俺流、オラリオの生き方。   作:ケモミミ推し

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第五話「怪物祭・中編」

 

 

「___ヘスティア様?」

 

女神がいた。

比喩ではなく、言葉通りの意味である。

整然と整った容貌に笑顔を宿す彼女の姿は、さながら向日葵のように輝かしく、周囲の視線を強く引き寄せていた。

 

「バイトを早上がりできたから君達を探してたんだけど、ベル君は一緒じゃないのかい?」

「あいつは______なんか屋台の方に(無理矢理引っ張られて)行きましたよ」

「そうか、ベル君も楽しんでるようで何よりだ」

 

ギリギリ嘘は言ってないぞ、嘘は。

 

「宇今君、これ一緒に食べようぜ?」

「あざっす」

 

誰に言うでもない、独り善がりな言い訳に自己嫌悪していたのがバレてしまったか。ヘスティア様が携えていた小ぶりな紙袋から取り出したのは、今や彼女の代名詞とも思えるジャガ丸くん。

がぶりと齧り付くと、大きく予想を反して和のテイストを感じせるクリームソースが溢れ出す。それはジャガイモの自然な甘さを吹き飛ばすが如く、口内は混沌魔境の新境地へと突入した。

 

 

「...なんすかこれ」

「フフン___ボク発案の新商品、『ジャガ丸くん宇治金時抹茶クリーム味』さ!残りをおばちゃんが持たせてくれたんだ!」

「ほぉー.........なるほど?」

 

どうだい?すごいだろ?美味しいだろ?

祭りの空気に当てられたのだろうか。妙に高いテンションのままツインテールをピョコピョコと弾ませる彼女は、一切の邪念を感じさせぬ声音でまくしたてている。

 

あまりにも売れないから持たされたのでは、なんて憶測は何とも言えない後味とともに飲み込んだ。

言わぬが花、そして花よりジャガ丸くんである。

 

「ところでヘスティア様、ベルはしばらく帰ってこないと思うんですよ。すごい勢いで(連れて行かれて)いきましたから」

「えっ、もしや待ち合わせとかも…?」

「してないんすよねぇ…いやホント申し訳ない」

 

芝居がかった仕草で合掌し、頭を下げて平謝り。

ベルにはこの後に起きるであろう脱走事件(ハプニング)に対応してもらう事にしよう。某町娘さんもベルに守ってもらうなら本望でしょうや。

だからベル、強く生きろ...!

 

「うぅん…ベル君がそんなにはしゃぐかなぁ?」

「(シルさんって)意外とやんちゃですからねぇ…」

「__うん、なら仕方ないか!」

 

腰掛けていた石垣からパッと立ち上がり、普段より近い距離にいる彼に向けて手を差し出す。

 

「なら宇今君______デートしようぜ?」

 

 

 


 

 

 

下を向いて、喧騒の絶えぬ街を歩く。

北の主街道(メインストリート)を真っ直ぐ南下すると、街の中心に近づくにつれて活気を増していく。その分人の数も恐ろしいほど増えていくが、大した問題ではない。

向けられた視線は冷ややかな石畳ではなく、やはり眩しい笑顔を放つ女神のみを収めている。

人心とは我ながら呆れるほど単純なもので、視線に反して気持ちはすっかり上を向いてしまっていた。

 

「うっそぉ、アレ売れたんですか?」

「そうさ、凄かったんだよ!何故かやってきた美男美女たちが次々買ってくれて、今日のために用意してた材料が底をついちゃってね」

「なるほど、それで早上がり…」

「おばちゃんは『もっと仕入れていればよかった!』って嘆いてたよ」

「へー、まさかアレが売れるとは。お祭り効果は偉大っすねぇ…」

 

アレを気に入るとは、とんだ美食屋がいたものだ。

しかも美男美女。なに?やっぱ俺が間違ってるの?やっぱ顔ですか?

 

「まぁまぁ、元気だしなよ宇今君!人間顔だけじゃ決まらないって!」

「余計なお世話ですよ…」

「___それに、ベル君も心配してたしね」

 

話が見えず、返答に詰まった。

 

「何の話です?」

「キミのことさ」

 

街角の建物に寄りかかり静かにこちらを見つめる女神は、唐突に憂いた表情を浮かべている。

 

「なんです急に?温度差で風邪引いちゃう…」

「宇今君___神に嘘は付けないんだぜ?」

 

へらりと笑ってみせるものの、その程度の面の皮では女神を誤魔化せなかった。せいぜい薄皮を剥がすように、一手ずつ追い詰められるだけである。

 

…というかこれ、ベルとシルさんの件も薄っすらバレてますねコレ。たまげたなぁ…

 

「君、何か隠してるだろう?」

「…まぁ、隠し事なんて誰にでもありますよね」

「僕たちには相談してくれないのかい?」

「いやいや、人に相談するほどのものじゃ…」

「なるほど、悩んではいるわけだ」

「………………」

 

命のやりとりを日常とする冒険者生活に、恐怖や不安感が無いといえば嘘になる。

 

初めてダンジョンに潜った日。初めて命の取り合いに挑むという高揚と期待感は、たった一匹のゴブリンに簡単に砕かれた。

初日で3層までは行きたいな、なんて甘すぎる見通しは当然叶うべもなく、初めて向けられた明確な"殺意"に足がすくみ、まともに戦うことすらできなかった。

がむしゃらに振り回した長剣で倒せたのは、ゴブリン一匹のみ。

そんな情けない俺を見て、彼女は何を思ったのか。その夜に発現した"竈門恩寵(スキル)"は、きっとその答えなのだろう。

 

「僕達は、君のことを本当の家族だと思ってる」

 

ふわり、と固く握った手を優しく包まれ、解されていく。

恐る恐る降り仰いだ彼女の顔は、深い慈愛に満ち満ちていた。

 

「だから、少しは頼ってくれよ。寂しいじゃないか」

「…はい」

「では宇今君、本当のことを話してくれるかい?」

 

眷属を愛する女神のマックス包容力が、彼の軽薄な笑みと虚勢を剥がしていく。

 

「すんません...俺、嘘付いてました…!」

「うんうん、やっぱりねぇ。で、何を隠してたんだい?」

「ベルは酒場の看板娘ちゃんに連れていかれました」

「なぁにやってるんだキミは〜〜〜!??」

 

しっとりとした空気が霧散する。

ここが某ニコ動なら今頃画面には赤文字コメントが乱立していたことだろう。流石は全知零能の神様、クッソテンポ良いの笑っちゃうんすよね。

 

「ピンチじゃないかベル君が!!やんわり隠すからてっきり深刻な悩みとかあるのかなとか心配してたボクが馬鹿みたいじゃないかぁぁぁ!!」

「まーまー落ち着いてくださいよヘスティア様、ベルならきっと大丈夫ですって」

 

どうせあの町娘の周りには熱心な護衛(ファン)が控えてるんだろうし。何よりステ更新して新たな得物(ナイフ)も携えた我らが団長ならシルバーバック程度…

 

「………………………………あっ」

 

そこでようやく、頭二つ分下でのたうち回るツインテールの彼女と、その体に巻きつけられた包みが目に入る。

 

今回お披露目される筈だった、鍛治神謹製の黒ナイフ。

原作におけるキーアイテムは未だ英雄の元に届かず、未だこんなところに取り残されていた。

物語を致命的なまでに破壊しているのは、他でもない俺である。

 

「......まぁ確かに心配ですし、探しに行きましょっか!」

「むっ!また何か隠してるな?神には嘘がつけなうひゃぁ!?」

「いいから行きますよ!」

 

現状、メインストーリーに致命的な遅延が生じている可能性がある。衆人環視の状況ではむやみに使うなと言い含められているが、ここまでの過密状態ならば逆に気づかれにくい筈だ。

 

「【法則(さく)を破りし其の一歩】、【ブリンク】!」

 

小さな、しかし確かな重みを感じる体を抱え、魔法の足で建物の屋上へとひとっ飛びに移動する。

 

「うわぁ!?」

「口閉じてください!舌噛みますよ!」

 

小ぶりな唇を手のひらで塞ぎつつ、屋根の上を疾走する。

何度か"瞬間移動(ブリンク)"を挟みながら建物を飛び移り、目的地までの道を急ぐ。

 

目指す先は闘技場。

根拠も何もない無粋なメタ読みかもしれないが、元よりこれは女神の掌の上。

全てかの美神が仕組んだことならば、逃走劇の開始地点は決まっている。

用意した演者が他の冒険者に始末されないよう、かつ自然な流れで物語を始めるための台本が用意されているのなら__!

 

背筋に登る焦燥を噛み殺し、連なる屋根の先へと跳躍する。

 

 

 

 

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