恋に弄ばれる馬鹿共よ   作:肉塊

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奪って、奪い返す 前哨戦

 先程からあまりにも展開が早すぎるこの状況に私は戸惑いながら、ベリアンさんに私は何をすれば良いかと恐る恐る尋ねた。それをベリアンさんは、忙しなくサイレンが鳴り響いているこの大丈夫じゃなさそうな状況で私に優しく微笑んで口を開いた。

 「天使狩りでございます」

 「…へ、…て、天使?」

 「はい。天使でございます。今から天使を殺すのです」

 私はベリアンさんのその発言に一瞬あっけらかんとしたが、周囲の執事さん達の真面目な表情を見て私は彼の発言を嘘だと思えなかった。

 「ご安心下さい。実際に戦うのは我々執事です。お手数ですが主様には天使と戦う私達の援護をして頂きたく、この世界にお呼びした所存でございます」

 優しくて穏やかな表情のまま、ベリアンさんは私の正面に立った。彼の背後には先程説明を受けた悪魔の男の絵画が飾られており、まるでベリアンさんがこの絵画を象徴している様な気がした。そうか、天使と戦う立場だからこの建物の名前に悪魔というフレーズがついているんだ。と、納得したは良いものの援護というワードにまたもや驚く。

 「世界…?…援護??戦うんじゃなくて?」

 「ええ。主様の生活している世界と私達が現在存在しているこの世界は違うもので、主様が今はめていらっしゃるその指輪によって世界を移動しているのです。それと、援護と言っても主様にしか出来ないとても大切な“魔法“と言った方が伝わりやすいですかね」

 「魔法!?!?」

 思いもよらないワードの連続に私は頭がパンクしつつあるが、一個一個声に出しながらゆーっくりと整理した。(こんな緊急な状況で申し訳ない…)

 「えーっと、今私がはめてる指輪は自分の今までの世界と今いる世界を行き来できる秘密道具で、もしかして私は選ばれし存在で、敵である天使と戦う貴方方を守る為にこの世界にやってきた…て事ですか?」

 言い終わったタイミングでベリアンさんの顔色を伺う。私の確認が間違っていたのか、彼の顔は先程までの優しい微笑みとは違ってあっけらかんとした表情で「…守る…?」と小さく呟いていた。

 「え、間違えてましt」

 「ベリアンさん!!主様!!いつまで話されているんですか!天使の襲来なんです!急いで行かなくては被害が大きくなりますよ!!」

 ハウレスさんのその言葉に私達はハッとして再び軽いパニックになりながらバタバタと体を動かす。

 「じゃッ!じゃあ迎撃準備ですね!!よっしゃ!!どんと来ーい!!」

 いややっぱ来ないで怖い!!

 「ロノ、今回はお前が行け」

 「はぁ!?今の流れはベリアンさんが行く流れだろ!?なんでオレだよ!?」

 「壁塗りの件の罰だ。緊急事態なんだから黙って行け」

 「緊急事態なんだからオレと主様だけじゃなくて皆で迎撃した方が良いだろうがよぉ!!」

 「俺達は今から貴族へ報告や屋敷を守ったりしなきゃいけない。頼んだぞ」

 「はぁぁあああ!?!?」

 其処で、パン!と大きな手を叩いた音が部屋に響いた。私達は音の先であるルカスさんに目線を移して静まり返り私は思わず固唾を飲んだ。

 「ハウレス君のいう通り、今この時間で被害が少なからず拡大していっている。現状把握も大切だが、一刻も早くロノ君と主様は現場に直行して頂きたい。それと、主様にこれを」

 ルカスさんは静かにこの場を指揮した後に、私に古びた本を渡してきた。私はその本を受け取りほんの少し捲ったが、見たことの無い文字がページいっぱいに書かれて英語が苦手な私は少し目眩がした。

 「主様、この本は我々を守って頂く際に必要な…凄い“魔法の本“です」

 「魔法の本ー!?こんなに容易くー!!」

 「(今主様に合わせて言葉を選んだなルカスさん)」

 「良いですか?今後天使と戦う時にはこの本が必要不可欠になるので、絶対に手放さないで下さいね」

 「は、はい!!」

 私は本を強く握り、ルカスさんに大きく返事をした。目の前のルカスさんは感激したのか「おぉ」と声を出して「それだけやる気があると大変助かります、主様」と言いながら私とロノさんを優しく部屋の出口まで押し出した。

 「それでは、頑張って天使を退治して来てくださいね」

 ルカスさんがそう言う頃には私達は部屋から出ており、バタンと寂しく扉を閉め出されていた。閉め出された私達は一瞬驚きと戸惑いで顔を見合わせ、「わあああああ!!!!」と叫びながら出口まで走り出すロノさんに置いて行かれないように全力で彼の後ろを追いかけた。

 

 

 「取り敢えず天使狩りに向かってもらったが、なんともまぁイヤらしいタイミングでお出ましされちゃったね」

 ルカスが溜息混じりにそう呟くと、近くに居たハウレスも「そうですね」と同調した。ここ最近天使の襲撃してくる回数が徐々に増えているという由々しき問題に二人は頭を悩ませながら、直ぐに各々のタスクに向き合おうと動き始めた。

 「…ん?どうしたんだいベリアン。さっきからずっと其処で立ち尽くして」

 ベリアンはルカスにそう言われるとハッとして「す、すみません!」と謝罪をし直ぐにその場から動き出したが、思いに沈んだような表情をしていた。それにルカスは少し考えた後、「新しくきた主様のことかい?」と優しくベリアンに聞いた。するとベリアンは図星なのか、一瞬静かに驚いた後に申し訳なさそうに笑った。

 「ええ、主様の事で少し…」

 「フフ…優しそうな方が来てくれて良かったね。少し流されやすそうな所があって不安だけど」

 「そうですね。あんなに混乱しながらも、ちゃんと我々のお話を聞いて頂けましたし…」

 ベリアンは先程の戸惑いながら頭を整理させる蓼丸を思い出した。

 『貴方方を守る為にこの世界にやってきた…て事ですか?』

 蓼丸の口から出た「守る」という思いもよらない単語に、ベリアンは驚きと戸惑いと喜びを感じていた。実際には確かに守るという認識でも良いのかもしれない。しかし、歴代の主人やその他の人間に「守る」という言葉を貰った事があっただろうかとベリアンは頭を回らせていた。

 「(いや、新しく来られた主様は我々悪魔執事が世間でどんな立ち位置にあるか未だ分かっておられないから、あの様なお言葉を……)」

 また考え込むベリアンの顔をルカスは微笑みながらゆっくりと覗き込む。それにベリアンは驚いてまた謝罪をしたが、ルカスは笑ってその謝罪を受け取りベリアンに投げかけた。

 「ベリアン、浮かれているのは分かるが先に私達はグロバナー家に報告へ行こう。それが終わったら、新しい主様を歓迎するパーティでも開かないかい?それに主様は女性だし、色んなケアの準備もしなきゃ。他の執事達に町へ買い出しに行ってもらおう」

 「…はい!是非そうしましょう!!」

 ルカスの提案にベリアンはやる気を出したのか、動きが先程と倍になりこの場の三人より早く支度を終わらせた。それに提案した本人であるルカスは「面白いなあ」と思いながらベリアンについて行った。そしてその二人のやりとりを何気なく聞いていたハウレスがその場で固まり驚いた様子でいた。

 「……え!?主様が女性!?!?」(顔しか見てなかったから気付いていなかった)

 

 「…着いたぜ主様、ここが天使が来たって場所だ」

 走って早五分。私達はお屋敷を出て直ぐの森に着いた。緑の植物いっぱいの景色で穏やかな景色だが、向こう50m先に大きな木が煙を出しながら倒れていた。直ぐに私達は近くの草むらに隠れて周囲の様子を伺う。すると「主様、あの倒れた木の根元の上空あたりを見てくれ」とロノさんが私に耳打ちをした。それに私は少しムズムズしながら、上空に視線を向けた。其処には白く発光した人形のような綺麗なモノが浮いていた。ソレには背中に羽が生えていたが羽を使って浮いている様には見えなかった。全然動かない。生きた物とは到底思わなかった。発光しているから神々しいとも思える。成程、これは確かに天使だ。

 「主様の世界にはあんなバケモン居ねぇんだよな?」

 「え、…居ないですね。たまにビニール袋が浮いてそれっぽく見間違える時はありますけど…」

 「びにーるぶくろ?んだそりゃ…?ええと、天使は突然現れては俺たち人間を無差別に殺す何考えてるか分かんねぇバケモノ共です」

 「や、やばぁ。どんな災害よりも怖い…皆さんずっとそんな化け物と戦ってきたんですか!?」

 「…まぁ、それがオレらの仕事なんで…確かに怖ェけど、オレらが戦わなきゃダメなんすよ…」

 ロノさんはその場から立ち上がり、持っていたちょっと大きい包丁みたいな剣を2本を強く握り直して再び口を開いた。

 「俺たち“悪魔執事“は、唯一天使に立ち向かえる“魔導服“という武器を着用して戦います。ちなみに今来てる燕尾服も魔道服なんすよ!魔道服には色んな能力があって、それを使って天使をぶっ飛ばすンです。その能力を使うには主様がさっきルカスさんから貰った本が必要なんすよ」

 私は急いでルカスさんから頂いた本を出し、準備万端だとロノさんに「はい!」と返事をする。それにロノさんは二カリと笑ってゆっくりと天使に向かって歩き出した。

 「その本の真ん中のページを開いてください。そのページの真ん中にある丸くてデケェ記号がある筈です。それをゆっくりなぞって書かれている文章を読んでくれ!!」

 どう見ても見た事ないなんて書いてあるか分からない文章で、読み上げる事なんて出来そうにないが、私は彼のいう通りに本の真ん中のページを開き丸い大きな模様にゆっくりと指でなぞった。すると読めなかった文章が何故か頭の中で大きく出てきて、私はいつの間にかゆっくりと口を動かしていた。

 「…来たれ。闇の盟友よ。我は汝を召喚する」

 目の前の文字は読めないままなのに、何故か今だけこの文章の意味が分かる。なんでだろう。

 「この悪魔との契約により、ロノ・フォンティーヌの力を解放せよ…」

 喋り終わった瞬間、持っていた本の見開きが物凄い強い光を放った。その瞬間私の手先の感覚が少し遠くなって、頭と心臓がドクン!!と大きく脈打つのを感じた。その衝撃に私は崩れ落ちかけるが、なんとか踏ん張り天使に向かい立つロノさんを隠れながら見守った。ロノさんは「フーッ」と息を吐き、首を回してゴキゴキしていた。

 「ありがとうございます主様。これで、目の前のカス天使をボッコボコにできます」

 ロノさんはそう言った後、直ぐに彼は走り出し天使に向かって攻撃をしかけた。さっきの魔法の効果か、ロノさんはその場から天使が浮いている高さまでジャンプし荒らしく武器を天使の首元めがけて刈り取ろうとした。すると天使は直ぐに彼に反応し、ロノさんの顔の前まで腕を上げた。

 「ャベッ…!」

 すると天使の手の平が一瞬ピカリと鋭い光を発した後、雷の様な勢いでロノさんの顔付近で爆発した。ロノさんはその爆撃の衝撃で地面に落ちてきた。土埃が舞い、落ちてきたロノさんの様子が見えずに私は直ぐに立ち上がり「ロノさぁん!!!!」と彼の名を呼んだ。すると土埃の奥から「アッハッハッハッハ!!!」と元気な笑い声が聞こえた。

 彼の笑い声が響いた後、土埃が直ぐに晴れて景色が綺麗に見える様になった。

 「スゲェ!!ちゃんと今オレ天使の野郎の攻撃を避けたぜ!!!しかもその一瞬で一発傷を付けてやった!!!主様の力スゲーッ!!!」

 其処には笑いながら立派に天使に向かって立っている無傷のロノさんが居た。対する浮遊している天使はというと、脇腹に大きくひびが入っており、先程より低い位置で浮いていた。それにロノさんはテンションを高くして天使に指を差して、大きな声で煽り始めた。

 「おうおうコラコラ糞天使ィ!!今まで蹂躙してきた人間にボコボコにされる気分はどうだぁ!?オレぁ最高な気分だぜ!!!」

 めっちゃ煽るじゃん!!

 すると天使も無表情のまま若干私達の居る位置よりも遠くに指を差し、初めて口を開いた。

 「…死になさい、命の為に」

 「死ぬかバーカ!!!」

 ロノさんはそう言い返したが、私は天使の指が指す方向に違和感を感じた。あの言葉と指の先には、ロノさんでも私に向けた物では無い。私よりも後ろには何も無いんじゃ。

 「天使は無差別に人を殺す」ロノさんがさっき言っていた言葉を思い出し、私は直ぐに後ろを見た。

 

 10m程後ろに、小さな男の子がその場で腰を抜かして泣いていた。

 

 私は先程襲ってきた強い動機を忘れて、その場から全速力で男の子の方へ走り出した。

 「死になさい、命の為に」

 「ッもしかして後ろに…!?」

 「ヒッ!!」

 私は天使を怖がる男の子を抱きしめ「大丈夫」と囁いた後直ぐに近くの木々の影に隠れ込んだ。その瞬間先程まで男の子がいた場所が光に包まれた後激しく爆発した。それに遅れてまた私の体はドキドキと大きく脈を打って、背中も汗でビッショリでになっており「ハーッ…!ハーッ…!!」といつの間にか呼吸が乱れていた。私の胸の中にいる男の子もビクビクと震えていて、未だ怖がっていた。

 

 「…よくもオレ以外に攻撃してくれたなぁ〜オイ!!!」

 

 ロノさんの血相変えた声が遠くから聞こえる。私は乱れた呼吸を戻すべく直ぐに深呼吸をし、木々から顔だけ出してロノさんを細々と見守る。すると既にロノさんは天使の背後に回っており、両手に握ってた剣を大きく斬り込んでいた。今度は不意を突いた攻撃が成功したようで、天使はその場から激しい音を立てて墜落して強い光を放った直後に崩れる様に消えていった。

 「…ハァハァッ!…主様!!!お怪我ありませんか!!?」

 向こう側からロノさんが呼吸を乱しながら急いで駆け寄って来てくれた。私はドキドキしながら「怪我ないですよ!大丈夫です!!」と返事をした。だけど、私が抱きしめている男の子はずっとビクビクと小刻みに震えており、滝のように流れた涙と鼻水は私の制服を貫通して胸元を湿らせていた。ちょっと痒い…。

 「君は大丈夫?」

 私がそう聞くと男の子はコクリと小さく頷いた。私とロノさんはそれにホッと肩を撫で下ろして頭を撫で「偉いね〜!!」とわしゃわしゃと男の子の名前を撫でまくった。それに男の子は「ふふっ」と小さく笑ってくれて、私はその子の顔を覗いたが、男の子は未だ蹲ったままで顔を見せてくれなかった。

 「君、名前は何ていうの?」

 男の子は少し黙った後、「…レグト」と小さな声で囁いてくれた。それにロノさんは「レグト〜、ダメだろ?こんな森の中一人で歩いてちゃ。きっと親御さん心配してるぜ?せっかく助かったんだから、早くお家に帰りな」とレグト君を諭した。それにレグト君は「…うん!」と一番の頷きを見せて私から立ち上がり大きな声で「悪魔執事のお兄ちゃん!!女装のお兄ちゃん!!俺絶対に助けてくれた事忘れないから!!今度絶対にお礼するな!!」と笑顔いっぱいに言って手を振りながら帰っていった。

 「…ん?女装のお兄ちゃん??」

 「アイツ、誤解しながら帰っちゃいましたね…」

 「こっちの世界でも私は男子と間違えられるのか…」

 「……主様も大変なんすねぇ…。でも、カッコ良かったすよ、主様がレグトを全力で助けに行った時。オレの不注意もありましたけど、あの時の主様の咄嗟の判断力とその脚力が無かった等、今頃アイツは生きて家に帰れてなかったっすよ」

 クシャリとした笑みでロノさんは私の先程の行動を褒めてくれた。そう彼が褒めてくれたお陰かやっと心の底から気張りが抜けた様な気持ちの良い脱力感が出た。だけど私の手先をよく見ると小さく小刻みに震えていて、未だにちょっとだけ心拍がいつもより早く進んでいる気もした。…生まれて初めて、人の命を助けたな。凄い、なんか今の私ちょっと誇らしいかもしれない。

 でも何か、やっぱちょっと疲れたのか、頭に少し違和感が。あの本を使ってから、ずっとだな…。

 「っはぁ〜〜〜、…ロノさんも、天使と戦ってる姿カッコ良かったですよ。この調子で天使をボコボコにしていきましょ!」

 Vサインをロノさんに見せるとロノさんは不思議そうに私の手を見て、「何すかそれ…?2?」と首を傾げた。

 「あ、ええとこれは勝利のVサインというもので、勝った時とか、気分が晴れやかな時に使うとても素敵なサインです。ほら、ブイブイ」

 私がロノさんにそう説明すると、彼は大きく納得した様な顔をして直ぐに満面の笑みで「俺もッ!勝利のVサイン!!」と私に見事なVサインをした。

 「わ、上手ですよロノさ」

 私がロノさんのVサインを褒めようとしたその時、上空から大きな木箱の様な何かが勢いよくロノさんの頭に勢い良く「ゴン!!!」と鈍い音を響かせて落ちてきた。というかクリーンヒットした。

 「ヒッ!?」

 「グェッ!!!?」

 ロノさんはそのまま倒れ、彼の頭に落ちてきた木箱はヒビが入り、音を立てながら割れていった。

 「ロロロロロノさん!?!?!?大丈夫ですか!?!?な、何で空から木箱がッ!?つ、追撃!?お、起きてくださいロノさん!!いや、無理に起こさない方が良いの…??いやでも取り敢えず死なないでロノさん!!」

 ロノさんの体は所々ピクピクし痙攣して、木箱がぶつかった所は血が噴水の様にピューッと飛び出していた。しかしすぐにロノさんはムクリと起き上がり、再び剣2本構えてブチギレだした。

 「…くっそがぁ!!んだぁこのクソ木箱!!粉ッ砕してやる!!」

 「ロノさん落ち着いて下さい!!木箱はもう既にヒビが入って今にももう粉砕しそうなんでッ」

 私がそう言った瞬間、バキンッ!と木箱が破裂音を響かせた。それに私とロノさんは直ぐにその場から後退し、木箱から少し距離を取った。緊張状態になり二人揃って固唾を飲むが、木箱からは小さくて可愛い寝息しか聞こえなかった。私とロノさんは顔を見合わせて、ゆっくり破裂した木箱に近付いた。

 「……なんだこの黒い毛玉」

 「…なんでしょう…動物…ですよね?」

 「潰れた鼻に、黒い毛…コイツ黒い豚か?」

 「豚にしては耳が大き過ぎるかもしれないけど…豚、ですかね…?」

 破裂した木箱の中には、静かに眠ったまぁまぁ大きな黒い動物が居た。首には少し大きな首輪を付けており、どこかの飼い…豚?なのかな。

 「黒豚なら、今晩の食材にちょうど良いですね!!」

 「そうですね…って、ええぇ!?食べるんですか!?!?」

 「?、主様の世界では豚は食べないんですか?なら是非食べて見て下さい!美味いですよ!!こないだ古いレシピ本を見つけて、その中に黒豚を使った『とんかつ』ってヤツがあってですね!!」

 「いや、私の世界でも豚は食べますよ!ちなみに私は『肉じゃが』が食べたいですね!…じゃなくて!!この子首輪付けてますよ!?勝手に調理したらマズイですよ!!」

 「え…?あ、本当だ。首輪ついてる」

 「え今気付いたんですか!?」

 私とロノさんがそう話し込んでいると、間から「う、ぅう…」と小さな声が聞こえた。私達はその声を聞いた瞬間驚きで静まり返り、その声がした黒豚の方を見る。

 

 「…あれ?…ここはどこですか?」

 

 「え、今」

 「豚が、しゃべ…った?」

 私達は驚きでつい声が小さくなり、怖くなってお互いの両手を組んでまた少し後退した。

 「ヘッ…失礼ですね!!僕は豚じゃありません!!猫です!!!」

 自称猫は恥ずかしそうに私達にそう訂正を入れた。いやでも豚でも猫でも喋るのはおかしくない!?

 「猫!?こ〜んな鼻が潰れたデケェ猫見たことねーぞ!…じゃなくて、…なんかもう色々疲れたな」

 ツッコミを諦めないでロノさん!!私も疲れたし困る!!

 「ええーっと…、確かに猫が話をするのは変ですよね…」

 「いや自分で言っちゃあ世話ねぇよ…」

 「…ど、どうしますこの謎展開…?」

 自称猫とロノさんの謎会話が続く中、私の頭は限界を向かえたのか、脳みそが内側からくり抜かれる様な変な感覚が続いて、視界も、なんか外側が緑色で、

 「え、主様…?なんかめっちゃ鼻血出てますよ…?」

 「…え?」

 ロノさんの心配そうな顔を見て、私は体の力が文字通り抜けたように感じたのを最後に記憶が無い。

 

〜〜〜

 頭の中をアイスクリームディッシャーで掻き回される様な、今までに無い気持ちの悪さ。

 なんだろうこれ。こんなの初めて。魔法を使ったからかな。…嫌だなぁ。

 ……なんか、遠くの方で色んな人達の声が聞こえる。美味しそうな食べ物の匂いも…何だろう。

 

 「…んッ」

 ずっと寝ていたいけど、私は重たい体をフカフカなとこからゆっくりと起こす。目を開けると、見た事のない豪華でフカフカなベッドの上に私は居た。寝惚けながら近くの窓の外を見て、時間を確認する。…橙色の空…夕方かな。

 

 「あ、主様…!?」

 

 向こう側から、聞き覚えのある優しい声が聞こえ、私はゆっくりとその声のする方へ向く。其処にはあわわと安堵の表情を浮かべたベリアンさんが立っていた。

 「あ、ベリアンさ」

 「良かった!目を覚まされた!」

 ベリアンさんは嬉しそうにその場で飛び上がりそうにルンルンとしたが、直ぐに素に戻ったか、「オホン」と上品に咳払いをし、「失礼いたしました」と顔を赤くしながら謝罪をしてきた。

 「あぁ、いえいえ、逆に起きただけで喜んでくれて、凄い嬉しいです…。謝らなくて良いですよ」

 「……ありがとうございます。…して、主様。天使狩りが終わった後、突然鼻血を出して気を失ったのを覚えておいでですか?」

 鼻血を出して、倒れた…?私はベリアンさんの言った言葉を復唱しながら私の中で覚えている記憶を探った。…そういえば、最後、黒豚が喋って…とんかつ…あ。

 「黒豚が喋ったとこまでは覚えてます!」

 「く、黒豚…ですか。…あの後、ロノくんが気を失った主様を屋敷まで運んでくれたんです」

 「ロノさんがッ…!」

 ロノさん、戦った後で疲れてるのに、ていうか頭から血を吹き出していたのに…私を運んでくれたんだ!感謝しなきゃッ!

 「主様。天使狩りの初仕事、大変お疲れ様でした。ロノくんも主様もこうして目を覚ましてくれて良かったです」

 ロノさん結局倒れちゃったんだ……でも。

 「天使って、怖いですね。私の世界とは大違いかも…、命がいくらあっても足りない気がします」

 そう少し怖気ついた様な言葉を放った瞬間、ベリアンさんは申し訳なさそうな顔をして静かに口を開いた。

 「そう…ですよね、天使は危険な存在です。…主様は別の世界の方ですし、怖いのは当然です。こんな恐ろしい戦いに貴女様を巻き込んでしまい、本当に申し訳ございません」

 深々と頭を下げるベリアンさんを見て、私はまたあの時の猫ちゃんの言っていた言葉が耳元で囁いた様な気がした。

 「…ベリアンさん。頭を上げて下さい。」

 私はベリアンさんの顔が上がるのを見て、彼が心の底から安心できる様に、私史上優しい笑顔を見せた。

 「私は多分、あの時出会った猫ちゃんに『助けてあげて』と言われてこの世界に来たと思うんです。私も自分の生活があるし、私の世界でも頑張りたいことが沢山あります。でもそれってベリアンさん達も一緒ですよね」

 私はベリアンさんに真っ直ぐなVサインを見せた。ベリアンさんもロノさん同様Vサインを見たこと無いのか少しキョトンとしていたが、関係無しに私は続けた。

 

 「大丈夫です!ベリアンさん!一緒に頑張っていきましょう」

 

 「…っはい!私達も、主様をお助けいたします。一緒に、頑張りましょう」

 「じゃあ今回は、今までの初仕事で天使への仕返し成功ということで私の中で記念日にしますね」

 ベリアンさんは少し困り眉で嬉しそうに微笑んでいた。私もその様子がむず痒くなり、釣られて微笑んでしまった。

 「…ところで、ご気分は如何でしょうか?一応気絶された身ですので、まだごゆっくりされていて問題ないですよ」

 「そうですね。…でも話していると意識もハッキリしてきたんで大丈夫ですよ。それに私夜ご飯がまだで、お腹空いちゃ」

 そう言いかけた瞬間に下校時にコンビニで購入した夜ご飯を思い出し、私は固まった。あれ、そういえば何処に置いて来たっけ。

 「そういえばベリアンさん。私の荷物は何処に置かれてますか?」

 「ええ、其方のベッドの手前の椅子にございますよ。今お取り致しますね」

 ベリアンさんはそう言って付近の豪華な椅子に置かれた私のリュックサックを丁寧に持ち上げ、私の手元まで運んでくれた。私はベリアンさんに軽く「ありがとうございます」と伝え、中に荷物が全て履いている事を確認する。ガサゴソ見ていると中からレジ袋を見つけ、私は中からゆっくりと取り出した。

 「あ、良かったちゃんと入ってる」

 アイスのゴミもちゃんと別のレジ袋に入っており、不意に捨ててしまっていない事を確認し私は安堵した。するとベリアンさんは隣で不思議そうに私の手元にあるカロリーメイトを見つめていた。

 「主様…それは一体?」

 「あ、これはカロリーメイトっていう携帯食で、栄養いっぱいでこれ一つあれば他の食事一食分とあまり変わらなくて。何処でも買えるし安いし色んな味あるしで結構私の世界ではメジャーな食べ物なんです」

 「え」

 私はそう説明するとベリアンさんは固まり、「お言葉ですが、主様はそれをいつも食べていらっしゃるんですか…?」と静かに尋ねてきた。どうしたんだろうと思いながら「私は両親と別で一人で暮らしてて、ご飯を作る時間がないのでいつもこれを食べてます」と伝えるとベリアンさんは雷に打たれたような大きな反応をした。

 「べ、ベリアンさん…?だ…大丈夫ですか?」

 そう尋ねた瞬間、部屋の扉が大きな音を立てて開いて私は思わず「わぁ!?」と間抜けな声を出してしまった。扉を見ると中心に頭に大きな絆創膏を貼ったロノさんが立っており、その他にルカスさん、ハウレスさんや見た事のない執事?の様な人たちがそこで顔を覗かせていた。

 ロノさんは男泣きしながら「主様ァッ!!何でそんな大切な事言ってくれなかったんですか!?」と大きな声で私にそう訴えてきた。

 「え、ええ??」

 「そんな得体の知れない食べ物より、ここで美味しいご飯をいっぱい食べて行ってください!!!」

 「え、得体の知れないって…結構完全食だったりしますよ…?」

 「育ち盛りの女子が!!そんな!!小さな!!食べ物で!!お腹が膨れる訳ねぇーだろ!!!」

 「わ、わ〜〜〜ッ!!」

 ロノさんの勢いのよさに私はベッドの端まで追いやられてしまった。い、今まで食べてきたカロリーメイトをここまで否定されると少し心が痛むかもぉ…(涙)

 「こらロノ。主様に対して何だその言葉遣いは」

 するとハウレスさんが部屋に入ってきて、ロノさんの頭をチョップした。それによりロノさんは頭を抑えて「ウオオオオオッ!?そこ怪我したとこッ!!」と頭を抑えてその場に座り込んでしまった。

 「は、ハウレスさん。…ロノさんの言っていることはほぼ正論なので、そんな事しなくてもッ…」

 私がそうハウレスさんにそう言うと、ハウレスさんは急に顔を赤らめて「あ、…いえ、あ、あはは」とヌルヌルと後ろへ下がってしまった。な、何だ今の。

 「ははは、申し訳ございません主様。ハウレス君は女性が少し苦手でね…慣れて頂けるとありがたいのですが」

 ルカスさんはそう私に笑い混じりで謝りながら、座り込んだロノさんの肩を組んで立たせていた。

 「え、でもハウレスさん。初めて会った時はあんな反応じゃなかったですよね…一体何で、あ」

 唐突に、先程助けたレグト君の発言を思い出した。

 

 『助けてくれてありがとう!女装のお兄ちゃん!!』

 

 扉の方で、ヒソヒソと声が聞こえる。

 「おい、新しい主様。どんな奴かと思ったらと〜んだ美少年だな」

 「ちょっ!ボスキ!聞こえるよ!そんな事言わない!!」

 「あの身なりで女性…!?新しい主様の世界は進んでいるんだなぁ…!新しい衣装が作れるかも…」

 「美少年かと思ったら、まさかの少女とは…!それでもしかし美しい事には変わりありません!」

 

 「あ、あはは」

 今日一番で一番辛いかも知れない…!!




風邪引いてました。許してください。


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