…人々はそう信じている。
広く知られたそれが改竄されたものなどと、誰が思うものか。
それがいかに信じられようと、真実はなく。
例えそれが悪行であろうと、全ては許されている。
歴史が歪められたとて誰も咎めてはくれない、ただ一つの教団を除いては。
これは真実を白日に晒すための物語。
余程反響があればともかく、続きは多分出ないと思います。
目が覚めた。
俺はヘッドギアを外すと、コーヒーを啜って少し酔ったような感覚を振り払う。
もはや見飽きた三角形のロゴを尻目にデスクから立ち上がって、休憩室を兼ねたフロアロビーに出る。
「やぁルーク、お疲れさん」
「おう、お疲れ。」
「ねぇルーク、今週末の予定空いてる?」
「え、何かあったっけ?」
「ブライアンがホームパーティやるのよ、貴方もどう?」
「あー…家族と出掛けたいからパスで。」
「なら仕方ないわね…伝えとくわ。」
同僚と一言二言交わし、オフィスを出ていつもの道を歩く。
トイレに他の社員が居ないのを確認すると、俺は個室に入ってスマホを取り出した。
収穫はどうだ?
そうだろうな、具体的には?
まず間違いなくロクでもねえ事企んでるのは明白だ。
それを探るのもお前の仕事だぞ、エサウ。
分からんな、何を待っているんだ?
感づかれたら俺の社員証は命もろともオシャカだ。
状況は分かった、怪しまれない程度に探りを入れておけ。
俺はスマホを仕舞い、トイレを出る。
オフィスに戻ると、俺のデスクの横を普段見かけない風体の男が歩いていた。
目を凝らして観察するまでもなく、その手に嵌めた十字の指輪が存在を主張する。
(あれが噂の上級騎士サマか、確か日本の大学で学者やってんだっけ…?)
俺は誰にともなく肩を竦めて、デスクでスリープさせておいたアニムスを再び起動した。
(こんなでっち上げのクソシナリオでも、権威で箔付けりゃ真実ってか。)
溜息を一つ吐いてデスクチェアに腰掛ける。
ヘッドギアを装着すると一瞬視界が揺らぎ、そして仮想空間に放り出される。
聞き慣れたアニムスの音声ガイダンスが脳へ直接響く。
『声紋およびパスワード認証を行います、設定されたコードを発話してください。』
俺はいつも通り口を開く。
最大限の皮肉を込めて、最大限の侮蔑を込めて、最大限にムカつく表情で。
気取ったテンプル騎士どもが絶対に思いつかないような、最大限に口汚い言い回しで。
「―――パスワードなんざ知った事か、クソッタレ。」
俺はルーク・ブライト、アブスターゴの社員。
かつて極東に存在した黒人『弥助』の記憶を辿り、その生涯を見届けるのが俺の仕事だ。
…少なくとも今はな。
【主人公】
「ルーク・ブライト」の偽名を用いてアブスターゴ社員として働くアサシン。
教団との連絡には『エサウ』の暗号名を用いる。
教団に弟がおり、その遺伝子から産業革命期イギリスで活躍したアサシンの記憶が見つかっている。
ステルスよりは正面戦闘の方が得意。
【???】
教団のメッセンジャー、ルークに近接戦闘を教え込んだ師匠でもある。
連絡には『サマエル』の暗号名を用いる。
皆伝を認めた試合でルークのケインソードが顔面にクリーンヒットした事を未だに揶揄われている。
【上級騎士の男】
日本の大学で准教授を務めている男、ルークの配属されたプロジェクトを率いている。
歴史改竄の実証実験のため水面下で工作を行っており、教団の警戒対象となっている。