剣も魔術も使えぬ勇者   作:138ネコ

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第14話「到着」

「エルクとフレイヤ、何やってるです?」

 

 リンは頭に「?」を浮かべながら、きょとんとした表情で僕らを見ている。

 何やってるかと言われても、僕自身「何やってるんだろう」と思ってしまってるわけで。

 フレイヤさんのデリケートな話題にもつながってしまうから、正直どう説明するか悩む。

 固まっている僕の元まで「てってって」といった感じの小走りでリンが近づき、僕の持ってる紙を見て首を傾げる。

 

「これがリンですか?」

 

「あ、うん」

 

 リンに紙を取り上げられた。

 まじまじと自分の似顔絵をみながら「ふ~ん」と言った感じで眺めている。

 そんなリンの頭を狙う魔手が伸びていたので、腕をつかんで首を振る。ここでリンの頭にグシャグシャをやったら、確実にめんどくさい事になるだけだからやめようか。

 その後も、フレイヤさんは目が合わないように顔を背けてはいるけど、目線はしっかりとリンをキープしていた。

 

「こっちがサラ?」

 

「うわっ」

 

 いつのまにか隣にはアリアが立っていた。リンに気を取られていたせいで、完全に気づかなかった。

 素っ頓狂な声を出して飛び跳ねた僕に対し、いつもの無表情で紙を片手に「こっちがサラ?」ともう一度僕に聞き返してくる。

 

「あ、うん」

 

 彼女の手に持った紙に描かれているのは、目を吊り上げ牙だけではなく角まで生えている少女。

 これを一目見て「サラ」と理解する辺り、アリアにもサラがこう見えているんだろうな。

 

「そっくり」

 

 それは本人に言ったら、確実に怒るから言わないでくれよ。そもそも、こうやってコソコソ練習してる事自体言えないんだけどさ。

 

「じゃあ、これが私?」

 

「……多分」

 

 もう1枚の、目と口が横線の女の子の絵を持ったアリアが、似顔絵と似たような表情をしながら聞いてくる。

 

「似てる?」

 

 恐ろしい位に似顔絵に似た表情のアリアに笑いそうになるが、ここはグッと堪える。

 隣では、リンとフレイヤさんがアリアの顔を見て、小刻みに震えているのがわかる。似顔絵を顔の隣に置いて同じ表情をしているのは、思った以上に面白い。

 

「う~ん。似顔絵よりも、本物のアリアの方が可愛いと僕は思うかな」

 

 笑って「似てる似てる」と言いたい所だけど、アリアがちょっと涙目になってるから、下手な事を言えばめんどくさい状況になるのはわかりきっている。

 ちょっと嘘くさいかもしれないけど、褒めておくべきだよね。きっと。

 

「うん」

 

 僕の言葉に機嫌を良くしてくれたようで、いつもの無表情に戻ってくれた。

 何とか地雷を踏まずに済んだようだ。

 

「それで、何をしていたの?」

 

 まぁ、結局めんどくさい状況には変わりがないんだけどね!

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 さて、どう説明しようか。

 そもそも、リン達がどこから見ていたのだろうか?

 まずはそこから確認してみようか。

 

「えっと、どこから見てたのかな?」

 

「フレイヤがエルクを起こす所からです」

 

「最近、エルクが寝る時間になると居なくなる」

 

 つまり、最初からバレバレだったわけか。

 二人とも寝静まってると思ったけど、気づいていたんだ。

 それならどこから説明するべきか。

 フレイヤさんは二人から顔を背けて、僕をチラチラみてくる。彼女に説明させるのは無理だな。

 アリアとリンは「何してたの?」と言わんばかりに、僕をジーッと見ている。

 

「えっとですね。実はフレイヤさんは人とお話しするのが、特に目を見て話すのが苦手なので、それを克服するための練習をしていたのですよ」 

 

 おもらしの部分はあえて隠しておく。わざわざ言う必要はないしね。

 

「フレイヤさん、本当はアリア達と仲良くしたいみたいで。今日のリンに対する態度も、仲良くしようとした結果なんだ」

 

 少し屈み込み、リンに目線を合せる。

 

「だから今朝の事は、許してあげてね」

 

「わかったです」

 

 わかってくれたようで、リンは頷いてくれた。

 

「エルクは普通に目を見て話せているけど?」

 

「一昨日ちょっとした事があって、目を見てずっと話をしていたので、僕には慣れたみたい」

 

「ずっと目を見て話していれば慣れるの?」

 

「うん。そうだけど……」 

 

 無理矢理やっちゃダメだよと続けて言おうとして、僕は言葉を失った。

 アリアは僕が喋り終わる前に、事を起こしていたからだ。

 一瞬でフレイヤさんの元まで距離を詰め、両手で顔を抑え、無理矢理目を合わせている。今にも唇が触れそうなくらいに顔を近づけて。

 

「ひぃっ!」

 

 短い悲鳴が聞こえた。アリアの想定外の行動に、僕もリンも止める事が出来なかった。

 そもそも、アリアの行動の大半は想定できないんだけどさ。

 

 そんな事考えてる場合じゃない。

 辞めさせようと僕とリンで左右からアリアの手を退けようとするが、万力のようにピクリとも動かない。

 普段の戦闘なら頼れるその腕が、今は憎い。

 

「何を喋れば良い?」

 

「良いからまずは手! 手を離してあげて!」

 

 全く。この子は本当に何しでかすか分からない。

 その間もフレイヤさんは「あっ……その……えと……」と繰り返して、涙目になっている。

 僕の言葉でアリアがやっと手を離してくれたが、既に手遅れだったようだ。

 一緒に退けようとしていたリンが「あっ」といった表情で、視線が下にさがっているのを見て僕は察した。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 アリアとリンには全てを話した。もう隠す必要が無くなったので。

 アリアは僕が話してる最中も、目線がせわしなく動いていた。別に僕の話を聞く気が無いのでなく、隣でズボンを濡らして泣きじゃくるフレイヤさんを気にしているからだろう。

 

「アリア」

 

 僕の言葉に、アリアがピクッと反応する。

 ちょっとだけ強めに言ったからだ。

 

「こういう時は、何て言うんだっけ?」

 

「ごめんなさい」

 

 内心溜息をつく。

 とりあえず、フレイヤさんだ。泣き止んでもらわないと困る。

 それにズボンだって、そのままにするわけにはいかない。

 フレイヤさんに近場に水辺が無いか聞いてみたけど、この辺には無いようだ。

 なのでフレイヤさんの魔法で水を出してもらって、洗う事に。

 

「僕は一旦戻って、フレイヤさんが履ける物を取ってくるよ。また僕のになるけど良いかな?」

 

「それなら、私のズボンとパンツを使って」

 

「アリアのを使って良いなら、アリアのを持ってくるけど」

 

「うん」

 

 本人が使って良いというなら使わせてもらうかな。フレイヤさんも男の僕のより、女の子が着ていたズボンの方が良いだろうし。

 アリアのズボンは、フレイヤさんにはやや大きかったので、ベルトで締めて無理矢理合わせた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 翌日。

 あの後、フレイヤさんはアリアとリンと何度も目を合わせて会話をする練習をしたおかげか、普通に話せるようになった。そして、その練習に付き合っていたせいでちょっと寝不足で眠い。

 僕らの前を、アリアとリンとフレイヤさんが、仲良くおしゃべりをしながら歩いている。

 僕の隣で、その様子を少々不機嫌そうに見ているサラ。素直に輪に入れば良いのにと思うけど、口には出さない。

 そんな事を口にしようものなら、僕に怒りの矛先が向くだけだ。

 

「まるで友達を取られた奴みたいだな」

 

「なんですって!」

 

 サラの横で朗らかに笑いながら、平気で爆弾発言をするダンディさん。

 顔を真っ赤にしながら「別にそんなんじゃないわ!」と言ってるが、どう見てもそんなんです。

 でもこのまま見ていると、絶対にこっちを睨んできて、適当な因縁を吹っかけてきそうだから目をそらしておこう。

 

「エルクもそう思うだろ?」

 

 ちょっとダンディさん? 人がせっかく関わらないようにしてるのに、話を振るのは止めてもらえますか?

 僕は隣で今にもかみつきそうな勢いのサラを傍目に「ははっ、どうなんでしょうね」と愛想笑いでごまかすので精いっぱいだった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 昼も過ぎそろそろ昼食時にしようかというところで、僕らはエルフの里へ辿り着いた。

 ダンディさんの住んでいるエルフの里と比べると、辺りの木は切り開かれており、かなり広い。

 周りを簡易な柵で覆い、中心部にはハウスウッドと思われる大きな木が立っている。僕らから見てハウスウッドの後ろ側には、農作物を育てている畑等が広がっているのが見える。

 そこで仕事をしているエルフ達を見て、僕の不安は消し飛んだ。

 もしかしたらフレイヤさんだけが特別で、他はダンディさんみたいな筋肉(エルフ)の可能性も考えていたけど、皆フレイヤさんのような細い体系の、ちゃんとしたエルフ達だった。

 ダンディさんみたいに見た目が全員同じという事もなく、一目見ただけで一人一人違う顔をしており、綺麗に整った顔立ちではあるが、性別がはっきりとわかる。

 勿論、一部ふくよかなエルフも居なくはないが、ダンディさんのような筋肉(エルフ)は居ない。

 男性も女性も、フレイヤさんと似たような感じの服装をしていた。

 

 歓声を上げる僕らに、門番らしきエルフの2人組が気づき、こちらへ歩み寄ってくる。

 どちらも若い男性で、年齢は20歳前後といった所だろうか?

 僕らの前に立つと警戒、というよりは緊張した面持ちで僕らを見渡す。

 

「思ったより来るのが遅かったね。キミ達の話は聞いている」

 

「私が今から村長を呼んでくるから、キミ達はここで待っていてくれ」

 

 そう言うと、門番の一人が柵を超え、ハウスウッドに向かって走って行った。

 このまま手持無沙汰に待つのもなんだし、自己紹介をしようとしたけど「あぁ、キミ達の事はちゃんと聞いているから、そんなかしこまらなくても大丈夫だ」と言って話を遮られた。

 里の人達はどんな暮らしをしているのか気になって見ていると、次々とエルフ達が集まってきた。どちらかというと若い女性が多い。

 遠巻きに見ていたエルフが一人こちらに近づくと、それに合わせて他のエルフも一歩また一歩とこちらに近寄ってきて、最後には走り出した。どういう事だ!?

 まさか、またダンディさんの所みたいに、エルフ達が次々ポーズが決めるから、それを褒めないといけないパターンか?

 話は聞いているって、もしかしてそういう話!?

 仕方ない。軽く深呼吸をして『覇王』をするために気合いを入れる。

 

「ねぇねぇ、あなた人族でしょ? この布で出来た服って、いっぱい持ってるの?」

 

「えっ?」

 

 予想外の反応だった。

 僕の周りだけじゃなく、アリア達の周りにもエルフ達が群がっては、服を触ったりしてキャーキャー騒いでいる。

 

「あれ? フレイヤもこの人達と同じようなズボン穿いてる」

 

「オホホホホ。(わたくし)はエルクさん達と親愛の印に頂いただけですわ」

 

 あげた覚えはないんだけどなぁ。

 必死に顔を背けながら、他のエルフ達にいつもの口調で受け答えしているが、表情が少々困り気味だ。たまにどもったりしている。

 だがそんなフレイヤさんの態度に対してお構いなしに「良いな、私も欲しい。どうやって仲良くなったの?」と質問攻めだ。

 どういう事かフレイヤさんに聞こうにも、他のエルフ達から質問攻めにあっているし、門番さんは少々困り顔ったような表情で「まぁ仕方がないか」と呟いている。何が仕方がないのかわからないけど。

 

「ダンディさん。もしかして僕らの服の素材って、エルフの間では手に入りにくいものなのですか?」

 

「……」

 

 質問をしてみたものの、ダンディさんはマッスルポーズをしたまま答えてくれない。

 

「今日も美しい筋肉が映えるダンディさん。もしかして僕らの服の素材って、エルフの間では手に入りにくいものなのですか?」

 

「あぁ、そうだ。他に染色するための素材も少ないから、ひょろがり達は似たような物しかないな」

 

 なるほど、だからか。

 年頃の女の子となると、おしゃれもしたいのだろう。だけどここらで取れる物では限られてしまう。

 フレイヤさんが僕のズボンを履いた時に嬉しそうにしてたのは、演技なんかじゃなくて本当に喜んでいたのかもしれないな。

 可愛らしい服装のサラとリンには、特にエルフが集まっている。ちなみにダンディさんの周りには当然誰も居ない。

 僕から見たら、エルフ達が着ている服の方がツヤツヤしていて綺麗に見えるんだけどなぁ。中々見ないものだからおしゃれに感じるのかもしれないけど。一体どんな素材なのかちょっと気になるな。

 

「あの、服をちょっと触らせてもらっても良いですか?」

 

「人族って、エルフを見たら欲情するって本当だったんだ!」

 

「ち、違いますよ。僕らから見たら珍しい服なので素材が気になっただけですから!」

 

 クスクスと笑らわれながら、エルフの服を軽く触ってみる。勿論変な所は触っていない。

 このツルツルとして滑らかな肌触り。

 

「これ、もしかしてシルク?」

 

「あぁ、人族はそう呼んでいるらしいな。虫の糸だ」

 

 ダンディさん、虫って……。

 

「ひっ!? 虫ぃ!?」

 

 ダンディさんの発言に、サラが素っ頓狂な声をあげる。

 

「サラ。シルクだよ。それを言ったら、僕のエプロンだってヒートスパイダーの糸で出来てるわけだし」

 

 しかし、シルクか。シルクと言えば高級品じゃないか。

 貴族や王族とかが愛用する物で、量産が出来ないから、凄く値が張る物だ。それをエルフ達は普段着のように使っているのに、布を羨ましがるとは。価値観の違いって奴なんだろうな。

 

「そろそろ、宜しいかな?」

 

 柵の向こう側に、男性が立っていた。

 先ほどの門番を傍らに、年齢は40代後半といった所だろう。

 彼が咳ばらいをすると、クモの子を散らすように、エルフ達が里の方へ戻っていく。

 

「里の者達がお見苦しい所をお見せしたようで申し訳ない。私がこの里の長をしているバルドです。あちらの門から入れるようになっているので、どうぞ中へ」

 

 僕らは里長(さとおさ)と門番二人に案内されながら、エルフの里へ入った。

 

「なぁ、エルクといったか。一つ良いか?」

 

 門番の一人が、僕にこそこそと耳打ちをしてきた。

 僕に話しかけながらも、目線で他の人を警戒している。よっぽど重要な話なのだろう。

 もしかして「これは罠だから逃げろ」という類じゃないよね?

 

「人族は……あんなにも胸が大きい女性が多いのか?」

 

 物凄くまじめな顔して何を言ってるんだ……。

 よくよく見れば、白磁器のように白く透き通った顔を真っ赤に染めている。恥ずかしい事を聞いている自覚はあるんだろう。

 エルフの女性は皆、フレイヤさんのように胸が小さい人ばかりだったし、胸が大きい女性を見慣れていないから気になるんだろうな。

 

「アリア……剣士の女性は割と大きめな方ですね。魔術師の女性のサイズが平均的だと思います」

 

「そうか、ありがとう!」

 

 コソコソと耳打ちで返すと、彼は満面の笑みでお礼を返してくれた。そして他のエルフの男性達の元に走って行って、何かを伝えると彼らは「おー」と興奮した様子だ。

 エルフと言えば禁欲的なイメージがあったけど、別に僕らと変わらないんだな。少し安心した。

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