ゲーム・オブ・レガリア 王宮サバイバル神話ハックアンドスラッシュ   作:所羅門ヒトリモン

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Game 018「ゲーム・オブ・レガリア」

 

 

 明くる日、その朝。

 〈アリアティリス〉では、騎士たちの武芸試合が行われていた。

 試合会場の観覧席に集うのは、王家と評議会の面々。

 ウェスタルシア有数の名家に見守られ、騎士たちは今日、皆が栄えある優勝を望んでいた。

 

 武芸試合自体は、珍しい行事ではない。

 

 だが、今回の武芸試合に参加する騎士たちは、誰もが意気込みを新たにし、血気に逸っている様子だった。

 何故なら、今日の御前試合で優勝を収めた者には、〈王の騎士(キングズナイツ)〉への列席だけでなく、新たな〈王の剣〉にも選ばれる可能性があると、実しやかな噂が広がっていたからだ。

 

「まさかルキウス卿が、急死なされるなんてな」

「噂じゃ、心の臓を患っていたらしいぞ」

「惜しい人を亡くしたぜ」

「だが、これはチャンスだ」

「白マントに加えて、王国最優、最強の肩書きまで手に入るかもしれない」

「真剣勝負だな」

「ああ、真剣勝負だ」

 

 彼らは騎士という人種であるがゆえに、何よりも己が磨き上げた武芸と、それに付随する名誉を重んじていた。

 サー・ルキウスが死んでしまったのは残念。

 だが、死んでしまった以上は仕方がない。

 彼がいなくなったコトで空いた穴があるならば、自分こそがそれを埋める代わりになりたい。

 

 ウェスタルシア王国の騎士たちにとって、〈王の剣〉とはそれほどまでに名誉な称号である。

 

 そして、噂は真実でもあった。

 観覧席に座るやんごとなき面々。

 特に──オスカー・クロムウェルと、 ミカエル・ゴールデンハインドの二名だが──彼らは今回の武芸試合を、近衛を失ってしまった第三王子の新たなる身辺警護役を決めるために、急遽開催した。いささか強引な運び方で。

 

 ゆえに必然、冷ややかな目を向けているのは、第一王子ベゼル。

 

 その横に座るのは、感情を窺わせない鉄面皮、デイモン・オルドビス。

 少し離れた位置で、王太后などの第三王子派が続き、大総長ジェニファー・シャンゼリゼは、〈王の騎士〉のトップであるため、試合会場に直接足を下ろして、審判を行っていた。

 

 そんななか、ベルーガは居心地の悪さに耐え切れず、観覧席の最前列へ移動している。

 試合に夢中になっているフリをして、少しでも争いの輪の中から離れたかったのだ。

 

 嫌味と皮肉の応酬。

 

 亀裂は明確で、ベゼルはベルーガと目も合わせてくれない。

 ベルーガの方も、何を言えばいいのか分からなかった。

 結局、ロスランカの地ではルキウスは何の告白もしてくれなかったし、黒幕がベゼルなのか証拠が得られていない。

 決定的な証拠が何も得られていない以上、ベルーガは行動を起こしてしまうコトが恐ろしかった。

 

 ルキウスは行動した。

 だが、その結果として彼は命を落とした。

 ベルーガが殺した。

 幼馴染の助けがあったとはいえ、剣を握ったのはベルーガだったし、覚悟のもとに刃を振り下ろしたのもベルーガ。

 

 やがてはそれが、相手をベゼルに変えて再演されるかもしれない。逆もまた然り。

 

(……重いなぁ)

 

 重い。

 本当に重い。

 だから、ベルーガはその重みを背負うしかなくなるその時まで、ギリギリまで違う道を探していたかった。

 惰弱の現実逃避、臆病者の逃げ腰。

 母や祖父に知られれば、情けなさすぎるとまた罵られるだろう。

 しかし、ベルーガは密かに思う。

 

(……僕はただ、レイゴンとガブリエラに、胸を張れる僕でいたいだけなんだ)

 

 レイゴン・オルドビス。

 ガブリエラ・ゴールデンハインド。

 憧れ。

 尊敬と感謝。

 自慢の友だちで、大好きな幼馴染で、あの二人と肩を並べられる。

 そんな世界でベルーガも生きていたい。

 

 ベゼルとの決着は、いずれ必要だろう。

 

 けれど、だからといって何の躊躇もなく殺し合いに臨んでしまうのは、人として間違っている。

 暴力で物事を解決しようとするのは、絶対に最後の手段でなければならない。

 そういうふうに考えるベルーガだからこそ、聖剣もまた担い手たる資格を見出し、ベルーガを選んだのではないだろうか?

 

(分からないけど)

 

 大切な誰かと、一緒にいられる世界を想う。

 それはきっと、今後も決して変わらないベルーガの根底だ。

 ロスランカの地で、ルキウスを前に言った言葉は嘘じゃない。

 ルキウスには笑われてしまった。

 いや、呆れられてしまったのだろうか?

 両方だった気もする。

 それでも、最期は認めてくれたような雰囲気もあって。

 

(もしも──もしも……兄上ではなく僕に、〝王の器〟みたいなモノがあるんなら)

 

 その器は、ベゼルには無くて、ベルーガには有るもので造られている。

 心の在り様。

 聖王聖君の兆し?

 まだまだ自信を持って立ち向かえる気はしない。

 しかし、これだけは言えた。

 

(物事を解決するのに、誰かを殺そうとしてしまえる人が、王様になんかなっちゃダメだ)

 

 他の国は知らない。

 でも、ウェスタルシアに限ってはダメだろう。

 だって、この国の王権は〝聖権〟なのだから。

 ベルーガは確信を胸に、抗う覚悟は決めていた。

 ……ただ。

 

(できれば、僕の騎士はレイゴンになって貰いたかったなぁ……)

 

 試合を眺めながら、ベルーガは未練に漏れる息を止められない。

 王族には必ず、近衛が与えられる。

 ルキウス亡き今、周りの大人がベルーガに、新たな身辺警護役を与えようとするのは、遅かれ早かれ分かっていた。

 とはいえ、自分の身の回りに常に誰かを置くのなら、できればそれは信頼できる人間がいい。

 

(この試合も、どれだけ純粋な試合なのか……)

 

 正々堂々。

 真剣勝負での恨みっこ無し。

 騎士たちは表向き、清廉潔白な顔で互いの武芸を競い合っているが、評議会の人間が何の工作もしていないとは思えない。

 

 ベゼルからすれば、これは文字通り第二のルキウスを用立てられる絶好の機会で。

 祖父や母からすれば、これはベルーガに体の良い監視役を作れる絶好の機会。

 

 ルキウスはベルーガ自身に忠誠を誓ってくれた。

 

 無論、最終的には裏切られた。

 だが、彼はそれまでは真摯にベルーガの身辺を守っていたし、祖父や母に知られてベルーガが困るようなコトは、まさに騎士道の体現者の名に相応しく、決して口外しようとしなかった。

 何かと庇ってもらっていた。

 信頼していた騎士だった。

 融通が利かないために、祖父や母は疎ましく思うコトもあっただろう。

 

 ゆえに、評議会はこの機会に、必ずや自分たちの思惑に沿った人間を、ベルーガの傍に置く。そういう腹積もりに違いなかった。

 

(まさに、僕がこれから乗り越えなくちゃいけない、最初の試練だ……)

 

 試合の剣戟を、ジッと見つめながら自分に言い聞かせる。

 大丈夫、大丈夫、僕は頑張れる……

 なんてやっていると、そのとき不意に左から、金髪の少女がスっと現れた。

 ガブリエラだった。

 

「おはようございます、ベルーガ様」

「ガブリエラ。おはよう。君も来たんだね」

「ええ。未来の夫の近衛なら、わたくしの近衛でもありますわ。だから気になって、父に頼んで様子を見に来させていただきましたの」

「ははは、なるほど……」

 

 心配されている。

 婚約者である少女の横顔に、ベルーガは謝意を感じた。

 ガブリエラの言う通り、ベルーガの問題は今後、ガブリエラの問題にもなる。

 とっくに巻き込み済みとはいえ、少女の変わらぬ献身と姿勢には感謝が尽きなかった。

 

 と、そこで、

 

「ねえ、ベルーガ様?」

「うん?」

「ベルーガ様は今回の試合、誰が優勝するとお考えですか?」

 

 ガブリエラは顔を試合会場に向けたまま、さっそく優勝者の当たりをつけようとしている様子だった。

 ベルーガは「うーん」と唸り、騎士たちの様子を見る。

 

「あの彼は、すごく体が大きいね。ちょっと前の馬上槍試合じゃ、彼が優勝していたはずだ」

「ふむふむ」

「でも、あっちの爽やかな彼がいるでしょ? ローエングリンみたいな双剣使い。今回は馬上槍試合じゃないし、白兵戦じゃどうなるかは分からないかな」

「へぇ、そうなんですの」

「うん。あ、でも、彼も忘れられないかな。あそこの彼は、剣の腕にすごく優れているんだ。たしか前回の〈王の剣〉を決める戦いで、準優勝だったはずだよ」

「まあ。お強い方が、たくさんいるんですのね」

「そうだね。純粋な武芸試合なら、たぶんあの三人の誰かが勝ち残ると思う」

「わたくしは、優勝者は違う人だと思いますわ」

「え?」

 

 思わぬ発言に、ベルーガはついガブリエラの顔をまじまじと見つめてしまう。

 これはもしや……

 

「誰が勝つのか、知ってるの?」

「はい」

 

 声を抑えて訊くと、案の定、肯定が返ってきた。

 なるほど。

 では今回の武芸試合は、ゴールデンハインド家が裏で糸を引いているのか。

 そう理解したベルーガだったが、ガブリエラはニコッと微笑み、続けて言った。

 

「だって、ベルーガ様はきっとその方以外には、目もくれないでしょうから」

「……?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「どういう──」

 

 意味? と、聞き返そうとした言葉は続けられなかった。

 

 

「Gururururururururururururururururururururururururururururu────!!!!」

「!!??」

 

 

 空から突如、『最強』を報せる大音量が轟いたからだ。

 ハッとして大空を見上げる。

 

「そん、な……まさか」

「ええ。そのまさかですわ」

 

 ガブリエラが笑い、ベルーガは驚きから口をパクパク動かすコトしかできない。

 試合会場はもう、とんでもない騒ぎになり始めていた。

 

「バカなッ! 荒ぶる獣(ドラゴン)だと!?」

「騎士たちよ急げ! 守りを堅めろ──!」

「ええい、さっさと私を守らんか!」

「避難だ! 避難しろ!」

「……待て、アレは何だ──!?」

「背に誰か、乗っていないか──!?」

「なん……だと……!?」

 

 慌てふためく騎士たちを、威風堂々、見下ろして。

 優美なる虹の光沢を持った、漆黒の幼飛龍が試合会場に下り立つ。

 中には腰を抜かして、泡を吹きかけ倒れる者もいた。

 が、目敏い者はさらなる驚天動地の光景に、大いに目を見開く。

 ベルーガも信じられない気持ちで、つい名前を呼んだ。

 

「レイゴン……?」

 

 

 

 

 

 ────────────

 ────────

 ────

 ──

 

 

 

 

「レイゴン……?」

「そう、俺です!」

 

 呼びかけにハッキリと、胸を張って応える。

 イリスの背中に股がったまま、全員を睥睨するかのように不敵な笑みも湛えて。

 

 何故なら、すべての前提は引っ繰り返された。

 

 ベルーガ・ベルセリオンが男ではなく女であるならば、俺の胸は怒りに燃えている。

 少女が自分の手で、自らその道を選んだのなら何も文句は無い。

 だが、ガブリエラの話では、ベルセリアの真実は違った。

 

(年端も行かない少女が、本来は蝶よ花よと愛でられるところを、男の世界に放り込まれ、剣を握らされ、あまつさえ不条理に命まで狙われる?)

 

 なんだそれは。

 なんなのだそれは。

 そこにベルーガの、いや、ベルセリアの人生はあるのか?

 最初から最後まで、醜い大人に囲まれて、少しも自分らしく生きられない。

 

(俺の親友を、幼馴染を、バカにするのもいい加減にしろよ馬鹿野郎どもが……!)

 

 少女の純真と気高さと尊さに、あぐらを掻いて好き勝手するなど、オマエたちは全員、人面獣心のひとでなしだ。

 醜い。醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い──醜い。

 俺は、美しいモノが好きなんだよ。

 だから結論は、とても簡単だった。

 

「我が名はレイゴン。レイゴン・オルドビス!

 この面貌と数奇なる出自については、知る者も多いでしょう!

 ですが、俺がこの通り、地上に復活した()()()()()()()()であるコトは、皆さんも初見のはず!」

 

 愕然と畏怖と戦慄の眼差しを一身に集め、いざ吼えん。

 

「星の最強種、世界最強の獣乗りなればッ、第三王子殿下の近衛として、不足は無いと自負しますが如何かッ!?」

 

 会場はその瞬間、揃って息を飲み込む。

 もう後戻りは出来ない。

 でも、それでいい。

 俺はベルーガと、ガブリエラを見つめ、二人にだけ分かるよう小さく頷いた。

 

 そうだ、つまるところは参戦だ。

 

(これは俺と──)

(僕と──)

(わたくしの──)

 

 幼馴染のために立ち上がる、

 

 〝王権を巡る熾烈な争い(ゲーム・オブ・レガリア)

 

 三人一緒なら、何とだって戦える。

 

 

 

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