ここだけ球磨川禊がアリウスの生徒会長だった世界線を見て書きたくなりました。以上です。

https://bbs.animanch.com/board/3550274/
面白いので是非本家のスレを見てください。

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僕たちの濁った青い青春

 

■  ■

「『「大嘘憑き(オールフィクション)」!』『君の生徒達を無かった事にした』」

「"……"」

 

 シャーレ、その屋上。

 

 無数の螺子が突き刺さったその場所で、二人の最弱(さいきょう)が対峙していた。

 黒い学ランを着た、不気味な気配を纏った少年。良いも悪いもぐちゃぐちゃに混ぜた様な、地獄の底の底の様な少年だ。

 その正面に、スーツの上に白いコートを着て、眼鏡を掛けた男が立っている。コートもスーツもボロボロで、眼鏡にも罅が入っている死に体の男だ。

 

 《混沌より這い寄る過負荷(マイナス)》、《過負荷(マイナス)》、《最弱にして最凶》―――数多の名を持ちながら、しかしただの一度も誰かに勝った事のない男。

 負け戦ならば百戦錬磨の少年の名を、球磨川禊。箱庭学園3年−13組所属の過負荷(マイナス)、その権化。

 その能力(マイナス)の名を《大嘘憑き(オールフィクション)》。因果律に干渉し、ありとあらゆる事象を『無かった』事にする事が出来る最凶の能力(マイナス)

 この世で最も取り返しのつかない力が、今。

 

 この学園に存在するほぼ全ての生徒達と関わり、信頼し合う関係にあったキヴォトス唯一の先生と、彼と関わっていた生徒全員が――――――『無かった』事になった。

 

「『良かったね、先生!』『これで君を縛るものは何もないよ!』『「大人」としての責任も』『義務も』『意味も』『価値も』『ぜーんぶ無かった事にしたからね!』」

「"……そうかな"」

「『そうだよ』『君が』『「大人」が』『守るべき彼女達はもう居ないんだ』『サオリちゃんも』『ヒヨリちゃんも』『アズサちゃんも』『シロコちゃんも』『ホシノちゃんも』『セリカちゃんも』―――『皆、無かった事にした』」

「"……でも"」

「『ん?』」

 

 こてん、と首を傾げる過負荷(マイナス)

 死に体の身体で、先生は声を上げる。辛そう―――ではなく、笑いながら。

 

「―――まだ、君が居る」

「『――――――は?』」

「君だって、私の生徒だよ」

 

 目を丸くして、球磨川は先生を見る。

 言っている意味が分からない。彼は、今―――自分の事を生徒だと言ったのか?

 彼女達を、彼が命を賭けて救ってきた彼女達を消した球磨川禊という男を、否―――球磨川禊すらも、生徒であると言ったのか?

 

「『……』『じゃあさ』『君が僕を自分の生徒だって言うなら』『僕と一緒に』『()ちてくれるんだよね?』」

「……」

「『先生っていうのは』『生徒の気持ちに寄り添う者なんでしょ?』『なら、僕みたいな過負荷(マイナス)の心にも』『心優しく寄り添ってくれんだろ?』」

「……勿論」

「『あっそ』」

 

 右手に持った螺子が回っていく。

 周り、周り、廻り―――細く、鋭くなっていく。

 

「『「却本作り(ブックメーカー)」』『これに貫かれたなら、みーんな僕と同じになる』」

「そっか」

「『それでも』『君は(マイナス)になるのかい?』」

「うん」

「『それが君の信念を捨てる事になっても?』」

「うん」

「『それが君の絶対価値観(アイデンティティ)』を壊す事になっても?』」

「うん」

「『それが大人を辞める事になっても?』」

「それで君と対等になれるなら、喜んで」

 

 ずぶ、と。

 マイナスの螺子が、先生の胸に深く突き刺さる。

 ずぶずふと、落ちていく。深い沼に、底無しの淵に、ずぶずぶと()ちていく。

 

 世界が色褪せていく。

 無気力に染まっていく。

 無意味に満ちていく。

 無価値になっていく。

 この世界の何もかもが―――全て、どうでもいい様になっていく。

 

「……これが、君なんだね」

「―――そうだよ。これが僕であり、マイナスだ」

「……そっか」

「どうだい? (マイナス)になった『気分は?」

「―――そうだね」

「ようやく、生徒()と対等になる事が出来た。それが嬉しいかな」

 

 格好(括弧)付ける事もなく。

 過負荷(マイナス)になっても、球磨川禊(マイナス)()ちても―――しかし、彼は彼だった。

 彼は先生だった。何処まで行っても、先生だったな。

 彼は自ら螺子伏せられた。自分の意思で螺子込んだ。

 先生としての立場も、大人としてのアイデンティティも、それら全てを放り投げて、彼は球磨川禊に―――過負荷(マイナス)になることを選んだ。

 過負荷(マイナス)になって尚、しかし彼は先生として其処に立っていた。

 膝をつく事も、土を被る事もなく―――真っ直ぐ、立ち尽くしていた。

 

「は―――馬鹿じゃねーの、本当。僕なんかの為にそこまでするかよ、普通」

「分かったよ、先生。全部、返すよ。僕の負けだ」

「―――あーあ、また勝てなかった」

 

 螺子が消え去る。

 無くなったものが元に戻っていく。

 取り返しのつかないものが取り戻されていく。

 色褪せた世界に彩りが加えられる。

 無気力が無くなる。

 無意味が無くなる。

 無価値が無くなる。

 どうでもいいものなんて、何も無い。

 

「"……"」

「『どうしたの?』『浮かない顔なんかして』『僕は改心して』『君は失ったものを取り戻した』『これ以上なく主人公らしいハッピーエンドじゃないか』」

「"…正直な事を言うとね、ここまでやれば君は返してくれるだろうと読んでたんだ"」

「"あの子達なら本当に全てを捨てるつもりで迷わずやっだろう、だけど私は大人の汚い打算で先のことまで考えてしまっていた"」

「"対等になると偉そうな事を言いながら、結局私は大人であることを捨てきれなかったんだ"」

 

 大人を捨てるつもりだった。

 彼と、球磨川禊と同じ様に過負荷(マイナス)に堕ちていくつもりだった。

 だが―――そんな事を意気込んでおきながら、しかし先生は結局として大人としての在り方を捨てきれなかった。

 それは負い目に他ならず、そして彼に対する正直な気持ちの吐露だった。

 

「『…へぇ』『随分人間らしくなったね』『以前の君なら』『大人らしく』『「括弧」つけていただろうに』」

「―――じゃ、僕は行くとするよ」

 

 踵を返して、球磨川は先生に背を向ける。

 

「……"どこに行くつもり?"」

「さぁね。まぁ、何処か遠く……かな。ここではない何処かかもしれないし、キヴォトスの外とかかも。まぁ、ここに居座る訳にもいかないしね」

 

 球磨川禊は、あまりに多くの恨みを買った。

 彼が彼女達にした事は、決して許される様な事ではないのだ。

 しかし―――

 

「"それなら、シャーレに来ないかい?"」

 

 『先生』は、生徒を見捨てない。

 

「……は? 正気かい?」

「"勿論。君みたいな『生徒』を放っておける訳ないからね。『先生』として君が満足するまで付き合ってあげるよ。名目上は監視って事にさせてもらうけどね"」

「はは…。本当に食えない『大人』だ」

 

 呆れた様に肩を竦めて、過負荷は笑う。

 

「いいぜ、それならとことん付き合ってもらおうじゃないか」

「『それじゃあ』『シャーレ所属を記念して僕からプレゼントだ!』『無くさないでくれよ』『ミニマムサイズでも詰まったハートは無限大だぜ?』」

 

 そう言いながら、球磨川は先生へと一本の小さな螺子を手渡す。

 釘の様に小さく、しかしこれまで見た螺子の中でも最も禍々しさを放つ一本のマイナス螺子だ。

 

「"これは…君の螺子かい? 何故だろう、これまで見たものの中で一番禍々しさを感じるんだけど…"」

「『そいつを捻じ(螺子)込めば』『君は彼女達みたいな特別でも』『僕の様な過負荷(マイナス)でもない』『正真正銘ただのモブになる』」

「『君の為に誂えた特注品の却本作り(ブックメーカー)さ』『先生を辞めたくなったら使ってくれよ』」

「"気持ちはありがたいけど、私は先生を辞めるつもりはないよ。君に認められた証として貰っておくよ"」

「おい」「勘違いするなよ」

 

 括弧を外し、本音を語る。

 球磨川禊が認めたのは、お前ではないと。

 

「僕が認めたのは全てを失って泣きそうになりながらも逃げなかったあの時の君だ」

「主人公補正に守れながら、上から目線で性善説を押し付けてくる今の君の為にシャーレに入ったんじゃない」

「こいつは挑発でも君を試してる訳でもない、あの時の君に戻ってきて欲しいから贈るんだ」

「言っておくが、次は返してやらないぜ? たった一度の勝利を二度も捨てるつもりはないからな」

 

 球磨川禊が認めたのは、先生としての彼ではない。

 何もかもを自ら捨て去って、失って、それでもと逃げる事なく後ろに進んで過負荷(マイナス)になった彼なのだから。

 

「『なーんてね』『ジョークだよ、ジョーク』『一度戦ったら仲間になる』『少年ジャンプのお約束だろ?』」


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