少しの挑戦で、アルダンを書いてみました。初書きなのでセリフの言い回しとか違ったらすいません。
「もしもし、トレーナーさん。夜分遅くにすいません」
電話の声の主はメジロアルダンだった。
「どうしたの?」
「ふふっ、やはり起きてらしたんですね」
「お持ち帰り残業でね。しかし電話をくれてよかった、そろそろ気分転換したかったんだ」
「ならよかったです。少しお付き合いいただいても?」
「もちろん」
いつもと変わらぬ調子で話すアルダン、しかしなんとなく電話の理由を察していた。
アルダンも寂しがり屋だ。
「チヨちゃん、初めての遠征だって張り切ってましたけど、大丈夫でしょうか……」
「チヨノオーさんのトレーナーは立派な人だし大丈夫だよ」
「だといいのですが……」
チヨちゃんったら、今朝は携帯を忘れて行きそうになってて。
我が子の出立を心配する母親のような声色で、今日のチヨノオーの話を聞く。
カーテンの隙間から夜の暗闇が入り込む。チヨノオーは今日ずっと緊張していた様子で、普段ならしないような失敗もしていて心配らしい。
「チヨノオーさんのレース、見に行こっか。アルダンが応援してくれたらきっと大丈夫だよ」
「……ええ。私では力不足かもしれませんけれど、行きたいです」
スマホを耳に当てて、大きな音を立てないようにドアを開ける。
あちらでは消灯時間になるのだろうか、こちらのアパートの共同廊下には眩しく光が灯っているが、一歩そこから踏み込めば、そこには夜がある。
「トレーナーさんは、お散歩ですか?」
「ああ、わかった?」
「ええ。車の音が聞こえてきましたから」
「確かにそうか、わかりやすかったかな。外の空気が吸いたくて」
アルダンは今、何をしているだろうか。残業でこんがらがった頭じゃ上手く想像できないけど、きっと電話をする姿だって綺麗なんだろう。
アルダンとの会話に花を咲かせながら、人のいない夜道を歩く。学生の頃は周りにも学生が多く住んでいたから夜中でも人がいたけど、この辺りは大学や専門学校はないから、この時間にはそうそう人が歩かない。郵便局や肉屋、床屋らが閉まっているのを街灯が照らして、たまに光るコンビニにも人の姿は大して見えない。
「ねえ、アルダン。部屋の窓からは何が見える?」
「向かいの棟の窓が見えますよ。街灯と、あっ、猫ちゃん」
「あっ、俺の方にも猫。三毛猫だ」
「ふふっ、同じです。こちらも三毛猫です」
「よしよーし、猫ちゃーん、こっちだぞー……」
公園を抜けて、野良猫は家々の隙間に走り入ってしまった。
「……あーあ」
「逃げられちゃいましたか?」
「俺、野良猫にさわれたこと無いんだよね。いっつも逃げられちゃって」
「それじゃあ、今度、猫ちゃんへの接し方をお教えしましょうか?」
「うん、頼むよ」
顔は見えないけど、きっとアルダンは微笑んでくれているんだろう。そう思うと嬉しくて、つい彼も頬が緩んでしまう。
「ああ、もう消灯時間になってしまいました」
「そっか、もうそんな時間かあ」
「もっとお話がしたかったですけど、続きは明日ですね」
「うん。おやすみ、また明日」
「今日はありがとうございました。おやすみなさい、また明日」
ぷるん、と通話の切れる音とともにスマホの画面はアルダンのプロフィールを映して、音は消えてしまった。
夜の空気は爽やかな味がする。冷たい水を一気に口に含んで飲み下したような、後味の残らない無味、しかし確かに透き通った味がある。
「……よーし、続き、頑張るぞー!」
彼女とは、これからも上手くやっていける気がする。
ガラスに似た味の空気を吸い込んで、深呼吸をした。