼で?」

 

「同じ装備を使っても使い手によって威力や耐久性が違うのは、『実は魔力が関係しているのではないか?』という実験みたいなものだ」

 

 実は腕前じゃなく魔力じゃないか? という説か。何だかジャイルズ先生らしい目の付け所だ。

 でもその理論で行くと、魔術師が剣を使えば剣の達人になっちゃいそうな気がするけど。

 

「すまない、お前と色々話すのも悪くないが、今はイルナ様を待たせているのでな。詳しくは中で聞いてみると良い」

 

「あっ、すみません。それなら運ぶの手伝いましょうか?」

 

「いや、大丈夫だ。もしもの時はマッスルが手伝ってくれるとも言っている」

 

 僕らが道を開けると、「またな」と言って軽く笑い。彼らは階段を下りていった。

 彼らが行ったのを見届けてから、実験室のドアをノックする。「どうぞ」と言うジャイルズ先生の声が聞こえてから僕らは部屋に入った。

 

「おお、キミ達か。一ヵ月ぶりだね」

 

 部屋は教室の半分くらいの広さだった。

 壁には文章を書きなぐった紙が乱雑に貼られており、何に使うのかよくわからないものが部屋の隅にゴロゴロと捨てるように置かれている。

 日がさす窓の近くに、やや横長の机とイスが置かれており、ジャイルズ先生はそこで机に向かい、筆を執っていた。

 僕らを見て一旦筆をおき、一ヵ月ぶりになる挨拶を交わした。

 

「私に何か用かな?」

 

 そう言って穏やかな笑みを浮かべる。

 作業の途中だっただと言うのに、邪魔をされたなんて言う空気を微塵にも出さない。

 

「えっと、ジャイルズ先生がエルフの里に行くのに護衛依頼を出すとスクール君から教えてもらったので。僕らもエルフに興味があるので、どんな依頼内容か話だけでも聞いてみたいかなと思って」

 

 最後に「お邪魔でしたら、また後で伺いますが」と付け加えておいた。

 

「なるほど」

 

 そう言って、ジャイルズ先生は腕を組んで何やら考え込んでいる。 

 やっぱり僕らじゃ荷が重いという事か。

 

「実はその護衛依頼、出すのを辞めておこうと思っていた所だったのだよ」

 

 あっ、そうなんだ。

 となると僕らがここに来た理由も無くなる。邪魔にならないようにさっさと帰るべきだけど、このまま「そうですか、それでは」と言って即帰るのも何か印象が悪い。

 依頼が無いならもう話は無いのでさよならは流石にね。かと言って居座っても邪魔になるだけだし。

 

「いや、しかしキミ達なら任せても大丈夫か」

 

 ジャイルズ先生は考え込むと、何やらブツブツと独り言を始めた。

 そして大きく頷き、僕らを見ている。先ほどの穏やかな笑みではなく真剣な表情で。

 

「実はエルフの里の調査の護衛依頼なのだが、今シオン君に手伝って貰っている研究を優先させるため後回しにしようと思っていたのだよ。シオン君達はいつまで街に居るか分からないから、今の内に彼の魔眼で調べるのを優先にしていたのだが」

 

 ジャイルズ先生はそこでひと息ついた。

 確かにエルフの里の調査に行ってる間に、シオンさん達が旅に出てしまいました。では困るからね。

 

「キミ達に依頼をお願いしたい。私の代わりにエルフの里に行って、『神級魔法』の手掛かりになるような物が無いか調査をして欲しい。勿論エルフの里があるかどうかも不明だ、なので例え何も見つからなかったとしても依頼は成功扱いにするという条件でどうだろうか?」

 

「勿論引き受けるわ」

「はいです」

 

 どう返事するか悩む前に、サラとリンが元気よく答えていた。

 アリアは無表情で「どっちでも良い」と言った感じだ。僕は彼女達が受けたいならそれで良いと思う。

 でも一つ問題が。

 

「それって、僕らが何もせず適当に『何もありませんでした』と言う可能性もあるんじゃないですか?」

 

 何も見つからなくても依頼が成功扱いなんて、何もしないで「見つかりませんでした」と言う人が居たっておかしくない。

 逆に、本当に何も見つからなかった事に対して「ちゃんと探してなかっただろ!」と言われてゴネられる可能性だってある。

 こういうのはちゃんとしておかないと、後々のトラブルに発展しかねない。

 

「だからキミ達に頼むのだよ。私はキミ達を信頼しているんだ。あの時依頼を失敗になっているのに、わざわざ助けに来てくれたキミ達をね」

 

 あの時、あぁ護衛依頼の時の事か。

 信頼してもらえるのは嬉しいけど、信頼だけで依頼を受けるというのもなんだか気が引けるな。

 もし何も見つからなかったら罪悪感が残る。

 

「エルク」

 

 アリアの問いかけに「ん?」と振り返る。

 

「信頼されているのだから、胸を張って返事すれば良い」

 

 シンプルな考えだった。

 確かにあれこれ考え過ぎだったかな。これ以上考えるとまた「ネガネガしてる」と言われそうだ。

 

「わかりました。是非僕らにその依頼を受けさせてください。信頼に応えられるように頑張ります」

 

 僕の返事にジャイルズ先生も彼女達も満足そうに頷いた。

 その後、詳しい依頼内容を僕らは話し合った。

 

 

 ――エルフの里の調査依頼――

 依頼 エルフの里の調査依頼

 条件 勇者エルクパーティ指名

 報酬 20ゴールド

 

 内容

 書物を調べ、北の森の奥にエルフの里があるという文献を発見した。ある程度場所は絞り込めたので、エルフの里に赴き調査をして欲しい。

 この依頼は数日はかかるため、それなりに準備をしてから出発するように。

 

 

 ジャイルズ先生が調べた限りでは、エルフの里は結構北の方にあるようだ。 

 森の中なので遭難や危険なモンスターとの遭遇といった危険性があるので、報酬は割とお高めだ。

 大体行って戻って来るのに7~10日前後はかかるだろう。

 

「でも何でそんなところに『神級魔法』の手掛かりがあるのですか?」

 

「勇者アンリの仲間、ピエロが聖魔大戦の後に立ち寄り、マスクを置いていった場所らしい。勇者アンリは神級魔法も使えたと聞く、なのでもしかしたらマスクと共に何か残しているかもしれないと思ってな」

 

「なぜマスクをそこに?」

 

「わからん。その後の彼の足取りは知られていないからね」

 

 英雄の一人、ピエロが最後に訪れたという場所か。

 もしマスクが残っているのなら、ちょっと見てみたいな。冒険譚で出て来た英雄が本当に使っていた仮面なんて、そうそう見れる物じゃないだろうし。

 

「それでは明日にでもギルドに依頼を出しに行くとしよう。ちゃんと準備を整えてから行くように」

 

「はい」

 

 彼女達と返事をする。先生の言い方が引率する教員の感じで、何だか学生に戻ったような感じだ。

 

「所でシオンさんに手伝って貰った研究って、剣の腕前は技量じゃなく魔力だったと言う事になるんですか?」

 

 少し気になったので聞いてみた。

 

「あぁ、それはちょっと違うかな。確かに魔力は関係していたが、どちらかと言うと補助魔法のような感じらしい」

 

 『瞬歩』や『瞬戟』も補助魔法によるものの一種ではないか、という物だそうだ。

 魔法はイメージで変わると、ジャイルズ先生は言っていた。

 

「そもそも、魔法学はまだ歴史が浅くてね。学園の創始者達が各地を回り、それを使いやすいように詠唱を統一し、初級中級上級と分けただけなので、地域によっては魔法の扱いや詠唱だって違う場合もある。未知の魔法も数多く存在するし、『神級魔法』に至っては伝説で存在を語り継がれているが、どんな物かは実はわからないのだよ」

 

 未知の魔法。『混沌』とかもその部類に入るか。

 

「あれ。ジャイルズ先生は神級魔法を扱えたと聞いたのですが」

 

 ヴェル魔法大会で司会者さんがそんな事を言っていた気がする。

 

「あぁ、昔文献を調べて『神級魔法』の詠唱らしきものを見つけて試したのだが。それは大失敗に終わってね、大爆発を起こして危うく死にかけた事があったのだよ」

 

 お、おう。そうなんだ。

 そんな目にあってもまだ『神級魔法』の研究を続けてる辺りが凄い。男の浪漫なんだろうな。

 話しててもう一つ気になった事が出来た。

 

「それともう一つ気になったのですが、なんでエルフはもう居ないのでしょうか?」

 

 僕のその問いに、サラとジャイルズ先生がちょっと苦い顔をしている。

 アリアとリンは僕と同じように「何で?」といった感じで小首をかしげている。

 

「聖魔大戦の後に、人族が滅ぼそうとしたからだよ。エルフも獣人も、ドワーフやホビットといった人族以外の種族全てをね」

 

 人族が聖魔大戦の後に、他の種族を滅ぼそうとしたから?

 驚きの表情を浮かべるリンと一緒にサラを見ると、彼女は「本当よ」と目線を逸らして呟いた。

 

「少し、歴史の勉強をしておこうか。もしエルフが残っていた場合に、キミ達が歴史を知らないまま接触するのはいささか危険がある」

 

 真剣な表情のジャイルズ先生に「お願いします」と頷く僕らだけど、サラだけは嫌がっている感じだった。出来るだけこちらを見ないように視線を逸らしている。そんなにも酷い内容なのだろうか?

 

「それでは、ちょっとだけ待っててくれるかな」

 

 そう言うと立ち上がり、今自分が書いていたものを机の中にしまった。机の上に乱雑に置いてある紙をそのまま角まで移動させると思いきや全部落としていった。

 晴れやかな笑顔で「ふぅ」と一息つき、長めの机に椅子を4つ用意し、部屋の隅に捨てるように置いてある、よくわからないものをゴソゴソとかき分け、本を4冊取り出した。机の上に置いたそれは、歴史の教科書だ。なんでそんなところに4冊も同じ歴史の教科書が置いてあるか気になるところだけど。

 机の対面の壁に貼られている紙を適当に剥がして一カ所に捨てていく。紙が貼られていた壁は黒板だったのか。

 もしかしてジャイルズ先生は整理整頓が苦手な部類なんじゃないだろうか? その様子を見て、もしよかったら後で掃除を手伝ってあげよう、なんて呑気な事を僕は考えていた。

 

 「それでは歴史の授業を始めるとしようか」

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