ドロワで踊る前の話です

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ナカヤマフェスタとゴールドシップがドロワで踊る話

 こういったイベントは見る専も見る専、自分には関係ないと思っていた。

 精々最もダンスパートナーのお誘いを受けたウマ娘を賭けの種にして、いつもの悪友たちとどんちゃん騒ぎをするくらい。そんな距離感が、けして少女たちのロマンティックな心情に呼応するわけでもない自分たちに相応しい関わり方だと、今も思っている。

 だがこうしたイベントがあると知って、わざわざ贈り物をしてくれた恩師の気持ちを無下にするわけにもいかない。

 写真の一枚でも撮って送らなければいけないな、と、不慣れな衣装の裾に足を取られそうになりながら思う。

 たっぷりとしたAラインのドレス、ふわふわとしたレースの裾に縫い付けられた可憐な花。如何にも先生が好きそうな図柄だ。一つ願いを言うなら、せめてパンツスタイルに慣れきった自分にももう少し歩きやすいドレスを選んでほしかったものだが。そう内心で抗議しても、聞いてくれる人間は勿論ここにはいない。

 

 「ナカヤマ、準備できたかあ」

 常になく結い上げられた髪の所為ですうすうと寒い項の感覚にも閉口していると、隣に歩み寄ってきた女が声をかけてくる。

 こちらもシニヨンに髪を纏め、騎士服に想を得たと思しきパンツスタイルを身につけた悪友の姿が、そこにあった。

 別にお互い想い合っているわけでもない、と思う。それでもゴールドシップは、本日のナカヤマフェスタのダンスパートナーだ。

 いつもの教室。『先生からドロワの衣装が送られてきた』とこぼしたところ、こともなげに『お、じゃあゴルシちゃんとダンスバトルするかあ?』と言い放ったのが彼女だった。もとより相手を選ぶつもりなどない。最初に申し出をしてくれた気持ちを有り難く受け取り、ナカヤマフェスタは彼女の言葉を受け入れることにしたのだった。

 それにしても、とナカヤマフェスタは思う。すらりと長い手足、男装を違和感なく引き立たせる凛とした美貌。こいつこそ黙っていれば(黙ってさえいれば)、ドロワのお誘いには事欠かないだろうに。

 何が悲しくて、けしてお姫様のような風采が板につくわけでもない自分を選んだのだろうか。

 「なあゴルシ」

 呼びかけると、ゴールドシップがふとこちらを見やる。

 「なんで私を選んだ?」

 そう問いかける。

 一瞬間があく。そのあと、ゴールドシップはなはは、といつもの悪辣さで笑った。

 「そりゃアレだろ。あとでナカヤマのトレーナー室で鶏肉シュレッダー祭りしてえからだろ」

 「は、つくねでも作るつもりか」

 「そーそ、塩ダレ醤油ダレ味噌ダレで地獄の食べ比べオールナイト、ってなあ!」

 「賭けのつまみには悪くなさそうだな」

 いや勿論、シュレッダーで調理された肉を食べるのは御免被りたいのだが。

 まあいい。いつも通りの友人の言葉に、柄にもなくわずかに感じていた緊張も解けた。あとは踊って写真を撮って帰ってくるだけだと、ダンスホールに向けて覚束ない足を踏み出しかけた、瞬間。

 なにか、低い声が聞こえた気がした。

 

 「そういうとこだぞ」

 

 ふと振り返る。側にいる友人の方を。

 「……何か言ったか?」

 「いや?」

 尋ねるとそこにはいつもと変わらない表情をした悪友がいて、なんだ気の所為だったか、とナカヤマフェスタは得心する。

 ほら行くぞ、コケるなよ。そう呟いて、銀髪をうつくしく結った友人が、す、とさりげなく手を差し伸べてくる。僅かに照れを感じないわけではなかったが、それでも確かに転んでしまえばことだ。見てくれだけなら王子様もかくやという出で立ちの同級生から差し出されたその手を、彼女は取った。

 ははっ、と、編み上げブーツを履くせいかいつもより高いところにある横顔が笑う。

 「さっさと踊ろうぜ。ポンカンチーは待ってくれねえってなあ」

 「終わったら麻雀でもするか?」 

 「きゃーだめぇ、ゴルシちゃんそんなえっちな役満上がれなーいっ」

 「どんな役だよ」

 そんな風に笑いながら。

 いつもと同じようでどこか違うふたりは。手を繋いだまま、ダンスホールに向けて一歩を踏み出した。  


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